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あやとり  作者: 近江 由
~糸から外れて~流れ続ける因
207/232

誤算

 

 鉄の塊となった戦艦にレイモンドは乗っていた。

 軍本部の建物の上に設置し、その後ドールプログラムを遮断したのだ。


 建物にはいくつかの時代遅れの砲台が置かれ、これからくる敵の位置を把握しているようだ。

 戦艦内は、モニターでなく強化ガラスの窓で外を把握する。

 モニターに慣れてしまった若者には状況を把握する材料が少なすぎる。


 だが、レイモンドは違う。


「…言われた通り…流せ。」

 レイモンドは窓の外の何も変化が見えない天井を見上げて言った。


「は!!」

 部下はそれの返事をし、また時代遅れな無線で持ち場のものに指示をした。


「そして、私の言うとおりに砲台を放て。」

 レイモンドは双眼鏡を取り出し、窓の向こうを見た。


 天井に揺れが見えた。


「…ドールを止めることは不可能だ。」

 レイモンドは通信機ではなく、拡声器を持ち上げた。


 ゴゴゴゴ…

 轟音を立て、天井が崩れ始めた。

 鉄やコンクリートの塊がパラパラとドーム内に落下する。


 ヒビが綺麗に入り、お菓子の生地の型を抜くように、綺麗に崩落を始めた。


「撃て!!」

 レイモンドは今度は無線を持ち、戦艦内に響き渡る声で言った。


 その声に遅れ、ドン…とドームの地面から、続々と砲台が弾を放った。

 光景に遅れ、続々とドン…ドン…と音が響く。


「空気流を全開にしろ。」

 レイモンドは弾の行方を見ずに命じた。彼は目を閉じて音を聞いている。


 レイモンドの指示通り、空気は火薬の粉など不純物を含めドーム内に流れ始めた。


 その排出先は、ヒビが入り、崩落を始めた場所だ。


「…戦艦が先か…」

 レイモンドは眼を開き、拡声器を置いて無線を口元に持ち上げ、双眼鏡を空いている片手で持ち覗いた。


 微かによどんだ空気の中から真っ白な円盤のような機影が見えた。

 おそらく敵の戦艦だ。


「…一隻の訳ないが…、A地点爆破!!」

 レイモンドは戦艦を確認し、無線にまた叫ぶように言った。

 その声に反応し、少し遅れて戦艦の真下の部分で爆発が起こった。

 爆風が戦艦にかかるが、もちろん大したダメージはない。むしろただの風のようだ。


「粉を撃て。」

 レイモンドはその爆風を確認する前に言い放った。

 それに遅れ、先ほどと同じように大砲から弾が放たれた。

 だが、何か違った。


 着弾したときに巻き上げたのは、もちろん黒い煙だが…白い煙にも見える。


「さあ、吸い上げろ。」

 レイモンドは戦艦を見ながら口を歪めて笑った。




 


 軍本部に突入した戦艦にはナイトが乗っていた。その後ろには数隻の戦艦が続いている。

 どれも性能は高いが、中でもナイトが乗るものが一番高い。


 そのナイトは操舵室のモニターに映し出された光景に顔を歪めた。


「…誰の入れ知恵かわからないが…崩落を押さえる…か。まあ、このくらいは当然か。」

 ナイトはあっけなく壊れたドームの天井を見て呟いた。


「だが、ドールプログラムを全部落としているのは…賢いが愚かかわからないが…」

 顎に手を添えて考え込むように呟いた。


 ゴオオオン

 と轟音が戦艦に響き、わずかに振動が走った。


「ほう…中々クラシカルな物を使っている。」

 ナイトは口を歪めて笑みを浮かべた。


 《おい…、この戦艦の動力制御に大きい負担がかかっている》

 ナイトにだけ聞こえる声が警告するように言った。


「…負担…。この淀みか…」

 ナイトはモニターに映る光栄に目を細めて言った。

 モニターは画質が悪いのではないかというほど白く霞んでいる。


「アスール様!!この大砲の弾…普通のじゃないです。」

 何かに気付いたオペレーターが困惑した声を上げた。


「そうだろう。だが、この戦艦はびくとも…」


 ゴオン

 と床に振動が走った。

 今度は直下で爆発が起きたらしい。


「また、的外れな…」

 ナイトは振動にやや苛立つように呟いた。


「ドールは?」

 ナイトはモニターを見ながらこめかみに手を当てて尋ねた。


「ええ…」

 尋ねられたと思ったオペレータは自身の受け持つ機械のモニターを探る様に見た。


「作業に集中してくれ。君ではない。」

 ナイトはそれを片目を開けて見て言った。

 その言葉に終えたオペレータは慌てて頷いた。


 《ドームの外を回っている。どうやらネットワークが無いから警戒しているようだ。》

 返ってきた声はナイトにしか聞こえない。


「…まあ、狙うものは変わらない。砲撃用意。」

 ナイトはモニターに映るドームの中心にある、ひと際存在感のある建物に目を向けて言った。

 その上部には、何やら不自然な物体が見えた。

「…あんな所に…戦艦か?」

 ナイトは目を細め呟いた。


 ガタン…


 と戦艦が急に沈んだ。

「!?」

 ナイトは警戒するようにモニターを見た。だが、変化が見えなかった。


「一体…」

 オペレータたちも混乱しているようだ。


 ナイトたちの戦艦に続いて他の戦艦も破壊された天井から入ってきた。


 それを察したのか、砲台から先ほどと同じように白い煙らしきものを発する弾が飛んできた。


「とっととねら…」

 ナイトは指示をしようとした。

 だが、光景に目を見開いた。


「な…何かが砲撃の障害になっているようです。」

 慌てた様子のオペレータは言った。


「何か…とっとと処理させろ。」

 ナイトは圧倒的に有利なのに訳の分からない感覚に苛まれていた。

 ないか得体の知れない者…ではない。


 とても厄介な存在がいる気する。


「…逃げていないのか…」

 ナイトは舌打ち混じりに呟いた。


「な…、何ですか?急に…」

 オペレータは慌てた様子で何やら驚いていた。

 ナイトもそれが気になり、モニターに目を向けた。


 ドームがプログラムを落としているため、全く何がされているのかが分からないのだ。

 どうせなら、砲台の位置は把握しても人がどこにいるのかもわからない。



「あ…雨が降らされています。」


「雨…?」

 ナイトは訳が分からないため、素っ頓狂な声を上げた。

 だが、モニターを見た時…ふと何かに気付いた。


 あの戦艦、中に人がいる。


 建物の上にある戦艦に目を向けてナイトは言った。


「砲撃準備に入り…」

 オペレータが言おうとしたとき…


 グラ…と、戦艦が揺れた。


「何かが…戦艦に入り込んでいます。…砲台の砲口に…何かが…」


「戦場でも問題なく動くというのに、何が…」

 ナイトは苛立たし気に言った。


「一部のモニターに何かが張り付いて…」


「…張り付く…」

 ナイトは眉をピクリとさせた。


『…お前の言った通り、古典的な手のようだが…』

 ナイトにだけ聞こえる声が、響いた。


『あそこにいる奴は、ネットワークが無くても、手ごわそうだ。』

 ナイトはその言葉に目をモニターに向ける。


「砲口に不純物があります!!砲撃で焼き払おうとしましたが、奥まで入り込み調整が直ぐにできません。」

 オペレータは慌てた声を上げた。


「ならば、他の戦艦に…」

 ナイトはこめかみに手を当てて眉をひそめた。


 何かを察し、舌打ちをした。

「…この戦艦が一番まし…か。」

 恨みがましそうに顔を歪めた。


「正面の戦艦の砲台が動きました!!」

 オペレータはまた慌てた様子で言った。

 この戦艦に乗る者、得体の知れない何かによって戦艦が蝕まれている気がして不気味に感じている。


 そんな中、明確な目に見える砲台の動きは安心でもあったが、脅威でもあった。


 ゴオオオオ

 と戦艦からレーザー砲のエネルギー充填が見られた。


「動力を切れ!!」

 ナイトはこめかみに手を当てて、慌てて言った。

 その途端、戦艦はさらに急下降をした。



 ゴオオン

 丁度上空にレーザーが放たれ、続いていた戦艦に直撃した。



「く…」

 ナイトは顔を顰めた。

 咄嗟に自分の頭の機械を使い遠隔操作を無理やりやったため、負荷が大きいのだ。


「…あの戦艦には…誰がいる!!」

 ナイトは頭痛に顔を顰めながら、怒鳴る様に尋ねた。


 モニターは、建物の上の戦艦をズームしていく。

 ドールプログラムが機能していないため、通信も繋がらない。だが、操舵室はガラス張りのようだ。


 そこから辺りを見て、指示をして居る。


「…っ…」

 ナイトはその姿を確認すると、口を歪め歯を食いしばった。


「警告はしたはずだ……レイモンドオオオオ」

 そこにいたのは、真っすぐこの戦艦を見つめる、昔なじみの男だった。

 その男の名をナイトは苛立たし気に恨みがましく叫んだ。




 



 その建物の上の戦艦には、レイモンドが双眼鏡を覗いて様子を見ていた。


「お…当たったか。だが、いささか狙いが悪いな。」

 レイモンドは手で砲台の操作盤を動かしながら言った。


「あれだったら、避けていなかったら、ナイトが死んでいた。」

 レイモンドは顎に手を当てて頷きながら言った。


 その様子を、戦艦に乗る部下たちはキラキラした目で見ている。


「気を緩めるな。まだ一番の厄介者…ドールが居る。」

 レイモンドは後ろにいる部下たちを見ずに言った。


「そいつは…火薬や砂糖の空気も小麦粉の砲弾も…小細工は効かない。」

 レイモンドは警戒した様子で双眼鏡を取り出し、覗き込んだ。


「総統…その、そんな相手にどう戦うんですか?」

 困ったような様子で部下たちは尋ねた。


「何のために町や建物に人を、命がけで兵士を配置させていると思っている。」

 レイモンドは歩き出し、紙の地図を取り出した。


「建物を崩して、時間を稼ぐ。」

 レイモンドはそう言うと、再び双眼鏡を覗き込んだ。


「起動までの時間は稼げたが、まだ動く。他にも戦艦が構えているかもしないが、向こうはこちらの攻撃が何によるものだか把握していない。」

 レイモンドは双眼鏡で急降下した戦艦を見て言った。

 その戦艦は円盤のような形をして居る。

 今はやや故障したような震えを見せえて動き始めている。


「…だが、お前が乗る戦艦がどれだか…わかった。」

 レイモンドは口を歪めて笑った。

 その顔は好戦的で、普段の温厚さもなかった。



登場人物


リコウ・ヤクシジ:

第三ドームの第四区の大学に所属する学生。ドールプログラムが専門。


コウヤ・ハヤセ:

リコウの先輩。「フィーネの戦士」の一人で、圧倒的な適合率を持っている。


マウンダー・マーズ:

ドールプログラム研究において現在のトップ。「フィーネの戦士」の一人。「マックス」が愛称。


シンタロウ・ウィンクラー:

地連の少佐。「フィーネの戦士」の一人であり、現在の地連にて最強といわれている。コウヤとアリアとは親友であるらしい。


アリア・スーン:

ユイと行動を共にする女性。「フィーネの戦士」ではないが、関係者。コウヤとシンタロウと過去はあるが親友。


イジー・ルーカス:

地連の中尉。「フィーネの戦士」の一人。シンタロウの精神的主柱。アズマたちに連れ去られる。


ユイ・カワカミ:

リコウ達の乗る戦艦に保護される。「フィーネの戦士」の一人。コウヤとは恋仲だが、アリアとの方が仲がいい。


ジュリオ・ドレイク:

従軍経験のある学生。標準的に「フィーネの戦士」を尊敬している。正義感が強い。


カルム・ニ・マリク:

月所属の地連軍の人間。大佐。殲滅作戦の犠牲者に深く関わっている。テイリーの元上官。


オクシア・バティ:

第三ドームの学生。殲滅作戦の犠牲者であるカズキ・マツの甥。叔父の影を追っている。


ミゲル・ウィンクラー:

シンタロウの部下で、彼の艦長をする戦艦の副艦長。階級は准尉。同じウィンクラー姓であるため、ファーストネーム呼びが多い。血縁関係はない。そして、名前も大して知られていない。


ゲイリー・ハセ・ハワード:

地球所属の地連軍の大尉。マリク大佐と同じく艦長をする戦艦をテロリストによって壊滅させられる。元々ウィンクラー親子と対立派の立場。



レイモンド・ウィンクラー:

現在の地連軍のトップで総統。「フィーネの戦士」ではないが、作戦の責任者であった。


テイリー・ベリ

ネイトラルの情報局のトップ。フィーネの戦士との接点が多く、作戦に関係していた。それ以前は元地連の大尉であり、殲滅作戦でいとこを亡くし地連から離れた。



ハクト・ニシハラ:

元地連大尉で「フィーネの戦士」の一人。ディアとは婚約関係。


ディア・アスール:

ナイト・アスールの娘。「フィーネの戦士」の一人。母親について何か秘密があるらしい。ハクトとは婚約関係。


レイラ・ヘッセ:

「フィーネの戦士」の一人。ゼウス共和国の人間。ジュリエッタの娘。


ジョウ・ミコト:

ゼウス共和国を成長させた指導者。国民からの信頼が厚い。「フィーネの戦士」の一人。


カカ・ルッソ:

ネイトラル出身のここ数年で出てきた俳優。「フィーネの戦士」の一人。


リオ・デイモン:

ネイトラル出身のここ数年で出てきた俳優。「フィーネの戦士」の一人。



クロス・ロアン(クロス・バトリーorヘッセ)

「フィーネの戦士」の一人。三年前に死んだと言われているロッド中佐本人であり、本物のレスリー・ディ・ロッドとは協力関係にあった。ロバート・ヘッセとカサンドラの息子。ナイトに捕らわれる。


タナ・リード:

現在ゼウス共和国の人間だが、三年前の黒幕のような人物。今はカワカミ博士と行動を共にする。


ギンジ・カワカミ:

リコウを新たなネットワークの鍵に設定した人間。ユイの父親であり、ドールプログラムの開発者の一人であり、「フィーネの戦士」でもある。


レスリー・ディ・ロッド:

「フィーネの戦士」の一人で、クロスと入れ替わっていた。マックスと共にテロリストに襲撃され、その時にマックスを庇って捕まる。



ナイト・アスール:

ネイトラルの現在の指導者。ディアの父。彼女の婚約者であるハクトにとても好意的。テロリスト集団を乗っ取り、地連軍に協力を持ち掛ける。地連に深い恨みを持っている。


カサンドラ・バトリー(カサンドラ・ヘッセ):

ゼウス共和国を暴走させた独裁者ロバート・ヘッセの元妻。テロリストを主導する立場だったが、ナイト・アスールに乗っ取られる。


アズマ・ヤクシジ:

リコウの兄。地連の軍人で一等兵だった。第三ドーム襲撃の際、テロリスト集団「英雄の復活を望む会」を手引きし、自身もそのメンバーの一員だった。新たなネットワークの鍵でもあり、大きな脅威となっている。



リュウト・ニシハラ:ハクトの父親。ナイト・アスールが自ら友人と言う存在。

キョウコ・ニシハラ:ハクトの母親。少しディアに雰囲気が似ている。

ルリ・イスター:第三ドームの市民。リコウに淡い思いを抱いている。



グスタフ・トロッタ:

かつてマックスと共にゼウス共和国のドール研究に携わっていた研究員。シンタロウと因縁がある。


キース・ハンプス:

「フィーネの戦士」の一人で、元少佐。戦士たちの精神的主柱であり、今の地連軍だけでなく他国の者にも影響を与えた。カズキ・マツの最期の部下。


ユッタ・バトリー:

クロスの妹でカサンドラの娘。ゼウス共和国と地連の争いで命を落とす。


マイトレーヤ・サイード:マリク大佐の部下。テロリストの暗躍により死亡。


ジュリエッタ:

カサンドラが手にかけた女性。ナイト・アスールのスパイとして前ゼウス共和国総統の元にいた。レイラの母親。その正体は謎が多い。


ナオ・ロアン:

ロバート・ヘッセの元腹心。カサンドラ達の亡命に加担したことにより、捨て駒にされ死亡する。レイラの父で、彼女の緑色の瞳は彼譲り。ジョウの元上司でもある。


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