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落花情あれども流水意無し

かなり遅くなりましたが……。

「運命の女神は勇者に味方する」ブックマーク登録200件記念SS!!

同時に、初SSです。


時系列的には序章と第一章の間なので、本編を知らなくても大丈夫です。


いつもより長いですが、お楽しみください。

 わたし、「高田(たかだ) (しおり)」、11歳。

 全力で初恋、やってます!!


「……なんて、少女漫画じゃよくある話なんだけどね~」

「そこで、参考資料が少女漫画って辺り、高田らしい」


 目の前で、わたしの友人の一人である「若宮(わかみや) 恵奈(けいな)」さんが笑いながらそう言った。


「でも……、真面目な話、卒業すると、(ささ)さんに会えなくなるよ?」

「まあ、それも仕方ないかなって」

「『全力』、どこ行った?」

「どこか遠いお空へ飛び立ったかな?」


 そう言いながら、わたしは差し出された熱々の緑茶を口にする。


 今は、年が明けた直後。


 冬休みもそろそろ終わろうという頃、若宮さんに招待されて、彼女のお(うち)にお邪魔している。


 そこで、いきなり言われたのだ。


「このままで良いのか?」

 と。


「そもそも、九十九(つくも)が、わたしに告白されたぐらいで心を動かしてくれるとは思わないんだよね~」

「なんで?」


 何故か聞き返された。


「『今はそういうこと考えられない』って言いそう。もしくは、『男友達といる方が楽しい』とか?」

「あ~」


 同意されてしまった。


 どうやら、彼女もそう思うらしい。


 正直、話題の相手から自分が嫌われているとはあまり思っていない。

 どちらかといえば、女子の中では好かれている方だとは思っている。


 それだけ、その相手の周囲には女子がいないのだ。


 すっごい、かっこいいのに、常に男子の集団の中にいて、他の女子たちが彼に声を掛ける隙がないように見える。


 その中でも、わたしや、目の前にいる若宮さん、そして、若宮さんの従姉妹である「高瀬(たかせ) 恵乃(めぐの)」さんは同じクラスになったこともあるためか、割と向こうから話しかけてくる気はする。


 彼女たちは目立つし、自分というものをしっかり持っているから男子なら声をかけたくなる気持ちも分かるのだけどね。


 わたしはというと、六年間、ずっと同じクラスだったというのが大きいだろう。


 わたしたちが通う小学校は、一学年4クラスあって、毎年入れ替わるのにそれって結構、凄いことだと思う。


 実際、わたしがずっと同じクラスなのは彼ぐらいだ。

 逆に、一度も同じクラスにもなったことがない人は数人いるけど。


 これが少女漫画なら、間違いなく運命を感じてもおかしくはない場面だと思う。


 だが、残念ながら現実は少女漫画ではない。

 そして、わたしはあんなキラキラした世界で主人公になれるタイプでもないのだ。


 背も低く、顔も平凡。


 性格は気が強いってほどでもないけど、納得いかなければうっかり口答えしちゃうこともあるので、自分でも「生意気」と言われるような面はあると分かっている。


 でも、そんな子はどこにでもいるよね。


 つまり、わたしはその他大勢。

 女子の中にいれば埋没してしまうような人間。


 いや、背が低いからそういった意味では目立ってしまうのだけど、言い換えれば、それだけの話だ。

 

「でも、本当のことを言えば……、告白して関係が変わるのが怖いんだと思う」


 上手くいっても、いかなくても、きっとこれまでのような気楽な関係ではいられない。

 それが怖いのだ。


「その気持ちは分からなくもないけど……」


 若宮さんは言葉を選んでくれる。


 基本的に遠慮なくずけずけと言うように見える人だけど、実際は、かなりの気遣いをしてくれる人だ。


 わたしには父親がいないけど、それについて聞きたがることもしない。


「気持ちは言葉にして伝えなければ、絶対に伝わらないよ?」

 妙に力強くそんなことを言われた。


 彼女は誰かに伝えそこなった言葉でもあるのだろうか? なんとなくそんな気がした。


「う~ん。でも、どうせ、別の中学校に行くわけだし、その先でもっとかっこいい人がいるかもしれない」

「あんな男がころころしているとは思えないけど……」


 わたしもそう思う。


 仮にそんなかっこい人がいたとしても、今のあの「笹ヶ谷(ささがだに) 九十九(つくも)」という名の少年ほど親しくなれる気がしない。


 仲良くなれたのは本当に運が良かっただけなのだ。


 小学一年生の時、同じクラスになって……、わたしは「笹ヶ谷くん」とも「九十九くん」とも何故か上手く呼べなかった。


 ―――― それなら、「九十九」って呼べ。


 そう彼の方から言ってくれたのだ。


 いくら、小学校の低学年でも、男子の名前を呼び捨てすることに抵抗がなかったわけでもない。


 でも、当人も、その当時、同じクラスだった子たちもそれを気にしなかったのだ。


 逆に言えば、親しい相手の名前を呼び捨てにすること自体、そこまで珍しくもなかったといえる。


 そして、始まる「名前呼び(特別感)」。


 それで、好きになるなって言う方が無理な話で……、気付いたら、まあ、好きになっていたわけだ。


 でも、きっかけなんてそんなものだと思う。


 少女漫画のように恋に落ちる瞬間を自覚したわけでもなく、勝手に芽生えて勝手に育っただけの話。


 わたしが呼べば、笑いながら返事をしてくれるところとか。


 他の男子みたいに嫌な気分になる言葉を言わないところとか。


 嘘吐くことを嫌うところとか。


 そんな小さなことを積み重ねただけの話。


 皆が言うように、顔は良いと思う。

 でも、顔で好きになったわけじゃない。


 少女漫画に出てくるヒーローのように、心をときめかせるような甘い台詞を決め顔で言うタイプでもない。


 でも、彼の言葉は素直なのだ。

 すっと、相手の内側に入り込むようなことを口にする。


 約六年間、一番、近くにいた男子といえばそうなのだろう。

 だけど、それだけじゃない気もする。


「後悔はしない?」


 そう言われると困る。


「分かんない」


 少なくとも、六年間同じ教室にいて、彼に毎朝、挨拶することが日課だったのだ。


 会わなくなった後、淋しさを感じないはずもない。


「卒業式に告るとか!!」


 若宮さんが名案を思い付いたかのようにそう言った。


 確かに卒業すれば会うことはないのだから、それは良いかもしれないけど……。


「考えておく」


 わたしはそう答えるだけにした。


 あくまでも考えるだけだ。

 実際に、想いを告げるかなんて分からない。


 その場の雰囲気とかもあるし、何より、あれだけかっこいいのだ。

 他の女子だって同じことを考えている気がする。


 目の前で、先に告白した別の女子に応える姿を見た後で、自分の想いを伝えられるような精神力の強さは持ち合わせていない。


 まあ、彼と同じ中学に進む女子の方が多いから、わたしと同じように、関係を壊したくなくて言わない子もいるかもしれないのだけど。


****


 様々な思いが交錯する卒業式の日。


 特に何事も起こることなく、淡々と儀式は進み、教室で担任の先生から卒業証書と色紙を頂いた。


 色紙に書かれた言葉は「意気軒昂」。

 ……ど~ゆ~意味だろう?


 「意気揚々」ならなんとなく分かるのだけど。

 帰ったら、調べてみよう。


「高田~!!」


 若宮さんが手を振ってわたしを呼ぶ。


 その傍には、若宮さんの従姉妹でわたしの友人でもある高瀬さんの姿もあった。


「色紙、なんて書いてあった?」


 どうやら、クラスは違っても、同じように色紙を渡されているらしい。


「私、『切磋琢磨』。頑張れってことかしらね?」


 色紙に書かれた四字熟語を見せながら、若宮さんはそう言った。


 それは聞いたことがある。

 確か、互いに努力し合って能力を高め合うみたいな言葉だった気がする。


「私は、『気宇壮大』。なかなか、買われた言葉だよね」

「きう……?」


 でも、高瀬さんが見せてくれたこちらの言葉はさっぱり分からない。


「心構えや発想などが並はずれて大きく立派なことかな。まあ、人よりも度量が大きいって意味で間違いないよ」


 さらりと教えてくれる。


 ああ、確かに彼女にはぴったりだ。


 高瀬さんは、公立中学に進むわたしたちと違って、近くの私立の中学に入学することが決まっている。


 大人っぽくて、分かりやすく「才女」オーラが出ているため、近寄りがたく見えるが、実際、話すと話題は豊富で、楽しい人だ。


「わたしは……、『意気軒昂』だったよ」

「『意気揚々』じゃなくて?」


 若宮さんもわたしと同じことを思ったらしい。


 ちょっとほっとする。


「いや、高田さんにはこちらの方が合うかな。『意気込みが盛んで、元気いっぱい』ってことだからね」


 ……猪突猛進みたいな感じかな?


「それに、どちらかというと、『意気揚々』は、恵奈の方じゃない?」

「失敬な」

「でも、私なら高田さんには『天真爛漫』かな。可愛くてぴったりだと思わない?」


 同じ女子からの言葉だというのに、高瀬さんには妙な色気があって、照れてしまう。

 しかも、褒められているから悪い気もしない。


 ……私立のお嬢さま学校に行くっていうけど、いろいろ大丈夫かな?


「私は『油断大敵』かな。高田は何気に腹が黒いし。虫も殺さぬような可愛いらしい外見に騙されて……」

「若宮さんの言葉もわたしに失礼だと思う」


 どう聞いても褒められている気がしない。


「高田は、これからどうする?」

「どうするって?」

 若宮さんの言葉に反射で聞き返す。


「せっかく、(めか)し込んでいるんだからさ~。笹さんに会いに行こうよ」

「なんで、九十九?」


 確かに卒業式なので、いつもと違った服ではある。


 やたらとフリフリした服を母は勧めたが、断固、拒否した。

 流石にこの年でどこかのお姫さまみたいなあの服は恥ずかしい。


 若宮さんも、高瀬さんもすっきりした服だったので、本当に良かったと思う。


「なんでって……」


 若宮さんは言葉を選ぶように視線を動かしたが……。


「私も笹さんに会いたいな。最後だからね」


 高瀬さんは迷いのない笑顔でそう言った。


「そっか……」


 高瀬さんの言う通り、これで、最後なのだ。


「わたしも……、九十九に会いたいな」


 最後だから、ちゃんとこの目に焼き付けておきたい。

 また、いつか、どこかで出会った時に、すぐに思い出せるように。

 

 わたしが「会いたい」と言うと、若宮さんと高瀬さんは揃って、「了解」と言ってくれた。

 それも、かなり良い笑顔で。


****


 意外にも九十九は、一人でいた。

 しかも、先ほどまでいた教室で……。


「高田? どうした? 忘れ物か?」


 わたしに気付いた九十九が顔を上げる。


「いや、一人?」

「おお。親代わりに、兄貴が来ていてな。ちょっと今、外に出にくいんだよ」

「そうなのか」


 忙しいご両親なのだろうか?

 でも、確か、彼のお兄さんって……まだ中学生じゃなかったっけ?


 なんか事情があるのかな?


 そして、なんで外に出にくいんだろう?


 でも、事情は人それぞれだ。

 そこまで親しいわけではないので、突っ込むのはやめておこう。


「珍しい服だな」


 わたしの思考を遮るように、九十九は別の話題を振る。


「そちらこそ」


 九十九は、他の男子のようにスーツ姿ではなかった。


 落ち着いた色合いのネクタイこそしているものの、白いシャツ、紺色の長袖ニットに紺のズボン。


 どこかの高校の制服にありそうな組み合わせだった。


 ……似合っていて、正視しにくい。

 いや、彼はスーツも似合いそうだけど。


「スーツよりこっちの方が、今後の着回しが効くからな」

「ああ、分かる」


 わたしも灰色の長袖カーディガン、白いシャツ、そして紺色の膝丈プリーツスカート。

 そして、赤いリボンのネクタイを付けている。


 これらはスーツではないため、着回すことができるのだ。

 たった一回しか着ない服など勿体ない!!


 それでも、確かにわたしは膝丈スカートはほとんど履かない。

 いや、スカート自体、あまり着ることがないのだ。


 妙に落ち着かないこともあるのだけど、RPGでいう、防御力ってやつが極端に下がる気がするためだろう。


 それも……、中学校になったら、制服に替わるために、好きじゃなくても履かなければいけないと分かっているんだけどね。


「お前こそ、一人か?」

「へ?」

「さっきまで若宮と高瀬といる所は見たけど、別行動か?」


 気付けば、先ほどまで一緒にいたはずの若宮さんと高瀬さんの姿はなかった。


 明らかにお節介だ。


「まあ、いいか。せっかくだ。暇つぶしに付き合ってくれ」

「は?」


 いかん。

 先ほどから、まともに言葉を返せていない。


 心の準備がほとんどなかったために、すっごい緊張している。


 なんであの2人はこんな所にわたしを置いていった?


 いや、分かってるよ。

 わたしのためだって。


 でも、巨大で余計なお世話だ~~~~~~~~っ!!


 そうは言っても、もともとよく話す同級生。

 緊張したのは最初だけで、思っていた以上に普通に話せていた。


 九十九は例の色紙で「初志貫徹」という言葉を頂いたとか。


 卒業式の来賓の話が長かったとか。


 校歌を歌う頃には周囲の女子がほとんど泣いていたとか。


 これまでの担任の先生の話とか。


 六年間の思い出はこんな短い時間では語り尽くせないことを知る。


 ―――― 言ってしまおうか?


 そんな言葉が少しだけ頭をよぎったけれど……、彼があまりにも普通だったから、言い出せなかった。


「そろそろ時間だな。お前は? オレなんかと話してないで、母親とか友人といなくて良かったのか?」

「母さんは、とっとと仕事に戻ったはず。若宮さんたちは今から探すよ」


 どうせ、近くで様子を伺っているだろうし。


「それに……、九十九だって友人だよ?」


 わたしはそう言って笑った。


「そうだな」


 九十九も笑ってくれる。


 ああ、この顔だ。

 わたしは彼が笑った顔が好きだったんだ。


「オレは時間だから行くけど、どうする? 若宮たちのところまでなら送るぞ?」

「いや、良い。下手に動くと、入れ違いになりそうだから、もう少し、教室にいるよ」


 せっかくの申し出だけど、断った。


 誰かに見つかって何か言われるのは嫌だ。

 最後にこれまでにないほどいっぱい彼と話せた。


 わたしはこれで十分だ。


「ああ、高田」

「ん?」


 だけど、教室から出ようとした九十九が不意に足を止めて振り返る。


()()()

「へ?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 だけど……。


「う、うん!! ()()()!」


 わたしが慌ててそう言うと、笑顔で手を振って……そのまま、教室から出ていった。


 その後ろ姿が消えるまで見送った後……、わたしはその場に座り込んだ。


 彼は「また」と言ってくれた。


 約束ではないから本当にまた会えるかなんて分からない。


 でも、彼がわたしに対して、最後に選んでくれた言葉は「さよなら」ではなく、「また」だった。


 それだけでも嬉しい。


 ああ、どうしよう。

 やっぱり、彼のことが好きなんだ。


 自分が思っていたよりももっと、ずっと。

 ちゃんと、好きだったんだ……。


 少女漫画の主人公たちみたいに全力でぶつかりはしなかった。


 それでも、これは、わたしにとって大事な初恋だったと胸を張ることができる程度には、あの人のことを好きだって分かった。


 でも……、分かった時に、初恋は幕を閉じた。


 あの後、若宮さんには散々「せっかくお膳立てしたのに」とか、「勿体ない」とか言われたけど、高瀬さんは「綺麗なままで終わらせたい気持ちは分かるよ」と言ってくれた。


 それが救いだったと言えるだろう。


****


 だけど、そんな淡い初恋の終幕から、三年弱経った後。


 九十九が「また」と言った通り、わたしたちは奇妙な形で再会することになる。


 いや、本当に、なんであんな形の再会になってしまったのか?

 それから何年経っても分からない。


 言えることはこれだけ。


『どうしてこうなった!?』


 だけど、後に彼は言う。


「こうなる運命だったんだから仕方ない。そろそろ諦めろ」


 と、無情な言葉(げんじつ)を。


****


 その日は本当に突然訪れた。


 何の予告も前触れもなく。

 変わらず続くと信じていた日常を壊すかの如く。


 ―――― 全ては夢から醒めるかのように。



 彼との再会によって、わたしたちの「運命」は大きく変わっていくのだった。

前書きにもあります通り、当作品は、「運命の女神は勇者に味方する」の番外編です。

本編がブックマーク登録200件を突破した記念として書かせていただきました。


登録してくださった方々のおかげで生まれた作品です。

本当にありがとうございます!!


SSの割に本編の二話分の文字数ですが、一話でなんとか完結させました。


いくつか書いた上で、トップバッターは悩みましたが、やはり主人公で。


Q:本編よりかなり幼いはずなのに、情緒的な面が今より発達しているのは気のせい?

A:気のせいです。大丈夫です。問題ありません。


Q:本当に「流水意無し」?

A:その点については、本編をお読みください。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

これからも頑張らせていただきますので、お力添えのほどをよろしくお願いいたします。

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本編『運命の女神は勇者に味方する』も
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