光る剣
ドールが出て来てからは全く登場する機会が無くなったが、自分が時代を作ったものでもある。ドール格納庫の奥に行くと思った通りだった。
一人の男が立っていた。
時代遅れのものを仕舞う倉庫の前で、時代遅れな武器を掲げる。
銀色の美しい装飾がされた凶器。
「やあ、レイモンド。」
学校卒業の時にもらった飾り物のような剣。
「タナ。余興のつもりか?」
レイモンドが手に取るのは、前に立つ男タナ・リードの持つものと同じものだ。
銀色の美しい装飾がされた凶器。
「時代が変わってもお前は鍛錬を怠っていなかったのだな。」
レイモンドは蔑む様な目を向けながらも目の前の男に感心していた。
「ああ、昔を思い出すではないか・・・・軍学校でお前と私は同期だった。一つ下にお前の弟のライアンがいた。」
「昔話をするためか?」
レイモンドは剣を掲げ、切先をリード氏に向けた。
「今しかできないだろ?」
リード氏もレイモンドと同じように切先をレイモンドに向けた。
「成績は私の方がよかったな。剣術など実技全般はお前が上だった。」
「別に共に悪さをしたような思い出もない。成績がトップだったお前はよく他人をうまく使って自分の能力を誇示していたな。有象無象というのにふさわしい集団だった。」
先に踏み出したのはリード氏だった。
金属がぶつかる音。
直線的に切先で突くのをレイモンドは剣の側面で絡めるように弾く。
弾かれた剣の軌道を手首の動きで修正し、横から斬り付ける。
レイモンドは剣をたてて、刃を向けて受け止めた。
「そんな使い方をしていると、手首を痛めるぞ。」
レイモンドはリード氏を見て、講評するように言った。
「成績はよくても、軍に入っての訓練は悲惨だった。実際に軍を動かしたとき、お前に敵わなかった。」
リード氏は剣同士を弾くようにし、レイモンドと距離を取った。
「お前は優秀だっただろ?私に敵わなくても気にすることはないだろ。」
レイモンドは呆れたようにリード氏を見た。
「・・・・人は全員がお前のように強くない。」
リード氏は初めて、人間的な目でレイモンドを睨んだ。
「ライアンのことか?」
「ライアンだけでない。私もだ。」
リード氏は再びレイモンドに斬りかかった。
金属がぶつかり、再び弾ける音だ。
「何故軍に行った後もあの男とつるんだ?お前はもっと違う世界を見るべきだった。」
リード氏は剣を弾かれながらも、足を組み替えるように軸足を替え、バランスを崩さずにいた。
「レイの話か?お前があいつの話をするな。」
レイモンドは再び切先をリード氏に向けた。
「・・・・レイ・ディ・ロッドは生まれる時代を間違えた。優しいだけの没落貴族の男など、この時代に不要だ。そして、お前はこの時代にふさわしい者だ。」
リード氏は向けられている剣の切先から辿るようにレイモンドを見た。
「そうだ。私はレイに未来を見た。私は嫌だったんだろう。自分が。自分の生き方がな。」
「お前に憧れたライアンはだからロッド侯爵を嫌った。」
リード氏は突進するようにレイモンドに向かってきた。
金属がぶつかる音。擦れてけん制し合う音。
リード氏の剣を止め、そのまま刃で押し合う。
「憧れ・・・・?」
レイモンドは目を見開いた。
「・・・・そこまで見えていなかったのか?お前は、どこまで愚かだ?」
リード氏はレイモンドを睨んだ。
「人は皆お前の様に強くない。私も徒党を組むのは弱いからだ。」
リード氏は自嘲的に笑った。
「タナ。そんなことよくわかっている。お前は、弱いからライアンに近付いた。」
「私のことをそこまでわかっていながら、弟のことを分かっていないのは、ライアンが可哀そうだな。」
リード氏はレイモンドを馬鹿にするようなことを言いながらも穏やかそうな表情だ。
「お前は何故そこまで私に突っかかる?ライアンを餌にして私に突っかかるのは何故だ?」
レイモンドは剣に力を入れた。若干レイモンドが押している。
「お前もゼウス共和国の民衆と変わらん。ロバート・ヘッセに熱狂していた者たちの様にお前はロッド侯爵に心酔し、更には友情という馬鹿馬鹿しいもので魅了される。私たちに友情は必要ないものだ。」
「軍の人間ではない。彼は親友だ。お前は誰にも心を開いたことが無いからだ。見てみろ。コウヤ君たちを。彼らは友情という絆で再会し、今手を取り合い共に問題に立ち向かっている。お前の残した問題のな。」
レイモンドの言葉にリード氏は笑った。
「彼らを繋げているのはプログラムだ。友情などという寒いものが無くプログラムだけでも彼らは手を取る。分かるか?私たちに友情は必要ない。必要なのは利害関係だ。幼いままでいるお前等と違う。だから私はロバートと手を組んだ。」
リード氏は紳士的な表情を崩し、唾を飛ばし叫んだ。
「わからん・・・何故ライアンをつるむ?あいつは、お前と利害が一致するような男か?」
「・・・ははははははははは」
リード氏は声をあげて嗤った。
「そうだよ。レイモンド。あの男に利用価値は傀儡以外ない。兄であるお前はそれはよくわかっているんだな。だが、私とライアンは・・・・共通点があった。」
リード氏は剣に力を込めた。レイモンドは込められた力を逃がすために一歩下がった。
「共通点だと?傀儡ならいい奴がいただろうに、あいつを取り込むことで、切れない血の繋がりがあるかぎり、否応がなく私との接点を持つことになる。お前を警戒する存在が近くにいるのは好ましくないはずだ。」
レイモンドの言葉にリード氏は穏やかに笑った。剣に込める力が緩んだ。
「・・・・そうだな。」
レイモンドはその隙を逃さなかった。
リード氏の剣を弾き、体を捻らせ斬りかかった。
弾き出された剣は上空に舞い、銀の刃は光を反射させる。
スローモーションのようにリード氏は両手を広げた。その中に吸い込まれるようにレイモンドは剣を振り下げた。
銀の刃は油を含んだ水音を立てて血が飛び散らせた。
リード氏は崩れ落ちるようにその場に倒れた。
「・・・・もう少し深くても良かったものを・・・・」
リード氏は恨めしそうにレイモンドを見た。
「手当てをすれば助かる。お前には正当な裁きが下ることが必要だ。このまま楽に死なせるものか。」
レイモンドは手に持っていた剣についた血をゆっくりと拭っていた。
「ははは・・・・レイモンド。ライアンは戦闘機に乗って出て行った。」
リード氏は痛みに顔を顰めながら言った。
「お前があいつの捨て駒になったのか?」
レイモンドは驚いた顔をした。
「・・・・言っただろ?私とライアンは共通点がある。」
リード氏は穏やかに笑っていた。
宇宙は混乱にあった。
白い戦艦の周りには地連所属のドール達がいた。
そのドール達は白い戦艦を襲うわけでなく、ただ傍について漂っている。どうやら守っているようだ。
白い戦艦の後ろには距離を置いて別の戦艦がある。その戦艦の傍にもドールが漂っていた。
その戦艦フィーネと傍のドールは緊張の中にいた。
「ギリギリまでニシハラ大尉には操舵室にいてもらう。」
レスリーはモーガンの横に立つハクトを見た。
「構わない。いや、そうした方がいい。」
ハクトは頷くとモニターを睨んだ。
「ムラサメ博士側の戦艦だけならいいが・・・・ネイトラル側も入ってくるとなると護らなければならない。あの戦艦の危険性はネイトラルに言っているのか?」
レスリーは呆れたようにため息をついていた。表情は逼迫したものだった。
「言っている。少しでも襲う気を削ごうと思ったが、ネイトラルの戦艦は思ったより厄介だ。ドールパイロットはこちらに圧倒的に劣るが・・・・私がいた軍だ。」
ディアは自嘲的に言った。
「軍備は整っているか・・・当然だな。」
クロスは腕を組んで考え込んでいた。
「クロス、ディア。二人は出撃準備をしてくれ。俺も様子がつかめたらすぐに出れるようにする。」
ハクトは考え込むクロスとディアに言った。
三人以外はもうすでにドールの準備に入っているようだ。
「もしかしたら、白い戦艦は月の防衛ラインまでいけないかもしれない。ネイトラルの軍勢が思ったよりも多い。しかも、長距離の砲撃が可能な戦艦だと思う。フィーネじゃあ厄介だ。誰かが乗り込む必要がある。」
ハクトは頭を抱えて、ちらりとクロスを見た。
「そうだな・・・・私たちが出るしかない。」
クロスは頷いた。
「ハンプス少佐達も充分やってくれると思うが、数が多い。」
ディアも頷いた。
「・・・・忘れるなよ。隊長の命令を守れよ。」
レスリーは三人を見て言った。
ドールの格納庫ではレイラとユイとコウヤ、リオとカカとマックスがいた。
リオとカカは相当堪えているようだ。いつものん気なやり取りをしているのに、今は何も言う気が起きないようだ。
「仕事しろ。」
マックスなりにリオとカカのことを気にかけているようだ。
「仕事今ないです。」
「怪我してくれますか?」
リオとカカは変わらないような反応だが、顔色が悪い。
「きっとネイトラルとの戦いは避けられない。白い戦艦を守りながら戦うのは大変ね。」
レイラは敢えてネイトラルとの戦いに触れているようだ。
「・・・・私の感覚だけど、ネイトラルの軍勢は多いよ。テイリーさんの言った通り、地連ごと潰すつもりだと思う。」
ユイは歯を食いしばっていた。
「今出ているキースさんたちでは・・・」
コウヤはレイラとユイを見た。
「無理だ。彼らを殺すつもりか?」
レイラは断言した。
「うん。数が多いのもあるけど、白い戦艦に洗脳されたドールに襲われることも考慮しないといけない。」
ユイもレイラに同意した。
戦艦が進んでいるのがよくわかる。
皮肉なことに敵の気配で進んだ距離を測っている。
白い戦艦の周りを漂うドールに変化はない。
『こっち側に来ないようだし・・・・今は大丈夫そうだ。』
ジョウは安心したのか、気が抜けたように息を吐いた。
「向こうは正直コウヤの乗っているフィーネを潰すつもりはないはずだ。あいつらの狙いは月だ。今はまだ俺たちは様子を見ているだけでいいんだ。」
キースは緊張していた。
『ネイトラルとの戦いになるとは思っていなかったですね。ずっと協力してもらっていたイメージですから。』
シンタロウは、緊張はしていないが、気も緩めていないようだ。
「そうだな。なあ、シンタロウ。ネイトラルの軍が・・・・」
『襲ってきたら撃ちますよ。確かにあっちの言い分は分かりますよ。巻き込まれた形だと言いたいでしょうね。』
シンタロウは寛容そうなことを言いながらも口調に変化はなかった。
『はあ?俺は分からんな。』
異を唱えたのはジョウだ。
『ネイトラルは潰そうと思えばいつでもできたということだ。それをしなかったのは、自分たちの利を見極めていたからだ。アスール財団なんかもうほぼ無力だ。恩恵にあずかっていたのに、やばくなったら棄てる。第三者のふりをしてけんかの仲裁に入っていたが、問題が大きくなったら両者をボコって逃げるようなもんだ。』
ジョウは明らかに苛立っていた。
「わかりやすい例えだな。」
キースは思わず笑った。
『そう聞くと腹立ってきますね。』
シンタロウはあからさまに舌打ちをした。
「だいぶ進んだな・・・・もうすぐネイトラルの軍勢と小競り合いになるな。」
キースは気合を入れるように息を吸った。
棚から牡丹餅か、漁夫の利か・・・・
「何ていえばいいんだろう?」
コウヤは苛立ちを抑えるためにひたすら蔑む言葉を探していた。
「対岸の火事・・・・」
クロスが呟いた。
「それって?」
ユイは首を傾げた。
「燃えているのを見て大変だなと言う・・・・傍観していることだ。」
クロスは片頬を吊り上げて笑った。
「悪いことしている気分・・・・ネイトラルに切り離されて初めて、私たちって一般市民から見たら実感のない存在なんだと思った。」
レイラは悲しそうに笑った。
「そうだろうな。だが、実感がなくても私たちは存在している。そして、それと同じく危険も存在している。」
ディアもクロスと同じような笑い方をしていた。
「・・・・もっと大げさに戦闘員を増員すればいいと思っていた。カワカミ博士やレイモンドさんが何でこんな少人数で当たるのは、少し引っかかっていた。今いるメンバーだけでなく本部とかからも増員して当たればいいのにって・・・・」
コウヤは傍にいる親友たちの顔を見た。
間違いなく彼らは味方だ。
「・・・・あの二人は・・・・人を信用できない。裏切られたり、失ったりした人たちだ。確かな味方しか手元に置きたくないのだろう。」
僕もそうだ・・・と付け加えてクロスは悲しそうに呟いた。
「俺は味方だ。みんなそうだ。」
コウヤはクロスの表情を見て思わず叫んだ。
その様子を見てユイが笑い出した。
「そんなこと分かっているよ。」
「ちょっとユイ!!何でそんなに笑うの?俺変なこと言った?」
コウヤは笑い転げるユイを見て恥ずかしくなっていた。
二人の様子を見てクロスとレイラとディアは微笑んでいた。
前を行く白い戦艦の気配の先に淀みのような濁りのような不純物が漂うような気配が出てきた。
明確な寒気や恨み、尖った刃物のような気配ではなく、錆びて刃こぼれした刃や鈍器、挙句には粘り付く水あめのような気配を漂わせていた。
「・・・・・来た。」
察知したとたんにコウヤ達の顔色が変わった。
「来たか・・・・・シンタロウ、ジョウさん。来た。ネイトラルの軍勢だ。」
キースは白い戦艦から横に距離を置くように逸れて行った。
『ハンプス少佐。俺たちはきっとフィーネから離れると狙撃されますよ。』
シンタロウはキースの行動を止めるように言った。
「バカ。この戦艦が間に入っていたら通信ができない。ネイトラルに止めるように言う。いたら危険なうえに邪魔になる。」
キースは通信機器を扱い、先に見える軍勢への通信を試みた。
『ハンプス少佐。そんな余裕はないと思います。』
シンタロウもキース同様にフィーネから離れた。
「バカ!!お前は大人しくそこにい・・・」
『そんなことしていたら白い戦艦もフィーネも沈められます。』
シンタロウはレーザー砲を構えた。
そして、ドールの動力を弱め。無重力に身を任せるように脱力した。
『・・・・同感だ。』
ジョウもキース達と同様にフィーネから離れた。そして、シンタロウと同じように無重力に漂うようにした。
白い戦艦の先で閃光が見えた。
それを合図のように三人は飛び出した。
「来た。前触れなしに砲撃しやがった。」
レスリーは前方にいるネイトラルの軍勢に舌打ちした。
「敵だから仕方ない。」
ハクトは目を細めてモニターの向こうの景色を見ていた。
「ハンプス少佐達が飛び出しました。いいんですか?」
リリーはハクトを見た。
「・・・・ああ。白い戦艦を守る必要があるのは確かだ。コウ達もすぐに出さないといけない。」
ハクトは自分に頷くように言って、廊下への扉に歩きだした。
「ニシハラ大尉。」
レスリーはハクトを呼び止めた。
「俺との通信を切らないでください。フィーネは積極的に攻撃しないでください。」
ハクトは、それ以上は何も言うつもりがない様で、そのまま廊下に消えて行った。
「・・・・おい、脱出用の船を用意しておけ。」
ハクトがいなくなったのを確認してからレスリーはマックスとリオ、カカに言った。
「・・・脱出用って・・・・レスリーさん。」
マックスは青い顔をした。
「念には念を入れてだ。」
レスリーはただモニターを見ていた。
『艦長。格納庫のコウヤです。今、全員出る準備が整いました。』
格納庫からの通信が入った。
「ルーカスです。ニシハラ大尉もそちらに向かっています。出る際には気を付けてください。」
イジーは淡々と言うとレスリーを見た。
「すまないイジー。コウヤ。無理をするな。全員だ。」
レスリーは急いでコウヤの通信に答えた。その様子を見てマックスは険しい表情をしていた。
レスリーが艦長の席に落ち着いたのを確認してマックスは操舵室から出て行った。
「艦長・・・・いえ、レスリーさん。マックスさんはあなたのことを心配しているんですよ。」
イジーはマックスが出て行った扉の先を横目で見てレスリーに言った。
「そうだろうな。だが、俺はあいつの家族でも兄弟でもない。お互いただの協力者だ。」
レスリーは自嘲するように言った。
「それは・・・・」
リリーが抗議するように席から立ち上がろうとしたとき
「だから、あいつは俺に引きずられることはあってはいけないんだ・・・・・」
レスリーは口元に諦めるような笑みを浮かべていた。
ネイトラルの軍勢は思いのほか多かった。いや、予想通りと言っていいだろう。
戦艦6隻とそれに付属するドール部隊がいくつか
「・・・アリのような軍勢だ。」
第一印象を口にした途端通信の向こうでジョウが笑った。
『アリか・・・・だが、さすがはネイトラルだ。ドールも戦艦も最新式だ。』
「怖いですか?ジョウさん。」
『怖いぞ。お互い様だろ?』
シンタロウの問いにジョウは笑っていた。
「そうですね。・・・・ジョウさん。ハンプス少佐の通信が失敗したら、俺は戦艦から沈めます。助言はありますか?」
シンタロウは視界に戦艦とドール部隊、そして神経は白い戦艦に向いていた。
『戦艦でどこを狙うつもりだ?』
「一番効力があるのは、操舵室です。ですが、あとあとのことを考えるとそれは出来ないので、砲台と、あのガス噴射口ですね。あれを抑えれば動きは止まります。」
『その見立ては正しい。俺はお前の補助でもするか?』
「いえ、白い戦艦の方を気にしてください。あと、フィーネも・・・・・」
シンタロウの気がフィーネに向きかけた時
『おい!!』
キースの叫び声が突如入ってきた。
シンタロウとジョウは急いでその場を離れた。
二人がいた宙域にレーザー砲が放たれていた。そして、そこにいくつかのドールが向かってきている。
『ハンプス少佐。うまくいかなかったんだな。』
ジョウは半笑いだろうが、冷たく言った。
『ああ、変な大義名分で、俺らも敵だと言われたさ。』
キースはケラケラと笑った。
『じゃあ、敵と思われているのなら、俺らも敵と思わないと申し訳ない。』
シンタロウは避けた勢いを殺さないまま銃だけ構えた。
『向こうは、見てみろ。ドール用の剣だ。レーザータイプの剣だから切られたら一発で終わりだ。』
キースは向かってくるドールを見て言った。
『最新式に手を加えてやがる。カワカミ博士が銃の装備に関してロックをかけていた理由がよくわかる。』
ジョウはシンタロウやキースとは違う方向からネイトラルの軍勢に向かった。
照準の合わせ方も慣れてきた。ドールが慣れるという感覚がよくわかる。人間の感覚にここまで合わせられる兵器にまでできるとは恐ろしい。と考えながらも必要なものと結論づけて引き金に指をかける。ドールを操作しての作業だが、神経接続をしているせいか緊張もそのままドールに反映される。
ふと、コックピットや操舵室を狙えばいいのにと思ったが、あとの処理をする人に申し訳ないのと、彼らも被害者だと考えて狙いをずらした。
直線上に来たなら仕方ないが、なるべく殺したくないな。
と考えてすぐに引き金を引いた。
シンタロウの撃ったレーザー砲は向かってくるドールが持っている武器に直撃した。衝撃にドールが揺らぎ、隊列を組んでいた他のドールを巻き込む。
おおよそ数秒だ。その隙を見逃さずにキースは敵ドール隊に突っ込んだ。
内部に入れば下手に動けない。あちらはシュミュレーションばかりで実戦経験はないだろう。武器が強力なほど巻き込む恐れもあり、力を奮えない。
動きの精密さや、素早さは一般兵がキースに敵うはずもない。
そして、シンタロウやジョウにも敵うはずもない。
キースの後に続くようにシンタロウも突っ込んだ。シンタロウによって隊列を崩され、キースによって混乱に陥ったドール隊はシンタロウが向かってくる数十秒の時間でも態勢を立て直せなかった。
「・・・いいもん持っているな。」
シンタロウの目は彼らの持つレーザーの剣に向いていた。
『二人ともそこを退けろ!!』
ジョウが叫んだ。
その声が届くと同時に寒気のある鋭い気配が風の様に吹いてきた。
キースとシンタロウは近くにいるドールを踏み台にする形でその宙域を飛び出した。
二人が避けるとすぐにレーザー砲が放たれた。白い戦艦からだ。
その場にいたドール隊は数体を残して塵になった。
『シンタロウ。』
「はい?・・・・おっと。」
キースはシンタロウに向かっておそらくドール隊からぶん取ったのであろうレーザーの剣を投げ渡した。
「ありがとうございます。」
シンタロウは受け取ると使えるか確認した。
『これなら、レーザー砲をある程度軌道をずらせると思う。ネイトラルの部隊にそんな芸当は出来ないと思うが、お前ならできる。』
キースはそう言うと今度は白い戦艦に向いた。
「ハンプス少佐。この砲撃を受けてネイトラルは戦艦戦に持ってくると思います。」
シンタロウはチラリとネイトラルの戦艦部隊を見た。
案の定、砲撃準備に入っていた。
『俺とジョウさんで砲台を潰す。お前は万一飛んできた砲撃を逸らせ。』
キースは先に向かっているジョウの後を追った。
「わかりました。」
シンタロウは白い戦艦とネイトラルの軍勢両方を見られる位置を定まった動きを避けて飛んだ。
「・・・・・やばいな。」
白い戦艦も砲撃の準備に入っていた。
「希望」での親友(プログラム該当者)
コウヤ・ハヤセ:
一般人だった。ゼウスプログラム該当者。主人公。ドールプログラム開発者のムラサメ博士の息子であり、本名は「コウヤ・ムラサメ」。プログラムの適性は一番高い。
ハクト・ニシハラ:
地連の兵士。階級は大尉。ポセイドンプログラムの該当者。察知能力と敵の位置把握能力が高く、軍内部でも一目置かれている。
ユイ・カワカミ:コウヤの前に現れた少女。アレスプログラムの該当者。ゼウス共和国に実験体として囚われていた。天真爛漫な少女。ドールプログラム発案者であり開発者であるカワカミ博士の娘。
レイラ・ヘッセ:
ゼウス軍の兵士。階級は少尉。ヘルメスプログラムの該当者。前ゼウス共和国総統であった父親(血の繋がりはなく、利用されただけであった。)の復讐に燃えていたが、冷静になる。ゼウス共和国屈指の軍人であり、プライドが高い。
クロス・バトリー:
ハデスプログラム該当者。幼いころ「天」に避難していたことがあり、その時にレスリーと知り合う。「天」が襲撃されたときに妹のユッタを亡くす。レスリーと入れ替わり、現在は冷酷で最強で世界一の軍人と呼ばれる。圧倒的な力と畏怖の対象であることから軍の若い世代からの支持が強く、狂信者も多い。前ゼウス共和国総統の実の息子。
ディア・アスール:
元中立国指導者。アテナプログラムの該当者。中立国ネイトラルを動かすアスール財団の一族の人間。かつてドールプログラムを開発していたムラサメ博士らのパトロンであった一族である。
戦艦「フィーネ」・最終作戦メンバー
シンタロウ・コウノ:
コウヤの親友。自身のやることを割り切り、平気で手を血で染める。訓練や人体実験により強化された人間となり、驚異的な身体能力を持つ。一時、ゼウス共和国でレイラの補佐をやっていた。最終作戦では戦艦「フィーネ」のドール部隊に配属される。現在地連所属の准尉。
レスリー・ディ・ロッド:
地連所属。「影」と名乗り、クロスと入れ替わっていた青年。「天」が襲撃されたときに父を亡くし、顔に大けがを負う。クロスと同様復讐のために生き、彼の活動を影で支えている。「希望」周辺の殲滅作戦に参加し、生き残った数少ない人物。研究所でユイに右腕を切断され義手になっている。最終作戦では戦艦「フィーネ」の艦長を担当する。
リリー・ゴートン:
地連所属。ハクトの部下。階級は曹長。最終作戦では戦艦「フィーネ」のオペレーターを担当する。
イジー・ルーカス:
地連所属。元ロッド中佐の補佐。階級は中尉。クロスの妹「ユッタ」の親友だった。シンタロウのよき理解者。最終作戦では戦艦「フィーネ」のオペレーターを担当する。
キース・ハンプス:
地連所属。コウヤを助けてくれた男性。階級は少佐。「希望」周辺の殲滅作戦の数少ない生き残り。最終作戦では戦艦「フィーネ」のドール部隊隊長を担う。
モーガン・モリス:
地連所属。フィーネの機械整備士。気さくな少年。研究施設での戦いを経てドールの適合率が90%以上になる。最終作戦では戦艦「フィーネ」の操舵の補助を担う。
マウンダー・マーズ:
ゼウス共和国の生んだ天才と名高い若き研究者であり医者。ダルトンの兄。通称マックスと呼ばれる。レスリーに懐いている。最終作戦では戦艦「フィーネ」の機械整備兼衛生係を担う。
ジューロク(ジョウ・ミコト):
ゼウス共和国所属。研究ドームでモルモットとされていた。頭に機械を埋め込まれているが、カワカミ博士によって無効化された。元々はヘッセ総統の専属秘書『ナオ・ロアン』の部下であった。レイラのことを気にかける。最終作戦では戦艦「フィーネ」のドール部隊に配属される。
リオ・デイモン:
ネイトラル所属。テイリーと一緒にフィーネに乗り込んだ衛生兵。最終作戦では戦艦「フィーネ」の衛生兵を担う。
カカ・ルッソ:
ネイトラル所属。テイリーと一緒にフィーネに乗り込んだ機械整備士。最終作戦では戦艦「フィーネ」の機械整備士を担う。
ギンジ・カワカミ(カワカミ博士):
ムラサメ博士と昔とも研究していた。ドールプログラムの発案者。各国が血眼になって探している。現在はロッド家の執事。ユイの父親。コウヤ達を該当者にした張本人。天才として名高かったのと同時にマッドサイエンティストとしても有名であった。最終作戦の協力者。
キャメロン・ラッシュ(ラッシュ博士):
かつてムラサメ博士の元で働いていたことがあり、コウヤの母の担当医であった。コウヤも懐いていた。ムラサメ博士に強い想いを抱いている。最終作戦の協力者。
レイモンド・ウィンクラー:
地連軍の大将。地連の総統の兄にあたり兄弟仲は悪い。ロッド中佐の後見人のような存在。クロス達の入れ替わりに大きく関わっている。レスリーの父のレイとは親友であり、尊敬しており、かなり精神的に依存していた。殲滅作戦の責任者であった。最終作戦では作戦責任者を担う。
ゼウス共和国滞在
シンヤ・ムラサメ博士(ムラサメ博士):
コウヤの父親。ドールプログラムの開発者。ゼウス軍によって殺害される。妻の復讐に燃える。意識のみ復活し、ゼウス共和国を壊滅状態に追い込む。現在アリアの中におり、ゼウス共和国から人類人形計画実施を画策している。
アリア・スーン:
コウヤと友達の一般人の少女。軍に志願した。コウヤ、シンタロウが次々と消息を絶ってしまったためドールプログラムの人体実験に志願。復讐に生きる。現在はムラサメ博士に体を乗っ取られ、ゼウス共和国でストッパーの役目を担っている。
地上主権主義連合国
ライアン・ウィンクラー:
現地連の総統。レイモンドの弟。リード氏に操られていた。兄弟仲は悪い。
タナ・リード(リード氏):
元地連の軍人であり、「天」襲撃の際にヘッセ総統と通じており、そのままゼウス共和国に渡り准将となる。地連総統を陰で操っていた。ソフィの父親。レイモンドとは因縁が深い。
ネイトラル
テイリー・ベリ:
元ディアの補佐であり、彼女に忠誠を誓っている。現ネイトラル総裁。地連のことをよく思っていない。元地連大尉。
ナイト・アスール:
ディアの父。ドールプログラム収束のためネイトラルの作った人物。元アスール財団のトップであり、現在は隠居に近い。
地球滞在
ソフィ・リード:
戦艦フィーネの副艦長。階級は准尉。その実ゼウス共和国の准将の娘であり、スパイであった。シンタロウに足を撃たれ現在地球のレイモンド所有の隠れドームで療養中。
ミヤコ・ハヤセ:
記憶を失ったコウヤを引き取り育ててくれた血の繋がりはないがかけがえのない母親。
リュウト・ニシハラ:
ハクトの父親。
キョウコ・ニシハラ:
ハクトの母親。
マリー・ロッド:
ロッド中佐の母親。穏やかで心優しい淑女。息子のことを心配している。
鬼籍の人
ロバート・ヘッセ:
ゼウス共和国の前総統。クロスに殺害される。クロスとユッタの実の父。
ユッタ・バトリー:
クロスの妹、イジーの親友。「天」がゼウス軍に襲撃されたときに死亡。
レイ・ディ・ロッド(ロッド侯爵):
ロッド中佐の父親。『天』襲撃の際、命を落とす。コウヤの母親の血液ドナーだった。
ナツエ・ムラサメ:
コウヤの母親。ゼウス軍によって死に至る。
ナオ・ロアン:
ヘッセ総統の元専属秘書。ジョウの元上司であり、クロスやレイラの母親の亡命に協力していた。「希望」襲撃のモルモットに充てられた。
ジュン・キダ:
ゼウス共和国の若き兵士。ロッド中佐によって殺害される。
ダルトン・マーズ:
ゼウス共和国の若き兵士。マウンダー・マーズの弟。ロッド中佐によって殺害される。
グスタフ・トロッタ:
第6ドームの訓練施設に関係している研究者。シンタロウを強化人間にした人物。訓練施設の教官に殺害される。