願い
コウヤ・ハヤセ:
一般人。何事においてもそつなくこなす器用な人物。主人公
ハクト・ニシハラ:
地連の兵士。戦艦フィーネの艦長。階級は大尉
ユイ・カワカミ:
コウヤの前に現れた少女。
レイラ・ヘッセ:
ゼウス軍の兵士。階級は少尉
クロス・バトリー:
イジー、レイラの探し人。コウヤの過去にも大きく関係している人物。
ディア・アスール:
中立国指導者。美しく聡明。
シンタロウ・コウノ:
コウヤの親友。軍に志願した。訓練所破壊の後、行方不明扱い。現在ゼウス共和国側にいる。
アリア・スーン:
コウヤと友達。軍に志願した。
レスリー・ディ・ロッド:
地連の中佐。冷酷で最強で世界一の軍人と呼ばれる。
キース・ハンプス:
コウヤを助けてくれた男性。階級は少佐。
イジー・ルーカス:
レスリーの補佐。階級は中尉。
リリー・ゴートン:
ハクトの部下。階級は曹長。
モーガン・モリス:
フィーネの機械整備士。気さくな少年。
ソフィ・リード:
戦艦フィーネの副艦長。階級は准尉。
レイモンド・ウィンクラー:
地連の大将。ほぼ隠居状態。ロッド中佐の後ろ盾だった。
テイリー・ベリ:
ディアの補佐であり、彼女に忠誠を誓っている。地連軍のことをよく思っていない。
マウンダー・マーズ:
ゼウス共和国の生んだ天才と名高い若き研究者であり医者。ダルトンの兄。通称マックスと呼ばれる。ラッシュ博士の助手をしている。
ラッシュ博士:
ゼウス共和国のドール研究を仕切っている謎の女。
ギンジ・カワカミ:
カワカミ博士。ドールプログラムの開発者の一人。現在行方不明。
マリー・ロッド:
レスリーの母親。息子想いの優しい貴婦人。
ユッタ・バトリー:
幼いころのイジーの親友。クロスの妹。「天」に避難していた。
シンヤ・ムラサメ:
ムラサメ博士。ドールプログラムの開発者の一人。「希望」破壊時に死亡。
ロバート・ヘッセ:
ゼウス共和国のトップ。ヘッセ総統。ロッド中佐に殺害される。
ジュン・キダ:
ゼウス共和国の若き兵士。ロッド中佐によって殺害される。
ダルトン・マーズ:
ゼウス共和国の若き兵士。マウンダー・マーズの弟。ロッド中佐によって殺害される。
グスタフ・トロッタ:
第6ドームの訓練施設に関係している研究者。訓練施設の教官に殺害される。
軍本部が破壊されたという知らせが地連を騒がせていた。
大きく取り上げられた新聞が道にまで転がっていた。
宇宙行きのシャトルにたくさんの軍人が乗り込んでいた。
軍人の中に、ひときわ厳しい表情をした少女がいた。
彼女の目は冷たかった。
「壊してやる・・・・」
彼女は地面に転がっている新聞を見て小さく呟き、新聞を足でひねりつぶした。
「コウヤと・・・シンタロウの分も、私が・・・・」
彼女は新聞の文字が見えなくなるまで新聞を足でひねりつぶし続けた。
壊した車のことと軍学校での任務についての報告を終え、イジーはげっそりとした。
任務の報告はいいが、壊れた車についてはひどく言及された。おかげでかなり遅い時間になった。
ロッド中佐が襲って来た奴らの遺体を乗せることを提案したが、却下した。
遺体については軍に知らせたが、おそらく無かったことにされるだろう。
終えたことを中佐に報告しようと部屋の前に来たが、今の時間はいないだろう。
ノックなしで堂々と入ると椅子に座ったロッド中佐がいた。
「上官の部屋にノックなしとは、いい度胸だな。」
指を組み、口元に笑みを浮かべていた。
「中佐・・・・大丈夫ですか・・・」
イジーはロッドに怪我がないか見渡した。
「君の方が怪我してそうだぞ。報告で病院にも行っていないだろ?」
ロッドは呆れ気味にイジーの方を見て、メモを渡した。
「これは?」
「軍病院に連絡している。行くといい。これを見せれば時間のことで文句も言われない。」
どうやら彼が病院に連絡していた様だ。
「中佐は?」
「私は大丈夫だ。こう見えて、無傷だ。」
彼は両手を広げて平気な様子をアピールした。
「治療を怠ってはいけませんよ。もし怪我しているときに、あのようなことがあったら・・・」
イジーは真剣な表情であった。
ロッド中佐は笑った。
「そうだな・・・・今回のことを学習してうまい手を使われたら、死ぬかもしれないな・・・」
自分のことなのに他人事のように彼は言っていた。
「簡単に死ぬなんて言わないでください・・・・簡単に殺されていいんですか・・・・」
イジーはロッド中佐を見つめて言った。
「そうだったな・・・・俺は軍の奴らに殺されるわけにはいかない・・・・」
ロッド中佐は強い決意を込めたように言った。だが、同時に寂しそうであった。
「・・・・中佐は・・・・何者ですか・・・・」
イジーは今まで訊けなかったことを聞いた。
ロッド中佐はそれを聞くと
「私が死ぬときに教えてやる・・・・」
と笑った。
「何言っているんですか?・・・・中佐は殺されないってさっき・・・」
「軍の奴には殺されない・・・・それだけだ。以前にも言っただろう?」
ロッド中佐はイジーと距離を取るように突き放したように言った。
イジーは寂しくなった。だが、何も言えなかった。自分は彼のことを何も知らないのだからだ。
それと同時に、あの作業着の少年に会わなければならない・・・・
イジーはロッド中佐に頭を撫でられた時から覚悟を決めていた。
ハクトと二人だけで大きな戦艦に乗っているのは不思議な気がしていた。
「なあ・・・・これっていつ宇宙に着く?」
「そうだな・・・・地球圏抜けたからもう宇宙だ。」
ハクトは当たり前のことを言うように言った。
「・・・そうか・・・・不思議だな・・・・」
「なにがだ?」
「この前までなかった記憶があって、平凡な生活をしていたのに今は生体兵器に乗って戦っている。」
コウヤは何かを思い返しているようだった。
ハクトは言うべきか迷った。
「コウ。お前の仲良しだったスーン二等兵だが、フィーネを途中で降りた。」
ハクトの言葉にコウヤは驚かなかった。
「だろうな。アリアは俺かシンタロウがいないと生けなかったから・・・」
少し寂しそうなのと気まずそうなのは理由がわかっているため追及しないでいた。
「シンタロウ君のこと、お前は本当に大丈夫か?」
ハクトは心配そうにコウヤを見た。
「大丈夫なわけないだろ。あいつは俺に親友だ。」
「だよな。俺も大丈夫じゃなかった。」
「でも、あいつ、俺を羨ましがっていたとか言っていたんだ。」
「お前を?」
ハクトが意外そうな声を上げるのを聞いてコウヤは拗ねたように口を尖らせた。
「器用でなんでもできて、だとさ。頭がいいとかも言われたけど、実際シンタロウに敵わないものがあったし・・・」
「シンタロウ君の目を疑うな。お前のどこが器用なのかわからない。」
ハクトは呆れたように笑った。
「そんなこと言うなよ。俺って何でもできるって有名だったんだぞ。」
コウヤは拗ねながらも懐かしむように笑った。
「だが、お前が羨ましいって思うのなら俺は同感だ。」
「え?」
「俺以上に優柔不断で流されやすいが、小さい頃はお前が掛け声を上げなかったら俺らは集まらなかった。俺たちのリーダーであって中心だったんだ。俺もお前のように言いたいことが言えればいいなと思っていた。」
ハクトはコウヤを眩しそうに見た。
「サラッと悪口混ぜるなよ。」
「事実だ。」
ハクトはケロッとした様子で言った。
「シンタロウは・・・・俺よりも大人だったんだ。頭だって、俺よりも良かった。器用貧乏なだけだったんだ。俺は」
コウヤは思い出に浸るように言った。
「そりゃあよくわかる。お前は子供だ。」
ハクトは皮肉交じりに言った。
「お前にだけは言われたくなかった・・・・」
コウヤは口を尖らせた。
「・・・・もっと取り乱してもいいんだ・・・・お前は子供なんだからな・・・・」
ハクトは慰めているつもりなのかぶっきらぼうに言った。
それを聞いたコウヤは泣くのをこらえたような表情で笑った。
「目的を果たしてからじゃなきゃ泣くのは許してくれない・・・それに・・・」
「それに・・・?」
「俺は目的を果たしたらシンタロウを探しに行く。誰かが探さないと悪いだろ?あいつには家族がいないんだ。」
コウヤは強く言った。
ハクトはそれを聞いて救われたような表情をした。
「・・・・そうだな・・・・」
「なあ、ハクト。お前も優柔不断なやつだとしてもどうして記憶が蘇ってない俺に話してくれなかったんだ?」
コウヤはハクトが自分の親友であったことを黙っていたのを気にしていた。
「サラッと悪口混ぜるな。それに関しては反省しても、し足りないほどだ。」
「俺が混乱するとか思ったからか?」
「お前がムラサメ博士の息子だからだ。」
「父さんか・・・ドールプログラムの開発者だったんだよな。」
「・・・・お前を血眼になって探している奴らがいる。どこにいるかわからないから下手に言い出せなかった。」
「なんだ。優しいなハクトは」
コウヤは茶化すように笑った。
「今だから言えるが、フィーネの中にスパイがいる可能性を考えていた。」
ハクトは真顔だった。
「え」
「俺のお目付け役だ。」
「でも、可能性の話だよな。」
コウヤはハクトが冗談を言っていると思っていた。
「・・・そうだな。」
ハクトは笑っていた。
「なあ、ハクト。お前にお目付け役が付くってどうしてなんだ?」
ハクトは目線を下げた。
「俺の両親が軍に人質として取られているからだ。」
ハクトは白状するように言った。
「人質・・・」
「隠していたわけじゃない。ディアには、この前話したから知っている。」
コウヤは何も言えなかった。
「天」は目前に迫っていた。
軍のシャトルで「天」に来たことで、少し手続きが厄介だったが、無事ドームに入れた。
港は軍人が多く、一般の人よりも目立った。
「何で、こんなに・・・」
リリーは軍人の多さに驚いていた。
「お陰で紛れれる。といっても調べたらすぐに本部にバレるけどな。」
キースは慣れた様子で歩いた。その後ろをソフィが進んだ。
「二人とも「天」に来たことあったんですね。」
モーガンは人波に飲まれないように必死な様子だった。
彼等の後ろに他の乗務員も続いていた。
「俺は、最初は宇宙の任務から始まったからな。」
キースは曖昧な表情で笑った。
「・・・私は、父がここで仕事をしていたから。」
ソフィは淡々と呟いた。それを聞いてリリーは気まずそうな顔をした。
「すみません・・・」
「いえ、いいの。気にすることじゃないから。」
ソフィはリリーに笑いかけた。
どうにか港を抜けて、ドームの市街地に出た。
「くそ・・・・こう広いと迷うな・・・」
見渡してキースは何かを探していた。
「地球のドームよりずっと規模が大きいですね。」
リリーは初めて見る景色に少し感動していた。
「でも、月の方が、土地が少ないから住めるのは結構な金持ちと仕事関係者だけだ。」
キースは辺りを見渡して言った。
「ほらみろよ。軍服以外はだいたい身なりがいい。ここだと地球で見かけたごろつきもいない。いいところだろ?」
キースは両手を広げて言った。
「じゃあ、月出身の人って・・・・」
リリーはソフィをチラリと見た。
「ハクトの含めて裕福だろうな。天下のネイトラルのディア・アスールも一緒だったしな。」
「でも、そうなったのは最近ですよ。制度が整うまでは結構取り締まりに苦労したみたいでしたから。」
ソフィは苦い顔をした。どうやらその時を少し知っているようだ。
「流石最年長!!」
モーガンがソフィをおだてるように言った。
「最年長はハンプス少佐でしょ!!」
ソフィは声を荒げて怒った。モーガンは慌ててリリーの後ろに隠れた。
「でも少佐。私たちはここであてなく歩いていいんですか?」
リリーは目的地がわからないようで困った顔をしていた。
「そうですよ。」
モーガンはリリーの陰に隠れ、ソフィの様子を窺っていた。
キースを先頭にして、後ろを10人近くの男女が連なっていた。
すごく目立つ。しかも全員軍服か作業着。
「あの・・・・これってきっとすぐ軍に見つかるんじゃないでしょうか・・・」
リリーが周りを見渡しながら言うと。
「そのために目立つように動いている。幸い今は目をつけられているハクトは別行動だ。」
キースはさらりと言った。
その発言を聞いた途端全員が沈黙した。
「・・・艦長」
泣き出しそうな声でソフィが呟いた。
「あの人が簡単に死ぬわけないよ。また合流するために俺たちは軍の中にいるべきなんだよ。」
モーガンは何か確信を持っているように言った。
「そうだ。ハクトとロッド中佐のために軍の情報は欲しい。」
そう言うとキースは大きな建物の前で立ち止まった。
「ここは・・・・何ですか?」
「ここか・・・・ここはな・・・」
キースがリリーに答えようとすると
「そこの者!!何者だ!!」
警備らしき軍人が一行を取り囲んだ。
「あらら・・・・」
キースは困ったような素振りをして見せたがその目は冷静そのものであった。
研究施設に無理やり上がり込むと、制止する声を聞かずレイラは白衣の女を探した。
「待ってください!!ヘッセ少尉。博士は・・・」
「困ります。関係者以外・・・」
「私は関係者だ。そちらに数値のデータを渡している張本人だが?」
レイラは阻むように立つ警備を無理やりどかせた。
「止めてよねー。まったく、あなたは普通と違うんだから。警備が自信なくしちゃう。」
白衣の女はレイラがちょうど警備をどかしているところにやってきた。
「来たか。ラッシュ博士だったか?」
「そうよ。そうだ。ここで博士が二人になったのよ。マーズ研究員がね、博士になり・・・」
「わかった。それはいい。」
もったいぶって報告しようとしたところをレイラは止めた。
「そう。あなたが勝手に来ただけだから気を遣わないから。」
ラッシュ博士はタバコを取り出して火をつけた。
レイラは一瞬眉を顰めたが、どうでもいいような表情をした。
「で?」
「私は空に上がる・・・・」
レイラは煙草をふかすラッシュ博士にきつい言い方で言った。
「あら・・・?そうなの?」
「そうだ。どうせ黒い奴はいないのだからな・・・・」
「そうね・・・・あなた、あの戦艦も取り逃がしちゃうものね・・・」
ラッシュ博士はレイラを挑発するように言った。
レイラは汚いものを見るようにラッシュを見下した。
「もし、奴を取り逃がしたことを責めるのであれば、私を空へ飛ばせ。」
レイラの様子を見た彼女は眉を顰めたが、直ぐに挑発するような顔に戻った。
「・・・あら・・・・あなたならこれぐらいで逆上すると思っていたのにね・・・」
「いちいち怒っている気力が余っているのならば全て黒い奴を捜すことに注ぐ。」
そう言うとレイラはラッシュの前を去ろうとした。
「それを言うためだけに来てくれたの?」
「お前にどうせ伝わるのだからな。それに、私の邪魔をするな。」
レイラはラッシュ博士を睨んだ。
「連れて行くの?ロウ君?」
「補佐だから当然だ。」
「彼の身元知っているの?」
ラッシュ博士はレイラを挑発するように見た。
「知っているのか?お前は?」
「知りたいのよ。だって、適合率45%よ。どこで拾ったのか、気になるわ。」
「45%・・・?」
レイラは初耳だった。
「そうよ。頑なに数値を取らせてくれなかったから、てっきりサブドール専門だと思ったのよ。そしたら、ドール訓練を受けていたのよね。」
「知っていても、私が可愛い補佐の情報を言うと思うか?」
レイラはラッシュ博士を見て、不敵に笑った。ラッシュ博士のこめかみがピクリと動いた。
「では、会えたら宇宙で会おう。」
レイラは手を振り歩き出した。
去っていくレイラをラッシュは憎々しげに見て、手に持っていた煙草を握りつぶした。
「強い意志は邪魔でしかないのに・・・・」
研究施設の出口にはシンタロウが立っていた。
「いいのか?なんか細工されるかもしれない。」
心配そうにシンタロウはレイラを見ていた。
「乗るのはシャトルだ。細工をしたら死ぬだろうな。」
「役に立たないボディーガードでもやりますよ。」
シンタロウは拳を差し出した。
「我が軍の兵士4人素手で倒してよく言うな。十分すぎる。」
レイラはシンタロウの拳に拳を合わせた。
「少尉殿には敵わないです。」
「もう敬語で話すな・・・・お前にそう言う言葉づかいをされると孤独感がする。」
レイラはシンタロウの肩を叩いた。
「そうだったな。冗談ぐらいわかれよ。レイラ。」
「私は友人というのがいなかったからな。」
レイラは少し悲しそうに呟いた。
「そうか。まあ、これからどうにでもなるだろ。」
シンタロウはレイラからそっと目を逸らした。
二人は研究施設近くに付けた小型の飛行船に乗り込んだ。
飛行船に乗り込むとレイラはどっしりと一番いい席に座った。どうやら二人だけの様だ。
シンタロウは操舵席についた。どうやらシンタロウが操縦をするようだ。
「さて、シンタロウ。前にも言った通り、宙へ上がる。お前も来い。」
「いいな。俺はずっと地球だったから宇宙に憧れていたんだ。」
珍しくシンタロウは無邪気に目を輝かせた。
「お前がそんな子供らしい目をするとは思わなかった。」
「おいおい、俺は18だ。お前と同い年だ。・・・・って子供らしくないお前と同い年と言っても説得力無いな。」
「子供らしくないとはお前に言われたくない。マーズ研究員の方が、いや、博士になったらしいが、あいつの方が子供らしい。」
「典型的な引きこもり気質だろ。頭がいいが、頭でっかちだ。」
「話したのか?」
レイラがシンタロウのマーズ博士の評価に突っかかった。
「わかるだろ。」
「ラッシュ博士から、お前の適合率を聞いた。どこで訓練していた?何者だ?」
レイラはシンタロウを睨んでいた。
「俺は、ただの18歳の少年だ。お前に危害を加えるつもりはない。」
「ならいい。だが、いつか話してくれるのだろ?」
「約束する。それよりも、お前の手助けをする。」
シンタロウは困った表情をしてマニュアルを取り出した。
「手助け?」
「そうだ。お前の恨む、黒い奴を探すんだろ?」
シンタロウは頭を抱えてマニュアルを見ていた。
「そうだ。・・・・私は黒い奴を捜す・・・・」
シンタロウは微笑んだ。
「レイラ・・・俺はうれしいな。黒い奴を殺すから捜すことに変わった・・・」
レイラは少し顔を赤くした。
「お前が喜ぶことじゃないだろ・・・・」
「そんなことはない・・・・この前も言った通り、お前は以前の俺のような目つきだったからな。」
シンタロウはマニュアルを見て頷いていた。
レイラは遠くを見て微笑んだ。そして、寂しそうに俯いた。
「重なったんだ・・・・」
「重なった?」
「そうだ。重なったんだ。わからないが、私の中であの男が・・・・」
レイラはそこで言葉を止めた。
シンタロウはそれ以上何も聞かず何も言わなかった。
レイラは心の中の優しいクロスを今まで以上に近くに感じていた。
「それよりシンタロウ。お前操舵できるんじゃなかったのか?」
「落ちないようにする。」
「代われ」
1人の作業服の少年は大きな建物の近くで騒いでいる軍人たちを見ていた。
「だから俺たちは地連の軍の人間だって。」
その中で作業着であるモーガンは大声で言っていた。
少年はその集団にそっと近づいた。
警備員らしき軍人は疑い深そうに集団を見ていた。
「お前等の階級はなんだ?」
ソフィとリリーとキースを順に見た。
リリーが意気揚々と答えようとするとキースが手で制した。
「ええっと・・・ほら、俺はキース・ハンプス。少佐だ。」
キースは身分証明書を見せ、軍人の顔を笑顔で見た。
軍人の顔は青くなっていった。
「は・・・ハンプス少佐!!あなたが?・・・・す・・・すいません」
そう言うと軍人は集団から離れた。
「悪いけど軍の施設ってどこにある?」
キースは気さくな雰囲気で訊いた。
「え・・・ええと・・・」
軍人が地図を出して説明しようとすると
「軍人さん。俺が案内しますよ。」
その声に軍人とキースたちは振り向いた。
そこには作業着を着た少年がいた。
「軍人さんはここでお仕事がんばってください。」
「ああ・・・わざわざ悪いな・・・・」
そう言うと警備の軍人は安心したような表情をした。
それを見ていたリリーとソフィは
「ねえモーガン・・・・何であの人安心したような表情しているの?」
と小声で訊いた。
「そりゃあ・・・・階級が少佐の人を相手にするのって気を遣うんだろうな」
「私たち気を遣ってないよね。」
リリーは今までの発言を思い返した。
「最初は気を遣った覚えあるきがするでもないような」
モーガンは曖昧に呟いた。
「わるいな。お前さん名前は?」
キースは作業着の少年を探る様に見ていた。
「ただの市民ですよ。さあ、案内しますよ。」
少年はキースに口元に笑みだけを浮かべてはぐらかした。深く被った帽子で顔は見えないが、いわゆる若者の年齢であるのは分かった。
作業着の少年が歩き出し、それにキースを先頭として歩いた。
キースはさっきまでの気さくな雰囲気を全く持たない表情で少年を見ていた。
「天」に移動した地連軍本部で与えられた部屋は基本的に地球の時と変わらない造りだった。
机と椅子の配置も変えていない。ロッド中佐は椅子に座り、長い足を組んでいた。
「どうやら・・・私は早く死んでほしいと思われているらしいな。」
ロッドは笑いながら書類を投げ捨てた。
イジーは表情を固くしていた。
「こんなことがあっていいのでしょうか・・・・」
「邪魔者だからな・・・・。」
愉快そうに肩を震わせていた。イジーは怒りに肩を震わせている。
「何でそんなに余裕なんですか!!」
イジーはロッド中佐が投げ捨てた書類を拾い上げて彼の前に突きつけた。
「何を言っている?一つの小隊を指揮してゼウス軍と小競り合いするだけだ。」
ロッド中佐は歩き出した。
「中佐!!・・・・なんでそんなに・・・・」
「私を死に追いやることが許されているのはこの世で二人だけだ・・・・」
イジーはその言葉でロッド中佐を睨んだ。
「誰ですか・・・」
「一人は・・・・とある私を恨んでいる者だ。沢山いるがな・・・・そして、もう一人は・・・・」
「もう一人は・・・・」
イジーは息を呑んでロッド中佐を見ていた。
彼はイジーの方を見ていつもの冷ややかな笑みを浮かべた。
「君には関係ないことだ。」
そう言うと、ロッド中佐はイジーから視線を外すように別の方向を見た。
イジーはそんな彼を見て、胸に風が通る寂しさを感じた。
お前さ・・・本当に俺等を案内するつもりなのか?」
キースは目の前にいる作業着の少年に疑問を投げかけた。
「・・・・あなた方と一緒にいたニシハラ大尉とハヤセ二等兵はどうしました?」
少年は深く被った帽子の奥からキースたちを見つめた。
「何で私たちのことを・・・」
リリーは身構えた。
「待てよ・・・・もしかしてあんた、俺等の味方か?」
モーガンは作業着の少年の方に近付いて行った。
「味方?どういうことだ、モーガン」
「少佐たちは知らないでしょうけど、聞いたことがあるんですよ。」
「・・・・私たちが訊いたことのないことであなたが知っていることって何・・?」
ソフィはモーガンに疑惑の目を向けた。
「お前さ・・・・ロッド中佐の影だろ?」
モーガンは作業着の少年に尋ねた。
その言葉に少年はわずかに反応したが、すぐに言葉をつづけた。
「それは関係ないですよ。俺はロッド中佐を助けたい。それに協力する人材が欲しいだけです。」
キースは口を引き締めた。
「なんでそれにハヤセ二等兵が入っているんだ?ニシハラ大尉はわかるがな。」
「戦力としては言うことなしですよ。」
「あいつは死んだ。」
キースは少年に対して威圧的に言った。
「彼が死んだ?・・・・そうですか・・・・」
「なあ・・・今、ロッド中佐は無事なのか?」
モーガンは何かにすがるような表情で言った。
「安心してください。無事ですよ。・・・・ただ、任務を与えられただけで・・・・」
「どこまで俺たちが助けることできるんだ?・・・・それを教えてくれ・・・」
キースはまじめな表情で作業着の少年を見た。
「少佐・・・・とりあえず、あなた方はロッド中佐の隊を援護できる位置に付いてください。」
「でも、どうやって?・・・・私たちは上層部から睨まれている大尉の直属の部下よ。そんなこと許可されるわけないわ。」
ソフィは両手を広げ訴えた。
「そのためには少佐に働いてもらいますよ。・・・あなたならできるはずですよ。ハンプス少佐。」
少年は責めるような目つきでキースを見た。
キースは鋭く睨んだが、すぐに面倒そうな表情をし息を吐いた。
「仕方ねえか・・・・」
そう言うとキースは作業着の少年に近寄った。
「まずは・・・・、お前の名前を教えろ・・・それからだ。」
少年はその言葉に待ってましたと言わんばかりに威勢よく答えた。
「ジャックと言います。」
キースは瞼をピクリと動かした。
「偽名だ・・・・そのくらいわかる。・・・馬鹿にしているのか?」
キースは少年を睨んだ。
「わかりました・・・・ただし、お願いがあります。」
少年はキースを始めとしたメンツの顔を順に確認するように見た。
「名前言うのにお願いされるなんて、物騒だな。」
モーガンは冷やかすように言った。それに対し作業着の少年は睨んだ。
「おーこわこわ・・・」
モーガンはソフィの後ろに隠れた。
「うるさいわよ、モーガン・・・」
ソフィは後ろに隠れたモーガンに呆れた。
「なんだ?」
キースは少年に続きを促した。
「決して口外しないでください・・・・ここのもの以外には誰にも・・・・ニシハラ大尉たちにもですよ・・・」
キースたちは無言でうなずいた。
それを聞いて少年は安心したように息を吐いた。
「俺の名前は・・・・」
少年は周りを気にし、何かを図るように見渡した。そして、大事なことを言うように息を深く吸った。
「クロス・バトリー・・・・」
その言葉を聞いた途端空気が固まった。
キースは無言で少年を見下ろした。