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転生したから平和に生きたい  作者: rab
平和な暮らし
14/23

別れの予感

話の切りどころを見失いました。長いです。

「ジャック、戻ってきたか!どうだった!?」

「父ちゃん!母ちゃん!見ろよこれ!」

「おお!『頑健』か、まあ大体分かってたが…良かったな!」

「知ってたのかよ!」

「あんたの頭はヤケに硬いわドアノブは壊すわ、分かるに決まってるでしょうが!」

「お父さん、お母さん!」

「お帰り、アリス、クロエ。どうだった?」

「はいこれ、あたしとアリスの鑑定結果よ」

「どれどれ…二人とも、良かったじゃないか。ほら、ローラも」

「へえ、『再生力』と『純新無垢』!二人の優しい気持ちがスキルに現れたのね」


全員分の鑑定が終わった後、俺達は待合室に戻ってきていた。ジャック、アリス、クロエはそれぞれの両親と話し合っている。


「ノエル。何だかんだで父さんは安心したよ」

「うん、でも着いてきてくれてありがとう。何も起きなくて良かった」

「ああ、全くだ」


どんな結果になるかと思えば、俺のスキルは『不明』と表示された。鑑定士は良くあることだと言ってそれだけで終わらせた。ちょっと拍子抜けだ。

俺は自分のステータスを確認する為にニワトリを呼び出す。念じると手元にニワトリが現れた。


「…ノエル、今、それをどうやって出した?」

「念じると手元に呼べるんだ」

「そんなことも出来るのか…」


呼び出す瞬間を父さんに見られていたようだ。そう言えばニワトリをワープさせられるとは言ったことが無かったな…

更に念じ、ステータス画面を表示する。


ノエル・イーストウッド

Lv.7

生命:32/32

魔素:64/64

持久力:20

筋力:13

耐久力:35

魔力:125


固有スキル:【鶏と卵】

コモンスキル:なし


自分のステータス画面だとちゃんと表示されているな…一体どういう事なんだろう。

と考えていると、ローレンスさんがこちらへと歩いてきた。


「ブレット、今日はありがとよ。皆に代表して礼を言うぜ」

「いや、俺は何もしてないさ。事件が起こらなくて良かった」

「そうだなぁ…鑑定士は誰だった?」

「例によって奴だ。相変わらずだったよ」

「はっは、てこたぁそうか。こいつらもアレを受けたのか」

「…」


アレというのはローブの中の骸骨だな。ローレンスさん達も覚えがあるようだ。


「…と、そうだ。話があって来たんだ。なあブレット、ノエル。この後アランの家に来られるか?」

「ああ、俺達は構わないが…」

「そうか!実は、アラン達の送別会も兼ねて皆で食事でもしようかと思ってな。さっきお前達が居ない間に話してたんだよ」

「送別会か。そりゃあいいな、全員集まってるし丁度良い」

「そうだろう!…まあ、アランの家でやるんだけどな」


アランさん達の引越しまであと何日も無い。確かに送別会をやるには丁度良いタイミングだ。


「それで何だがブレット、カミラさんとアビーちゃんを呼んで来てくれねえか?うちの母ちゃんとローラさんで料理を作るらしいんだが、出来ればカミラさんの力も借りたくてな」

「ああ勿論だ。子供達はどうする?」

「俺達が先にアランの家まで送っておく。その後は適当に遊ばせるぜ」

「そうか、分かった。俺は早速カミラ達を迎えに行ってくるとしよう、ノエルを頼む」

「おう!任せとけ」


父さんは待合室を出るとそのまま家に向かっていった。


「てなワケでノエル、アランの家に行くぞ。おい、アラン達も出発するぞ!」

「はい、分かりました」

「村長!今日はありがとな!世話になったぜ」

「いやいや、こちらこそ良い物が見れました。またお会いしましょう」


こうして俺達も続いて村長の家を出たのだった。




───────────────────




「…ねえ、ノエル。私、あと何日かで居なくなっちゃうんだよ?そんなのでいいと思ってるの?ねえ?」

「…はい」

「『はい』…?」

「い、いいえ!思っておりません!」

「うん、思ってないよね。なのになんで出来ないのかなぁ?」

「…………」

「黙ってちゃ分からないよ?ねえ、ノエル?」


アラン家に着いた俺達は、勉強会の時のように居間のテーブルに揃っていた。そして俺はニワトリを手に、アリスの演技指導を延々と受けさせられている。


「…なあアリス。もう今日は良いんじゃねえか?折角なんだから他の───」

「全然良くないよ。ノエルをこのまま放っておいたらいつか皆の前で恥をかいちゃうんだよ?そんなの可哀想だよ」

「……そうだな」


これから送別会だと言うのに虐められる俺を見かねたのか、ジャックが口を挟む。が、すぐに丸め込まれた。

ジャック、もっと頑張ってくれ。俺は今可哀想なんだ。


「あんた、この状態のアリスは止められないって知ってるでしょ。学びなさいよ。あんたも巻き込まれるわよ?」

「…ああ」


頼むから巻き込まれてくれ。俺だけにこの恐ろしく翡翠の深い目が向けられるのは不公平だ。


アランさんとローレンスさんは現在料理中の母さん方二人に代わり、アラン家の家事手伝いをしている。

アリスを止めてくれる人はこの場にいない。


「じゃあもう一度やろっか。さっきの所からだよ」

「はい…うわぁ、なんて大きくて高い樹なんだろう。この天辺に巨人が居るなんて信じられないや」

「…」

「…えーと…」


…ダメだ分からん。アリスのおままごとは設定以外は基本アドリブだから想像力が無ければついて行けない。因みに今は『ジャックと豆の木』に似た絵本の話を演じさせられている。ジャック、お前がやってくれよ。


黙っていると、アリスの翡翠の目が更に暗くなった。


「ノエル──」

「おーい、カミラ達を連れてきたぞ」


アリスが口を開きかけた時、玄関の扉から父さんが入ってきた。後ろには母さんとアビーもいる。ナイスタイミングだ、助かった…


「アビーじゃねえか!今日は来ないのかと思ったぞ」

「ジャック兄!ホントは鑑定にもついていきたかったんだけど、ダメって言われたんだよ…」

「仕方無いわよ。アビーも知ってるでしょ?あの噂」

「知ってるけど、そんなの怖くないもん!」

「な、怖くないよな。ほら見ろ、怖がってるのはお前とアリスだけだぞ」

「はぁ、もういいわよ…」


ジャックとクロエは椅子から降りてアビーを囲みに行った。アビーは今年で七歳だが、昔から勉強会に参加したり皆と接していたせいか頭が良く、七歳にしては大分流暢に話す。そしてとても皆と仲がいい。

アリスも囲みに行けばいいのに。折角アビーが来たのに俺ばっかり見ていちゃ勿体無い。早く行った方がいいぞ。そして視線を逸らしてくれ。おい。いいのか?それ以上見ると失神するぞ?俺が。


「ノエル、何で止めちゃったの?まだ途中だよ?」

「…いえ…その」

「…兄ちゃん、またアリス姉に怒られてるの?」


アビーがこちらにやって来た。救世主だ。妹よ、早くこの純新無垢な悪魔を何とかしてくれ。兄は今にも倒れそうなんだ。


「…ノエル。今、心の中で何か失礼なこと考えたでしょ。もしかして私を悪魔扱いした?」

「!?」


何故バレたんだ?声に出してはいないはずだ。


「隠しても分かるんだよ?ノエルはそういうの下手なんだから…ほら、ぬいぐるみさんが言ってるんだよ」


そんな馬鹿な。おいニワトリ、お前もしかして喋れるのか?だとしたら喋るんじゃない。俺が死んだらお前も多分死ぬぞ。

ニワトリを睨んでいると、視界の端から白い手が伸びてきた。そして俺の頬が両側から横に引っ張られる。


「痛だだだだ!」


アリスが俺の頬を抓りながら左右に伸ばし、そしてお互いの鼻がくっ付くかと思う程近くに顔を寄せてきた。アリスの金色の髪が目に掛かる。近い近い、痛い。


「ダメだよ?人を悪魔扱いしちゃ…じゃないと、本当に悪魔になっちゃうんだからね?」

「…ひゃ、ひゃい…」

「…兄ちゃん」


アビーの視線が痛い。最近アビーは、とても残念な物を見るような目で俺を見るのだ。七歳がそんな目しちゃいけないぞ…


「ノエル…お前も大変だな。その調子じゃあ将来は尻に敷かれるぞ」


大変だと思うなら助けて欲しい。このまま頬を引っ張られ続けたら確実に伸びる。父さんは息子の顔が変わっても良いのだろうか。


「はあ、兄ちゃんはしょうが無いな…アリス姉、わたし外で遊びたいな」

「…アビーちゃん?いつの間に来てたの?」


気づいてすら無かったのか…どれだけ俺を虐める事に夢中だったんだ。アビーの声でようやくアリスの手が離れた。おお痛い。


「外に行くのか?だったら良いもんがあるぞ。さっきバケツに水貯めといたからな、スライムになってるかも知れないぜ」

「ほんと!?見たい見たい!」

「おう。見せてやる!外に出な」

「うん!」


ジャックが促すと、アビーは玄関へと走っていく。

いや、ジャック。バケツに水を貯めるくらいでスライムが発生していたら生活もままならないぞ。


「ほらアリス、お前も行くぞ」

「えぇ、私も?でもまだノエルが」

「お前がアビーに呼ばれたんだろ。良いから椅子降りろって」

「…分かった」


ジャックがアリスを促すと、アリスは渋々椅子から降りてアビーの待つ玄関へと向かった。良かった…ようやく解放された…

と思った時、アリスがこちらを振り向いた。


「ノエル、『また後で』ね」


何だ?今日はいつもに増してアリスが怖いぞ。普段はこんなにも粘着して来ないのに、何故か今日に限って全く解放してくれる気がしない。ジャック、代わってくれないか?


「…魔物相手だったらお前を庇ってやっても良いんだが、アリスだけは無理だぞ」


ジャックに視線を向けると、そう言い残して玄関の方へ行ってしまった。


「俺もローレンス達を手伝いに行ってくる。さっき、家の裏で洗濯してるのが見えたからな」

「私もローラさん達の所に行ってくるわね」


父さんは外に出て行き、母さんはキッチンへと向かった。残るは俺とクロエの二人きりだ。


「あんたも大変ね」

「クロエ、君だけが味方だよ…」

「…知らないわ」


そう言いつつも、いつの間にか持ってきていた濡れタオルで頬を冷やしてくれるクロエだった。クロエはいつもこうして気遣ってくれるんだよな…アリスとは偉い違いだ。と、心の中で呟いたその瞬間、寒気が俺の背筋に走った。


…ノエル…


「ヒッ!?」

「な、何よ?どうしたのよ」

「い、今、アリスの声が聞こえた気が…」

「流石に気の所為よ、ノエル。そんなの聞こえなかったわよ?」


…なら良いんだけど。確かに警戒し過ぎているかもな。幻聴まで聞くなんて重症だ。


窓から外を見ると、ジャックがアビーにバケツの中身をぶちまけられていた。


「どうやらスライムは出なかったようだね」

「そうみたいね」


平和だなぁ。

外で遊ぶ三人を見ながら、俺とクロエは二人で静かにのんびりと過ごしていた。こんな時間も後僅かなんだ。十分に楽しもう。


この後、しばらくして戻ってきたアリスに両頬を三回くらい伸ばされた。そして俺だけ痛いのは不公平だったのでジャックも巻き込んだ。よし。




日も暮れた頃、いつの間にか全員が居間に集まっていた。真ん中のテーブルには所狭しと料理が並んでおり、俺達はそれを囲むように椅子に座っている。そして、皆を代表するようにローレンスさんが立つ。


「皆集まったようだな…よし、飲むか!乾杯!」


視線を集めていたローレンスさんはいきなり酒瓶を取り出すと栓を開き、コップへ注ぎ出した。早いな。


「おい、ローレンス…こういう時は何か挨拶して始めるもんだろう」

「はは、まあ良いじゃないか。むしろ湿っぽくなくて気楽だよ」

「そうよブレットさん。折角なんだから楽しい方が良いじゃない」

「アラン達がそう言うなら良いが…」

「良いんだよ。ほら、ノエル君達も飲みなよ。お酒じゃなくてジュースだけど」


そう言ってアランさんはフルーツジュースの瓶を渡してくれる。ジュースなんて、この村じゃ商人と交易するくらいでしか手に入れられない高価品だ。これこそ良いんだろうか。


「遠慮しなくて良いんだよ。街に持っていくには重くてね、むしろ皆で消費してくれると助かるな」

「じゃあ、いただきます。ありがとうアランさん」

「うん、どんどん持っていってね」


アランさんは足元から更に二本のジュース瓶を取り出した。在庫は結構ありそうだな。


「ジャック、これそっちに持って行って」

「なんだ、そっちってどっちだよ」

「このテーブルにこれ以上乗るわけ無いじゃない。その余ってる椅子をテーブル代わりにするのよ」


アランさんが家の何処からか持ってきた椅子達は、皆が座ってもまだ余っていた。この家、椅子が多くないか?


「お前らの家、椅子が多いな…」


ジャックと意見が被ってしまった。

よく見ると皆の座っている椅子はそれぞれ種類が違うようだし、一体何の意味があるんだろう。


「うるさいわね。祖父が毎年送ってくるのよ」

「椅子だけ?」

「そうよ。悪い?」

「いや悪くないけど…何でおじいさんは椅子を送ってくるんだろうね」

「いつかこっちに引っ越すつもりだからじゃないかしら」

「ええ、わざわざ何のために」

「会いたいのよ。祖父…おじいちゃんは私たちのこと、溺愛してるから」


親バカ…祖父バカ?ってやつか。まあ確かに、将来引っ越して来たとして自分の椅子だけ無かったら寂しいだろうけど。


「そんでも椅子ばっか送ってくんのおかしいだろ…うわ、もう一つ下に重なってやがるぞ」

「当分使わないし、一つ持ってってもいいわよ」

「いらねえよ!」

「ジャック兄、貰えるものは貰っておいた方が良いよ」

「椅子だけ貰ってどうすんだよ…」

「そう、その気持ちよ。やっぱりそう思うわよね」


どうでも良いけど早くジュースを置いて欲しい。喉が乾いてしまった。フルーツジュースなんて滅多に飲めないからそっちに興味が行ってしまうんだよな。

ふと、幼なじみ達の賑やかな会話に誰かが足りない事に気づいた。


「…アリス、さっきから静かだけどどうかした?」

「…」


アリスは俺達の傍には居るが、送別会が始まってからずっと椅子に座って俯いたままだ。さっきまで俺を虐めていた元気は何処へやら。


「…やっぱり私、イヤだな。この村を離れるの」


アリスはポツリとそう呟いた。なんとまあ、寂しかったのか。顔を上げ、こちらを見たアリスの翡翠の目には、涙が溜まっていた。


「アリス…」

「何だアリス!湿っぽいのはダメだってアランさんも言ってただろ!元気に飲もうぜ!」


ジャックはいつの間にかジュース瓶をラッパ飲みしていた。直接口を付けるな。


「…ジャックは寂しくないの?私達が居なくなっても平気なの?」

「はあ?今そんなこと考えたってしょうが無いだろうが!」

「しょうが無くないよ!これから五年も会えなくなっちゃうんだよ!」

「たかが五年だろ!」

「たかがじゃないよ!」

「ちょっと二人とも、落ち着きなさいよ」

「ひい…ジャック兄とアリス姉が喧嘩してる…」


クロエが二人を仲裁する。アビーは俺の後ろに隠れてしまった。確かにこの二人が言い合いをするのは珍しいな、どんな事が起こるか予想が付かない。


「私は寂しいの!皆と離れたくないの!」

「お前の爺ちゃんだってきっと同じ気持ちだぞ!俺達だって別に会えなくなる訳じゃ無いだろ!」

「おじいちゃんの事は関係無いよ!今だって毎月手紙書いてるしそれで良いんだよ!」


いや良くないだろ。可愛い孫にそんなこと言われたらきっとおじいちゃん泣いちゃうって…


「なんだぁ、喧嘩か?…ヒック。いいぞいいぞ、若いんだから存分にやれよぉ」

「おい、ローレンス。まだ始まったばかりなのに飲み過ぎだぞ、お前」


父さん達がこちらの騒ぎに気づいて近づいてきた。ローレンスさんは茹でダコの様に顔が真っ赤だ。意外にもお酒に弱いらしい。


「アリス、いい加減にしなさいよ!前から決まってたことなのよ!?五年って約束したじゃない!」

「クロエもジャックの味方なの!?昨日だってノエルと会えなくなるの寂しいって泣いてたのに!」

「は、はぁ!?な、泣いてないわよ!」

「クロエ…」


やっぱりクロエは俺の唯一の味方だ。最近は妹を含めて幼馴染全員、俺の扱いが酷い気がするんだよな…特にアリス。


「違うわよ!ノエル!あたしは別に!」

「分かってるよ、クロエ」

「全然分かってない!ちょっとアリス、あんたのせいよ!」

「知らないよ!ホントのこと言っただけじゃん!」

「おいクロエ、話をややこしくするな!」

「してないわよ!」


クロエまで言い合いに参加してしまった。


「はっは、見ろよアラン。青春だぞ」

「…うーん、何だってぇ?僕ぁアランだよぉ…」

「おい、ローレンス。それはアランじゃなくて椅子だぞ…」

「ちょっとあなた。それもローレンスさんじゃなくて椅子よ」


ああダメだこれは、収拾が付かなくなってきた。父さん達は止めてくれよ、酔っ払い過ぎだ。母さんも誰に話しかけているのか分からないし、ローラさん達はあっちで談笑している。この人達は酒弱すぎか。二度と飲むな。


…しょうが無い、俺が止めるしかないな。


「アリス、別に二度と会えない訳じゃないんでしょ?この村から街までどれくらい掛かるか知らないけど、たまに遊びに来たら良いじゃないか」

「七日だよ!馬鹿ノエル!」


ええ!そんなに掛かるのか…思ってた以上に街って遠いんだな。そりゃあ気軽には村には来れないかもしれない。


「…もういいもん!皆が私に出ていけって行っても、出ていかないから!」


アリスは椅子から降りると走って玄関に向かい、そのまま出ていってしまった。いや出ていくんかい。


「アリス!どこ行くんだよ!…おいノエル、お前のせいだぞ!」

「兄ちゃん、余計なこと言うから!」

「えっ!?俺!?」


最後にちょっと窘めようとしただけなのに、全責任が俺に来た。なんてことだ。


「はあ…アリスはあたしが連れ戻してくるわ。あんた達はそのままジュースでも飲んでなさい」


そう言うとクロエもアリスを追いかけて外へと走っていった。


「ええ…飲んでなさいって言われても」

「おい。俺達も行くぞ」

「え、行くの?」

「当たり前だろ!外はとっくに真っ暗なんだ。もしクロエがアリスに離されたら大変だぞ!暗闇で二人とも迷子だ!」


確かに。ジャックは昔からこういう時は真面目だし頼りになるんだよなぁ…


「アビー、お前は父ちゃん達を何とかして起こしてくれ。万が一ってこともあるからな、そんときは酔っ払ってても俺達子供よりはマシだ」

「分かったよジャック兄!」

「よし、ノエル。行くぞ!」


ジャックは玄関に掛かっているランタンを外すと、外に走っていく。窓から外を見ると本当に何も見えないくらい真っ暗だった。


「ノエル!早く来い!」

「兄ちゃん!早く行ってよ!」

「ああ!」


前と後ろから同時に急かされて、俺も外へ出た。先行するジャックの明かりを見失わないように走る。アリスとクロエはよくこんな真っ暗闇で走っていったな…と思ったが、家の外側に掛けられていたはずのランタンが二つ無くなっていた。


「急げ!」

「分かってるよ!」


しかし、アリスがあそこまで取り乱すとは思わなかった。今日一日、いや何日か前からずっと悩んでいたのだろうか。そうか、だから先程の演技指導の時も様子がおかしかったんだな。あの厳しさは、寂しさの裏返しか。いやそれとも…




ストレス発散か…

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