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あやとり  作者: 近江 由
~糸から外れて~無力な鍵
132/232

残痕

 

 アリアから、コウヤ達が遠くからでも無理矢理に権限を奪うことにしたと連絡が入った。


 もちろん距離が近ければそれだけ確実だが、遠くからでもできないことは無い。


 ただ、場所を把握しており、アクセスできることが前提だ。


 コウヤの能力は申し分ない。

 問題なのはリコウの能力だ。


 何も経験が無い身であり、彼は特別な能力があるわけでもない。


 かつての自分と同じである。


 シンタロウはふと思い出して苦笑いをした。


 目の前に広がる光景は変わらず地獄だが、それに怯むことはない。

 シンタロウは一つ目のドールはユイに行動不能にしてもらったが、その後に二機ほどのドールを行動不能にした。


『私、アリアたちの援護に戻るね。』


「わかった。俺は出来る限り…対処をする。」

 殲滅と言いそうになって、シンタロウは別の言葉を言った。

 ユイはそんなこと分かっているだろうが


『無理はしないでね。』


「わかっている。」

 ユイは心配そうな声をかけてくれた。

 戦闘能力の心配はしていないだろう。

 彼女が心配しているのは、プログラムの声がシンタロウにかかっていることだ。


 周りの風景が変わっていった。

 建物が並んでいた通りは、徐々に更地が広がってきている。


 襲撃のせいで割れた地面や、何かの焼け跡は置いておいて、閑静な公園が見えてきた。


 あの奥に、かつては大きな建物があった。


 大規模な軍の訓練施設だ。ドールパイロットの養成所だったが、今は緑あふれる公園となり、中心地には碑石が置かれている。


 自分で立てた推測だったが、ここにドールプログラムの機械があるとは思えないものだった。


 思い切ったことを考えたものだ…だが、実際にあたっていたのだから結果オーライだろう。


 場所が場所なだけに、シンタロウも懐かしい気持ちになった。


 自分がここに初めて来た時のこと、ここに建物があった時のことを…


 何も経験が無い身であり、特別な能力があるわけでもない。


 リコウと同じであった自分のこと。


 厳密に言うならば、普通よりも優秀な頭を持っていたが、コウヤ達に比べたら何も能力が無いに等しかった。


 ただ、ここを出た時は違った。


 彼もそうなるのか、ならないのか分からない。

 だが、分かるのは、まだリコウの力が必要だってことだ。


「ん?」

 本来なら、碑石がある場所に、大きな車や壊れかけのようなドール、簡易的な建物が見えた。

 どうやらテロリストの拠点は碑石のところにあるようだ。


 ふつりと、怒りが湧いてきた。


 よりによって、ここを…


 《やあ。シンタロウ》

 不意に響いた声にシンタロウは息を呑んだ。


 この場所と、この声…

 幻聴としか考えらえない…だが、耳元に気配を感じる。


 《君は幾つ的を壊したんだい?》

 そういえば、彼に話したことがあった…


「グスタフ…」


 不意に目の前に光の糸が広がった。

 それと同時に、白衣を着た青年が浮かんだ。


 《君は、心を守るために幾つ的を壊したんだい?》

 実在しない目の前の青年は、シンタロウに微笑んでいた。


 





 ザー…と、電波が不安定であることを告げる音が耳に響く。


「もう少し…こうだ。」

 慣れない手つきでアズマはラジオのダイヤルを回した。


『ザー…と、により総統閣下は…』

 ラジオが正常に音声を流したのを確認すると、アズマは得意顔になってリコウを見た。

 リコウはその顔を見て、なぜか嬉しくなった。


「いっけねー。早く布団かぶれ!!」

 アズマは慌ててラジオとリコウ、自分も一緒に布団を被った。


 そうだ。このラジオ放送を聞くのは、年齢的に禁止されているのだ。


 12歳以下は、決まった放送しか聞けず、得られる情報も制限されていた。


 まだ12歳になっていないリコウに、アズマは色々教えてくれた。


 兵士たちが地球に降りていることや、今の国を動かしている指導者の話。


 リコウの知っていることもあったが、アズマはそれに陰謀を交えて話す。

 味気ない情報や娯楽しか得られないリコウにとって、アズマの話は作り話のようで楽しかった。


 例え、それが知ってはいけない真実でもだ。





「止めろ。ヤクシジ。」

 急にかかった声と同時に、悪戯っぽく笑うアズマの顔に、光が漏れ出すように亀裂が入った。


 リコウははっとして目を開いた。


「う…!!」

 驚いて目を開くのは、身についた習性だから仕方ないが、頭の映像と視覚で得た映像の情報量が多すぎてリコウは眩暈を覚えた。


「今、俺とお前は共有している。」

 リコウの目の前に、コウヤが手を差し伸べて周りの景色を隠すようにした。

 どうやらリコウの状況をわかっているようだ。


「…知っていますよ。下手に目を開いたら…」


「違う。お前が回想していた映像…俺にも流れて来る。」

 コウヤは遠慮するように言った。


「え?」


「詳しい話は後だが…今、考えることは一つだ。」

 コウヤは励ましているようだ。


 気を遣ってか、リコウから手を外している。


「わ…わかっています!!」

 リコウは何度も同じことを言われていることに気付いて、苛立ちを隠せずに声を荒げた。


 もう一度、光の糸の景色だけを…


 目を閉じると、コウヤがリコウの肩に手をかけた。

 また光の糸の情報が襲い掛かるように流れ込んできた。

 ただ、今回は視覚の情報がない。


 一本の糸を見つけ出して、その根っこを辿るのだ。


 コウヤが探っているのか、糸を辿る映像が頭の中で流れ続ける。

 グングンと、速度を上げて…


 糸は、まるで人の足跡をたどるように巡っている。


 誰かが歩いた道を辿っているような錯覚に陥るのは何故だか分からないが、どこかを歩いてどこかの階段を下りて…そして、光の塊に辿り着いた。


 これが、見つけたかった今回のプログラムの拠点だ。

 この権限を取り返せば、テロリストの制圧も簡単になる。


 リコウだってわかっている。

 あとは、コウヤがこれを…


「…え?」

 コウヤが不思議そうな声を上げた。


「あの…どうしました?」

 作戦通りにいっているのに、コウヤは戸惑っているようだった。


 確かにうまくいきすぎて不安になるのかもしれないが…


「ヤクシジ…お前、ここに来たことあるのか?」


「え?…あるわけないですよ。何で…」

 リコウはコウヤの質問の意味が分からなかった。


「…とにかく、権限を」

 コウヤは納得した様子はなかったが、作戦の遂行をしようとしたようだ。


 光の塊の中に潜り込んだような錯覚に陥った。


「「え?」」

 リコウはまた、驚いて目を開きそうになったようだ。

 だが、今回は視界が変わらなかったから開かなかったようだ。


 驚いた理由は簡単だ。




 光の塊の中に入ったと思ったら、予想していなかったところにいたからだ。




 いや、いるのはずっとアリアの運転する車の中なのだが、頭の中の映像は違う場所を指している。



 軍服を着た男たちがいる空間だ。

 どこかの建物の中のようだが、リコウには覚えのない建物だった。


 軍服の男達は、凄まじい形相で走ってきた。

 思わずリコウは身構えたが、彼等はリコウの存在に気付かないように通り過ぎる。


「え?」

 リコウは驚いて彼らの向かった方向を見た。


 バン…バン…と、銃声が響き、リコウの目の前で立った今通り過ぎた軍人が倒れた。

 彼等は眉間を撃ち抜かれていた。


「…な…」

 目の前で人が撃たれ、どう見ても殺されている。


 《コウノ!!お前…》

 リコウの後ろから、また別の軍人がやってきたようで、その叫び声が聞こえた。

 だが、リコウはそれに振り向くことは出来ず、前の人物を見ていた。


 たったいま、軍人を撃ち殺した人物を…

 リコウよりも年下くらいだが、顔立ちもだが彼の目には見覚えがあった。


 真っ黒で、どこまでも深い…


「ウィンクラー少佐…?」

 リコウは目の前で銃を構えている青年を見て言った。



登場人物


リコウ・ヤクシジ:

第三ドームの第四区の大学に所属する学生。いずれはドールプログラムの研究に関わりたいと思っている。元々ゼウス共和国の人間だったが、3年前に両親を火星で亡くす。兄のアズマとは二人きりの家族。カワカミ博士によって新たなネットワークの鍵に設定される。アズマたちテロリストが扱うネットワークに対抗するための手段。


コウヤ・ハヤセ:

第三ドームの第四区の大学に所属する学生。リコウが通っている研究室の先輩。リコウからは苦手意識を持たれているが、ドールプログラムに詳しく学内では頭一つ抜けた頭脳を持っているようだ。人の感情の変化を読むのに長けており、何やら不思議な力をもっているらしい。「フィーネの戦士」の一人。養母がレイモンド・ウィンクラー総統と結婚したため戸籍上ではウィンクラー少佐と兄弟になっている。


マウンダー・マーズ:

みんなに「マックス」と呼ばれる。若くて軟弱そうだが、ドールプログラム研究において現在のトップ。医者であり「フィーネの戦士」の一人でもあり「英雄の復活を望む会」から狙われる。


シンタロウ・ウィンクラー:

地連の少佐。「フィーネの戦士」の一人であり、レイモンド・ウィンクラー総統の養子の関係。現在の地連にて最強といわれ、実績もあり、有能で有望。コウヤとは付き合いが長いらしい。戸籍上ではコウヤと兄弟になっている。


アリア・スーン:

ユイと行動を共にする女性。リコウ達の乗る戦艦に保護される。「フィーネの戦士」ではないが、関係者のよう。


イジー・ルーカス

地連の中尉。「フィーネの戦士」の一人。ウィンクラー少佐の精神的主柱。


ユイ・カワカミ:

アリアと行動を共にする女性。リコウ達の乗る戦艦に保護される。「フィーネの戦士」の一人。


ジュリオ・ドレイク:

従軍経験のあるリコウ達と同じ大学に通っていた学生。体育会系の体型をしている。標準的に「フィーネの戦士」を尊敬している。リコウを信用していない。ウィンクラー少佐の外部部下と任命される。


オクシア・バティ

第三ドームの学生。ハクト達と同じ総合大学の生徒。襲撃時は別のドームに居て難を逃れた。叔父であるカズキ・マツを捨て駒のような作戦で失ってから軍とは距離を置いている。


ルリ:

第三ドームの市民。リコウが常連になっている喫茶店の店員。彼に淡い思いを抱いているようだ。


アズマ・ヤクシジ:

リコウの兄。地連の軍人で一等兵だった。第三ドーム襲撃の際、テロリスト集団「英雄の復活を望む会」を手引きし、自身もそのメンバーの一員だった。新たなネットワークの鍵でもあり、大きな脅威となっている。リコウ同様元ゼウス共和国の人間だが、ロッド中佐をはじめとした「フィーネの戦士」に対して異常なほど憧れている。



ハクト・ニシハラ:

第三ドームの大学に所属する学生。元地連大尉で「フィーネの戦士」の一人。ディアとは婚約関係。


ディア・アスール:

ネイトラルのトップであるナイト・アスールの娘。「フィーネの戦士」の一人。ハクトとは婚約関係。


カカ・ルッソ:

ネイトラル出身のここ数年で出てきた俳優。公私ともにリオと共に行動している。「フィーネの戦士」の一人。


リオ・デイモン:

ネイトラル出身のここ数年で出てきた俳優。公私ともにカカと共に行動している。「フィーネの戦士」の一人。


クロス・ロアン(クロス・バトリー)

「フィーネの戦士」の一人。苗字を変えて第三ドームの大学に通っていた。シンタロウを妨害した黒いドールのパイロット。


レイラ・ヘッセ

「フィーネの戦士」の一人。ゼウス共和国に滞在していたが、事件をきっかけにクロスを探しに出ている。


ジョウ・ミコト:

ほぼ全滅状態のゼウス共和国を、単体で衣食住を確保できるほどまで成長させた現在のゼウス共和国の指導者。国民からの信頼が厚い。「フィーネの戦士」の一人。


レイモンド・ウィンクラー:

現在の地連軍のトップで総統。「フィーネの戦士」ではないが、作戦の責任者であった。ウィンクラー少佐を養子にとっている。


ナイト・アスール:

ネイトラルの現在の指導者。ディアの父。彼女の婚約者であるハクトにとても好意的。


タナ・リード:

第17ドームに滞在している男。ゼウス共和国の人間でレイラと因縁があるようだ。


カサンドラ・バトリー(カサンドラ・ヘッセ):

ゼウス共和国を暴走させた独裁者ロバート・ヘッセの元妻。死亡したと公表されていたが実は亡命していた。


グスタフ・トロッタ:

かつてマックスと共にゼウス共和国のドール研究に携わっていた研究員。シンタロウと因縁があるらしい。三年ほど前から行方不明。


キース・ハンプス:

「フィーネの戦士」の一人で、元少佐。戦士たちの精神的主柱であり、今の地連軍だけでなく他国の者にも影響を与えた。カズキ・マツの最期の部下。


レスリー・ディ・ロッド:

「フィーネの戦士」の一人で、元中佐。宇宙一の戦士と呼ばれ、若い世代を中心に敵味方関係なく崇拝する者が多かったほどのカリスマ性と存在感があった。3年前の作戦で戦死したと言われている。


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