第三話 乙女ゲームのシナリオ
乙女ゲームの悪役令嬢であるシャーロット・ラーナーはそれはそれは美しい少女であった。波打つ黄金の髪に、晴れ渡る空のように澄んだ青い瞳をした絶世の美少女。令嬢としてのマナーも完璧で、一挙手一投足が美しい。夜会で彼女が踊れば、招待客は皆、彼女に目を奪われる。
そんな美しいシャーロットであったが、十六歳になってもシャーロットに婚約者はいなかった。
貴族令嬢ともなれば、生まれる前から許嫁が決まっている場合もある。そうでなくても夜会デビューをする十三歳までには婚約が決まっていることが多いのだが、シャーロットの婚約は十六歳になっても決まっていなかった。
もちろん婚約話がないというわけではない。むしろその逆でシャーロットとの婚約を望む声は星の数ほどあった。そんなシャーロットの婚約が決まらない理由は主に二つあった。
一つ目は単純で、公爵令嬢であり、しかも王族の血を引く高貴なるシャーロットに釣り合いがとれる者が数えるほどしかいないという理由だ。
ならばその数えるほどしかいない者と婚約を結べばよいのでは?と思うかもしれないがその理由は二つ目の理由になる。
シャーロットの婚約が決まらない二つ目の理由は、彼女を溺愛する伯父である国王の存在であった。「シャーロットの婚約者は私が決める。私がシャーロットを幸せにできる最高の人物を探し出してみせる」という国王の発言力のためだった。この発言のため国王のお眼鏡に敵わないとシャーロットの婚約者にはなれないという暗黙のルールができてしまったのである。
だが国王といえどもシャーロットはロバート・ラーナー公爵の娘であるので、通常は公爵家の婚約話に介入できないはずなのだが、ロバート・ラーナー公爵が黙認しているためこのような事態になっているのだ。
公爵自身も一人娘であるシャーロットをそれはそれは可愛がっており、普段は国王と険悪な公爵自身も、このときばかりは国王と結託してシャーロットにふさわしい婚約者を探しているのである。つまり国王の発言は公爵の発言でもあるわけである。ラーナー公爵家はグレイス王国の中でも筆頭と名高い家柄である。なので国王とラーナー公爵の二人が決めたことに逆らえる者はほとんどいないのだ。
なので美しいシャーロットには婚約者がいない。
愛されて育ったシャーロット。
過保護過ぎる愛情がシャーロットを悪役令嬢に成長させてしまったことを誰も知る由はなかった。