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 日高奏がやって来たのはそれから十数分後であった。午後、四時十六分。奏は車に乗ってぼくらの前に現れた。トヨタの黒いノア。運転手はスーツを着た男性で同乗者は他に居なかった。男性が先に降りて後部座席のドアを開けた。そして、日高奏は意気揚々と外に出た。奏はとても小さな子だった。ぼくより頭、四つくらいは身長が低い。十二歳女子の平均身長は知らないが、恐らくは平均以下だと思う。髪は黒髪のボブできめが細かい。Tシャツにショートパンツを着用し、その下にはニーソックスを履いている。奏は下車するなりぼくらに深いお辞儀をした。声は出さなかった。それにつられてぼくもお辞儀をした。「かわいいー」とめぐみが言った。

「お目々大きい―」

 めぐみの言うとおり、ぼくも彼女を可愛いと思った。奏は瞳が大きく鼻筋の通った端整な顔立ちをしている。色も白く子供特有のもちもちとした肌が印象的だ。また歩き方やひとつひとつの仕草が何とも言えず愛らしく、出会って数秒で、この子はモテる子だと思った。

「じゃあライングループにかなちゃんを招待するから、みんなチェックして」

 と先生が言った。奏はスマホを取りだして画面を見ている。これから一緒に暮らすんだから、まあ、それも自然なことだと思いぼくもスマホを見る。ラインアプリを開き、里親のライングループを確認すると新規に日高奏の名前がある。このライングループは、元々、ぼくとめぐみと先生でやっていて、家のこととかの連絡ツールに使っている。

 奏:【こんにちは。初めまして。日高奏です】

 と新しい書き込みが表示される。今、奏が打ったみたいだ。

 千尋:【よろしく】

 年下とはいえ直接声をかけることには抵抗がある。そもそもこんなに年の離れた女の子と会話したことなんてない。親戚にも年下は居なかったから、どう話せばいいのかわからない。

 めぐみ:【よろー】

 めぐみも絵文字付きで書き込みをする。同時に、「よろしくニャー」と奏に声をかけると、奏は軽く会釈をする。

 奏:【これからよろしくお願いします】

 奏:【だけど最初に皆さんにお話ししないといけないことがあります】

「なに?」

 とめぐみは直接に奏に訊く。ぼくは奏を見るが何も言えない。奏はその大きな瞳でぼくらを見る。純粋無垢を絵に描いたような瞳だ。何かを訴えるようなそんな想いを感じる。奏は視線を外しスマホを操作する。数秒後、新しい書き込みが入る。

 奏:【もうわかっちゃったかもですが、私は、声を出すことができないです。しゃべれません】

 奏:【でも、それ以外は普通の人と同じです。だけどしゃべれないから、皆さんに迷惑をかけちゃうかもしれないです。だから最初に謝ります。ごめんなさい】

 と奏は三度頭を下げる。

 琴音:【かなちゃんは話せないだけだからね。他はみんなと何にも違わないよ】

 奏:【でも、私、一生懸命頑張るから、どうか仲良くしてください】

 ぼくは、状況が飲み込めず返信に困った。しかし、返す言葉なんて一つしかないのだから悩むほうがおかしいとすぐに思った。

 千尋:【うん。全然、気にしないよ。これから仲良くしようね】

 詳しい事情はこれから教えてくれるのだろうけれど、どんな事情だろうとそれだけで否定することはしない。ぼくもめぐみも普通とは言えない人生を歩んできているから、否定しないというよりは、否定的な気持ちにならないと言うべきかも知れない。でなければ、ぼくらがぼくらを認めることが出来ないからである。

 めぐみ:【私、めぐみ。本当のお姉ちゃんだと思って、ねえねえとかお姉ちゃんとかめぐお姉ちゃんとか呼んでくれていいからね!】

 奏:【はい、ありがとうございます】

 奏:【優木さんのこともお兄ちゃんって呼んでもいいですか?】

「え?」

 とぼくは口に出して訊く。奏は視線を上げてぼくを見ている。 

 奏:【あ、皆さんの名前は、先生から聞きました。優木さんは千尋さんって言うんですよね? 女の子みたいで可愛い名前ですね!】

 千尋:【そうかな】

 奏:【はい。それに優木さんってとっても優しいって聞きました。これからよろしくお願いしますね。お兄ちゃんっ】

 と許可もしてないのにお兄ちゃん呼びになっている。何だろう、デジャブ感が強いというか。この、人の話を聞かない感じはどこかの先生にそっくりだと思った。

 奏:【あ、やっぱりお兄ちゃんって呼んだらだめですか? 千尋お兄ちゃん】

 と奏はうるうるとした瞳でぼくを見つめる。相手は小学生だ。ぼくはロリコンじゃないからドキドキはしないが、しかし可愛いとは思う。こんな純粋な子を傷つけたくはない。

 千尋:【いいよ、お兄ちゃんで】

 奏:【嬉しいですっ。千尋お兄ちゃん】

 奏はニコリとする。その笑顔は屈託がなくて絵に描いたような美少女という感じだ。ぼくはつい視線をそらしてしまう。

 琴音:【まあ、ひとまず、おうちに帰りましょう。話しはそれからね】

 めぐみ:【今日は歓迎パーティーだ!】

 琴音:【そうね、それもいいわね】

 めぐみ:【じゃ、お買い物してから帰るのだ】

 別に全部ラインで会話しなくてもいいのに、と思うが空気を悪くしそうなので言葉にはしなかった。

 琴音:【じゃ、そこのイオンで何か買ってから帰りましょう】

 先生の家では何かとイベントごとをよくしている。節分には豆まき、夏はスイカ割りやかき氷作り、秋はお月見をして、十二月はクリスマスをイルミネーションをちゃんとつけてツリーをレンタルして盛大にやる。だから、歓迎パーティというか、この手のパーティごとには慣れている。先生もめぐみも騒ぐのが好きだから二人は何かあれば、こういうことをしたいんだと思う。正直、最初はこういうのは苦手だったけれど、今はそうでもない。みんなで楽しいことをするのは、やっぱり特別だってわかったから。

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