嫉妬
昼ごはんを食べた後は、どの服が自分に似合っているか調べ出した。
もうすぐウィルがこの国に来る。運命の糸で結ばれているあたしたちは、きっと会えるだろう。外に出かける時は、自分に一番似合う服を着て会いたい。
どのドレスを着て彼に会いに行こう。緑のドレスもいいし、赤いドレスも綺麗だ。ピンクのドレスもお気に入りだ。
夢中になって鏡の前でポーズを決めていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
「誰?入っていいわよ」
許可をすると、セレナが入ってきた。セレナは、せっかくやってきたのに、すぐに用件を言おうとしない。
「何の用?」
と問いかけると、ようやく口を開いた。
「あの……ウィリアム王子に会いたくない?」
「もちろん会いたいわ」
「私、彼の場所を知っているの。もしよかったら、教えようかしら」
「え!本当。もちろん教えてちょうだい」
どうしてセレナがウィルの居場所を知っているかわからなかったが、些細な問題だ。
「彼は、7番街の路地裏にいるわ」
「ありがとう!」
アイーダの心は、羽が生えたように軽くなった。
待っていて、ウィル。今すぐ、あなたに会いに行くから。急いで緑のドレスに着替え髪を整えると、7番街目がけて走り出した。
二十分もしないうちに、7番街にたどり着いた。
けれども、そこにいたのは、アイーダが死ぬほど恋焦がれたウィル……ではなくて、昼間、セレナーデを見て発情した猫のようにキャーキャー騒いでいた令嬢たちだった。
「あら、ごきげんよう」
「随分と遅かったわね」
彼女たちは、優雅に微笑んでいるが、目が笑っていなかった。まるで、これからアイーダをいたぶろうとしているみたいに。
それを見たアイーダの血管は、ぶちぎれそうになった。
セレナがあたしを騙したのだ。
あのクソ女が。今度、洗濯ものと一緒に、物干し竿につるしてやろうかしら。
くるりと背を向いて帰ろうとするが、その道を塞ぐようにもう一人の令嬢が現れた。
「通して」
キッと睨みつけるが、令嬢はひるまなかった。
「嫌よ。あたしたち、あなたとおしゃべりがしたいの。セレナーデをどうやってたぶらかしたの?あなたの胸でも押し当てながら、色目を使ったの?」
「婚約者に捨てられたからって、すぐに他の男のところへ行くなんて淫乱ね」
きっと、こいつらには婚約者に捨てられたあたしの気持ちなんてわからないのだろう。
「あたしは、別にあんな男に興味はないわ」
のしをつけてプレゼントしてやりたいくらいだ。
「そんなこと言いながら、あの人の家に住まわせてもらっているじゃない」
「あたしは、ちゃんと汗水垂らして働いているの。衣食住の分は、ちゃんと給料から引かれているわ。愛人や、婚約者として側にいるんじゃない。あたしを他人に媚びる能しかないバカ貴族と一緒にしないで」
そう言い返すと、いきなり首につけていたネックレスを引っ張られた。長年、使っていたため留め具が痛んでいたこともあり、あっさりとネックレスは引きちぎれ、奪われた。
「これもどうせセレナーデからもらったんでしょう。このビッチが」
「違うわ。それは、ウィルからもらったのよ。返して!」
「ウィルってあのウィリアム王子様のこと?あなた、捨てられたんでしょう。国中の笑いものになっているわ。きっと、こんなに評判が悪いんじゃ、結婚もできないでしょうね。ずっと独身で過ごす運命だなんてかわいそうに」
「未だに自分を捨てた男からのプレゼントをもっているなんてバカな女。ウィリアム様は、あんたのことなんて忘れて楽しく過ごしているに決まっているわ」
「ウィルは、そんな人じゃない」
あたしと婚約破棄する時だって、申し訳なさそうにあたしを見てきたのだ。
「あたしは、どれだけバカにされてもいい。だけど、ウィルをバカにするのは許さない」
「未練がましい女ね。こんなの捨ててしまいなさい」
そう言って、令嬢は、ネックレスをブンと大きく放り投げた。
「やめて!」
そう必死に叫ぶけれども、ネックレスは大きな弧を描いて崖の下に落ちていく。
それを見たアイーダは、がくりと力をなくしたように崩れ落ちた。
「あはははははははははは。いい気味」
「おほほほほほほほ」
令嬢たちは、うなだれるアイーダを見て気が済んだというように、笑いながら去って行った。セレナも、アイーダに手を差し伸べることなく、どこかぎこちない笑顔を浮かべながら、去って行った。
残されたアイーダの拳は、ブルブルと震えていた。




