海底王国での結婚式 2
薄紫の鱗を纏うレース。ハニーピンクの髪を覆い隠すベール。オーロラは隣で腕を組むこれから夫となるひとをベール越しに見つめる。
「とっても綺麗だよ」
「エレン様もとっても素敵です」
「オーロラと一緒になれるだなんて幸せだなぁ」
そうひそひそと話しながら歩み進める。そのうち第3王子と王子妃を祝う歓声でいっぱいになり、2人はひそひそ声が聞こえないね、と顔を見合わせて笑う。
それから2人はバルコニーに出て、国民を見渡して手を振った。
「絶対に幸せにするよ」
そう微笑んでエレンはオーロラの頬に手を添える。それから優しくキスをすれば、オーロラの目からは涙がこぼれ落ちた。
一際大きい歓声が上がって、2人は正式に夫婦となった。
***
お色直しとしてピンクの真珠の髪飾りをつけ、オーロラはエレンとともにパーティ会場を回っている。
王族、上流貴族のみが集まるパーティは、オーロラが知る堅苦しいパーティとは違い、アップテンポの音楽が流れる奇抜なものだった。
海底王国でのトップスターなのか、ものすごい歌が上手い人魚もいてオーロラは聞き惚れてしまう。海の食事も見慣れないものだらけだけど美味しくて。
エレンとともに回っているおかげか不安は全く無いし、むしろ色んなひとの優しさにオーロラは泣いてしまいそうになる。
「そろそろ、父のところに行っても大丈夫かな」
「お父様……もちろんです」
気づかってくれていたのか、となんだか申し訳なく思いつつオーロラは頷く。
お父様、つまり海底王国の国王だ。威厳あふれる方だろう、嫌われてしまわないようにしないと、とオーロラはどきどきしながらエレンに連れられていく。
パーティ会場の一つ奥の部屋にいるという国王を訪ねる。エレンがノックをすると「入れ」と深い声色が聞こえる。
扉が開くとすぐに飛び込んできたのは、豪華な椅子に腰掛ける国王――のはずだったのだけど。
「いやあー! よく来たなあ!」
国王に握られぶんぶんと上下に動かされる手にオーロラは思わず目を点にする。
国王って、こんなフレンドリーな方でよかったかしら……
そう思ったのと同時にエレンは小さくため息をつく。
「お父様、少しは国王らしくしてください……」
「いやいや! 人間の、それもお前を陸に上がらせるほどの女の子だからな。気になって仕方なかったんだ。しかし……綺麗だなあ」
「お父様、僕の妻なのですが」
国王のイメージの違いと、しょうもない親子の会話を目の当たりにして目を点にするのを通り越してオーロラは思わず吹き出してしまった。それに、雰囲気はエレンの妹であるエミリアとそっくりだと思うと余計笑ってしまう。
「ごめんなさい、思わず……」
「かまわんよ。オーロラ、エレンの妃になってくれてありがとう。私は貴女の意思を尊重するつもりでいるから、ゆっくりどうしたいか考えてほしい」
どうしたいか、とは海底王国で第3王子の妃として過ごすか、陸で彼と過ごすかということだろうか。どちらにせよ、国王は寛大な方だとオーロラは深々と礼をする。
「まあ、今日は深いことは考えずゆっくりしなさい。こちらにもいたいだけいていいぞ。それに……」
国王はにやにやっと笑ってオーロラとエレンの背を押して別の部屋の前へと誘導する。
「2人だけで過ごしたいだろう?」
その部屋はキングサイズのベッドがいやに目立つ部屋だった。その意味がどういうことか分かりオーロラもエレンも沸騰してしまう。
国王はそんな2人の姿を見て「私も早く孫見たいからなぁ」とわははと笑いながら去っていく。
「まったく、無神経なんだから」と呟きつつもエレンはほっと息をつくオーロラに目を向ける。こうして2人きりにされてしまうと無性に胸が高鳴る。それに、エレンにはオーロラがどうしても色っぽく映ってしまう。
「オーロラ、パーティにはもう戻らなくても、いいかな」
「え、ええ。エレン様もお疲れでしょう?」
「そういう意味じゃなくて」
エレンはオーロラの腕をぐいっと引っ張りベッドに押し倒す。
「こういう意味で」
「あ、あの…………んぅ」
恥ずかしい、と言いかけたオーロラの口をエレンは塞ぐ。そのまま吐息を漏らしながら唇を重ね合わせる。
オーロラはというとこれから先を想像しようとし、まったくできないことに焦りつつも目の前のエレンがかっこよくてたまらなかった。
「エレン、さまが今日から旦那様だなんて、幸せです……」
「…………僕もだよ、僕もオーロラと結婚できて幸せだよ」
とろけた顔で言うオーロラにエレンはノックアウトをくらいながらそう返し、手をぎゅっと握りしめた――




