再会
隣国へたどり着くと、アイーダは、ボロ雑巾のように道端に捨てられた。
馬車の外は、凍えそうになるくらい寒かった。どこかバイトを募集しているところはないだろうか。必死に探すがどこにも見つからない。
真っ赤な唇は、寒さのあまり紫色になっていた。白い肌も、死体のように青ざめている。このままでは、本当に死体になってしまうのも時間の問題だろう。
これから、どうしよう。
教会に行けば、偽善者が多いから、何か食べ物でも恵んでもらえるのではないだろうか。
しかし、どうせ教会では質素な暮らししかできないだろう。どこか三食付きで、住み込みで働ける場所は、ないだろうか。
「あ、雪だ」
嬉しそうな子供の声が聞こえてきて顔を上げると、雪がひらり、ひらりと落ちていく様子が見えた。
ちくしょう。何で雪なんてふるのよ。天気のバカ野郎。こんなんじゃ、ますます冷たくなるじゃない。
手が冷たくなっていく。毛皮のコートが欲しい。だけど、お金なんてない。
あたしは、このままの野たれ死ぬのだろうか。
お腹が減って動く気力がなくなって、協会の側の階段に座り込んだ。
これから、一体どうすればいいのだろう。
「アイーダ?」
ふと誰かが私の名前を呼ぶココアのように甘い声がした。
そこにいたのは、天使のように美しい人間だった。
滝のように長い銀髪の髪の毛。夜明け前の空を閉じ込めたようなアメジスト色の瞳。雪のように白い肌。まるで妖精のように綺麗だ。
彼は、ファーのついた温かそうな白いコートを着ていた。
そう、彼女じゃなくて彼だ。彼のことは、小さい頃から知っていた。
「セレナーデ……」
まさかこんなところで、こいつに出会うとは思わなかった。こんなに落ちぶれた私を彼に見られるとは、思わなかった。
屈辱のあまりアイーダの頭がカッとなる。今すぐ雪玉をこいつにぶつけまくりたい。いや、雪玉なんて生ぬるい。雪だるまをぶつけてやりたい。
「こんなところで何をしているの?」
セレナーデは、慈悲深い聖母マリアのように微笑んだ。アイーダは、そのうさんくさい笑顔にツララでもぶっ刺してやりたくなった。
「……別にちょっと休憩していだけよ」
「風の噂で、婚約破棄されて家から追い出されたって聞いたけれど」
彼は、ニコニコと嬉しそうな様子で話しかけてくる。
「ちっ……。社交界のおしゃべり好きの雌豚共が」
「こんなところにいると凍死してしまうよ。よかったら、今日は、僕のお屋敷に泊まらないか」
そう言って、セレナーデは皮の手袋がついた手をアイーダに差し伸べた。
この偽善者が。自分の方が立場上で、施しをしてやろうっていう態度がむかつくのよ。
「あなたの助けを借りるくらいなら、ここで野たれ死んだ方が100倍ましだわ」
「相変わらずプライドが高いね。君のプライドの高さは、大気圏に突入しそうだな」
「あたしは、ただ単にあんたのことが大っ嫌いなだけよ」
そうだ。どんなに時が流れても、この憎しみや嫌悪が溶けて消えるものか。こいつは、あたしの敵で憎むべき相手だ。死んでも許してなんてあげないわ。
「僕は、アイーダのことを嫌いじゃないのに」
「あたしの邪魔ばかりしてきた人間がよくいうわね」
「あれは、わざとじゃないんだよ。もう昔のことは、水に流してこれから仲よくしていかないか。僕は、久しぶりにアイーダに会えてうれしいんだ」
そう言ってセレナーデは、はにかむように笑った。
「お黙りなさい、この偽善者。クリスマスにあなたに会うなんて、最悪すぎるプレゼントだったわ。では、永遠にさようなら。ごきげんよう」
これ以上こんなみすぼらしい恰好で、セレナーデと一緒にいたくない。疲れていたが、気力を振り絞って足を動かした。さっさとこいつの前から、消えてしまいたかった。




