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転生したから平和に生きたい  作者: rab
平和な暮らし
11/23

十歳

本当にGWが終わっちゃいましたね。。

アリス、クロエ、ジャックと出会ってからしばらくは、アランさんの家での勉強会を何日かに一回行い、それ以外の日は外で遊ぶという暮らしをしていた。


クロエとジャックは元気なもので、植物に付いている虫を捕まえたり、シレン村の一番奥に生えている老樹に登ったり、時折森から村に迷い込む小型の魔物を追いかけたりして遊んでいた。俺とアリスはというと、走り回るクロエとジャックを追いかけ、そして追いつけなくなったら二人で木陰で休んでいた。

あいつら元気すぎる。


ただ、アリスと二人きりになればなったで地獄の演技指導が始まるので、少なくとも俺は全く休めず常に疲れていた。


勉強会の日も、休憩時間には人形遊びに付き合わされるので実際はほぼ毎日アリスの演技指導を受けていることになる。

幸いなことに、ジャックが人形遊びに巻き込まれたことで俺が受ける被害は半分になった。あの状態のアリスには流石にジャックも勝てなかったようで、いつもの元気は無くして大人しく指導を受けていた。


この面子のボスはアリスだな。間違いない。


アランさんから借りた図鑑は、家にあったものとほぼ同じだった。しかし家の図鑑には無い情報が記述されているページが少なくはなく、結果として俺はより多くの知識を得ることが出来た。


勉強会は最初の方は皆で文字を覚えることに時間を費やした。しかし、一年が過ぎる頃には全員ほぼ完璧に読み書きが出来るようになったため、勉強する事が無くなってしまった。アランさんの持っていた教科書はあの一冊だけだった。


「五年どころか一年でやる事が無くなるとは…」

「何で一冊しか持ってこなかったんですか…」


その頃、アランさんと俺は頭を悩ませていた。しかし、問題はすぐに解決される事となる。ある日、家に帰ると母さんがアビーに文字を教えようとしている所だった。


「母さん、アビーにも勉強させてるの?」

「ええ、本当はもう少し後で始めるつもりだったんだけど、ノエルは3歳から勉強してたじゃない?アビーもいけるんじゃないかと思ったのよ」


その理屈はどうなんだろう…ホントに母さんは頭が良いんだろうか。アビーは不思議そうに持っているペンを見つめている。


「まあ、そうだけど…ねえ母さん、ちょっとお願いしたい事があるんだ」

「あら、何かしら」


次の日から、勉強会には母さんとアビーも参加することになった。母さんは数学や魔法の基礎知識を皆に教え、俺は自身の勉強の合間でアビーに文字を教えるというスタイルが確立された。数学は言うなれば前世で言う算数程度のもので俺にとっては大分余裕があった。魔法に関しても、家にあった本と同じような内容から始まったため復習のような気分で受けていた。なお、実際に魔法を覚えたいと言ったらこれもまた、成人するまでは危ないから駄目だと釘を刺された。更に一年経った頃には、アランさんの奥さん、アリスとクロエのお母さんであるローラさんが街から引っ越してきた。そして母さんと共に皆の教師役を引き受けてくれた。正直助かった、数学も魔法も予備知識がある程度あったせいで、俺の仕事の量が尋常じゃなくなってきてたからな…


そんな生活を送ること早五年、俺達は十歳になった。あっという間だ。この五年は遊びと勉強しかしてなかった気がする。

そして十歳になって間もなくして、ある話がアランさんから持ち掛けられた。


「ノエルくん。今年の鑑定の日なんだけど、君達四人も受けられるようになった」

「えっ、ホントですか?」

「ああ。ホントだよ」


これはちょっとした事件だ。鑑定は俺達の年齢ではまだ受けられないはずだ。

鑑定の日とは、年に一度村から希望者を募って希望者のステータスをそれぞれ細かく計測し、記録する、『鑑定』と呼ばれる行事がある日の事である。その日、街のギルドから鑑定士という人が村にやってきて、鑑定専用の機材で一人一人計測していく。

これは人々が自分の能力を正確に把握出来ると共に、ギルドが周辺各地の村の戦力を把握して、いざという時にどれ程の抵抗、又は被害が生じるかを予測するためのリスク管理も兼ねているらしい。

因みに俺はまだ受けた事がない。これは父さんに禁止されている訳では無く、基本的に慣例で十二歳からと決められているからだ。何せ、鑑定で分かるのは自分のステータスだけではない。自分の固有スキルも知ってしまう。もし危険なスキルを子供が持ってしまっていたら、万が一なんてこともある。ある程度の物の判別が付くことが必須の条件なんだろう。十歳で鑑定が受けられるのは特例だ。


「うん。例によって妻の家の意向なんだけどね…気を利かせてくれたみたいで、ギルドに掛け合ってくれたんだって。皆は十歳にしては利口だし、大丈夫だろう。それに皆がこうやって顔を合わせられる日々もそろそろ終わりだ」

「…それって…」

「…まあ、そうだね。僕達もまた街に引っ越さなきゃいけない時期なんだ。だから、君達との思い出作りも兼ねてね」

「…」

「…」


隣で聞いていたアリスとクロエは黙っていた。俺もそうだが、二人とも寂しい気持ちなんだろう。アリスなんか泣きそうな顔をしている。


「約束の五年が経ったからね。日にちはまだ決まっていないけど、少なくとも鑑定の日からまだ何日かは居るはずだから、それまで皆でめいいっぱい遊びなよ」

「寂しいけど、私の父と母がうるさくて約束しちゃったのよ。ごめんね。街はそんなに離れてもいないしたまに遊びに来るから…」


クロエはアランさんの服に顔を埋めてしまった。アリスはローラさんに抱きついて、泣き始めてしまった。俺も悲しいけど、この場で母さんに抱き着くのは少し恥ずかしい。

湿っぽい空気になってしまうそんな中、一人だけ元気なやつがいた。


「…ふん!まだ引越す日でも無いのにもうお別れの気分か!気が早い奴らだな!」

「…あんたねぇ」

「…ジャックは悲しくないの?もう簡単には会えなくなっちゃうんだよ?」

「うるせえ!二度と会えなくなる訳じゃねえだろうが!」


アリスがジャックに問い掛けるが、最もらしい反論をする。

ジャックは大人だな…この面子で一番成長したのは間違いなくこいつだろう。精神面の成長が著しすぎる。

子供にとっては別れは結構重大だと思うんだが、ジャックはその段階をとっくに乗り越えているらしい。


「そんなことよりも俺は鑑定の方が気になるな!なあクロエ、俺は多分めっちゃ強いスキルだぞ!」

「…なんであたしに言うのよ!あたしはまだ悲しんでる最中なの!そんな事も分からないほどバカなの!?あんたはバカだからきっとスキルもバカよ!」


アランさんから離れてこちらを向いたクロエは、涙は見えなかったが目が赤くなっていた。赤いのに、怒りで目尻がつり上がっているもんだから目付きが飛んでもないことになっている。俺があの目付きで睨まれて怒鳴られたらそれだけでもう失神する。


「はあ!?お前次にバカって言ったらバカスキル女って呼ぶからな!」

「あんたがバカスキルなのよ!きっと脳みそを代償に大声を出すスキルなんでしょうね!鑑定の日が楽しみだわ!」


クロエの煽りが進化している。いつの間にか煽りスキルでも取得したか?


「クロエ、お前、お前飛んでもないこと言うな!いくら俺だって、今のは流石に傷付いたぞ!」

「そうだぞクロエ…パパも駄目だと思う」

「わ、悪かったわよ…今のはちょっと自分でも言い過ぎたと思ったわ…」


うーん、ジャックと喧嘩しまくったせいで本当に何か変なスキルでも取ってしまったんだろうか。まあ鑑定の日が来れば、自分がどんな状態なのかも分かるし、最悪の場合はその場でスキル解除も出来るらしいので大丈夫だろう。


アランさん達の引越しと鑑定の日の話を知り帰宅した後、俺は父さんと母さんと居間で向き合っていた。アビーは既に寝室で眠っている。


「ノエル、話したいことってなんだい?」


両親には今まで黙っていた事がある。勿論前世の事も口に出したことは無いし、これからも言うつもりは無い。それよりも重要度は低いが、いずれ追求されるであろう事がもう一つあった。


「俺の固有スキルの事なんだ」

「固有スキル?ノエルはまだ鑑定を受けたことは無いだろう。何かあったのか?」

「何かあったというか、今までずっとあったというか…とにかく、言ってなかった事があるんだ」

「私達に秘密にしてたことがあったなんて、全然気が付かなかったわ。ノエルは正直なんだもの」

「ああ…」


今まで両親に対しては大分素直でいた。前世の記憶が有るにせよ、今はこの人達の息子なんだ。出来るだけ誠実でいたい。


「…実は、俺は自分の固有スキルを知ってるんだ」

「え?」

「これが、俺のスキル」


そう言って俺は、テーブルの下に隠していたニワトリを父さんと母さんに見せた。


「………………」

「………………」


無言でニワトリを見る両親。

いやまあ、そうなるよね。

よく考えなくても分かってた。

ぬいぐるみが固有スキルだなんて普通思わない。


「冗談とかじゃないんだ。これが俺の固有スキル」

「…それは確信があって言っているのか?」

「うん、言ってなかったのはこれが固有スキルだって事だけじゃなくて、これを通して自分のステータスが見られるんだ。そこに書いてあった」

「…そうなのか」

「あと、コモンスキルも取得出来るみたい」

「コモンスキルも、か…」


父さんは顎に手を当てて目を瞑り、何かを考え出した。


「ノエル、今までコモンスキルを取得したことはあったのか?」

「ううん、無いよ。父さんが慎重に取るもんだって言ってたから、取らなかった」

「そうか…ノエル」


父さんは椅子から立ち上がると、俺の側まで歩いてきた。そして手を俺の頭へと伸ばし、ゆっくりと撫でた。


「偉いぞ。取ろうと思えば取れたのに、俺の言ったことを守ってくれるなんてな。やっぱりお前は利口な子だ」

「…父さんは今の話、信じてくれるの?」

「ああ。お前はいつも正直だし、こんな事で嘘を言うとは思えない。それになんと言っても、俺達の息子だからな」

「そうよノエル。よく話してくれたわね」


ああ、信じてくれて良かった。鑑定の日になれば遅かれ早かれ知られるだろうけど、前々から話しておかなければ何かと話が拗れそうだった。今、両親にだけ話したのはそういう理由があっての事だった。


「何で今話したかって言うと、俺のスキル、図鑑にも載ってなかったんだ」

「…間違いないのか?」

「うん、何度も探したけど、見つからなかった」

「そうか…とすると今まで未発見のスキルか、とてつもなくレアなスキルなんだろうな…」

「…あなた、ノエルを守らないと」

「ああ、そうだな」


もし未発見のスキルであれば、街のギルドに連れて行かれて研究の対象にされるなんて噂がある。場合によっては全身バラバラにされたり、身体がボロボロになるまでスキルを使わされるなんて話も聞いた。実際にこの村から連行された人を見た事は無いが、噂が立つ以上は可能性がある。


「大丈夫だ、カミラ、ノエル。鑑定の日は俺も一緒に行くからな。何かあっても俺がノエルに触れさせない」

「…あなた」

「…うん、ありがとう。父さん」


父さんが鑑定の日に一緒に来てくれることになった。鑑定希望者として出席し、俺と一緒に鑑定を受けるようである。


次の日からは普段と変わりなく暮らした。ジャック達といつもの様に思いっきり遊び、勉強し、笑いあった。


そのように過ごして更に何日か経ち、そして鑑定の日が来た。


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