暗闇での捜索
休みが本当に嬉しいです。。
しかし、クロエとアリスは何処まで行ったんだろうか。家の周辺には既に二人の姿は無かった。アランさんの家から真っ直ぐ直進すると西門の辺りに出る。
まさかとは思うが、村の外まで行ってないだろうな。村の外にはスライム以外の魔物だっている。特に夜は絶対に森に入ってはいけない。
もう大分走ったが、ジャックの持つランタンの明かり以外には光るものは一切見えなかった。
「はあ…はあ…」
「おい、遅いぞ!」
「ごめん…はぁ…はぁ…」
めちゃくちゃ息切れがする。昔からそうなんだが俺は本当に体力が無い。ステータスが全てを物語っていて、俺の持久力は20、筋力なんか13だ。運動に向いていないどころの話じゃない。
何とかジャックに着いて行ったが、とうとう走れなくなってしまった。
「ったく、お前は本当に弱虫だな!」
「はぁ…はぁ…何も言い返せないよ…」
俺が走れなくなったのを見て、先行していたジャックが引き返してきた。完全にお荷物だ。
俺達が立ち止まったその時、道の先に小さな明かりが見えた。その明かりはどうやらこちらに向かってきている。
「ジャック、あれ!」
「ああ!誰だ!?」
左右に揺れながら段々と近づいてきたその明かりは、俺達の前まで来るとその正体を表した。
「なんだ、お前かよ…」
明かりの正体は、ロブ兄さんの持つランタンの光だった。アリスかクロエかと思ったのだが。
「はぁ…はぁ…お前とはなんだよ、ジャック!仮にも年上だぞ!…はぁ…」
ロブ兄さんは走っていたようで、息を切らしている。
「こんばんは、ロブ兄さん」
「やあノエル、こんばんは…じゃない!大変なんだよ!すぐに皆に知らせないと!」
なんだか焦っている。何かあったのだろうか。
「おいロブ兄!お前、西門の夜間警備担当だろ!こんなとこにいて良いのかよ!」
「それどころじゃないんだよ!アリスとクロエが村の外に出ちゃったんだ!」
「なんだと!?」
まさかだ。本当に村の外に出てしまっているとは…
「お前警備してたんだろ!何やってんだよ!」
「ちょっと晩御飯を取りに行ってる瞬間に通っちゃったんだ、申し訳ない!」
「ジャック!」
「…クソッ!」
「…おい待て!まさか君たちまで出るつもりか!?」
ロブ兄さんの声を無視して、俺とジャックは再び走り出した。ジャックは断然俺より足が早い。しかし、今度は俺が止まらないように先程よりも遅く走ってくれている。俺に合わせて走っていたらとてもじゃないがアリス達には追いつけないだろう。
「ジャック、やっぱり先に行ってくれ!」
「何言ってんだ、お前をここに置いてったらそれこそ迷子だろうが!」
「今ならまだそこにロブ兄さんもいる!俺はロブ兄さんと引き返してもう一個ランタンを持ってくるよ!だから!」
「…ああ分かった!道に迷うなよ!」
そしてジャックは全力で走り出した。あっという間にランタンの明かりが小さくなっていく。そして見えなくなった。
ジャックは行ったか…よし。
俺はその場で念じるとニワトリを呼び出す。
引き返している時間なんて無い。村の外は本当に危険である。何も武器を持たずに外へ出る事は死に直結する。何せ、夜の森には『ボーンウルフ』という魔物が出る。
あれ?ジャック、何か武器持って行ったっけ…とは思ったけど、ジャックは自身の拳でよくスライムを木っ端微塵にしている。多分大丈夫だろう。
ボーンウルフはその名の通り、魔素の力で狼の骨が動き出した魔物である。日が出ている間はただの骨に戻るのだが、夜になると動き出して周辺の縄張りを徘徊する。厄介なのが、どの辺りが縄張りなのか一切分からない上に、真っ暗闇でも正確に敵を攻撃出来るという特徴を持っていることだ。そんな魔物が森には何匹も潜んでいる。そして、森の中から街道までの道へ出てくる事がしばしばあるのだ。…と父さんが言っていた。
ニワトリを手に再び念じ、スキル画面を出す。俺はその場で幾つかのスキルを選んでそのまま取得した。5000のスキルポイントを使って全コモンスキルを取っても良かったが、そんな時間は無い。予め、取るとしたらコレだろうなと目星を付けていたコモンスキルの内幾つかだけを選んだ。
俺が今選んだのは、『夜目』『増強』『瞬足』、それと『風精霊の加護』『風魔法初級』の五つだ。
『夜目』は夜でも物が見えるようになるスキル。
『増強』は全てのステータスに数値で10相当の加算をするスキル。
『瞬足』は走る速度が1.5倍になるスキル。
そして、『風精霊の加護』は風魔法の規模を拡大して魔素の消費を抑えるスキル。一番重要なのが『風魔法初級』だ。このスキルを取得すると、問答無用で頭に初級の風魔法の情報が流れ込み、インプットされる。そして、まるで最初から知っていたかのように魔法が使えるようになるという、コモンスキルにしては破格のスキルだ。万が一何かあった時、俺にはジャックと比べて攻撃手段が無いので、念の為に取得した。
これで俺は攻撃の手段を得てしまったし、父さんに断らず勝手にコモンスキルを取得してしまった。しかし背に腹は変えられない。俺は再び走り出すが、先程よりも自分の足が頼もしく感じる。もっと早く走れる気がするのだ。更に、走る道に転がる小石の形まで見通すことが出来る。これは行けるぞ。
俺は更に速度を上げ、ジャック達がいるであろう西門へと向かった。
西門へ辿り着くと、村の外へ少し行った所に明かりが一つ見えた。躊躇わずに俺は西門をくぐって通り抜け、明かりの方へと向った。
「ジャック!」
「ノエル、お前どうやってここに来た!ランタンはどうした!?」
「それは後で話すよ!アリスとクロエは!?」
村の外に出たにも関わらず、その場に居たのはジャック一人だった。考えられる事としては、このまま直進して街道に出たか、もしくは森へと入っていってしまったか。
「…いや、二人ともここには居なかった。だが、これを見ろ」
「これは…」
ジャックが足元をランタンで照らすと、何か光るものが見えた。ガラスの欠片のようだ。よく見ると辺りには幾つもの破片が散らばっている。そして、道の脇にはガラスが割れ持ち手もひしゃげてしまっているランタンの残骸が落ちていた。
「ジャック、これって」
「ああ、多分…あいつらが持って行ったやつだ」
「この場でアリス達に何かあったのかもしれないね…しかも街道に向かった様子も無いってことは」
「あいつら、森に入りやがったな!」
西門から先は街道まで真っ直ぐ直線で見通しがいい。なのに、道の先には明かりが見える様子は無い。とすると、森に入ったとしか考えられない。
森の中だとすると、ランタンの明かりを目印に探すのは大変だ。しかもボーンウルフが出る。アリス達は無事なのだろうか。
と、考えているとジャックが森の方へと足を踏み出した。
「ノエル、俺は森の中を探す」
「…ジャック」
「お前、ランタン持ってこなかっただろ。だからお前も来い」
「分かった」
俺とジャックは森に入った。周りの木々をジャックの持つランタンが照らす。森は静かで、俺とジャックの地面を踏む音以外には虫の声と葉の擦れる音しか聞こえない。
「…静かだな」
「そうだね…アリス達の声が聞こえてくれればいいんだけど」
喧嘩の声でも話す声でも何か聞こえれば、それを頼りに探すことも出来るが…
「…なあ、ノエル」
「何?」
周囲を見回しながら、ジャックが話しかけてくる。
「俺もな、別に寂しくない訳じゃないんだぞ。何せ俺達は昔からずっと一緒だったからな」
「…そうだね」
「だけど悲しい気持ちであいつらを送り出すのも変だと思ったんだ。街に行くことはもう決まってたからな、出来れば楽しい方が良い」
どうやらジャックはジャックで色々と気にしていたようだ。普段は気が強くてたまに真面目なやつだがこういう繊細な所もある。
話しつつも、辺りを探すことは辞めない。
「それ、本人に言ってあげなよ」
「ああ、そうだ────」
「───きゃああああああああああっ!」
「っ!?」
と、ジャックの声を遮るように悲鳴が辺りに響いた。アリスの声だ。意外と近い。
「おい、ノエル!」
「アリスの声だった!急ごう!」
声のした方へ俺たちは走り出す。明らかに切羽詰まった声だ。二人に何も無ければ良いが…
ここに来て主人公はようやくスキルを取得しました。
ただ、まだまだチートとは程遠いですね。。




