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『第九十九章 環境変動』

天界が慌ただしくなっている頃、下界では。

「ぶえっくしょい‼」

ウィンロスが大きなくしゃみをした。

「ちょっと、こっちにうつさないでよ?」

「しゃーねぇやろ、なんかこの辺り寒いし・・・。」

羽毛に包まれてるウィンロスが寒がるとは相当だ。

「確かにちょっと肌寒いですね。氷山が近いからでしょうか?」

少し離れた所に大きな氷山がよく見える。

「いや、あの程度の氷山でもここまで冷え込むことはないはずだが?」

バハムートも首を傾げた。

「まぁバカは風邪を引かないと言うし?」

「誰がバカや。」

「とにかくもうすぐで街だ。そこで何か暖かい物でも食べよう。」

「賛成!」

一同は歩みを進めると丘の向こうに中規模の街が見えてきた。

「見えた。ルオン街だ。」


 街の正門にまでやってきたタクマ達。

だが、

「止まれ!」

門番に足止めをされてしまった。

「冒険者か?」

「えぇ、そうですが?」

「で、では、後ろの巨大な魔獣は?」

門番はバハムートとウィンロスを見て震えている。

どうやらタクマが神を倒したという噂はこの地域までは届いていないみたいだ。

何だが懐かしい感じがした。

「角のスカーフを見てください。二頭は俺の従魔です。」

「え?・・・本当だ、証のスカーフが付いてる・・・。」

門番は武器を降ろし頭を下げた。

「申し訳ない!」

「頭を上げてください。でも何故そんなに警戒心が強いんですか?」

タクマは門番から異様な緊張感を感じ取っていた。

「あぁ、実はここ最近、環境が異様に変化してしまってな。住処を失った魔獣がたまに押し寄せてくることがあったんだ。」

「・・・・・。」

タクマ達は街に入りその街のギルドに足を運んだ。

バハムート達は外でお留守番。

「すまない。この一帯の地域がどのような状況なのか教えてくれるか?」

真っ先に受付嬢に話を聞いた。

だが、

「も、申し訳ございません。そのような情報は現在ギルドマスターが厳重に保管をなさってまして・・・。」

「情報の保管?一帯の地域が異常事態になってるのに世間情報を匿ってるの?何で?」

リヴが更に問いただす。

しかし受付嬢は難しい顔で口を紡いだ。

(何か訳がありそうだな。)

「分かった。無理に聞いたりはしない。ただどうしても気になるから自分たちで調べてくる。」

「っ⁉そんな、いけません!」

焦った受付嬢はタクマ達を引き留めようとする。

「あの地帯には()()()()()が・・・‼」

うっかり口を滑らしそうになり慌てて口を塞いだ。

「平気だ。ヤバいと思ったらすぐ引き返すさ。」

それだけ言ってギルドを後にした。

残された受付嬢と他の冒険者は呆然と立つ中、一人の女性が別の部屋から出てきた。

「今誰か来たのか?」

「あ、すいません・・・。起こしてしまいましたか?」

「構わない。丁度旅の仮眠から目覚めた所だ。それで、さっきの騒ぎだが。」

「騒ぎって程でもないですけど、四人組の冒険者が禁則地へと赴いてしまわれて・・・。」

「禁則地へ⁉何故止めなかったんだ!」

「す、すみません!止めようとはしたんですけど・・・!」

女性はため息をついて部屋に戻り、一本の黒剣を持ち出した。

「その冒険者は私、()()()()()()()()()()()()が連れ戻す!」


 氷山近くの一帯にやってきたタクマ達。

現在いる場所は見た感じでは普通の森だが気温が異様なまでに、暑かった。

「あっつ~、ここ氷山近くの森よね?何でこんなに暑いの?」

滝のような汗を流すリヴ。リーシャも薄着になって髪を束ねていた。

「これではまるで夏だ。季節外れにもほどがあろう・・・。」

「タクマさん、ローブと上着預かりますね。」

「おう、サンキュ。」

まるで熱帯のように暑い森を進むとウィンロスが何かを見つけた。

「ん?あそこなんか青いような?」

一頭で様子を見に行くと、

「うわっ!寒‼」

突然の冷気に驚愕した。

タクマ達も後を追うとそこに広がっていたのは、

「寒冷地帯⁉」

先ほどまで夏のように暑かった森の隣には辺り一面に氷の大地が広がっていた。

「ひっくしゅん!タクマさん!上着とローブです!」

そそくさと上着を着るタクマとリーシャ。

汗をかいた身体に極寒は地獄。

危うく凍死しかけるところだった。

「どうなってんだここは?」

気になったタクマはバハムートに乗り、上空から一帯の様子を伺う事にした。

そしてタクマとバハムートが上空から見下ろし見たものは。

「何だよ、これ・・・。」

氷山をグルッと回るように、熱帯地帯、寒冷地帯、森林地帯、砂漠地帯と様々な自然環境が隣り合わせで形成されていたのだ。

「この地帯だけ環境がバラバラ。いくら何でもおかしいだろ!」

「これは違和感を拭えん。ギルドが情報を隠蔽する訳だ。」

二人は地上に降りリーシャ達と合流、見た物を全て話した。

「なんじゃそら!」

「自然環境の混在なんて普通有り得ないわよ⁉」

ドラゴン二頭も困惑してた。

「もしかして、受付の人が言っていた禁忌の魔獣の仕業、でしょうか・・・?」

「その魔獣がどんな奴か知らねぇが、かもしれないな。」

とりあえず周辺を調べて回る一同。

それぞれ得意な自然環境に赴き独自に調査を進める。

そして夕暮れ、集まりやすいよう氷山を目印に麓で野営施設を設けた。

バハムートのスキル『クリエイト』の賜物だ。

「調査報告!」

「はい!寒冷地帯に適応した魔獣十数種類確認!規模は小規模!以上!」

「はい!森林地帯に適応した魔獣数十種類確認!規模は小!あと木の実めっちゃ美味かった!以上!」

「熱帯地帯に適応した魔獣数種類確認した。いずれも規模は極小。それと気になる痕跡を発見、これは後に説明する。我は以上。」

「リーシャ、ラル、メルティナさんチーム!砂漠地帯上空から確認しましたが『砂魚』のみ目撃しました。後は砂が続くだけの完全な砂漠地帯でした。でもそこで気になる痕跡を発見、バハムートさんと一緒にお話しします。以上です。」

「なるほど。」

どうやらこの地帯はそれぞれの環境にあった成体が形成されているようだ。

どこも小規模という事はこの地帯となってそう日は立っていないという事。

だが現状の情報量ではまだ不可解な点が多い。

地道に調査するしかなさそうだ。

(禁忌の魔獣てのも気になるしな。)

するとどこからかおぞましい音が鳴り響いてきた。

「きゃぁぁぁ⁉何⁉」

驚いた女子たちは一丸となって抱き合う。

「すまん、オレの腹の虫や・・・。」

「アンタかい!」

「ははは、じゃぁ飯にするか。」

その日の晩は軽い調査だけして一日を終えたのだった。


 翌日、昨日調べた地域をローテーションするように交代し各地の調査を続行。

その後先日バハムートとリーシャが見つけた痕跡と言うのもを確かめるためにその場に赴いた。

まずは熱帯地帯。

バハムートが見つけた痕跡は熱帯地帯の洞窟内にあったと言っており湿度が異常な空洞を進む。

「あっち~・・・。」

「ウィンロス、もう少し離れて。暑苦しいから。」

「初めて羽毛が恨めしいと思ったわ。」

そんなこんなで進むと広い空洞に出る。

「お前こんな所まで調べたのか?」

「無論だ。やるからには徹底的にやらねばな。そして例の痕跡はあれだ。」

バハムートが指す先には禍々しいラインの入った黒い物体が地面に突き刺さっていた。

「これは・・・角?」

「うむ。生物の角だ。しかもこれは厄介な魔獣の物だ。」

「厄介な魔獣?何ですかそれ?」

バハムートが一瞬口を紡いだがしっかり答えた。

「『五核竜(ごかくりゅう)・ネセルティオン』!」

「「っ⁉」」

その名を聞いたウィンロスとリヴは驚いた。

「嘘やろ⁉あのバケモンがここに居るんか⁉」

「もう一生出くわしたくなかったのに~‼」

突然の二頭の同様についていけないタクマとリーシャ、メルティナ。

「ネセルティオン?何だそれ?」

「我ら竜族の間でも伝説で語られる禁忌竜の一角だ。神龍程ではないが体内に五つの核を有しており、環境ですらも破壊し尽してしまう危険なドラゴンだ。」

ドラゴンの間でも恐れられてるとは。

よほどの力を持ったドラゴンのようだ。

「しかもそれだけではない。奴はそれぞれ、炎、水、雷、氷、風の五つの属性を合わせ持つ生物を越えた存在だ。」

「複数属性持ち⁉自然界にそんな生物が存在するんですか⁉」

「一体だけ存在する。それが五核竜・ネセルティオン。故に禁忌と呼ばれる由来なのだ。」

複数属性持ちは人為的であれば存在するが自然界では本来存在しない。

だが一体だけそれを可能とした超生物。

それが五核竜・ネセルティオンだと言う。

全ての属性を持つドラゴンが禁忌ならあの街でギルドが情報を隠蔽するのも頷ける。

絶対に適う相手ではないためこれ以上の死者を出さないためだ。

「だが放っておくわけにもいかない。何も知らず迷い込んでしまった人が危険に攫われる可能性もある。ギルドには悪いが俺達で対処するぞ!」

「本気で言ってるの主様⁉私達ですら勝てるかどうかも分からないのよ⁉」

だがタクマは笑顔でリヴの頭を撫でる。

「心配し過ぎだ。過信してるつもりじゃないが俺達は神を倒し、神龍も退けてる。それに、俺達皆で対処すれば突破口は見える。そうだろ?」

「皆で・・・。」

「そうですよ!まだそのドラゴンがどれほど危険かはまだ分かりませんが皆で力を合わせれば必ず成し遂げられます!」

「うんうん!」

メルティナも首を縦に振る。

「・・・そうだな。我らは一ではない。お主等もいれば百人力であろう。」

「旦那は一万力ありそうな気もするがな・・・?」

だが皆の不安は綺麗に吹っ切れていた。

「ははは、じゃぁこの調子でリーシャの見つけた痕跡も調べよう!」

「「「おーーー‼」」」

そうして一同は砂漠地帯にやってきた。

砂漠地帯の痕跡は洞窟内ではなく外にあるらしいが。

「あった!けど・・・。」

先ほどの角ではなく、こちらは鱗のような残骸があちこちに散らばっていた。

「ネセルティオンの鱗だ。だが妙だな?」

「あぁ、鱗の中に傷がついてるものがある。何かと戦闘で鱗が剥がれたかもしれない。」

「こんなおぞましい物叩き落とすとか・・・、確実に魔獣の類じゃあらへんねん。」

「人間か・・・。」

バハムートが深く考え込む。

五核竜はドラゴンだけでなく他の魔獣にも特に恐れられている。

そんな相手と戦えるのは人間、しかもかなりの力を持った人間だけが可能だ。

だがどんなに強い実力者でも容易に太刀打ちできる相手ではない。

そう考えると答えは一つしかない。

「・・・勇者か。」

バハムートが漏らした単語にタクマとリーシャは反応する。

「勇者、あまりいい思い出はないな。特にリーシャが。」

過去に会った勇者は異世界転移者で人間のクズだった。

好き勝手に暴れ挙句の果てにリーシャを死の間際まで追いやったのだから。

「もう過ぎた事です。それで、勇者がこのドラゴンと戦ったってことでいいんですか?」

「うむ、その考えが一番可能性が高い。それにここから数十キロ離れた位置にこの国の王都がある。確か名前はブリエストと言ったか?」

「ブリエスト王国な。あの街で一休みしたら向かう予定だったが。これはこれで放っておけなくなったからな。」

とりあえず鱗を数枚回収し引き上げようとしたその時、足元の足が砂が突然沈み始めたのだ。

「うわっ⁉何⁉」

「流砂だ!このままじゃ飲み込まれる!」

「アカン!足が抜けなくて飛べへん!」

「くっ!我もだ!」

必死に足掻くが足掻くたびに砂に埋もれる。

「私が竜化して飛べば!」

「ダメです!戻った衝撃で更に沈みます!」

「完全に積みじゃない⁉」

「「うわぁぁぁぁ‼」」

抵抗空しくタクマ達は流砂に飲み込まれてしまった。

「あああぁぁぁ⁉」

流砂に飲まれた一同は広い氷の洞窟に落とされた。

「アイテテテ・・・。」

「お、重い・・・!」

タクマが全員の下敷きになってしまった。

「あ、ご、ごめんなさい!」

「ん~も~!おじ様もウィンロスも早くどいて!」

「おわぁぁぁ⁉」

人間の姿でもやはりドラゴン。

リヴは二頭を軽々持ち上げ放り投げた。

「ヒエ~!寒い!砂漠の下が氷の洞窟て、もうめちゃくちゃやんけ!」

「流石に慣れんな、この環境は・・・。」

震えるウィンロス。

羽毛が逆立ってるせいか換毛期かってくらいもこもこになってた。

「タクマ、大丈夫?」

「大丈夫・・・。」

メルティナに腕を引かれ立ち上がる。

「にしても変な所に落ちちゃったな~。」

タクマが頭をかいていると洞窟の奥から異様な気配を感じ取った。

「バハムート!ウィンロス!」

「分かっておる!」

「なんかおるで!」

男性陣が女性陣を守るように前に出ると暗闇の奥からズルズルと何かを引きずる音が聞こえてくる。

そして現れたのは巨大な、()()だった。

「イカーー⁉砂漠で氷の洞窟でまさかのイカー⁉ホントめちゃくちゃやこの場所‼」

「しかも異様にデケェ!気を付けろ!」

巨大なイカがタクマ達に襲い掛かってきたのだった。


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