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あやとり  作者: 吉世 大海(近江 由)
六本の糸~収束作戦編~
98/231

幻影

人物紹介を省略します。

「おいおい。まだ早いだろ。」

 声が響いた。ここにいたのか。見える存在に手を伸ばすと手を払われた。


「無責任野郎。まだやることはあるだろ?」

 気安い声だった。


「やること・・・全てやったはずだ。」


「バカ。ハンプス。一番大事なことを忘れている。」

 この人の説教も久しぶりだった。


「お前が手を引いたんだろ?なら、手を離すところまでやれ。」

 浮かんだ影はゆっくりと消えていく。


「・・・そうだった。俺は自分の事だけだったな。」

 キースは自嘲的に笑い、消えた影とは逆方向に進み始めた。




 自分のせいで全て起こった。

「あなたのせいじゃない。お母さんはずっと味方よ。」

 ナツエは優しく言う。記憶の中の母と変わらない。いや、同じなのだろう。


「コウヤ。まだ間に合う。君たちの仲間も危ない。支配するなら今だ。」

 ムラサメ博士はコウヤの前にモニターを映し出した。どうやらこの場を支配しているのはムラサメ博士の様だ。そして、彼の頭はかつてと同じように歪んでいた。


 モニターに映ったのは煙を上げて爆発寸前のフィーネだ。


「あ・・・みんな。みんなは・・・・」

 コウヤはモニターを食い入るように見た。


「コウヤ。ドールプログラムを使えば平和な世界が訪れる。お前だって見ただろ?ギンジが操った世界は・・・争いがあったか?それに、ここなら家族一緒だ。」

 ムラサメ博士はナツエの横に立ち幸せそうな顔をしてた。


「父さん、母さん。やっぱりドールプログラムに操られているんだ。」

 コウヤは両親を悲しそうな顔で見た。


「誰だって家族を危機にさらされれば変わるわ。我が子を殺そうとする世界を赦せると思うの?」

 ナツエは意志の強い目をしてた。


「母さん。俺のせいでどれだけの人が家族を失ったと思っているんだ?危機どころじゃないんだ。俺は・・・・・」


「貴方がドールプログラムを作動させなくてもゼウス共和国は「希望」を潰していた。むしろそれが鍵となったのよ。コウヤ。」

 ナツエは慰めるように言った。


「そうだ。コウヤ。お前がそれを選べば平和になる。」

 ムラサメ博士はコウヤの耳元に囁いた。


「・・・・全てが・・・・なかったことのようにできるんだ。起きてはいけない悲劇も何もかも・・・・」

 ムラサメ博士は追い打ちをかけるように囁き続けた。


「なかったことに・・・・そんなことしても事実は事実のままだよ。父さん。悲劇はあった。」

 コウヤは縋るように母親の方を見た。

 ナツエは優しく微笑んでいた。


「・・・母さん・・・・」

 ナツエの笑顔を見てコウヤは急に寂しくなった。久しぶりに味わう喪失感だ。これは・・・


「が!!」

 近くにいた父親が何かに押し飛ばされた。


「!?」

 コウヤは慌てて周りを見渡した。


「・・・・・何甘い言葉に騙されそうになってんだ?お子様。」

 コウヤは頭をなでられた。


「え・・・どうやって・・・・」

 コウヤは自分より身長の高い男を見上げた。


「父親に、いや、ドールプログラムに騙されそうになってんぞ。コウヤ。」

 そう言うのは、いつも通り軍服を着崩した姿をした


「・・・・キースさん。」

 コウヤは縋るようにキースを見た。


「お前・・・どうやってここに・・・」

 ムラサメ博士は警戒した表情をしていた。


「そんなことはどうでもいい。ドールプログラムが父親を騙って、息子を騙すっていうのはよくないと思う。俺が口を出すことではないと思うけど、俺、こいつのこと結構好きなんだ。あと、聞き捨てならないことを言っていたからな。・・・・悲劇が無かったことになってたまるかよ。」

 キースはムラサメ博士を睨んだ後にコウヤに手を差し伸ばした。


「コウヤ。決めて行動するのはお前だ。俺はお前に何か口を出すことしかできないし、それしかしていない。・・・・だから、最後に確認する。・・・・お前、気付いたんだろ?」

 キースはコウヤが手を掴むのを待っていた。

 コウヤはキースから思わず目を逸らした。だが、横目でキースの手を見た。


「キースさん・・・・まず、最後なんて言わないでください。」


「・・・・わかった。最後じゃない。俺はまだお前に口出しする。それでいいな。」

 キースはため息をつきながら言った。


 コウヤはキースの顔を恐る恐る見た。

「・・・・よくよく考えれば・・・わかることだった。」

 コウヤは泣きそうな顔をしてムラサメ博士を見たあとにナツエを見た。


「コウヤ・・・・私はお前の父親だ。」

「そうよ。私はあなたの母親よ。」

 ムラサメ博士はコウヤに向けて優しく微笑んだ。ナツエも優しく微笑んでいた。

 ナツエの笑顔はコウヤの記憶の中と変わりがなかった。


 ああ、母親が変わらないのは、自分の知っている母親だからだ。

「・・・・・ドールプログラムは・・・・死者の意識を留めることができる。」

 クロスに教えてもらったことを呟いた。


 キースは驚いた表情を一瞬したが、真面目な表情にすぐに戻った。


 意識だけをプログラム内に潜り込ませて歪みきった父親。

 そうだ。意識が生き続けているのなら、変わる。父親のように。


「父さん・・・・母さんを、造ったんだね。」


 コウヤは父親を見た。

「は・・・・え?何でだ?ほら、ナツエは・・・・」


「父さんは母さんの意識を・・・・作ったんだ。ドールプログラムが作られる前に母さんは死んだ・・・・母さんは父さんの記憶のままの人であって・・・・父さんの分身なんだ。」


 ナツエがコウヤに向ける愛情も、優しい笑顔も全てそうだ。


 ムラサメ博士の顔が引きつった。


「そして・・・父さんは自分の作った母さんによって、俺を引き込もうとしている。そして、父さんは、自分の作った母さんによって歪められて・・・父さんじゃない。お前・・・お前はドールプログラムだ!!」

 コウヤは悲しそうにムラサメ博士を見た。


「何を・・・?コウヤ。俺はお父さんだ。」


「ドールプログラムの要を持つ・・・俺が欲しかったんだな。俺の権限が。だから、全てを利用した。人を歪ませる・・・根っこから歪んでいたんだ!!」

 コウヤは真っすぐ父を見た。



「意志を持ったプログラム・・・だが、それには障害が多い。成長は出来ても・・・プログラムに決定権はない。持つのは・・・鍵だけだ。」

 ムラサメ博士はコウヤを見た。


「もう、お前は父さんじゃない。」

 コウヤは泣きそうな顔をしていた。


「ドールプログラムに、全ては操られていたのか。」

 キースはコウヤとムラサメ博士を交互に見た。


「・・・確立したネットワークは素晴らしい。君もわかってるはずだ。死者もなにもない。そして、この力こそが、愚かな人々の平和を実現するのだ。」

 ムラサメ博士とキースはしばらくにらみ合った。


「・・・・父さんに意識も・・・作られた母さんも、俺は・・・」

 コウヤは歯を食いしばり、拳を握った。



「コウヤ・・・・やめろ!!やめろ!!それは選んではいけない!!」

 ムラサメ博士はコウヤの顔を見て表情を変えて叫んだ。


「俺が散らかしたものだ・・・・・片付けないと・・・・」

 コウヤは上空を仰ぐように両手を広げた。


「いいんだ。コウヤ。」

 キースはコウヤを見て頷いた。コウヤも頷いた。


『・・・・ロック解除確認・・・・・削除しますか?』


 機械音声が響いた。


「だめだ!!コウヤ!!」

 ムラサメ博士の叫びにコウヤは首を振った。


「プログラム・・・・削除!!」

 コウヤは叫んだ。


 


 ドーム同士をつなぐ電車の調子が悪い、そのせいで現在軍本部で一番の権力を持つ男、レイモンド・ウィンクラー大将の機嫌は悪かった。だからといって当たり散らすような幼いことはない。ただ、機嫌が悪いだけだ。


「申し訳ないです・・・・」

 一人の兵士がひたすら頭を下げていた。


「いや、一時的に乗っ取られたのだから仕方ない。・・・・だが、宇宙船の準備もしてくれ。なるべくカワカミ博士に早く会いたい。」

 レイモンドは態度に示すことなく柔らかい笑顔で言った。


 本当の心を知られると軍にいられないだろう。支配する側に立つことも、権力を奮うことを許されることもないだろう。

 その罪悪感からだろうか、不思議と兵士たちに必要以上に強く当たらないでいられた。


 この頭を下げて必死に謝る兵士はレイモンドが人類全体を軽んじたことを知らない。レイモンドにとって世界の価値はある時期からほぼないに等しいのだ。

 価値があった時の名残を大切にして生きてきた。このドーム「天」も大事だ。


 ああ、人間は滅亡しないのか・・・・

 他人事のように思うのは、作戦の責任者としてどうなのだろうか


『・・・・レスリーとマリーは・・・・』

 機械音声が響いた。


 レイモンドは音の聞こえた方を振り返った。

 先ほどまで頭を下げていた兵士も同じ方向を見ている。どうやら聞き間違いや空耳ではないようだ。


「・・・・今の声・・・・」

 レイモンドは久しぶりに目に光が宿った。


 遠くに求める人影が見えた気がした。

「ま・・・待て!!」

 レイモンドは走り出した。


 人影はレイモンドの様子を窺うように進み始めた。どうやら追えと言うことらしい。

 そんなの言われなくてもレイモンドは追った。


「待て・・・待ってくれ!!レイ!!」





 爆発寸前とはこのことを言うのだろう。

 ガタガタと揺れ方が不安定になってきた。


「逃げましょう!!レスリーさん!!」

 マックスはレスリーに首根っこ掴まれドール格納庫に連れて行かれていた。


 残った避難船にマックスを詰め込もうとレスリーは機械を操作した。


「レスリーさん!!」

 マックスはじたばたと暴れていた。

「お前は逃げろ。」

 レスリーは押し込もうと避難船にマックスを押し付けていた。

「レスリーさんも・・・・俺、マリーさんと約束したんだ。」

 マックスは必死にレスリーの手にしがみ付いていた。


「・・・母さんと・・・?」

 レスリーは目を見開いた。


「何で家族がいるのに死ぬんだよ・・・・生きれるのに何で死にたがるんだ!!」

 マックスは悲壮な顔をしていた。


「それはお前だ。俺と心中する必要は無い!!」

「するつもりねーよ!!」

「ならとっとと逃げろ!!」


「賢い俺にはわかんだよ!!俺が未来に必要なら俺にあんたが必要だって!!」


「気持ち悪いこと言うな!!俺はお前の家族じゃない!!ごっこ遊びはもういいだろ!!お前は俺に弟に出来なかったことをやろうとしているだろうけどな・・・お前の弟の死に俺も関わっているようなもんだ。俺はお前の憎むべき対象だ!!」

 レスリーは突き放すようにマックスから顔を背けた。


「そんなこと知っている!!だいたい、ごっこ遊びの何が悪いんだ!!家族でなくても・・・・あんただってその繋がりが大事だからこんなことしているんだろ・・・・」

 マックスはレスリーに縋りついた。


「俺は、お前の兄弟じゃない。」


「知っている。レスリーさん・・・・・影さん。」


「キリがない。早く・・・」

 レスリーはマックスを引きはがそうとした。


「ごねんな!!クソガキ!!」

 マックスはレスリーに怒鳴った。


 ガーガー

 マックスの声に応えるように格納庫の扉が閉まった。

「な!!」


 レスリーは廊下に繋がる扉が閉まったことで操舵室への道が閉ざされたと察知した。

 マックスも驚いた。

「え?」


 フィーネがガタガタ揺れる。


 避難船の扉が開く。

「マックス、お前か?」

「違う・・・・これは・・・」

 マックスもレスリーも訳が分からない様子だ。


『レスリー。生きて。』

 機械を通した人の声だ。


 女の声だ。まだ、幼いようだ。

 マックスは心霊現象だと思ったのか先ほどまで平気な顔をしていたのに、急に震えだしてレスリーにしがみ付いた。


 レスリーは目を見開き驚いたが、直ぐに嬉しそうだが、悲しそうな顔をしていた。


「・・・ユッタ・・・・?」


『レスリー。早く・・・そこの人の言っていることは正しいよ。私でもわかるよ。』

 ユッタはレスリーに説教するように廊下への扉にロックをかけた。


「ユッタ・・・どうやって君は・・・・」

 レスリーは何もない空中を探すように見た。


「レスリーさん!!」

 マックスはレスリーを押し込むように避難船に乗った。呆然としたレスリーは簡単に避難船に入った。


『お兄ちゃんをお願い。レスリー。』


「ユッタ・・・・」

 フィーネは誰かが操っているように避難船を放出した。

「レスリーさん・・・生きましょう。」

 マックスは呆然とするレスリーの肩を叩いた。



 フィーネは変わらず敵の戦艦たちに向かっていた。


『レスリー・・・・さよなら、私の初恋。』

 フィーネから遠ざかる避難船を名残惜しむように呟いた。




 


 避難船の操舵は戦艦ほど難しくない。だが、装甲が圧倒的に薄いため、一撃でも沈む。

 ダミーに紛れるように進む避難船は、少しでもサブドールの目に付かない場所を狙っていた。

 軍勢からはぐれた一体のサブドールがダミーの避難船に目をつけた。


「やばい・・・・あのサブドールに気付かれた。」

 モーガンは避難船の方向を変えようとした。


「だめよ。あからさまに変えたらダミーでないとバレる。」

 イジーはモーガンを止めた。


 サブドールは避難船が気になるようで、近付いてきた。


「やばい・・・・バレる。」

 カカは悲鳴のような声を上げた。


「そうだ。俺たちネイトラル国民だからそれを言えば・・・・」

 リオはいいことを思いついたような表情をしたが


「無駄よ。そんな甘くない。」

 リリーはフィーネで何度かその手段で連絡を試みたのだろう。


「ひ・・・近付いてきた。」

 モーガンが息を止めるような仕草をした。


 そんなことをしてもバレるのは時間の問題だが、全員が息を止めた。


 サブドールが近くなる。

 避難船を覗き込むようにした。


 様子が変わった。

「バレた。」

 モーガンは諦めたような声を上げた。

 サブドールは避難船を単独で破壊するつもりなのだろう。そのまま手を指し伸ばした。


「ひ・・・」

「う・・・・」

 目を瞑った。


 避難船が大きく揺れた。

 ガタガタン

 ガタ

 掴まれた。

 揺れが収まり、ギシギシと音を立てる。


「もう終わりだ・・・・」

 カカの情けない声が響いた。


 ガコン

「「「ぎゃあ!!」」」

 大きく避難船が揺れ、景色が周り、乗っているモーガン達は目を回しながら船内を漂った。

 暫くすると、揺れが収まり、モーガン達も体を安定させられた。


 モーガンは恐る恐る目を開いた。


「え・・・」

 先ほどまで避難船を掴もうとしてたサブドールが、片腕をもがれて遠くに飛ばされていた。


「どういうこと。」

「ジョウさん・・・・?」

 イジーとリリーはレーダーを見てドールの反応を確認した。

 微弱な反応がある。



「・・・あ・・・この、ゾンビ野郎。」

 モーガンは気配に気づき思わず悪態を吐いた。


 ザーザー

『・・・・大丈夫か・・・・』

 息を切らした声が通信で入ってきた。

 避難船の前に一体の黒いドールが現れた。

 装甲がボロボロになっており、動くのか怪しいくらい破壊されたドールだ。

 だが、意志を持って動いている。よたよたと動くのはエネルギーが不足しているからだろう。


「・・・・遅いよ。ばか・・・・」

 イジーは窓に張り付きドールを見た。


『悪い。気絶していた・・・。』

 笑いながら答えた。その声に避難船の中は笑顔になった。


「シンタロウ君。」

 リリーは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして窓に張り付いた。モーガンもだ。

 後ろでリオとカカが抱き合い喜んでいる。


『まだ油断はできない。俺が援護するから避難船の操作頼む。モーガン。』

 シンタロウは切り換えたこうに緊張感を持った声で言った。


「わかった。・・・・行くぞおおお!!」

 モーガンは避難船に響くほど叫んだ。しばらく叫ぶと、宇宙用ヘルメットをしているため、モーガンの耳は少し馬鹿になったようで、呼ばれても気付かないことが多くなった。




 


 見えない影を追ってしばらくする。追い付ける気配がないのに追わずにいられない。


「待ってくれ・・・・レイ。」

 鍛錬をしているとはいえ、レイモンドの年齢では長時間走ることは堪える。


『お前もレイって呼ばれているのか?俺もだ。』

 昔、言われた言葉を思い出した。初めて会った時に呼ばれ方が同じだった。


「何故・・・・・私はお前の理想に、綺麗ごととわかっていてもついていきたかった。」

 見えない影にレイモンドは叫ぶ。


「待ってくれレイ!!私を置いて行くな。何で、何で私より先に死んだんだ!!」

 見えない影は未だにレイモンドの先を行く。


 何かを探るように進むレイモンドは異様だろう。他の軍人たちが驚いた顔をしてる。


『レイモンド。』

 辺りに声が響いた。


 その声は他の軍人にも聞こえたようだ。


『私の大切な人たちを頼むよ。』


 声のする方に人はいない。だが、レイモンドには見えていた。中年くらいの品の良い紳士が。

『私の頼れるのはレイモンドくらいだ。』

 きっと彼は未だに無邪気な笑顔を見せるのだろう。


「・・・・・ああ。ああ!!」

 レイモンドは何度も頷いた。


『でも、レイモンド。自分も大切にしてくれ。お前を大切に思っている人間がいる。周りを見てくれ。』


「あ・・・レイ!!待て!!」

 レイモンドは見えないのに、声の存在、レイ・ディ・ロッドが消えつつあるのがわかった。


『お前は俺の親友だ。これは死んでも変わらない事実だ。』


 何もない空間にレイモンドは手を伸ばした。


 指先に何かが触れた感触が一瞬だけした。

 手繰り寄せようと両手で空気を漕いでも何もなかった。


「お前は・・・・いつも狡い。」

 レイモンドはその場に崩れ落ちた。




 

「コウヤ!!駄目だ。やめ・・・」

 ムラサメ博士が叫ぶようにコウヤを止めた。だが、彼の体は徐々に消えていく。


「シンヤ。やめなさい。」

 ナツエは叫ぶムラサメ博士の肩を叩いた。


「・・・ナ・・・ナツエ?」

 ナツエはムラサメ博士を見て微笑んだ。


 そして、コウヤにそっと近寄って屈んだ。

「いいのよ。コウヤ・・・それで。」

 ナツエはコウヤを抱きしめていた。


「何で・・・・」

 コウヤは目の前のナツエを見た。ナツエはコウヤを見て首を振った。


 ナツエの様子を見て、ムラサメ博士は驚いた表情をしていたが、とても嬉しそうだ。

 彼の顔から歪みが消えていた。


「シンヤ。もうごねるのはやめましょう。」

 ナツエはムラサメ博士を責めるように睨むとすぐに微笑んだ。

「・・・・君だ・・・・君なんだね。」

 ムラサメ博士はナツエに縋りつくように駆け寄った。

 消えていく両親を見て、コウヤは頭を振った。


「ま・・待って!!・・・母さん・・・父さん!!」

 手を伸ばして両親に向かった。



「待て!!コウヤ。お前は現実に戻るんだ。」

 キースはコウヤの手を引いた。


「キースさん!!でもどうやって・・・・」

 コウヤは微笑む両親を見て嬉しそうにしながらも寂しそうにしていた。

 ナツエとムラサメ博士はキースを見た。


「・・・ある。俺にここの権限を譲るんだ。俺がお前を追い出す。お前ならできるはずだ。」

 キースは二人を見て気まずそうに笑った。


「え・・・そしたらキースさんは・・・・」

「お前が消したんだ。もうすぐ、お前もここのお前の母親が作った空間もプログラムも消える。だが、俺が追い出せば・・・お前は現実に戻る。」

 コウヤはキースを見て怯えた表情になった。


「コウヤ。その人の言う通りにしなさい。」

 ナツエは子供を叱るようにコウヤに言い放った。

「・・・・ハンプス少佐。息子が・・・・世話になった。」

 ムラサメ博士はナツエから離れて頭を下げた。

 二人とも姿が消えつつある。


「ほら、こう言っているわけだ。俺の選択が正しい。」

 キースは得意げに笑った。


「キースさん言ってたじゃないですか?正解不正解は無いって。選んだ答えが事実になるだけだって・・・・正解不正解があるのは机上でだけだって。」


「最善だ。この一言に尽きる。」

 キースはコウヤに手を差し出した。


「今度はお前が俺の手を引く番だ。コウヤ・ムラサメ。」

 キースはコウヤを真っすぐ見た。


 コウヤはキースに手を引かれてフィーネに乗り込んだ時のことを思い出した。


「あの時、俺を助けてくれてありがとうございました。」

 コウヤはキースの手を取った。


『・・・・権限移動・・・・・』


「・・・・移動した。キースさん。後で・・・・」

 コウヤは権限が移動したのを確認するとキースに話の続きをするように見た。


「お前に救われた。ありがとう。」

 キースはコウヤの手を離して、距離を置いた。


「え・・・・」

 キースはムラサメ博士とナツエと並んでいた。


 三人は徐々に消えていく。


「俺が口を出す最後のことだ・・・・」

 キースはコウヤに微笑んだ。

「キースさん。最後って・・・・」



「仲良く生きろよ。」


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