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人魚王子は結婚生活を所望する

 

「ずっと……!?」



 ……と恥ずかしがる姿が見たかったのだけど、とエレンは苦笑していた。

 目の前にいるオーロラは「たしかにそうですね、私でよければいつでもお手伝いいたします」と少し斜め上の方向に意気込んでいる。



 まあ、そんなところも愛おしいな、とエレンが口元を緩めているとエレンの隣に立つ従者が咳払いをした。



「オーロラ、紹介するね。彼はユーリ・トレモント。信用できるから何かあったら彼に相談しても構わないよ」

「オーロラ様、お会いできて光栄です。ずっとエレンから聞いていたのでようやくお会いすることができて嬉しいです」



 エレンの従者、ユーリはからかうようにそう言い、それからエレンにべシンと背中を叩かれた。


 深い青の髪を後ろで簡単に結んでいる。目はブルーとグレーが混じり合ったような素敵な色だ。



「私こそ、お会いできて嬉しいです。今日から、よろしくお願いしますね」



 オーロラは2人の仲の良い様子にふふっと笑うと優雅にお辞儀をした。



「ということなので、これからはこちら側で結婚の準備を進めさせて頂きますので。離宮を貸して頂いたこと改めてお礼申し上げます」



 ユーリはポートリヒト王国の要人たちに向かってそう丁寧にお礼を述べ、それから「行きましょう」とエレンとオーロラに促す。


 オーロラは要人たちがひそひそ話しているのを気にかけながら部屋を後にする。エレンとユーリはまだ足元がおぼつかない様子だったけれどオーロラや王宮の召使いのおかげでなんとか王宮を出ることができた。





「……しかし、初めて陸に来た人魚族に対する態度としては最悪ですね。それにオーロラ様への態度も酷い」



 離宮へ向かう馬車に揺られながらエレンとユーリは険しい顔で向かい合っていた。オーロラはもう一つの馬車に乗っている。


 ユーリの言う通り、親睦を深めるためと言いながら根本的に人魚を嫌いなことが態度から滲み出ている。まず王族が1人も来ていないこと、それから歩くこともままならないのにも関わらず王宮内を歩かせる始末であること。



「オーロラが魔法を発動させてからの態度、見ただろう? 彼女の魔法が珍しいことの調べはついてはいたけれど、あの様子だと想像以上らしい」



 オーロラの魔法はあらゆる生き物、無機物の傷、病気を治す珍しい治癒魔法だ。おそらく無意識のうちに自らの傷も治してしまうほどだから相当強いはず。

 この魔法は王国からしても喉から手が出るほど欲しいものだろう。

 きっとあの要人たちはオーロラを海底王国から取り戻そうとするはず――



「そんなこと僕がさせないけど」



 エレンにとっては7年の片思い。そう簡単に奪われては困る。

 第3王子という立場でありながら親睦のために陸へ行くことを強く望んだ。幸い王――エレンの父は理解が早かった。



「やるならとことんやってこい、でしたっけ。陛下も早くお孫さんの顔が見たいでしょうし」

「……ユーリ、今日は口がよく回るな」



 そうつっこみを入れるエレンの顔は赤くなっている。ユーリは存外ウブだなあ、と改めて初恋を拗らせている幼馴染の姿を見て苦笑した。



「でも素敵なお嬢さんじゃないですか。最初は一目惚れな上に何度も言いつけを破って海面に上がってオーロラ様に会いに行こうとするので大変でしたけど」



「一回捕まってるのに」とユーリは強調する。まあ、それがなければオーロラとエレンは出会っていないのだが。



「……でもユーリには感謝しているよ。陸の情報や、海の魔女に薬を作ってもらうために材料を探しに行ったり」

「おかげで、しばらくは薬は持ちそうですね」



 紫の小瓶に入った液体の薬は人間になる薬だ。海の魔女印のついた高価なもので、精度も高い。

 ちなみに、人魚に戻る薬も貰っている。



「これから、頑張りましょう。まずは歩けるようになることからですけどね」

「ああ、そうだね」



 離宮は目前に迫っている。

 後ろからついてくるもう一つの馬車を見てエレンはこれからの生活に少し胸を躍らせた。



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