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あやとり  作者: 近江 由
六本の糸〜地球編〜
25/232

かわす

 コウヤ・ハヤセ:

 一般人。何事においてもそつなくこなす器用な人物。主人公

 ハクト・ニシハラ:

 地連の兵士。戦艦フィーネの艦長。階級は大尉

 ユイ・カワカミ:

 コウヤの前に現れた少女。

 レイラ・ヘッセ:

 ゼウス軍の兵士。階級は少尉

 クロス・バトリー:

 イジー、レイラの探し人。コウヤの過去にも大きく関係している人物。

 ディア・アスール:

 中立国指導者。美しく聡明。


 シンタロウ・コウノ:

 コウヤの親友。軍に志願した。訓練所破壊の後、行方不明扱い。現在ゼウス共和国側にいる。

 アリア・スーン:

 コウヤと友達。軍に志願した。


 レスリー・ディ・ロッド:

 地連の中佐。冷酷で最強で世界一の軍人と呼ばれる。

 キース・ハンプス:

 コウヤを助けてくれた男性。階級は少佐。

 イジー・ルーカス:

 レスリーの補佐。階級は中尉。

 リリー・ゴートン:

 ハクトの部下。階級は曹長。

 モーガン・モリス:

 フィーネの機械整備士。気さくな少年。

 ソフィ・リード:

 戦艦フィーネの副艦長。階級は准尉。

 レイモンド・ウィンクラー:

 地連の大将。ほぼ隠居状態。ロッド中佐の後ろ盾だった。


 テイリー・ベリ:

 ディアの補佐であり、彼女に忠誠を誓っている。地連軍のことをよく思っていない。


 マウンダー・マーズ:

 ゼウス共和国の生んだ天才と名高い若き研究者であり医者。ダルトンの兄。通称マックスと呼ばれる。ラッシュ博士の助手をしている。

 ラッシュ博士:

 ゼウス共和国のドール研究を仕切っている謎の女。


 ギンジ・カワカミ:

 カワカミ博士。ドールプログラムの開発者の一人。現在行方不明。

 マリー・ロッド:

 レスリーの母親。息子想いの優しい貴婦人。


 ユッタ・バトリー:

 幼いころのイジーの親友。クロスの妹。「天」に避難していた。

 シンヤ・ムラサメ:

 ムラサメ博士。ドールプログラムの開発者の一人。「希望」破壊時に死亡。

 ロバート・ヘッセ:

 ゼウス共和国のトップ。ヘッセ総統。ロッド中佐に殺害される。

 ジュン・キダ:

 ゼウス共和国の若き兵士。ロッド中佐によって殺害される。

 ダルトン・マーズ:

 ゼウス共和国の若き兵士。マウンダー・マーズの弟。ロッド中佐によって殺害される。

 グスタフ・トロッタ:

 第6ドームの訓練施設に関係している研究者。訓練施設の教官に殺害される。




 体中が痛かった。

 でも、暖かい何かに触れていた。

 相変わらず瞼は重かったが、閉じたままでいるのは何か怖かった。

 恐る恐る瞼を開くとそこには見覚えのある天井があった。

「・・・・ここは・・・・俺は夢を見ているのか・・・・」

 ハクトは何度も見たことのある風景を見渡した。

 だが、痛む体が今までは夢ではないと告げた。

「どうだ?・・・・体は大丈夫か?」

 そして、夢でないということがさらにわかった。

「・・・ディア、何で俺はここに・・・・」

 ハクトはフィーネが宇宙に上がったと思っていた。

「どうやら、君の戦艦の乗組員たちは戦艦を残してシャトルのみで飛び立ったようだ。」

 ディアは疲れを浮かべながらも微笑んでいた。

「・・・あの後一体何が・・・・・」

「君は2回同じ思い違いをしていたということだよ。」

 そう言うとディアは誰かを部屋に招き入れた。

 見覚えのある・・・・いや、忘れるはずのない少年だ。

「・・・・お前・・・」

 ハクトは声を震わせた。

「なんて顔しているんだ?」

 少年は笑った。

「生きていたのか・・・・コウ」

「簡単に死んでたまるかよ。」

 死んだと思っていたコウヤが自分の目の前にいた。

「そうだな。簡単に死ぬなよ。」

 涙ぐみそうになったハクトを見てコウヤは楽しそうに笑った。

「そうだ。コウがお前に話があるようだ。」

 ディアは意地の悪い目をコウヤに向けていた。

「え?今?」

 コウヤは慌てた表情をして、何やら躊躇っている。


「今に決まっているだろ?さあ。」

 ディアはコウヤの頭を掴みハクトの前に差し出した。

 コウヤは困った顔をしたが、差し出されたハクトも困った。

「何だこれは?」

 ハクトはディアでなくコウヤを睨んだ。

 コウヤはそっと床に手をついて

「ごめんなさい!!ハクト!!」

 土下座をした。


「は?」

「いや、俺お前に沢山嫌なことを言っただろ?しかも嫌な奴になって、お前艦長なのに全然立場を考えなくて・・・」

 コウヤは機嫌を窺うときのようにハクトをそっと見た。

 ハクトは顔を覆って、肩を震わせていた。

「おい、ハクト?まさか感動して泣いたか?」

 コウヤが立ち上がり、ハクトに近寄ると


「いい気分だ。コウ。」

 顔を覆う手をずらすと、ハクトは肩を震わせて笑っていた。

「お前、笑いながら俺の土下座を見ていたのか?」

「土下座に対する態度などされる側は決まっていないだろ?だいたいもっともだ。いいだけ俺を困らせて、どれだけ胃が痛かったか、知っているか?上には変な圧力かけられるし、下の部下は聞かん坊だし、変な任務ばかりだし・・・・お前は死ぬし。」

 コウヤはハクトの顔を見た。

「悪かった。」

 コウヤは頭を下げた。

「・・・もう死ぬなよ。」

「死んでない。」

「約束しろ。」

 ハクトはコウヤの頭を叩いた。


「・・・分かっているって。」

 コウヤは照れたように笑い、ふと部屋の隅に立つディアを見た。

 ディアは嬉しそうにその様子を見ていた。




 コウヤは慣れた様子で医務室の棚をあさっていた。

「そういえば、お前はここの常連か?」

 ハクトは思い出したように呟いた。

「そこまでじゃないって。俺は基本的に本部とか施設の整っている場所に運び込まれていた。」

「担架の常連だったな。」

「いつもモーガンが運んでいた気がした。」

「ああ、あいつは基本的に格納庫にいるからな。たまに操舵室にも来るが」

 フィーネでの気まずさが嘘のように二人の会話はかみ合った。

「だが、お前が助けに来たというのがぴんと来ない。ディアは相当なドール使いだ。対してお前は・・・まあまあの」

 ハクトは首を傾げてコウヤを見た。

「遠慮が無くなったらいいだけ言いやがって・・・けど、事実だ。俺はお前たちには劣るよ。」

 コウヤは口を尖らせた。

「彼がいなければ私はあの黒銀のドールを殺していた。」

 ディアは苦笑しながら二人に近寄った。

「殺すだと・・・・?」

「ああ・・・・どうやらドールにはまだ解明されていないプログラムが搭載されているようであった。下手に頭に血を上らせるとプログラムに操られる。」

 ディアは自嘲的に笑った。

「頭に血が上るって・・・・なんで?」

 ハクトはディアの頭に血が上ることが想像できなかった。

「君があんなに傷ついたのを見てしまったからかな・・・ブチ切れて大暴れだ。」

 ディアは照れもせずに言った。

「惚気るのはいいけど俺もハクトに謝罪以外のことで話したいことがある。」

 コウヤは呆れるように二人を見ていた。

「の・・・・惚気って・・・」

 ハクトは顔を真っ赤にした。

「お前はディアが絡むと昔からガキだな。」

 コウヤは笑った。

「純粋なのだよ。変わらない。」

 ディアは悪戯っぽく笑った。

「お前はハクトが絡むと本当に悪魔だな。」

「その様子を見るとかなり思い出したようだな。前会ったときは他人行儀で落ち着かなかったぞ。」

 ディアはコウヤを笑顔で見た。

「1部思い出せないところもあるけどお前たちのことは思い出した。」

 コウヤは表情を変えた。

「何やら真剣な話か・・・」

 ハクトは体を起き上がらせた。

「ああ・・・・これからのことでお願いがある・・・・」

 コウヤはハクトの方を真っ直ぐ見た。

「まずは、宇宙に上がりたい。」

「それなら安心しろ。この戦艦を残ったシャトルに接続すれば打ち上げられる。」

「そっか・・・・他の人たちは・・・・?」

 コウヤは戦艦の中に自分たちしかいないことを気にしていた。

「他のみんなはシャトルで宇宙に上がった。」

「・・・・それを護るために戦っていたのか・・・」

「・・・そうだ・・・もう時間がないからな。」


 ハクトは自分が軍本部で見たものを話した。

「・・・・ロッド中佐殿の暗殺計画か・・・・」

 ディアが考え込むように言った。

「考えてみればもっと早くに上がってもおかしくなかったな。」

 納得したように頷いてディアはコウヤとハクトを見た。

「なんでだ?中佐は強い戦士だぞ。」

 コウヤが首を傾げた。実際に強さを目の当たりにしたコウヤは中佐に対しての感覚が麻痺しているようだった。

「強すぎる。噂が全て本当なら、私の目から見ても彼は異常だ。味方にいれば安心するが、彼は掴みどころのない存在だろう。私も一度あったが何を考えているのかわからなかった。」

「会ったことあるのか・・・?」

 ハクトは引っかかるような表情をした。

「ああ、だがこれ以上は何も言えない。とりあえず密会のような形だからな。」

「・・・・俺もロッド中佐の暗殺を止めるためにここに来た。」


 コウヤはレイモンドによって助けられたことを話した。

「あの人がか・・・・・」

 ハクトは本人を知っているようで驚いていた。

 ディアは考え込むようにしていた。

「レイモンド・ウィンクラーだと?・・・現地連総統の兄だぞ?」

「え?」

 コウヤは知らなかったため変な声を上げた。

「そうだ。だが、兄弟仲は悪いはずだから、ディアが気にするようなことは無いと思う。」

 ハクトは内部のことだから多少は詳しいようだ。

「そうだな。それは有名だが、コウ。少し気をつけたらいい。その男について私もいくつか話を聞いたことがあるが、典型的な軍人だということばかりだ。お前が言うような穏やかな紳士ではない。」

「それって、何かを偽っているってことか?」

 コウヤはハクトとディアを頼る様に見た。

「わからない。だが、あの人のお陰で助かったのなら、感謝しないとな。」

 ハクトはディアを窘める様に見た。

「そうだが、何か起こってからだと遅い。用心しろよ。・・・さて、・・・・戦艦を宇宙に上げたいのだな・・・」

 ディアはコウヤとハクトを順に見た。

「ああ・・・・」

「そうだ。」

 二人は頷いた。


「では、ささやかなお礼だ・・・私の船団を呼んで手伝わせる。」

 ディアは無線機らしきものを取り出した。

「・・・それは・・・?」

「単なる連絡手段だ。これで私の船を呼ぶ。」

「お礼・・・って・・・なんの・・・」

「助けるつもりだったが助けられたからな・・・・・」

 ディアはコウヤを見て笑った。



 

「なんらかんら言って、結局今回の任務、中佐は楽しそうでしたね。」

 イジーはロッド中佐に笑顔を見せた。

「全力で相手をしないと悪いからな・・・・」

 ロッド中佐は乱れた服を直しながら言った。若干疲れて様子があった。

「あとは帰って報告ですね」

 イジーは書類と睨めっこすることを考えていた。

「・・・・無事に帰れればいい、そう言ったはずだ。」

 ロッド中佐は緊張感を持って言った。

「あ・・・そうでした。」

 イジーも緊張した。

 腰に掛けている銃の弾を確認した。

「運転は君に任せる。敵は私が追い払おう。」

 ロッド中佐は腰に掛けている銃でなく手袋の方を気にした。

「・・・素手で戦うつもりですか?」

 イジーは呆れたように言った。

「気合を入れているんだよ。」

 ロッド中佐は口にだけ笑みを浮かべて車に向かって行った。

「・・・・中佐・・・・」

 イジーは唐突にロッド中佐を呼び止めた。

「・・・どうした?」

 ロッド中佐はいつもと変わらない表情でイジーを見ていた。

「・・・・あの、楽しかったです。」

 イジーは自分でもわけのわからないことを言っていた。

「どうした?熱でもあるのか?」

 ロッド中佐は心配するようなことを言いながらも口は笑っていた。

「・・・・いえ、もしかしたらこの後死ぬかもしれないと考えて・・・・」

 とイジーは自分でもわからないのに言い訳を作って言った・

「君は死なないさ・・・・。」

 ロッド中佐はイジーに諭すように言った。

 イジーは不思議な気分になった。まさかこの前問い詰めた人物にこんなことを言われるなんて。

 だが、うれしかった。

「・・・・・中佐ってなんかずるいですね。」

 イジーは複雑な心境だった。ロッド中佐は少し困ったような素振りをした。いつもの嘘くさい演技のような動きだ。

「帰りましょう。」

 イジーは車に乗った。ロッド中佐も続くように乗った。

 エンジンをかけて周りを注意深く見た。

「車に仕掛けはされていないようだな・・・・さすがに軍の基地の中の事故は嫌なのだろうな・・・・・」

 ロッド中佐はイジーに耳打ちした。イジーは少し照れた気分になった。

「・・・・はい・・」

 車は進みだした。

 イジーはバックミラーからロッド中佐をのぞき見た。

 ロッド中佐は何かを考えているようであったが不思議と隙を感じられなかった。

 この人は本当に不思議だ。




 テイリーは苛立っていた。

 いきなりいなくなったと思ったら急に呼び出されて気に入らない奴のために働かせられているのだからだ。

「・・・・総裁も何でこんなに」

 とぶつぶつ言いながら歩いていた。

 とりあえず頼まれた衛生兵と機械整備士を数人とシャトル取付けのための備品を全部乗せて来た。

 あとは一人の少女の引き取りだ。

 テイリーはディアがいるであろう部屋の前にいた。

 入るのに少し勇気が必要だった。

 《・・・・総裁はあいつとこの部屋に二人きり》

 そう考えただけでノックをしようとした手が震えた。きっと女兄弟が部屋に彼氏を連れ込んだらこんな心境なのだろう。

 息を呑み、手をドアの前に構えたところ

「いつまでそこに立っているつもりだ?」

 部屋の中から男の声が聞えた。

 《あいつだ・・・》

 テイリーは一瞬嫌な顔をしたがすぐに表情を戻し部屋に入った。

「失礼します。・・・・いえ・・・ただ、ちょっと・・・」

 と言葉を濁しながら二人の様子を見た。

 特に変わったところがなかったがディアが笑っていた。

「・・・・君は本当に考えの深さだけは私の想像を超えているな。」

 と言っていた。考えていることはばれていた。

 少し恥ずかしい気持ちになったがテイリーはそんなことでは動じなかった。

「・・・・総裁、明日にはこの戦艦は宇宙に飛び立てますよ。」

 言われたことを無視した。

「そうか・・・・ありがとう。」

 ディアは心底安心したようであった。

 《仕事でもこんな顔しないのに》

 内心ふてくされた。尊敬する若い指導者が見せる素顔が他人に向けられているのだからだ。

「では・・・君たちが飛び立つ前に私たちは退散しようか・・・」

 と言いディアは歩き出した。

 その様子をテイリーは驚いてみた。

「えっ・・・・退散って・・・」

「やっぱりそう来るか・・・次会うのは宇宙か・・・」

 とテイリーとは対照的にわかりきっていたようにハクトは言った。

 テイリーは悔しくなった。

 《・・・こいつなんで余裕なんだよ・・・》

「そうだな・・・では、ロッド中佐を救ってくれ。」

 ディアは相変わらず笑みを浮かべていた。

「コウには挨拶して行かないのか?」

 ハクトは部屋から出かけたディアに言った。

 ディアは呆れたような表情をした。

「する必要はないだろ?・・・・どうせ、また会うのだからな。」

 《そのくせハクトさんにはするんですね・・・・》

 テイリーは心の中で突っ込んだ。

「テイリー・・・・考えていることは想像がつくぞ」

 どこか恐ろしさを含めた笑顔でディアは威圧的な声で言った。


 部屋から出るとディアはテイリーに手を差し出した。

「本国に連絡する。何の見返りもなしに船団を呼ばせることはできない。」

 ディアは鋭い目を向けていた。

 テイリーは連絡用の端末を取り出し、ディアに渡した。

「感謝する。」

 ディアは端末を歩きながら操作した。

「歩きながらは危険ですよ。」

「テイリー。お前、レイモンド・ウィンクラーは知っているか?」

 ディアの問いにテイリーの顔色が変わった。

「何で、その名前が・・・」

「コウを助けてくれた人物だ。これは早めに本国に連絡した方がいいだろ?」

 ディアは立ち止まり、操作を再開した。

「・・・もしもし、私です。ディアです。船団の件、ありがとうございます。・・・ええ。少し耳に入れていただきたいことが・・・」

 ディアは連絡先に繋がったのか、端末に話しかけていた。

 そのディアの横でテイリーは眉間にしわを寄せて、眉と目がくっつくほど険しい表情をしていた。

「・・・・レイモンド・ウィンクラー・・・」




「破壊的な衝動が自分にあるのか?私はなぜ・・・・」

 レイラは頭を抱えていた。

 しつこく響く頭痛はレイラに落ち着いた思考の時間すら与えなかった。

 撤退しても続くそれに、レイラは参り始めていた。

「原因はドールですよ・・・・」

 シンタロウは立ち聞きしてしまったことをすべて話した。

 その話を聞いたレイラは取り乱すわけでも無く静かになった。

「・・・どうかした?」

 シンタロウはレイラが急に黙ったことに違和感を覚えた。

「いや・・・・我ながら愚かだな・・・と考えてしまった。」

 レイラは自嘲的に笑った。

「・・・では・・・これからはあのドールには乗らないで・・・」

「それはできない。」

 レイラはきっぱりと言った。

「えっ?・・・・何でですか?原因がわかっているのにそれに向かって行くのですか・・・」

 シンタロウは無謀としか思えなかった。

「・・・・ここで放棄することは逃げを意味する。私はそんな軟弱なものではない。」

 レイラは自分に言い聞かせるように言った。

「お前は馬鹿だ。なんで・・・・」

 シンタロウはレイラの肩を掴んだ。

「意識を強く持とう。・・・・お前にも協力してほしい・・・・」

 レイラは何か別の誰かを見ているようにシンタロウを見ていた。

「どんなに呼びかけても俺には止められなかった。なのにまだ俺に止められるのか?」

 シンタロウはレイラに敬語を使うのをやめた。

 レイラは真っ直ぐにシンタロウを見ていた。

 だが、シンタロウに誰かを重ねているようであった。

「それはいいが・・・・どうしてそこまで・・・・仇を討ちたいからか?」

「わからない・・・・ただ、あの男と同じ場所に立ちたい・・・・そうでなくては仇など夢のまた夢だ。」

 レイラは何かを悟ったようであった。

「・・・・なにか掴んだのか?・・・・前よりずっと穏やかな顔をしている。」

 シンタロウはレイラを見て微笑んだ。

「お前はどうして私にここまでよく接してくれるんだ?友人の為というのもあるだろうが、思惑があるにしては好意的過ぎる。」

 レイラの問いにシンタロウは困ったような顔をした。

「最初に会ったとき・・・お前は以前の俺だった・・・・」

「私が?」

「そうだ・・・・仇のために目をギラギラさせていた。」

 吐き気のする訓練を思い出した。それを潜り抜けた先にあったものもだ。

「お前はゼウス軍が憎いのか・・・・」

「俺は知ったんだ。自分が敵討ちについて後悔してしまったことも、何かを知ったら、知る前には戻れない。・・・それに、俺は敵を見極めたい。そのためにギラギラした目は、視界を曇らせる。」

 レイラは熱を込めて言うシンタロウを見て笑った。

 それを見たシンタロウも笑った。

「お前・・・笑った方がいいぞ。せっかくに美人が台無しだ。」

「誉め言葉と受け取っておこう。」

 レイラは優しく微笑んだ。




 ハンドルを握る手が脈打つのがよくわかる。外の景色を気にかけながら運転に集中した。

「ルーカス君・・・・心の準備をしろ・・・・」

 ロッド中佐の声が聞えた。

 その声と同時に体が縮むような気がした。窓の外には黒い影があった。

 ロッド中佐はドアを蹴破った。

「ルーカス君車から出ろ。道脇の芝生めがけて降りろ。」

 そう言うとロッド中佐は横を走っている車を蹴とばした。

 イジーはハンドルから手を離し外に身を投げ出した。外に飛び出たイジーの目には信じられない光景が広がっていた。

 ロッド中佐が蹴とばしたのか横を走っていた車は横転していた。

「中佐が・・・・これを・・・」

 イジーは、どんな脚力をしてるんだ?と内心思いながら光景を見るのに夢中で自分が地面に叩きつけられることを忘れていた。

「君は馬鹿か?」

 余裕そうな声が聞えた。イジーは気が付いた。

 《やばい・・・受け身が・・・・》と受け身を取ろうとした

 間に合わなかった。怪我を覚悟した。

 だが、何やらクッションがあったようで少しの衝撃で済んだ。

 無事、車から降りて、芝生のところにいる。イジーは周りを見渡した。

「・・・・中佐・・・・」

 周りを見渡してもロッド中佐の姿が見えなかった。

「・・・・そんな・・・・中佐・・・・中佐・・・・」

 イジーは自分の鼓動が早くなるのを感じていた。それと同時に苦しいほどの寂しさが襲った。


「・・・・・ここにいる・・・・」

 その声はイジーのすぐ近くでしていた。

 そう・・・・彼女の下で

「ちゅ・・・中佐!?」

 イジーは驚いて飛び上がった。

「・・・・全く油断するな。」

 ロッド中佐は少し恨めし気に言った。

「・・・あ・・・・ありがとうございます。」

「まだこれで終わりではない。気を抜くな。」

 ロッド中佐は気を引き締めるように言った。

「は・・・・はい!!」

 物音がした。

 横転した車から何やら数人の屈強そうな男が出てきた。

 片手には大きな銃を握っていた。

 何も言わずに銃口をロッド中佐に向けた。

 イジーは急いで銃を構えようとした。

 腰に付けていた銃がなかった。

「え・・・そんな・・・」

「伏せろ。」

 相変わらず冷静な声だった。

 その声に従い伏せるときイジーはロッド中佐が自分の銃を持っていることに気づいた。

 車から出てきた屈強そうな男は引き金を引いた。

 ズドーン

 銃声が響いた。

「中佐―――!!」

 イジーは声を上げた。

 ロッドは空を舞っていた。冷静でないイジーには撃たれてしまって空を舞っているのか自分から飛び上がったのかわからなかった。

「軍もなかなかひどいことをするな・・・・」

 銃声が2発した。

 ロッド中佐が上空から撃ったようだ。それと同時くらいに屈強そうな男は倒れた。

「容赦なく私を殺すつもりか・・・・」

 彼は自分の意志で空を舞っていたようであった。

 地面に着地するとまだ倒れていない屈強そうな男に走って向かって行った。

 男はロッドに銃口を向けて

「化け物!!!」

 と叫んで引き金を夢中で引いた。

 ロッドは表情を変えずに近づく速度を落とさずに避けた。イジーはその様子に見とれた。

 そして、子供と遊ぶように屈強な男を持ち上げた。

 ロッドの細身からは信じられないほどの力だ。銃を持つ手を捻り上げられて、男は銃を撃てない。

「私は命を軍に狙われるようなことはしていないはずだ。・・・・・黒幕は誰だ?」

 ロッド中佐は口に笑みを浮かべたまま言った。

「・・・・ば・・・・化け物・・・・」

 男はそう言うと何も話さなくなった。

「・・・・毒を仕込んでいたか・・・・」

 ロッド中佐は苦々しそうに言い男を投げ捨てた。

「大丈夫だったか?ルーカス君」

 ロッド中佐はいつもと変わらない表情でイジーの方を見た。

 イジーはうれしくなり、彼に走り寄った。

 ロッド中佐は少し困惑したようであった。

「中佐・・・・よかった・・・・」

 本心で言っていた。

「君はおかしいな・・・・どうした?」

 ロッド中佐はイジーの頭を撫でた。

「・・・・いえ・・・・帰りましょう・・・・」

 イジーは真っ直ぐロッド中佐を見ていた。

 ロッド中佐は困ったように笑った。

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