『第百七章 勇者パーティ』
大会が盛り上がる中、ギルドの厩舎にて。
「暇やで・・・。」
ぐで~っと暇そうに横たわる鳥、ではなくドラゴン。
「オレもリヴみたいに人化のスキルもってたらな~。」
「無茶を言うなウィンロス。人化は幻級のスキル。我ですら会得が難しいスキルなのだぞ?」
「わーってるがな。愚痴っただけや。」
各々暇を潰す二頭の元にメルティナがギルドから大きな箱を持ってやってきた。
箱の中には大量のジュースやお菓子が入っていた。
「嬢ちゃんそれなんなん?」
「冒険者のおじさん達から貰った。」
どうやらメルティナの幼く可愛い容姿に撃たれ、冒険者の男連中があれこれお菓子をあげた模様。
お菓子を貰ってホクホク顔のメルティナだ。
「ロリコンなん?ましてやおっさん・・・。」
「人間の闇は深いな・・・。」
一方、タクマ達の参加するコロシアムでは歓声とは裏腹に静寂に包まれていた。
「今・・・何が起きた・・・?」
コロシアムの闘技場では強そうな冒険者が泡を吹いて倒れている。
そしてその冒険者を見下ろしているのは、勇者だった。
「今の戦い方、間違いなく『希望の一星・星来のヒイラギ』だ!」
「あの超有名な勇者パーティのリーダー⁉」
「凄い!本物⁉」
次第に歓声が戻ってきた。
勇者の少女、ヒイラギは観客の声に包まれながらも表情を変えず剣を仕舞い、会場を後にしたのだった。
「何よ今の戦い・・・。明らかに次元を超えてたわ・・・。」
「相手も相当の手練れのハズだが、手も足も出せてなかった。あれが勇者か・・・。」
リヴとアルセラが感想を述べてる横でリーシャだけは何やら黙っていた。
「リーシャ?大丈夫か?」
「あ、すみません!大丈夫です!」
「ならいいが、無理しなくても大丈夫だぞ?俺達なら十分勝ち進んでいけるから。」
「本当に大丈夫です!それに、試合を途中棄権にするつもりはありません。最後までやり通します!」
やる気を見せるリーシャだがやはりどこか悩んでいるように見えた。
(さっきの勇者の戦い方、やっぱりどこかで・・・?)
そうしてアルセラやリヴ、タクマ達も順調に勝ち進んでいき、残り八名となる。
そして残ったメンバーは。
「俺達四人と、勇者パーティ四人か。まぁ何となく予想してたけど。」
「試合は後日行われるようですね。英気を養って万全の状態で優勝を目指しましょう!」
『その意気じゃ!必ず儂のアーティファクトを手に入れるのじゃぞ?』
「お前ずっと上から目線だよな・・・。」
ギルドに戻ろうと廊下を歩いていると途中、対戦相手の勇者パーティとバッタリ鉢合わせた。
「あら?」
「あ。」
タクマはバハムートのスキルを見抜いた女性騎士のミレーユと目が合った。
「皆、これからどっか外食しようぜ~・・・?」
面倒なことになると悟ったのかリーシャの腕を引いて駆け足で通り越そうしたが。
「お待ちなさい、そこの冒険者。」
ミレーユに捕まってしまった。
「貴方から、以前パレードで感じた気配がするのですが、もしやあの場にいましたでしょうか?」
バハムートの力を身に宿す戦法なため彼の魔力の残滓が身体に残っていたのか鋭い指摘をしてくるミレーユ。
「確かにパレードの場にはいましたが、それが何か?」
「貴方、普通の冒険者ではありませんね。一体何を隠しているのかしら?」
ずいっと顔を寄せてくるミレーユに汗が止まらないタクマ。
すると勇者パーティの一人、中年の大剣使いの男がタクマからミレーユを離した。
「すまない。こいつは貴族からの出でお嬢様だから一般常識が微妙に欠けてんだ。俺が代わりに謝る。すまない。」
見た所三十代後半のガタイの良いおじさんのように見えるが彼から感じる圧が並みの実力者を裕に超えていた。
「底辺の冒険者に頭を下げることはありませんわよ?」
「誰のせいでジークさんが頭を下げてるんですか。」
魔術師の青年が言うとミレーユは頬を膨らませてようやく黙った。
「常識のある大人がいて良かったわ。」
「こらリヴ。」
アルセラがリヴをどついた。
「だが試合には勝たせてもらう。お互いに全力を出そうじゃないか。」
ジークがそう言い握手の手を出す。
だがタクマはその手を握らなかった。
「握手は試合後まで取っておきます。下手に干渉するとこちらの手の内が見られそうなので。」
「ハハハ!鋭いな!まぁなんだ。お互い全力を出そうぜ!」
ジークはそう叫び勇者パーティとその場を後にした。
勇者の少女ヒイラギもお辞儀をして三人の後を追っていった。
「礼儀正しいな。勇者と言われてるからもう少し傲慢な態度を取ってくると思ってたが。」
「それは君達がクズの方しか知らないからだろう。まぁ傲慢な態度をする者は他にいたがな。」
ミレーユのアホ毛がピクッと反応した。
(・・・やっぱりあの勇者の子・・・、見覚えがあるようなないような?)
リーシャはずっと首を傾げるのだった。
ギルドに戻り、バハムート達を迎え宿に腰を降ろす一同。
「さて、明日のトーナメントについて会議するぞ。」
「はい!」
皆は昼間の勇者の戦いを思い出しながら対策案を出していく。
「勇者の力、回りの連中は星の力と言ってたが・・・?」
「文字通りだと思う。勇者は基本異界から呼び寄せた人間しかなれない。そして世界を渡る際、特別な力を授かると言われている。過去の書籍ではそれを『星の力』と言われているんだ。」
アルセラが説明をした。
「じゃぁリーシャの神殺しの力も『星の力』なのか?」
異世界からの転生者であるリーシャの特別な魔力も同じなのかと質問するが、
「いや、彼女の場合『星の力』かどうかは定かではないんだ。」
「どゆこと?」
『ここからは儂が説明しよう。』
するとカリドゥーンが口を割った。
『儂は神に作られた聖剣。その辺の知識は歴史よりも詳しいぞ。』
勇者と深い関わりのあるカリドゥーンが言うには、『星の力』は決まった方向性があると言う。
しかしリーシャの神殺しはその方向性には存在しないとの事だった。
『儂は全ての方向性を熟知してはいるが、授ける側である神を殺す力なんぞ聞いたことが無い。自分で自分を殺すようなものじゃ。』
「矛盾が生まれるのか・・・。」
ではリーシャの力は一体・・・。
「・・・話が脱線しておるぞ?」
「おっとそうだった!」
今は対勇者パーティの対策だ。
リーシャの話は一旦保留とした。
「その『星の力』を抜きにしても勇者の実力、いや、勇者パーティの実力は高い。どこか弱点を割り出せば幾つか勝機が上がるが・・・。」
「そんな隙があるようには見えなかったな。」
「う~ん・・・。」
その晩、夜遅くまで部屋の明かりが付いていたのだった。