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デニス

【番外編】

デニス・ディブレイクは、小さい頃から重度のヘタレチキンだった。大きな体に似合わずお化け、雷、見た目が怖い人、蟲、大きな動物、魔物などが苦手だった。

自分みたいなヘタレチキンは、親父跡をついで靴屋として立派に働こうと思っていた。

デニスが13歳の頃、夜中に急いでトイレに行こうと自分の部屋のドア思いっきり開けた途端、偶然、ドアの向こう側にいた泥棒を倒してしまったことがあった。泥棒がただの一般人だったらよかったかもしれない。デニスがドアを開けて倒した泥棒は国で有名な泥棒で、その正体は元騎士団にいた奴だった。

13歳のデニスが凄腕の泥棒を倒したことはあっという間に広がった。人に広まっていくうちに、噂は変形して、『デニスが泥棒を素手で倒した』『泥棒を一瞬で気絶させた』『泥棒を指だけで倒した』『デニスが強すぎて泥棒が殺されかけた』などということが広まっていった。当然、自分は強くない、あれは事故だったと否定をしたが、デニスは強いのに謙遜をしているという噂が広まっていっただけだった。

そして、デニスに勝負を挑んでくる騎士たちが跡を絶たなかった。もちろん断ったが、『デニスが強すぎてその辺の騎士じゃ相手にならない』という噂が広まっていっただけだった。

これじゃあ、噂が美化されてしまう。周りにバカにされてもいいから、誰かに負けよう。

決闘から逃げなくっていたデニスはようやくみっともなく負けるために戦いを決意した。

そして、次にデニスに戦いを申し込んできたスミスという男と戦うことにした。

スミスは、王国騎士団に所属する男でまだ若いのに数々の武勇伝作り上げたことで有名だった。

デニスが王国騎士団と戦う噂は、村中に広まった。

決闘の日は大勢の人が集まり、デニス達を取り囲んだ。

ああ、この状態で無様に負けるんだ。みんなから弱すぎると罵られるかもしれないと思うと怖かった。

いよいよ、決闘が始まった。

決闘とか怖いよ。

痛いのは嫌だ、痛いのは嫌だ。

デニスは、恐怖のあまり動きだせなかった。

スミスも、デニスの噂を信じているみたいで動かずデニスの様子をうかがっていた。

どうして、動かないんだ。早く俺を倒してくれ。あの身の程知らずの噂から、俺を救い出してくれ。

そう祈っていたら、やがてスミスが動いた。

めっちゃ気迫が伝わってくる。怖えええ。

そう思って下がろうとしたら、背後にあった石に躓いた。

「あ……」

俺は、意図せずリンドルに一本打ち込んでしまった。

その一撃で彼は、倒されてしまった。


デニスが王国騎士団のエースを倒した噂は、瞬く間に広まった。

『神童現れる』『英雄ダナトスの再来』『神に選ばれた男』……そんな自分にふさわしくない肩書も与えられた。

それを聞くたびに、デニスの胃が痛くなった。

もう、やめてくれ。俺のライフはゼロだ。

俺は、ただ平和に暮らしたいんだ。

やがて、彼は、王国騎士団にスカウトされ数々の戦に連れて行かれた。

戦いとか怖くてたまらない。痛いのも、怖いのも嫌だ。

毎日、ストレスのあまり胃が痛くてたまらない。

人生を間違えた。もう一度、やり直したい。

消えてしまいたい。

ああ、靴屋として平和に暮らした。

だけど、死にたくないから頑張らないと。

 そうして、やられる前にやってしまえ、倒してしまえば痛くないモットーに努力はした。

しばらくしてから、これじゃあ、首になることもできない気がついたが、もう引き返せない気がする。


デニスが一五歳の時、十歳のセレナーデ・ダナトラスと出会った。

女の子みたいなかわいらしい容姿をした彼のことを、弱そうな奴だと思っていた。けれども、理解していくのが早く、身体の使い方も上手かった。あっという間にデニスを倒せるような腕前になった。

たくさん過ごすにつれて、見かけによらず彼は、怖い奴だと思うようになった。何故なら、彼は、何のためらいもせずに敵を殺せるからである。

それが、熟練した戦士の行動だったら驚かなかっただろう。だけど、セレナーデが初めてゴブリンを殺したのは、彼が十一歳のときのことだった。

怖くて底知れないガキだ。

人間らしくなくて、ちょっと気持ち悪い。

そう思ったけれども、何だかんだ仲良くなり、仕事場では一緒にいることが多くなっていた。



セレナーデと出会ったから、数年が経った。

その日、久しぶりにセレナーデと試合をすることになった。

「では、参ります」

「あ、ああ」

ポニーテールになり、木刀を構えている彼は、まるで死神のように美しく怖かった。

こんな美しい生き物を傷つけることにためらいを覚えてしまうが、やられる前にやってしまいたい。

そう思い思いっきり打ち込んだ。けれども、綺麗に流される。

そして、華麗に剣で首を狙われた。間一髪のところで避けたが、あとちょっとずれていたら、負けていた。

ひいい。こっちに来るんじゃねぇ。

必死に自分の技を駆使していく。けれども、この前試合と違い防戦一方になってしまう。

「どうしたんですか。調子でも悪いんですか」

彼は、悪魔のように微笑んだ。

その様子だとだいぶ余裕がありそうだ。

昔はあんなにかわいかったのみ、どうしていけすかないイケメンになってしまったのだろうか。

打ち込まれた剣を次々にかわしていき、何とか反撃ができないか考える。

ダメだ、このまま守っているだけじゃ負けてしまう。

「はあ、はあ……」

一歩下がって呼吸を整える。

そして、今度は思い切り力を入れながら、木刀を木刀で受け止める。そのまま力技で剣を押し続ける。

「くっ……」

そして、相手が力んでいる隙に体の重心をずらし、サッと脇の下から木刀を叩き込む。

けれども、その動きは読まれていたみたいだ。

あっさり流され、腹に木刀を叩きこまれた。

「うっ」

デニスは、うめき声をあげて木刀を手放した。



更衣室に着くと、さっそくセレナーデを誉めた。

「お前、強くなったな」

「まだまだですよ」

「そういれば、お前の熱愛相手と言われているアイーダの実物ってどういう感じなの?」

「じゃじゃ馬とかいうレベルじゃありません。あれは、じゃじゃ竜みたいな感じです」

「そんな噂のアイーダを見たいんだけど」

「嫌です」

 セレナーデは、天使顔負けの笑顔できっぱりと言い切った。

「えー。そんなこと言わずに、会わせてよ」

「じゃあ、あなたの眼球を取ってからならいいですよ」

セレナーデは、淡々とした声でとんでもない条件をつけた。

「……ヤンデレ、恐ろしいな」

デニスの額に汗が流れた。

「でも、そう言われると、ますます気になるな」

「今度の稽古で力の加減を間違えて、デニスさんを殺してしまうかもしれません」

「お前が言うと、冗談に聞こえないんだけど」

「冗談を言っているつもりじゃないので。あまりアイーダに近づこうとすると、うっかり剣に毒を仕込むかもしれません」

「それうっかりじゃないだろう。なあ、お前からみたアイーダってどんな奴なの?」

「プライドが高くて、傲慢で、性格が悪い腐ったジャガイモみたいな女です」

「そんな女のどこがいいんだ?」

 俺なら、絶対にそんな女を選ばない。こいつがアイーダにどうして惚れたのか、全く訳がわからない。デニスは、頭をかしげた。

「全てです」

「お前、女の趣味が悪いな」

「何言っているんですか。あんな貴重な人間は、滅多に出会えませんよ」

 セレナーデは、悪魔のように美しく微笑んだ。


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