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クソガキ

 休憩という名のさぼりから帰ってきたアイーダは、白目をむきそうになった。

 クソガキが一匹、クソガキが二匹、クソガキが三匹、クソガキが四匹……。

 まあ、なんということでしょう。

 ただでさえうざったいクソガキが、なんと四倍に増殖しているだなんて。これは、一体、なんという悪夢だろうか。夢なら、今すぐ覚めて欲しい。

 これから、あたしは、あの四匹のクソガキにこき使われるのかと思ったけれども、どうやら違うみたいだ。

「おい、早く金をよこせ」

「さっさと出せよ。そうしないと、もう一回殴るぞ」

ん?何やら様子がおかしいぞ。少年達は、エリオットと仲良くしているというよりは、彼を取り囲んで虐めているみたいだ。

「うっせぇ。これは、俺が働いて得た金だ。てめぇらなんかに渡さねぇ」

エリオットは、脅してきた少年達にひるまずに睨み返したが、次の瞬間、足で思いっきり殴られていた。

「ゴミのくせに生意気なんだよ」

「どうせお前みたいな猿には、そんな大金必要ないだろう」

そう言って、少年達は、エリオットをボコボコに殴り始めた。

よし、見なかったことにしよう。そう思いくるりと、後ろを向いたが、アイーダの足は止まった。

「ねぇ、かわいそうだわ。エリオットを助けてあげましょう」と心の中で天使アイーダが呼びかける。

「助けるなんて面倒くさいわ。エリオットは、死んだことにしましょう」

 天使アイーダに反論するのは、悪魔アイーダだった。

「そんなのひどすぎるわ」

 天使アイーダは、涙目で訴える。

「大体、助けるって何をすればいいの?あたし、か弱いし、悪ガキ3人に勝てる気がしないわ」

 悪魔アイーダは、寝そべりながらダラダラとした口調で反論した。

「こういうのは、心の問題よ。それに、エリオットが怪我でもしたら、あなたの仕事が増えるのよ」

天使アイーダが必死に訴える。

「あ、しまった」

 悪魔アイーダは、青ざめた。そして、あっという間に消えていった。

 勝者、天使アイーダ。

 心優しいアイーダは、エリオットを助けてあげることにした。


「あなた達、エリオットを虐めているの?」

 問いかけると、少年達は、邪魔者が現れたと不機嫌そうな顔になった。

「おばさんには、関係ないだろう」

「そうだそうだ、さっさとあっちに行け」

 少年達は、しっしと手を犬でも追い払うかのように動かした。アイーダの顔には、怒りのあまりピキッと血管が浮かび上がっていた。

 誰がおばさんだよ。こいつらは、バナナの皮で滑って、頭を打って死ねばいい。

「いっておくけれど、俺らに暴力を振るったら、父さんに言いつけてやるから」

「こいつの父さんは、偉いんだぞ」

 はあ。どうやって、こいつらを追い払おう。確かに暴力を振るったら、後々面倒くさいことになるかもしれない。

 その時、アイーダの頭に名案が浮かんだ。

 アイーダは、ニヤリと冷酷な悪女のように意地悪そうに笑った後に、「実は、私、エイリアンなの」と打ち明けた。

 こんな話、信じるわけないか。

「「「「まじかよ……」」」」

 悪ガキの手からポトリと気の枝が落ちた。

 そして、メン玉が飛び出しそうなくらい驚いている。ていうか、エリオットまで騙されってしまったいる……。こいつらは、バカなのだろうか。

「宇宙から地球を侵略するためにやってきたのよ。でも、いい子を攫うのは抵抗があるから、悪い子から攫おうと思うの。この辺りで苛めっ子がいると聞いてやってきたのだけど、誰か知らないかしら」

 ガキどもは、今にも小便を漏らしそうなくらい青ざめてガクガクと震えていた。

「い、い、苛めなんていう人として最低のことを俺らがするはずないだろう」

「あ、ああ」

「何かの勘違いじゃない」

「じゃあ、あなた達は、ここで何をしていたのかしら」

 悪ガキは、ギクリと身体をこわばらせた。

「え、え、え、えっと」

「畑を耕していたようにも見えないし、一緒に遊んでいた風にも見えないわ。そんなところで、固まって話し込んで何をしていたの」

「……え、え、エリオットに告白をしていたんだ」

 すっげぇ、ごまかし方をしたな。やばい。今すぐ、笑い転げてしまいそうだ。

「そうなの?振られたなら、さっさとどこかへ消えなさい。じゃないとあなた達の身体を乗っ取ってやるわ」

「ぎゃああああああああ」

「嫌だああああああああ」

 少年達は、悲鳴をあげながら一目散に逃げ出した。



 せっかく助けてやったのに、エリオットは納得のいかないというような顔でアイーダを見ていた。

「何で、俺のことなんて助けたんだよ」

「そんなのどうでもいいでしょう」

「あんた……もしかして俺のことが好きなのか」

「はあ?何、ばかなことを言っているの?あなたみたいなもやしを好きになるくらいなら、ゴブリンに恋をした方がましだわ」

「けっ、そうかよ。それなら、ゴブリンとでも結婚すればいいさ」

「あら?あなた、もしかしてゴブリンに嫉妬しているの?」

「ちげーよ。そんなんじゃねぇし」

「悔しかったら、自分磨きをしていい男にでもなりなさい。まあ、虐めなんて受けているあんたにはどうせ無理だけどね」

「別に虐められていたわけじゃねぇ」

「でも、さっき殴られていたじゃない。あんな大人数に目をつけられるなんて、ざまあじゃなくて、かわいそうに」

「てめぇ、今、ざまあって言いかけただろう絶対にそうだった」

彼は、ギロリとにらみながらそう断言した。

「き、気のせいよ。あなたの耳がおかしくなったんじゃないの?この歳で、耳がおかしくなるなんてかわいそうに。きっと、死んだ方がいいわ」

「さりげなく自殺を勧めるなんて、本当に性根が腐り果てた女だな」

「何を言っているの?あなたみたいな人間は、この先、地獄に行くより辛い目にあうだろうから、早めに人生をドロップアウトした方がいいよって優しく教えてあげているだけじ

ゃない」

「すっげぇ理論だな」

「大体、虐めというのは、虐められる方にも原因があるのよ」

 アイーダは、人差し指でエリオットを突き刺しながらそう言ってのけた。

「何バカなことを言っているんだ?」

「まあ、よく聞きなさい。例えば、あなたの知っているセレナーデは、小さい頃から、性格が悪くて、オカマっぽくて、人のものを奪うから、苛められていたの。彼が痩せていて、性格がよくて、ハンサムで、爽やかな人間だったら、虐められていなかったでしょう」

「どうせ、虐めていたのは、あんたなんだろう。あいつを苛めるのは、お前くらい性格が悪い奴しか思い浮かばないな」

「……お黙りなさい、このクソガキ。つまり、あなたも苛められたくないんだったら、それ相応の努力をしなさい」

「お前、本当にびっくりするくらいのクズだな」

「何、失礼なことを言っているのよ。あたしは、弱肉強食のこの社会で生きていくために必要な思考回路を身に着けているだけだわ。大体、年上に向かってその態度は何なのよ。ちゃんと敬語を使いなさい」

「どうして敬うところが一つもない人間に向かって敬語を使わないといけねぇんだよ」

「こんなに美しく気高い女神のようなあたしに向かってなんてことを言うのよ」

 くそぅ。あたしが、ウィルと結婚して女王になっていたら、こんなクソガキの一人や二人、不敬罪で牢屋にぶちこむことだってできたのに……。社交界の華であるはずのあたしが、何でこんな雑草抜きをしないといけないのかしら。

「そういえば、お前、どんな奴が好きなんだ?」

 いきなり、エリオットは、そんなことを聞いてきた。

「あたしのタイプは、ウィリアム王子一択よ」

「あんた、そういう男がタイプだったのかよ」

「ええ、そうよ。かっこよくて、優しくて、あたしが困ってくれる時に助けてくれるの」

「……今すぐツンデレ年下キャラに変更しろよ」

 エリオットは、ボソリと何かを言ったみたいだったが、よく聞き取れなかった。

「何か言ったかしら」

「何でもねぇ。ああいう奴は、あんたに全然似合わないから、さっさと辞めろよ」

「何よ。あたしとウィルは、ジャガイモとバターのようにお似合いよ」

「それは、てめぇの脳内だけだから」

「ひどい。もう、エロオットなんかに共感をもとめない。あたしの気持ちを理解してくれるのは、石だけだわ」

 そう言いながら、掘り起こしたばかりの石を撫でた。

「いや、石もお前の気持ちなんて全く理解していないと思うけれど。だいたいウィルには、メリッサがいるじゃないか。俺は、あいつのことを知っているけれど、すっげぇいい奴だったよ」

 そういえば、メリッサはヴァレン国の出身だった。エリオットと知り合いだったとは、驚いた。

「メリッサよりも、あたしの方がかわいいわ」

「確かにメリッサは、華やかな容姿をしていなけれど、普通にかわいいし、優しいし、勉強もできる。あんたよりもいい女王になるよ」

「何よ。あなたもメリッサのことが好きなの?」

「……俺は、メリッサのことを好きじゃなかった」

「どうして?」

 あたしの大切だった人は、メリッサを褒めちぎった。メリッサを見習いなさい。あんな風に、優しい人間になりなさい。メリッサの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。あんたがメリッサだったら、こんなことにならなかったのに。メリッサは、君と違って素晴らしい人間なんだ……。そんな風にメリッサを称えて、あたしのことを失敗作のように扱った。

 メリッサがあたしにないものを持っていることくらい、あたしが一番わかっているけれども、そんなメリッサを認めて褒めるのは嫌だった。

「……メリッサは、優しくて、正しくて、勇敢な人間だった。だけど、俺が抱えているような嫉妬とか、劣等感、惨めさをわからない人間なんだろうなと思った。だから、どれほどメリッサが優しくしてくれても、俺にはその無償の優しさが気持ち悪かったし、メリッサに心を開けなかった」

「つまり、あんたもメリッサのことが嫌いなのね」

「別に嫌いじゃねぇよ。好きではないだけだ」

「さっさと嫌いになりなさいよ。あたしばっかり嫌われて、不公平でしょう。こんなに人々から誤解され、嫌われているあたしは、なんてかわいそうなのかしら」

「あんたの場合は、ただの自業自得だろうが」

「違うわ。きっと神様がこのあたしに嫉妬してこんなひどい目にあわせているのよ」

「……すっげぇ、思考回路だな。ある意味尊敬する」

 彼は、感心したようにそう言った。


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