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幕間~劇団涼風の一日「なぜ?なぜ茉未ちゃん」~

乳幼児の子どもが好奇心から「どうして?どうして?」と繰り返すのをなぜなぜ期、心理学的には‘質問期‘と呼ぶのはわりと有名な話で、小さな子どもに当たり前だと思っていたことを質問攻めにされて困ってしまったことがある人も多いだろう。

そうした場合、その好奇心や知的探求心を満たすためにも余裕がある限り答えてあげるのがその後の成長のためにも望ましいと言われている。


そんななぜなぜ期に突入した身体年齢中学生、見た目は小学生のまーたん。


まーたんは最近、不思議なことや分からないことがあるとすぐに咲夜君になぜなぜ?と問いかけるのです。

咲夜君は頭が良いので大抵のことにはすんなりとまーたんが納得するような答えを返してくれるのです。

今日のまーたんは咲夜君のお部屋で映画を見ていました。

エンドロールが流れるとともに、毛布を頭からかぶりガタガタと震えながらまーたんは問いかけます。


「なんで…なんで人間は、やばい、これ怖い映画に…しかもめちゃ怖い、お風呂に一人で入れなくなるパターンのやつに…と気が付いても…見るのをやめられなくなるんですかに…」


咲夜君が借りてきた映画は大ヒットしたホラー映画の幽霊同士のバトルもの。

幽霊が大嫌いなまーたんです。

咲夜君もまーたん用にアニメの映画も借りてきたのですが…いざ映画を見るタイミングで二本DVDが準備されていることをまーたんに気が付かれてしまったのです。

まーたんもまーたんとて

「兄さんが見たいものを見たらいいのですに!借りてきた兄さんが選ぶ権利があるに!」

と気をつかって言ったら、なんというかお互い多少の押し問答も有って結果、ホラー映画が選ばれてしまったのです。

防衛策として「怖くなったら帰る」と言って陰に隠れてちらちら見ていたら見るのをやめるタイミングを見失ってしっかり脳裏に焼き付いてしまったようです。


「うーん、そうだなぁ…ほら、こんな風に命の危機になるようなことって現実では起こりにくいけれど、こうして映画でなら疑似的にドキドキを感じられて‘生きている‘って実感できるからじゃないか?」


腕にべったりとはりついたまーたんの頭をよしよしとしながら感慨深そうに答えます。

非日常のサスペンス、吊り橋効果、恐怖に高鳴る心臓は恋のときめきと勘違いされることもあるそうな。


「人間って…そうまでしないと生きているって実感が得られないのかに…?」


「うーん、本能的な問題かな…俺はこうしてまーたんを抱っこしていると暖かくて、安心して今日も生きてるなーって実感できるけどね。」


「でも、ドキドキを求めるの?」


「まぁ…映画でなら絶対に安全な位置で第三者としてドキドキできるからな」


「絶対に…安全な位置かに」


ぎゅーっとまーたんを抱きしめると少し安心したようにため息をつくのです。


「それでもまーたんは、幽霊さんに追われるような生き方はしたくないのです。ちゃんとお互いを尊重したうえで折り合いをつけたいのですに」


「おぉ、幽霊相手に折り合いをつけるとか難しいことを言いだしてお兄ちゃんはちょっと驚いたよ。

大丈夫、たとえ折り合いが悪い幽霊がいたとしても絶対にまーたんには近寄らせないから!

まーたんのことはお兄ちゃんが守るよ」


「わーぃ、咲夜兄さん大好きに!」


満面の王子様スマイル、かたく互いを抱きしめあって存在とつながりを確かなものとする二人。

シスコンブラコンコンビのホラー映画上映会はこうして無事に幕を下ろした…はずだったのですが…

なぜなぜ期はまだオワッテイナカッタノデス。


「…ところでですに。なぜ、咲夜兄さんは、まーたんが怖い映画が嫌いなのを知っていて、この映画を借りてきたのでしょうかに?」


「いやいや、まーたんとはほらこっちの魔法少女のアニメを見ようと思って…こっちは後から一人で見るかなーって。」


「兄さんは…まーたんが怖いの嫌いなのと同じくらいにちょいグロ展開、鬱展開、バイオテロ的な話のネタバレを見たくて仕方がなくなるタイプなのを知っていたのに…どうしてホラー映画も借りてきたことを伝えたに?…絶対に見たくなるに」


そう、まーたんのなぜなぜ期にも言えることだけれども、彼女の原点にあるのは歩く好奇心。

知らない世界は覗いてみたくて、世界線は握ってみたくて、ちょっとまだお子ちゃまには早いと言われたら「お子ちゃまじゃないに!」と言って話の末席に加わろうとこころみるのが火を見るよりも明らかです。


しーんと気まずく静まる二人。

まるでガラス玉のようにくりくりとしているのに、光を失った瞳で冷や汗をかく咲夜君を見つめるまーたん。


「えっと…それは…そうなってしまったとしてもたまには気分変えるのもいいかな…とかさ」


「なんでに?なんでに?いつもなら兄さんはこういう映画は絶対に借りてこない。

どうしても見たかったら一人で映画館に行くに。

さらに兄さんはそんなには怖くなくて面白いって言ったによね、これすごい怖かった。面白いけど三百倍増しで怖かった。でも、まーたんの好きな展開がしっかり入っていたやめられない怖さだったに。

…知ってて借りたでしょ。知ってって見せたでしょ。なんでに?…なんでに?なんでに?ナンデニ?」


「いや、うん、確かに一度見て…まーたんが好きそうだなって思ったのは確かなんだけれど…」


「やっぱり、兄さんは知っていたに…なんだか変なの。なんで今日はトクベツ、に?」


理由をはぐらかそうとした結果的確に内容を知っていたことを指摘されたうえ、壊れたラジオのようになんでに?を繰り返す妹が今一番怖い。

理由は至極簡単なものだった。

中学生になってからお年頃のため一緒にお風呂に入ってくれなくなってきたことが寂しかったので、怖いと同時に話が面白くて見るのがやめられないレベルの映画を見れば

「咲夜兄さん…まーたん…おばけが怖くてお風呂に入れないの…一緒にはいって頭ごしごししてほしいに」

からの最近はお姉さんぶって一人で寝れるもんと言うのも

「咲夜兄さん…あのね、今日は兄さんのお部屋に泊まりたいの…一緒に寝たらだめ、かに?」

みたいな感じで…残りの1日たっぷり甘えん坊まーたんをつくってしまおうという下心があった!なんて本人に言えるわけがない。


「ねぇ…なんで、なんで、なんで答えてくれないのかに?」


吸い込まれそうなくらいに瞳孔が開いたまーたんが下からのぞき込んでくるのが、映画の中で幽霊が出てきたシチュエーションと被って地味に恐怖を倍増させている。


「まーたん…もう眠たくなる時間じゃないかな?お話は明日に…」


「だいじょび、まーたんお目目パチなの!なぜならドーパミンがドパドパだからに!

だから…分かるまでちゃんと教えてほしいに、兄さん!」


「いやでも、今日はもう遅いからお布団でにしよう!なっ!」


「…なんでに?なんでに?なんでに?ナンデニ?」


甘えん坊まーたんではなく、なぜなぜまーたんと咲夜君の熱い議論の夜はまだまだ始まったばかりのようで、この日は幽霊も寄り付かないくらいの明るい部屋の中でずっとなんでに、なんでにという声が聞こえていたそうな。



因みにしばらくの後、まーたんのなぜなぜ期は、お母さん役である暁那さんが

「すぐに答えを与えないで、自分で考えて答えがわかる楽しみを教えなさい」

と咲夜君に釘を刺したため、思考パターンが次の成長ステップへとむかうことになったとか。


いずれにしても、年頃の妹の成長を見守るのには苦労が絶えないと思いつつ、こりずにまたあわよくば可愛いまーたんを堪能しようと思う兄も兄で成長してほしいとみんなが思っているのでした。



そんなこんなで、涼風は今日も平和です。






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