『第百一章 魔聖剣』
時は遡り、アンクセラム王国王都にて。
デスクに座る男性、近衛騎士団二番隊隊長ロイルが書類にサインをする。
「よし。これで引継ぎは完了だ。」
「ありがとうございます。ロイル隊長。」
アルセラが頭を下げる。
「お前が近衛騎士団を辞めると聞いた時はどうなるかと思ったが、流石ウィークス団長の妹、完璧な処置だったぞ。」
「兄様には遠く及びません。」
ロイルは書類に目を通しながら話を続けた。
「退職してもしばらく有給期間がある。その間に出発の準備を進めるのか?」
「えぇ、そのつもりです。といっても大体の準備は既に出来てますので後は武器の新調ぐらいですかね。」
「今まで使ってたのは騎士団の支給品だからな。どこの店で新調するんだ?」
「王都の武器屋と予定してますけど?」
「ふむ・・・。」
ロイルは口元を押さえて何やら考え込む。
「だったら私の知人が営む武器屋を紹介しよう。お前の実力に見合う武器もきっとあるはずだ。」
「っ!ありがとうございます!」
紹介状を手にアルセラは王都を彷徨う。
「この角を右に曲がれば、あった!・・・え?」
その武器屋には覚えがあった。
以前たまたま帰ってきた三番隊隊長のネオンに聞いた話で彼の持つ大剣は伝説の武具職人にオーダーメイドしてもらったと自慢していた。
その職人は国王と古い友人であり世界で四人しかいないオリハルコン級のライセンスを持つアンクセラム王国の生きる伝説。
その職人の店であった。
(ロイル隊長ぉぉぉ⁉何故貴方がこれほどの方と知り合いなんですか⁉)
心の中で驚愕するが折角ロイルが紹介してくれた店だ。
とりあえず店舗に入ってみる。
「いらっしゃいませー!」
出迎えたのはアルセラより少し幼い少女だった。
「すまない。上司の紹介で武器の新調をお願いしたいのだが。」
アルセラは紹介状を差し出す。
「あ、ロイルおじさんの印!待っててください!お爺ちゃんに知らせてきますので!」
紹介状を受け取ると少女は店の奥へと消えた。
「ロイルおじさん・・・フッ!」
アルセラは思わず笑いを漏らしそうになった。
そして少女に腕を引かれ出てきたのはガタイのいいお爺さんだった。
「アンタがロイル坊の紹介で来た娘か?」
「ブッ・・・!」
「?」
「すみません。ロイル隊長の呼び方が面白くてつい・・・。」
「ハッハッハ!面白い娘だ!」
アルセラは伝説の武具職人に説明して武器を見繕ってもらえるようお願いした。
「国王も難儀だな。こんな強ぇ部下を手放しちまうなんて。」
「辞職してでもついていきたい人がいるものですから。」
「そうか・・・。」
お爺さんは優しく微笑み店の奥にしまってある剣を取りに行った。
その間アルセラは店内を見て回っているとふと黒と白の混在した異質な魔力を感じ取った。
「ん?」
振り向くとそこには額縁に飾れらた一本の黒剣があった。
「今の異質な魔力、これから感じたような・・・?」
「どうされました?」
突然話しかけてきたのは四十代ぐらいの男性だった。
「うわっ⁉」
「あ、すみません。驚かせてしまいました?僕はこの店の副店長です。貴女方騎士団にはいつも父の店を贔屓していただいて感謝しております。」
どうやらこの男性は先ほどの職人さんの息子のようだ。
で、出迎えてくれた少女の父親だった。
「この剣は代々家で受け継がれてきた家宝なのですが、聞いた話によりますとこの剣はかつて伝説の勇者を導き、世界を覆う厄災から世界を守ったと言われています。まぁ数千年も昔の話なので今となっては本当かどうかは分かりませんが。」
少し苦笑いをする男性。
「伝説の剣・・・。」
アルセラは何となく剣に近づく。
その時だった。
『はぁ~、もう何千年も額縁の中、いい加減誰かに振るってほしいものじゃのう・・・。』
可愛らしい少女のため息が聞こえた。
「ん?今娘さん何か言ったか?」
「え?娘なら奥で父と剣を取りに行ってるはずですが?」
「では今の声は?」
アルセラは黒剣に目を移す。
「副店長、この剣は伝説ではどんな剣だったんだ?」
「語り継がれてきた話だと当時の勇者を導いたと聞いていますが・・・そう言えばある諸説がありました。なんでも剣が喋っただとか?」
「剣が喋る?」
アルセラは再び黒剣に向く。
「この剣、少し触れてもいいだろうか?」
「まぁ触れるだけでしたら。」
男性は剣を額縁から外しアルセラに差し出す。
アルセラが黒剣を握った瞬間、何かが覆いかぶさるような感覚に見舞われた。
「っ⁉」
目の前には戦乱の焼け野原。
大勢の人間とあれは、『悪魔族』。
絶滅した種族との戦争の風景が見えていた。
大地は双方の死体で溢れかえっており、唯一丘の上で二人の強者がぶつかっていた。
片方は悪魔族、そしてもう片方は・・・、黒剣を持った人間だった。
激闘の末、勝利したのは人間。
この日を境に悪魔族は絶滅したのだった。
人間、『勇者』は黒剣を掲げ勝利の雄たけびを上げた。
そこでアルセラは意識を取り戻し、元の武器屋に立っていた。
「だ、大丈夫かい?お嬢さん?」
副店長が心配そうに語り掛けてくる。
「あ、あぁ・・・。大丈夫、だ。」
(今の光景は一体・・・。)
すると先ほどの声が再び聞こえてきた。
『ほう、儂の記憶を見ても理性を保っておられるとは。貴様なかなかの強者じゃな?』
アルセラは驚き剣を落としそうになる。
「また声が!」
「声?」
『どうやら儂の声は貴様にしか聞こえておらんようじゃな。まぁ魔力を持たん人間には聞こえんか。』
剣が喋れるなんて聞いたことが無い。
しかし実際手に持ってる黒剣と意思疎通が出来てる。
何故今までこれ程の剣が公にされてなかったことが不思議でならなかった。
「お嬢さん?」
男性の言葉にアルセラはハッと気づく。
「あぁすまない。・・・申し訳ないが店長と一対で話をさせてくれないか?」
奥の部屋でお爺さんとアルセラが対面する。
アルセラは黒剣の事を話した。
「声?」
「はい。この剣に触れた瞬間戦争のような光景が見え声のようなものも聞こえたんです。副店長さんの話ではこれは貴方の家系に代々伝わる物だと聞きましたが。」
お爺さんは深く考え込んでしばらく黙ると、
「・・・お前さん、もしかしたら選ばれたのかもしれん。」
「え?」
「かつて勇者を導き厄災から世界を救った伝説の魔聖剣『カリドゥーン』に!」