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『第十一章 力とは 』

「クソが!魔獣のくせにしぶといな‼」

どれだけ聖剣を切りつけてもバハムートの白銀の鱗には一切傷がつかない。

それどころか巨体に見合わず意外と素早い動きで勇者を翻弄するバハムート。

「この程度で聖剣を持つなど、宝の持ち腐れだな。」

「っ‼黙れ、魔獣風情が‼」

鋭い一撃が繰り出されたがやはりバハムートは無傷。

流石竜王だけあってとんでもない頑丈さだ。

「変われバハムート!後は俺がやる!」

そう言いながら剣を抜くタクマ。

バハムートはちょっとだけ物足りなそうに言う。

「もう少し戦いたかったが・・・。」

「俺も奴には心底はらわた煮えくりかえってる。俺の手でやらせてくれ。」

しぶしぶ下がるバハムート。

この交代には訳がある。

このままバハムートが勇者を叩きのめしてもよかったがリーシャにラシェルを救うと約束した。

そう、これは冒険者の依頼でもあった。

「冒険者である俺にお願いされたらからな。依頼としてお前を叩きのめす!覚悟しろ三下‼」

「っ・・・‼」

鬼の形相でかかってくる勇者。

だがタクマは剣で初手の一撃を受け止めた。

意外に重い一撃を食らいタクマの剣から軋む音が聞こえた。

「ハハハッ‼そんななまくらな剣でこの俺を倒そうってか⁉笑わせるな‼そんなガラクタすぐにへし折ってやる‼」

目にも留まらない連撃が降りかかる。

そのたびに受け止めいなしているがすでにガタが来ている剣では長く耐えられない。

早急にケリをつけなければ。

(ちっ、このままじゃジリ貧か!)

「くらえ‼『レガシースマッシュ』‼」

光を帯びた聖剣が振り下ろされ凄まじい衝撃が地面もろともえぐれとんだ。

タクマは間一髪かわしたが勇者はその隙を逃さない。

「隙ありーー‼」

「⁉」

土煙に紛れて突如目の前に現れた勇者は鋭い突きを食らわす!


バキン‼


咄嗟に剣を盾にガードするも不意の一撃で辺りどころが悪く、タクマの剣が砕け散ってしまった。

「くそっ!剣が‼」

「オラァァァ‼」

勢いに乗った勇者が回し蹴りをお見舞いしタクマを吹っ飛ばした。

「タクマさん‼」

リーシャの声に反応し咄嗟に受け身の体制を取りダメージは免れた。

しかし持っていた剣が砕けてしまいタクマは武器を失ってしまった。

「ヘッ!見たところお前、戦闘スタイルは剣士だろ?剣士が剣を失っちゃぁもう終わりだな!」

悔しいが反論ができない。

タクマの本職はテイマーであるため従魔を使う攻撃手段はあるがバハムートはリーシャとラシェルのため守備に徹している。

とてもではないが彼を戦闘に出すのはリスクがある。

だからと言って剣を無くした現状攻撃手段が少ない。

故に動けない。

「お前はそこで大人しく見ていろ。この俺が二頭のドラゴンを討伐する勇士をなぁ‼」

現状、戦闘不能のタクマを置いときバハムートとラシェルに狙いを定める勇者。

歓喜の形相で襲い掛かってくるがバハムートの一歩手前で攻撃が防がれる。

「あぁ⁉何だこりゃ⁉」

「結界魔法は初めてか?」

ニヤリと笑うバハムート。

彼の放った結界魔法は自身とリーシャ、ラシェルを包むように金色の壁で覆われていた。

「いくら聖剣といえど我の結界魔法を打ち破るのは不可能だろう。」

「面白れぇ、ならこの俺が初めての結界破壊を成し遂げてやるよぉ‼」

勇者は容赦なく剣劇と繰り出す。

「ヒャハハハハハ‼」

狂気に満ちた笑顔で何度も何度も聖剣を振り回すがバハムートの結界はビクともしていない。

結界の中、バハムートは砕かれた剣をボーゼンと見つめるタクマの方を見た。

(さて、我が主はこの状況をどう打開するか・・・。)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 何もできない・・・。

そんな考えが頭の中をぐるぐる回っていた。

剣を砕かれ戦う手段を失った今、俺に何ができる?

今でもリーシャたちを傷つけた仕打ちも含め好き勝手やっていた勇者に報いを与えてやりたいのに、何もできない。

今になって気づかされた。

自分は奴と同じ、借り物の力に頼っていたことに。

俺自身ただ剣術の才能があるだけのただの人間だ。

強くなれたのはバハムートのおかげだ。

でもバハムートと出会っていなかったら俺は魔術の使えないただの出来損ない。

そう思った瞬間急に怖くなってしまった。

もしもあの時、もしもあの時と考えが止まらず自身が何なのか分からなくなっていくのが怖かった。

「俺は、アイツがいないと何もできなかったんだな・・。」

己の無力さを痛感する。

「タクマさん‼」

「‼」

かん高い呼び声に意識が戻る。

俺に呼び掛けたリーシャは動けないほどの重傷を負いながらもその瞳はあきらめていなかった。

バハムートも余裕そうな表情をしているがあまりのジリ貧にめんどくさそうに顔をしかめていた。

(いや、リーシャとの温度差‼)と内心思わず突っ込みを入れてしまった。

すると何故か今までの自身への劣等感がスッキリなくなっていた。

その時俺は気づいた。

無力が嫌なら強くなればいい。

今はバハムートに力を借りていてもいずれ己の力だけで強くなればいい。

思わずフッと笑いがこぼれた。

「そんな簡単なことに気づけなかったなんて・・・俺もまだまだだな。」

そうだ!俺はあんな勇者とは違う。

俺には仲間がいる!最高の相棒がいる!俺を信じてくれている人がいる!それだけで俺は戦える‼   

俺は体の底から力が溢れてくるのを感じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

凄まじい勢いで結界を切りつけていた勇者は後ろの方で急激に上がった魔力反応に戦慄した。

「な、何だ⁉」

振り向くとそこには炎のような紅の髪に炎の角、そして激しく燃える翼を身にまとったタクマだった。

以前フュリア王国での決戦で見せた炎を纏う竜化だ。

だが今回の竜化は前回の姿とは少し異なり髪が紅髪化しており、より洗礼された形になっていた。

「ほう、その力を我が物にしたか。」

バハムートが感心した言葉を述べた。

そう、タクマは己の弱さを受け止め竜化の完全体へと成長したのだ。

「ハ、ハハハ!何だよそれ!身体が燃えてんのか?とうとう狂っちまったのk―、」

勇者が言い終える間もなく勇者の目の前に拳が表れる。

「狂っているのはお前だ!」

拳は勇者の顔面を捉え強烈な一撃を食らわせた。

「ぐぼぁ‼」

断末魔を上げながら勇者は吹き飛ばされた。

「すごいな、前より力が溢れてくるぞ!」

「すごい・・・タクマさん。」

リーシャは初めて見るタクマの姿に驚きを隠せないでいた。

「タクマよ、目覚めた今のお主なら剣を使えるかもしれんぞ?」

「何?」

(言われると何となくやり方が解っている。これが俺の新しい力!)

タクマは刃折れの剣を取り、先ほどの一撃で顔面がボロボロの勇者にゆっくりと歩いて行った。

「テメェ・・・‼勇者であるこの俺を殴りやがって‼」

鼻が曲がり前歯が折れても掴みかかってこようとする勇者。

だが何故かそれ以上の事を起こそうとはしなかった。

それどころか勇者の顔がサーっと青ざめていく。

「あの愚か者め、ようやく気づいたか。」

「え?どういうことですか?」

バハムートの言葉に首をかしげるリーシャ。

「奴は初めから勝ち目などなかったのだ。ドラゴンがどれほど強大な力を持った生物か。今の主は我の力を宿した竜化状態、即ち存在が竜王そのものであると!」

竜王と同等の存在となったタクマの威圧に勇者は直感で気づかされたのだ。

この男には決して勝てる相手ではないと。

「ま、待ってくれ!ほんの少し魔が差しただけだったんだよ。突然異世界に連れてこられてテンションが上がってただけなんだ‼頼む、許してくれ‼」

どんなに命乞いしてもタクマにはこの場を生き延びるただの言い訳にしか聞こえなかった。

「散々好き勝手してきたクセにいざ自分が危なくなると許してもらうだ?そんな都合のいい事あるわけないだろ‼」

タクマの握る刃折れの剣に炎が集まり徐々に刀身が出来上がっていく。

これがバハムートの言っていたタクマが使うことが出来る剣。

『炎剣』だ。

復活したタクマの剣に勇者は更にたじろぐ。

「お前に一つ教えてやる・・・、」

そう言いながらタクマは燃える身体に相反し冷酷な眼差しで勇者に語る。

「力とは、守るためにあると‼」

と、同時に炎剣を構えるタクマ。

「ヒッ!嫌だ!死にたくない‼」

あまりの恐怖に惨めな声をあげ逃げ出す勇者。

だが当然タクマはその逃亡を許さない!

「居合・獄連舞‼」

一瞬にしてタクマの姿が消える。

次の瞬間勇者の身体から血が噴き出した。

「があぁ‼」

「えっ⁉何が起きたんですか⁉」

タクマが消えたと思ったら突然勇者が斬られたのだ。

困惑するリーシャにバハムートが説明した。

「主は消えたのではない。あまりの速さに目で追えんだけだ。」

人が消えたと思わせるほどの速度。

そんな芸当ができる人物はこの世に存在しない。

だが今目の前にそれを実現する男がいる。

リーシャの心に尊敬と憧れの思いがひっそりと宿った。

「・・・すごい!」

切られた傷を押さえ苦しむ勇者はずるずると足を引きずりながらも歩き続ける。

「早く!早く逃げねぇと‼」

「逃がさねぇよ・・・‼」

耳元から聞こえた声に咄嗟に振り向くもやはり姿は見えず突如背後から切りつけられた。

「ぐあぁ‼・・・クソっなんで俺がこんな目に‼」

「まだわかんねぇか。お前が行った数々の悪行。その報いが帰ってきたんだよ‼」

目にも止まらぬ速度で駆け回り、無数の斬撃が勇者を襲い続ける。

勇者の心身がボロボロになるまでその赤き斬撃は止まることはなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あれからどれ程時間が経っただろう。

一分も経っていないはずなのに私にはそれなりに長く感じた。

気が付くと勇者が展開したフィールド魔法が解除され、私たちは元のラシェルがいた広間に戻ってきていた。

側にはラシェルが「大丈夫」と安心させるように私を体毛で包んでくれている。

その隣で私達を守ってくれていたバハムートさんもいて優しい眼差しでこちらを見ていた。

「バハムートさん、タクマさんは?」

「あそこだ。」

バハムートさんが鼻先で指す先には切り傷だらけで横たわる勇者とそれを見下ろすタクマさん。

決着がついたことでかタクマさんの竜化は完全に収まり元の人間の姿に戻っていた。

するとタクマさんはこちらにゆっくり歩み寄って私の前で軽くしゃがむ。

「待たせたな!」

ニカッと笑顔で笑うタクマさん。

「・・・はい!」

その笑顔につられるように、私も自然と笑っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 クズ勇者との戦いを終えタクマはラシェルを救うというリーシャからのお願いをどう解決するか考えていた。

「さて、クズは切り刻んでやったし後はラシェルをどうにかするか。」

「切り刻むって・・・。」

静かにツッコむリーシャを無視し、ラシェルを眺める。

「なぁバハムート。同じドラゴンのお前ならラシェルが衰弱している原因がわからないか?」

バハムートに話を振ると彼はじっとラシェルを見つめ、思い悩んだ表情をしていた。

「バハムート?」

タクマが理由を聞こうとすると離れたところからズルズルを這いずる音が聞こえた。

バッとその方向を振り向くとタクマが重傷を負わせた勇者が聖剣を持ち、身体を這いずりながら逃げようとしている姿だった。

「むっ?死んでいなかったのか?」

「ちっ!腐っても勇者か!死滅耐性が異様に高かった!」

だが報いは与えてやった。

見逃しても別に問題ないかと思っているとグイッとローブを引っ張られた。

引っ張ったのはリーシャだった。

「ダメです!彼を逃がしちゃダメ‼」

彼女からの意外な言葉に一度困惑した。

心優しい彼女の事だからてっきり見逃すと思っていたが。

「彼はこの国の勇者です!もしこのまま逃がしてしまったら王都にラシェルの存在が知られてしまいます‼」

「‼」

タクマは早急に剣を握り勇者の元へ走り出した。

「ヒッ‼」

勇者はたまらず軋む身体を起こし走り出す。

「リーシャの願いだ。大人しくしてもらうぞ‼」

タクマの剣が勇者の寝首を捉えたその時、

「く、来るなぁぁぁ‼」

なんと勇者は聖剣を投げたのだ。

想定外の反撃に咄嗟に避けたがその判断は間違いだった。

放たれた聖剣がラシェルの方へ飛んで行ってしまった。

「っ‼、まずい‼」

タクマは勇者を追うのを止め聖剣を追った。

だが投擲の速度に人間の足が追い付くはずもなく聖剣はラシェルの目の前まで迫ってしまった。

(くそ‼間に合わないっ‼)

一瞬覚悟をした。

だが次の瞬間、タクマの目にはとんでもない光景が移ってしまった。

胸元から背中まで聖剣で貫かれた少女を・・・。

「リーシャ‼」


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