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反発~新たな家族の1ページ~

手荒な歓迎会はある意味で咲夜さくやの逃亡によって終わりをむかえた。

反抗期真っ只中の咲夜への対応を明らかに失敗した暁羅団長は、とりあえず咲夜のフォローを茉未に頼み、晴一をつれて自室兼書斎へと移っていた。

いつになく真剣な顔つきの暁羅と向かいあって座る晴一…。


「あーーー、ほんまに悪かったな晴一…」


机に額がぶつかる音がするくらいの勢いで頭を下げる。

大事な時に判断をミスしたことは明白だったため言い訳の余地はない。

咲夜の背景を考えれば、急に兄貴分が増えることによって多少の反発は予想していたのだが…まさかあそこまで激しく拒絶をしめすとは完璧に想定外と言わざるおえなかった。

外はすっかり暗くなり、早々と星が瞬きはじめていた。

暁羅あきらの妹の暁那あきながコーヒーをトレイに乗せて静かに入ってくる。


「いや、俺も全員がここにいることには訳と意味があるって聞いていたのに、急ぎ過ぎて迂闊なことを言いました。すいません。」


暁羅は目の前におかれたコーヒーに砂糖とミルクを入れる。

すぅっと茶色に白が交ざり薄いクリーム色に溶けていくのを三人の視線が追っていた。


「まぁ、なんや…こんな風になじめるやろなって考えとったんやけどなぁ…」   


そこに砂糖を4つも加えるとスプーンでくるくると掻き混ぜる。

暁那が横に腰をおろし、晴一に砂糖の数をたずねる。    


「あっと…俺はそのままで大丈夫です。」    


頷くと暁那は自分のコーヒーに4つ砂糖を入れる。

その様子に二人は間違いなく兄妹なんだなと晴一は少し微笑ましく思ってしまうのだった。


「咲也は…弱い子なのよ。いつも強がって、一人でできるって意地はってしまって…うん、とても頭が良い子だから本当に一人でできちゃうから私たちもつい忘れちゃうんだけど…それでもやっぱりどこかで無理していて…茉未や信也を守ってるけど、そうすることで自分の弱さを隠しているのね。

だから恐かったのよ。

私や兄さん(あきら)とは違って年齢は自分とほとんど変わらなさそうなのに本当に大人びたあなたが来たから、とられちゃうんじゃないかって。とるもとられるもないんだけれどね…なんだかんだ言っても子どもだから。」


暁那は母親のように優しい笑みを浮かべカップをさする。


「…仲良く、なれると思いますか?」


暁那はコーヒーと呼ぶには甘すぎる液体を口に含み、少し眉をよせて考えると口を開いた。


「そうね……なれるというよりも、あんなことが最初からあったけれどあなたは仲良くなりたいの?」


いきなり切り返された晴一は一瞬戸惑ったがすぐにまっすぐ前を見据えて答えた。


「もちろんですよ。咲夜君や茉未ちゃんに信也君、それから他にもまだいるっていう家族たちと…

それに暁羅さんに暁那さんあなた方ともですけどね」


暁羅と暁那は鳩が豆でっぽうをくらったような顔をしてそのあとすぐ同時に笑いだした。


「こりゃ…一本とられたな。おまえとなら良い戦友になれそうや。」


「うふふ…そうね、平気そうね。そこまで周りを見ているならあなたならあの子たちのいいお兄さんになるわ。」   


「…おっと大事な奴を忘れとったわ。」       


暁羅は立ち上がり和服には不似合いなスマホをどこからともなく取り出した。     


「あ~珱稚おうじ?こないだ言っとった兄ちゃん来たから挨拶にこい。

うん、そうや、今は書斎におるさかいこの後部屋に案内する予定やから。」     


一方的な電話を切ると晴一へと顔を向ける。      


「話しといたやろ医大生の珱稚。おまえの一個上や。まぁ、まだまだほんまの医者には遠いけど一応は医者らしいことはできるさかい、おまえはそない体のことは気にせんでもええからな。」


「いえ、最低限の管理は自分でします。第一感染でもさせたら…」 


窓を開けて空気を入れ替える。冷たい風が頬をさする。


「そのへんは俺もあいつらも変な偏見はないから安心してええで。

医学の進歩についても偏見を受けることについても、ここにいるやつらはみな自分なりの核を持っとる。

あーそれから…まだ咲夜たち年少組にはそのこと話さんでええからな。」


「いやぁぁぁ~家の中に変態さんがぁぁぁ」    


非情に真面目な話をしていたところに開けた窓からとびっきりのロリっ子ボイスの悲鳴が響き渡ってきた。


「え、何が!?」


慌てて立ち上がる晴一をしり目に暁羅と暁那の兄妹はにやりと笑っていた。


「あー、これはあれやな。まーたんがうまいことやってくれとるな。」


「そうね、さすがまーたんだわ。」


「えっと…いかなくていいんですか!?茉未ちゃんになにかあったんじゃ…」


「いや、むしろ何かあったんは、咲夜の方やなー」


暁羅はけっけっけと下品に笑って見せた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ兄さん~~ねぇったらさぁ…」


部屋から走り去った咲夜を追いかけてべとべとまとわりつくこと早数十分…一向にまともに返事を返さない兄にそろそろ我慢も限界になってきたまーたんはここぞとばかりに愚痴りだす。


「…咲也兄のすけこましの…女ったらしぃ!」


それでもあぐらをかいたままてこでも動こうとしないすけこましの女ったらしの彼の姿にまーたんはおもむろに窓を開け、息を大きく吸い込み…


「いやぁぁぁ~家の中に変態さんがぁぁぁ」    


ご近所迷惑なよくとおるとびっきりのろりっ子ボイスで叫びだす。


「やらぁーーー、変態さんがまーたんのことをーーーー!!」

 

「わかった、わかったからや~め~ろ!!!!」


このままありもしないことを選挙カーもびっくりの声量でアナウンスされたらまずいと咲夜は青ざめて茉未の口をふさぐ。


「だって兄さんがお返事してくれないんだもん!」


「…悪いとは思っていたけど…一人になりたい時もあるんだって」


「…一人で考えるといつもぐるぐるめんどしてるくせにー!一人より二人っていつも兄さんが言ってるんじゃん!」


「いや、今回のはマジで俺だけの問題だから。」


「…まーたんは兄さんが笑顔じゃないとイヤだ…みんなで笑顔で毎日楽しいがいい…なんで兄さんまーたんのお願いきいてくれないの?」


兄が弱いものは妹からのお願いとばかりにうるうると上目遣いで服の袖をつかみながら見つめる姿には見つめられたものに多大な罪悪感を抱かせる特殊能力があった。

もちろん、例にもれず大事な妹のお願いに咲夜も頭を抱える。


「…まーたん、それはずりぃよ…。」


「だって私、腹黒だし!」


えっへんと腰に手を当ててにこにこ笑いながら天使のような妹は満面の笑みで振りかえる。


「腹黒の意味わかってんのか~?」


その自信満々な姿には力が抜けるとともに思わずほほえんでしまう。

それと同時に咲夜の心の中には黒いものが生じる。

二つ…たったの二つ年が下なだけで、俺とこの子はどうしてこんなにもちがうのだろうか…

どうして、俺はあんなに意地を張ってしまったのだろうか…

どうしてこんなに大切な妹の願いに二つ返事で応じてあげられないのだろうか。


「兄さん………よしよし、大丈夫によ、きっと大丈夫によ」


ちびっこが一生懸命背伸びをしてぽんぽんと頭をなでてくれる。

不意にずっと昔に忘れていた懐かしい感覚に襲われて咲夜の表情が強張る。

…それと同時に兄としてはっていた意地もなにも本当は必要ないんじゃないかと…不安がよぎり、その手を遮ると、思いっきり茉未の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「これじゃ、逆だろ、甘ったれっ子のくせに」


「きゃーー知らないによぉ~」


二人のふざけあう声の他には時計の音だけが刻まれる。

夜が更けていく…明日からは新しい‘涼風かぞく‘がはじまる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…な、うちの最終兵器、まーたんは優秀やろ?」


微笑ましい兄妹のやりとりをこっそりと見に来ていた暁羅たち一向。

こんなのを覗いていたことがばれたらそれこそ咲夜に絶縁されかねないのだが…まぁ、そんなことを気にしないデリカシーのなさこそが暁羅らしさだった。


「…本当に、仲良しなんですね…二人もここで知り合ったんですよね?俺も…あんな風になれるかな…」


「あら、さっきまでの余裕はどうしたのかしら?

大丈夫よ、大丈夫…あの子たちが一番、人との絆の尊さを知っていて、そして誰よりもそれを求めているんだから」


暁那が茉未がしていたように、晴一の頭をぽんぽんとしてみせると、彼は少し恥ずかしそうにその手を受け入れた。


「んー、今日はとにかくまーたんに任せるのが吉やな!

珱稚も部屋に先についとるみたいやし、この家での晴一の部屋に行くとするか!」


「俺の…部屋…」


「ちゃんと用意してあるから安心して、今日からここがあなたの帰ってくる場所よ。」


「っつ…はい!」


居場所を失った青年が流れ着いたのは普通ではないけれど、とても暖かい場所。

彼の背負った重い運命を主軸に‘涼風かぞく‘は今日も奇跡ともいえる軌跡を刻み込んでいくのだ。

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