『第百五章 異界人の存在』
新たにアルセラが仲間に加わり旅を続けるタクマ達は目的地であるブリエスト王国の一つの大きな街にやってきた。
「なんや?街の間に大河を挟んでるで?」
セクレトよりも巨大な大河を挟むように広大な街が広がっていた。これまで見た街よりも遥かに大きかった。
「相当大きな領土のようだな。端くれの街でこれ程の規模とは。」
バハムートも感心する。
「そうだ。私ルオン街でブリエスト領土の地図を貰ったんだった。」
アルセラは地図を広げる。
「広っ!大陸の四分の一も占めてるじゃねぇか!」
「凄いわね。領土内に幾つも鉱山や農場がある。これは国が広いのも頷けるわね・・・。」
今いる街は本当に国の端くれにあった。
それでもこの広さは凄い。
「お主の故郷がちっぽけに見えるな。」
「うるせ!あそこにはあそこの良い所があるんだよ!」
「そのやり取り、何だか懐かしいな。」
微笑むアルセラだった。
街に着いた一同はまず冒険者ギルドに足を運ぶ。
「アルセラのランクはCだったっけ?」
「あぁ、冒険者を始めたばかりだが近衛騎士団としての経歴のおかげでCランクスタートとなった。」
自慢げにギルドカードを見せてきた。
「俺達は未だBランクのままだ。そろそろランクを上げといてもいいかもな。」
「・・・そのことなんだがタクマ。」
アルセラは急に真剣な表情になって小声で話し始めた。
「ランクが上がればそれほど知名度も上がってくる。そうしたらギルドから指名依頼や強制依頼などを降られる可能性もあるんだ。」
「え、強制・・・?」
自由に旅をしたいタクマにとって強制的に仕事に駆り出されることはもっとも嫌う事。
ランクが上がればメリットもあるがデメリットもあるということ。
「そういえばギルドカードにはこれまで行った行為が自動的に裏面に反映されるんだったよな?」
暫く裏面を見ていなかったため恐る恐る見てみると。
「ワ~オ・・・。」
レーネと双子神、二人の神を倒した事。
エリエント王国王女オリヴェイラの依頼達成、従神ジエトの撃墜、神龍との戦闘、そして五核竜ネセルティオン討伐などなど、他にも細かい事が沢山書かれ裏面が文字でビッシリだった。
「これは・・・。」
流石のアルセラも絶句していた。
「間違いなく見せたら最高ランクSに跳ね上がりだな・・・。」
裏面の記載はギルドにある専用魔道具でのみ閲覧が可能。
本人の意向であれば他人にも見せることが出来るのでアルセラにも見せられていた。
「ランクを上げずに過ごすことも出来るが・・・。」
「こんなに文字がビッシリだと気が落ち着かん・・・。どうしよう・・・。」
とりあえずその日はギルドを後にし、しばらく停泊する宿を探すことにした。
「おい、あれドラゴンじゃないか?」
「しかも二頭も。角にスカーフが付いてるし従魔なのか?」
「ドラゴンを二頭も従魔なんて聞いたことがないぞ?」
街の人やすれ違う冒険者の視線が刺さる刺さる。
「この感じも久しぶりだな・・・。」
タクマとアルセラは出会った頃を思い出して懐かしんだ。
(というか二頭じゃなくて三頭なんだけどな・・・。)
回りの視線を浴びながらもなんとか従魔も泊れる宿を見つけた。
見つけたが、
「ここ、街でも最高級の宿、じゃなくてホテルだよな?」
明らかにいつも利用していた木造の宿ではなくコンクリートで作られた立派なホテルだった。
「リーシャ?大丈夫?」
「大丈夫です・・・、でもまさか異世界でも前世と同じような建物を見たのは初めてですね・・・。」
リーシャは前世のブラック勤務時代を思い出し何とも言えない顔をしていた。
「まぁバハムート達も泊れるのはここしかないし、仕方ない。行くぞ。」
ホテルでチェックインを済ませ従魔の一緒に入れる部屋に案内された。
従魔用だけあってかなり広い。
「きゃ~っ!何このベッド!超フカフカ!」
大きなベッドでハイテンションで跳ねるリヴ。
バハムート達も部屋を見回りながら各々過ごし始める。
するとリーシャの様子が少しおかしかった。
「どうしたリーシャ?浮かない顔して?」
「いえ、外見もそうでしたがこの宿泊施設、前世のホテルと酷似してるんですよ。」
現代と同じ作りのホテルが異世界にあるなんて。
リーシャはそう思っていた。
「考えられる点は一つ。お前と同じ転生者か転移者がこの世界にやってきて現代の技術でこの建物を作った。これが妥当じゃねぇか?」
確かにそうとしか考えられなかった。
「そうですね。それが一番有力な説ですね。」
少しモヤモヤが晴れたリーシャだった。
翌朝。
久しぶりに現代のホテルに泊まって落ち着いたのか、もの凄いスッキリした表情のリーシャ。
「まさか死んだ後にまた現代ホテルに泊まれるなんて思いませんでした♪」
「死、え?どういうこと?」
「あー、リーシャは前世の記憶を持つ転生者なんだよ。言ってなかったっけ?」
「初耳だ!しかも超重要じゃないか⁉」
リーシャの正体に驚愕するアルセラだった。
依頼を探すためギルドに向かい街を歩いていると何やら大通りが騒がしかった。
「何や?向こうが騒がしいで?」
「前にもあったなこの感じ・・・。」
「行ってみよう。」
大通りに来たが人が多すぎて見えなかったため、バハムートの『認識疎外』をかけて全員屋根の上に飛び乗った。
「隠蔽魔法・・・、かけられたのは初めてだ・・・。」
『お主もいい加減慣れとけ。身が持たんぞ?』
屋根の上からなら大通りが一望できる。
すると通りの向こうから豪華な馬車がやってきた。
「パレードですね。セクレトで見た聖天新教会のものと同じで。」
「この街に教会がいる情報はない。だとすると別の?」
そしてパレードが目の前に差し掛かると街の住民が一斉に勇者コールを叫び始めた。
「勇者?」
「タクマ!馬車の上!」
メルティナが指す馬車には眼鏡をかけた魔術師の青年、大剣士の中年男性、高貴な金髪女性の騎士、そして、聖剣を掲げる長い黒髪の少女だった。
「勇者様一行が復活しそうだった悪魔族の王を打ち取ったってよ!」
「まるで伝説の通りじゃないか!」
「勇者様万歳!」
歓声が鳴り響き凄い盛り上がりだ。
「どうやらあの勇者はまともそうだな。『鑑定』で見ても負の称号はない。」
「本来ならあれが勇者として正しい在り方なんだ。わが国の勇者は散々だったが・・・。」
アルセラは目を逸らした。
見た所勇者パーティは攻撃特化の役職で構成されている。
しかし違和感があった。
他の三人は普通だが、勇者の少女だけは黒髪で黒目、それに顔つきも見慣れない形だった。
(どことなくクズ勇者に似た顔立ち、まさか・・・。)
その時だった。
勇者パーティの女性騎士が何かに気付き突然斬撃を飛ばしてきた。
しかも狙いは、
「え⁉」
なんとタクマ達だった。
煙が立ち瓦礫が市民の頭上に落ちる。
「わぁぁぁぁ⁉」
すると火の弾が瓦礫を粉砕、頭上に魔法壁が張られ市民は無事だった。
「突然何してるんです。ミレーユ。」
ミレーユと呼ばれた女性騎士が剣を仕舞う。
「妙な気配を感じたから斬撃を飛ばしたんだけど、逃げられたみたい。」
「こんな民衆の中で剣を抜くな。勇者が民衆を危険に巻き込むなど御法度だろう。」
大剣を担いだ中年男性が言う。
「危険と判断して何が悪いの?もし敵だったらアンタ責任とれるわけ?」
偉そうな口調で言うミレーユ。
(チッ、我儘お嬢様が・・・。)
黒髪の少女、勇者もタクマ達の気配に気づいていた。
しかしどこか解せない表情をしている。
(さっきの気配、どこかで?)
大通りから遠く離れた街の広場に突然出現する魔法陣と共にタクマ達が現れた。
「あべし!」
着地に失敗し頭から落ちるウィンロス。
「びっくりした~!突然何よあの金髪の女!」
「まさか我の『認識疎外』を見破るとは・・・、案外侮れん。」
剣を向けられた事には驚いたがバハムートの疎外を見破る辺り、やはり勇者パーティなんだと実感する。
『しかしあの金髪娘の魔獣に対する殺気。あれは恐ろしいな。』
「殺気⁉え、嘘でしょ⁉」
『気づかんのも無理はない。相手に悟られぬよう気配を抑えながら殺気を放っておった。まぁ儂は剣じゃから魔力や気配にはちと敏感じゃから気づけたという訳じゃ。』
矛盾に思えるが殺気を隠しながら殺気を向けるとは相当な技術だ。
「なるべく鉢合わせないようにする他なさそうだな。」
一同は気を取り直しギルドに向かったのだった。