『第百章 まさかの再会』
砂漠の下に広がる氷の洞窟。
そこに現れたイカの魔獣。
もうめちゃくちゃな環境の中、タクマ達はイカの魔獣と対峙していた。
「フリージング・ゲイザー‼」
リヴが氷のブレスを放つもイカのくせに耐性があるのかあまりダメージにはなっていなかった。
むしろ味方にダメージが入ってしまった。
「さっぶー‼リヴ!これ以上寒くさせんなや!」
「ごめんなさい‼(ヤケクソ)」
タクマとバハムートも炎技を中心に攻め入るがイカの十四本の足が行く手を阻む。
「足の数が多い!切っても切っても再生するし!全然近づけねぇ!」
一つの足がリーシャに振り下ろされる。
「きゃぁぁぁ⁉」
「リーシャ!」
叩きつけた風圧で飛ばされるリーシャ。
「大丈夫か?リーシャ!」
「大丈夫です!きゃぁぁ⁉」
すぐさま別の足が襲い掛かってくる。
「バラバラに切ってちゃキリがない!同時にやるぞ!バハムート、ウィンロス!」
「よっしゃ!」
「うむ!」
合図と共に二頭は自身を魔力で強化する。
そして目にも止まらぬ速度で洞窟を縦横無尽に駆け出した。
「おらおらどうした!オレはこっちやで?」
「今度はこっちだ。」
イカは完全に翻弄されている。
その隙をつきタクマは居合の構えを取った。
(並みの一撃じゃだめだ。もっと強い威力を。集中、集中しろ。)
タクマは呼吸を整え心を落ち着かせる。そして雫の落ちる音が鳴った。
「『居合・日流火炎翔‼』
炎を纏って直線状に走り出す。
次第に速度が上がっていき威力の上がった業火でイカに突進した。
「タクマの初めての肉体物理技!」
タクマの新技に大興奮のウィンロス。
イカは壁際まで吹っ飛ばされ激突。
氷が崩れ埋もれていく。
反動でタクマも後方に飛んでくるが剣を地面に突き刺して勢いに耐えた。
「うぐぐ・・・、身体痛ぇ・・・。」
「え~・・・。」
女性陣が呆れた顔をしていた。
剣技や魔術に特化しすぎて肉体強度がいまいち高くないらしい。
(これは特訓が必要だな。)
バハムートが方針を立ててると氷の瓦礫をかき分けてイカが飛び出してきた。
「うそん⁉まだバリバリ元気やん⁉」
するとイカが口を開けたと思ったら口部に炎の弾が凝縮され始めた。
「炎ブレス⁉イカが⁉」
イカがブレス、しかも炎属性とくるともうツッコむのも疲れてきた。
「あまり貴様に費やす時間はない!これで終わりにさせてもらう!」
バハムートも口部に炎を溜め始める。
「超天炎王砲‼」
同時に炎ブレスが炸裂しぶつかり合う。
威力の押し合いとなるがバハムートの方が強くどんどんイカのブレスを押して行く。
「オォォォォォ‼」
そしてバハムートのブレスがイカのブレスをかき消し大爆発する。
タクマ達は爆風で吹き飛ばされそうになるも何とか堪えた。
そして煙が晴れるといい感じに焼けたイカが横たわっていた。
「ブレス一発でイカの丸焼きが出来たで・・・。」
いい匂いの漂う洞窟内でバハムートは口から凄まじい量の蒸気を吐き出す。
「煙い!旦那!煙いで!」
「すまん。外気が低温かつ我の高温の吐息が蒸気の量を増量させてしまったらしい。」
「ほとんど霧みたいで何も見えないわ。」
視界が悪くなる洞窟。
すると、
「やっと見つけたぞ!」
仲間の誰でもない声が突然聞こえてきた。
声の方を向くと蒸気で何も見えないが誰かが立っていた。
「何だこの煙は?何も見えない!」
奥の方で影がうごめいている。
「誰だ?」
「お前たち、ギルドの忠告を無視して禁則地へ足を運んだな?これは立派な規約違反になるぞ?」
「規約も何も放っておけるレベルじゃなくなってるぞこの場所は。早いとこ手を打たないと取り返しのつかないことになる。規約に従ってる場合じゃねぇんだよ。」
タクマの反論するが相手は聞く耳を持たなかった。
「それでもこの場所は危険なんだ!どんな理由があろうと一度私達とギルドに戻ってもらうぞ!」
そういい影が背中の剣を持つ動きをし、切りかかってきた。
「チッ、次から次へと!」
タクマも剣を取り戦闘態勢に入った瞬間、相手が蒸気飛び出してきた。
その時二人は互いに驚愕した。
「え、タクマ⁉」
「アルセラ⁉」
突然の知人の登場に驚き矛を抑える。
アルセラは飛び上がってきていたのでそのままタクマを通り越し地面にダイブしてしまった。
「うわ、顔面から行っちまったで・・・?」
「な、何でアルセラがここに⁉」
顔面強打して目を回すアルセラに全員が釘付けだった。
突然の再会に状況が飲み込めないタクマ達。
とりあえず落ち着きを取り戻す。
「まさか禁則地に出向いたのがタクマ達だったとは。」
「俺もアルセラがこの地域にいた事が驚きだわ。」
あれからアルセラは所属していたアンクセラム近衛騎士団の仕事の引継ぎをしていた。
どれくらいかかったか知らないが何よりタクマ達より先にこの地域に居るのは不自然だった。
「騎士団やめて追いかけて来るにも私達はつい先日ここに来たわ。なのに何でアンタは私達より先にいたわけ?」
リヴが質問するとアルセラは答えるのが難しいと言いそうな顔をしていた。
「う~ん・・・何から話せばよいか・・・。」
質疑応答に頭を悩ませていると突然知らない声が聞こえた。
『ならば儂を真っ先に紹介すれば良かろう?』
「・・・ん?今の、誰の声??」
全員がキョロキョロと辺りを見回す。
「女の子の声がしたような・・・?」
『実際に女子が喋っておるからな。』
全員が一か所に目線を向ける先には、アルセラの背負う大きな黒い剣があった。
「今・・・その剣が、喋った?」
「そうだな。彼女を紹介した方が説明しやすい。」
そう言い背中の黒剣を前に差し出す。
すると黒剣は元気よく話し始めた。
『お主等が小娘の言っていたタクマとその仲間たちか?』
「お前は?」
『聞いて驚け?儂はかの英雄を導いた伝説の魔聖剣、名を『カリドゥーン』と言う!頭が高いぞ若造共。儂を崇め称えるが良い!』
ドヤる黒剣に辺りが静寂する。
『・・・ん?何じゃ?はよ崇め称えよ?』
「・・・アルセラ、こいつへし折っていいか?」
『んじゃぁ⁉』
「流石にダメだ!せめて殴るだけにしてくれ!」
『貴様も何言っとるんじゃ小娘!』
恐いオーラを漂させるタクマにアルセラはカリドゥーンを引かせる。
寒い洞窟の中、寒さも忘れて再会したアルセラと団らんする。
そして気が付くと洞窟の外はすっかり赤くなっていた。
「やべやべ、つい長話しちまった。」
洞窟の出口から一同が出てくる。
「続きは拠点に返ってからね。まだアンタには聞きたいことが沢山あるし。」
「その黒剣の事とかもな。」
「あぁ、そうだな。」
一同はバハムートに乗って氷山麓の仮拠点に戻った。
食後の焚火を囲い再びアルセラに質疑応答を始める。
「兄様にあったのか⁉」
「そんなに驚く?兄妹なら割かし連絡とったりあったりしてると思ったんだけど?」
マシュマロを食べながらリヴが言う。
「いや、兄様は放浪するワールド騎士団を率いているだろ?国に帰ってきても仕事ですぐに出立してしまう。最後に兄様とあったのは四年も前なんだ。」
タクマは思わずコーヒーを吹いた。
「ゴホッ、四年⁉何してんだアイツ!いくら仕事でもしっかり時間作って家族と会えってんだ!」
「兄様をアイツ呼ばわりとは・・・。いつの間にかタクマは兄様と親しくなったんだな・・・。」
ウィークスの話は終わらせ次の話に移った。
「で、お前。」
『儂か?』
アルセラの黒剣、カリドゥーンに話を降る。
「俺達と別れた後、何があってこいつと知り合ったんだ?自称伝説の魔聖剣と。」
『誰が自称じゃ!儂は本物の伝説じゃぞ!』
「まぁまぁカリドゥーン。そうだな。あれは本当に偶然だった・・・。」
アンクセラム近衛騎士団を退職したアルセラは有給消化期間の内に旅に出る準備を進め、武器の新調という事で王都の武器屋に足を運んだ。
そこでアルセラは出会ったのだ。
漆黒に輝く美しい黒剣を。