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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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98 全てのエルフの解放に向けて 2『食料』

 リンネの口から出てきた『ドラゴン』という名前、それに驚いたのは俺だけではなく、薬師さん達エルフ勢、ライナさん達人間勢も一様に驚愕している。


「……リンネ、本気で言っているのか? ドラゴンなどどうやって狩るというのだ?」


 最初に衝撃から立ち直った薬師さんが言葉を発するまで、たっぷり10秒はかかったと思う。


「……当てがある訳ではありませんが、ドラゴンの肉は一欠ひとかけらで10日分の滋養があるといわれています。もし大型個体を一頭分でも手に入れることができれば、20万か30万人が一冬を越せるだけの食料を得る事ができるのです」


 そう言いながら、なぜかリンネはじっと俺を見る。

 ……え、なにこれ? ひょっとして俺なにか期待されてるの?


「あの、俺ドラゴンってよく知らないんですけど、どんな生物なんですか?」


 俺の発言に『マジかコイツ』みたいな視線が集まったが、薬師さんが代表して説明してくれた。


「ドラゴンというのは、海生のドラゴンだと言われるシーサーペントと並んで、この世界で最大最強の生物だ。大山脈の山頂付近に住んでいて、大きな物では全長100メートルを超える。性質は極めて獰猛どうもうで、大型の魔獣でも襲って食べてしまうし、我々エルフの村を襲う事もある。

 全身が丈夫なうろこに覆われているので矢も通らず、空を跳ぶので地上からは手出しができん。まさに厄災やくさいと言っていい存在だ」


 その恐ろしい説明に、ライナさんが補足を加えてくれる。


「エルフの村だけではなく、大森林を越えて飛来して人間の街を襲う事もあります。12年前に王国北部に飛来した時はS級冒険者でも歯が立たず、街二つが壊滅するのをただ見ているしかなかったとの事です。人間にとっても厄災ですね。

 王家にはドラゴンの牙で作られたという剣が国宝として伝わっていますが、あれも自然死したドラゴンから採取された物で、ドラゴン狩りに成功したなどという話は聞いた事がありません。そもそも挑む者すらいないでしょう」


 ……あきませんやんそんなの。

 リンネはそんな化け物相手に、俺になにをしろと?


「……洋一様。空を飛ぶ道具をお作りになった貴方あなたなら、なにか知恵をお持ちなのではありませんか? 私にドラゴンを一撃で倒せる道具を作ってください。どんなに難しくても、危険でも構いません。可能性があるのなら、必ずやそれで一冬分の食料を確保してきてごらんに入れます」


 リンネの目は真剣そのもので、悲壮な決意が宿っている。

 隣にいるレンネさんでさえ、驚きに顔を染めるばかりで止める言葉が出てこないようだった。


「そ、それよりも、薬師さんに毒餌かなにか作ってもらったほうがいいのでは?」


「ドラゴンに効果がある毒など、聞いた事もない」


 おおう、否定速いですね薬師さん。

 でもそうか、そんな物があるなら厄災の元凶退治しに行ってるよね。


 ……正直、可能性だけでいいのなら道具はある。

 矢が通らないうろこでも、大砲の弾なら貫けるかもしれない。

 大砲は火薬さえ何とかすれば、砲身は木製でなんとかなるだろう。ドラゴン相手に二回撃つチャンスなんてないだろうから、一回持てば十分だ。


 だが問題はそこではない。

 リンネは俺の恩人なのだ。そんな危ない事をさせたくはない。


「……すこし、休憩にするか」


 不意に薬師さんがそんな事を言い出し、視線で俺を呼ぶ。

 呼ばれるままに別室についていくと、なぜか妹も一緒についてきた。

 薬師さんはもう見慣れたのか、妹の存在は気にせずに話を切り出す。


「これは伝説上の話だがな。ドラゴンの心臓の中には真っ赤なたまがあるといわれているのだ」


 なにそれ血栓みたいなもの? ドラゴンさん体悪いの?

 一瞬そんな事を思ったが、薬師さんは淡々と話を続ける。


「その伝説によると、ドラゴンの心臓にある赤い珠から作る秘薬を飲ませると、どんな病気も治るし、死んだ者さえ生き返るといわれている」


「はあ……」


 ありがちと言えばありがちな話だ。

 元の世界でもドラゴンの血や爪が薬になる系の話はいっぱいあった。血栓がというのはあまり聞いた事ないけど……って、まさか。


「あの、リンネがドラゴンを狩りに行こうとしてるのって、その珠が目当てって事ですか?」


「おそらくな。もちろん仲間を助けたいというのも本心だろうが、それだけにしてはあまりに無謀な試みだ。死者を生き返らせるのなら、腕の一本くらい生えてきてもおかしくはないという事なのだろう」


 ……俺の脳裏に、時々ふと妹の右腕を見ては、辛そうに目を伏せているリンネの姿がよみがえってくる。


 俺達の前では命があっただけ良かったと言っていたが、最愛の妹の右腕がなくなってしまって、辛くない訳がない。

 俺だって香織の右手がなくなったらと思うと、想像しただけで気が狂いそうになる。


「……失われた腕が再生するなんて、薬師さんは本当にそんな事があると思いますか?」


「正直、伝説上の話に過ぎないと思っている。私が知る限りの知識においてそんな薬は存在しないし、そもそも死んだ者にどうやって薬を飲ませるのだ。死んだばかりの患者が息を吹き返すというのならともかく、失われた腕が元に戻るなどありえん話だ」


 そうだよね。死んだ直後の蘇生なら電気ショックかなと思うけど、なくなった腕が生えてくるなんて、物理的にありえない。物理じゃなくて生物学かな?


 ……いやまてよ、生物学的にはありえるのか? トカゲの尻尾なんかは切れてもまた生えてくるし、ウーパールーパーなんか手足がちぎれても生えてくると聞いた事がある。

 う~ん…………。


 もし本当にレンネさんの腕が再生するのなら、俺としてもぜひ実現したい所だ。

 でも、話を聞く限りドラゴンに立ち向かうのはあまりにハイリスクだし、そもそも本当に腕が再生する保証もない。


 だけど、たとえ万に一つでも可能性があるのなら。リンネが自分の命をかけてでもその可能性を掴みたいと思う気持ちもわかる。香織の身に当てはめてみれば、俺だってそう思うだろうから。

 そういえば香織が十日熱で倒れた時も、エイナさんがしてくれたおとぎ話にすがったんだっけ……。


「……ねえ薬師さん。硝石って知ってます?」


 気がついたら、俺の口からは自然とその言葉が発せられていた……。



 その後再開された会議の結論としては、


・エルフの奴隷制度廃止作戦が上手くいくのが前提だが、来年の春を目処めどに全エルフ解放計画を発動する


・みんなにはその受け入れ準備を。薬師さんには病室と薬、リンネには食料や素材の収集、レナさんには防寒着作り、セレスさんには資金確保のための商品作りと並行して可能な限りの宿舎造りをやってもらう


・各地の移民村にも可能な範囲で追加での受け入れや、近隣に別の村を開く用意をお願いする


・ドラゴン狩りは必要であれば行うが、相場に影響を与えない範囲で食料の買い溜めと採取食糧の備蓄を進め、可能であればこちらで全てをまかなう


 という事になった。


 結局妹は一度も発言しなかったので、最後になにかないか訊いてみたら『ないよ、全部お兄ちゃんに任せる!』と、嬉しいような心配なような、いつもと変わらないような返事をしてくれた。


 ともあれ、準備期間は一年ちょっとしかない。やる事はてんこ盛りだ。


 一応の保険だが、ドラゴン狩りの準備もしないといけない。

 薬師さんと情報交換して硝石の正体をつきとめ、リンネに訊いたら採取可能場所があるとの事で、早速採りに向かってもらった。

 硫黄は『火山の火口付近で採れる黄色いの』でわかってもらえたので、それもお願いする。


 あとの問題は、木炭も含めた三種類をどんな割合で混ぜるのかだ。

 たしか硝石メインだった気がするが、具体的な事はさっぱり分からない。


 なので、薬師さんに丸投げする事にした。火薬も薬と名がつく以上、薬師さんに任せると凄い安心感がある。

 一応、『爆発するので注意』『火気厳禁』『実験はごく少量で』と念を押しておいたけどね。


 セレスさんには砲身や台座などをお願いし、弾は炸裂弾とか作れないので、土加工村でセラミック製の物を作ってもらう。


 それらが完成するまでの間、俺はいったん王都へ向かう事にした。

 計画の実行が決まった以上、エルフの奴隷制度廃止に向けての根回しをしないといけないのだ。


 俺は最大の協力者になってくれると期待している相手と交渉すべく、馬車の中で作戦を練るのだった……。




大陸暦421年2月15日

現時点での大陸統一進捗度 1.2%(パークレン鉱山所有・エルフ3163人)(パークレン子爵領・エルフの村24ヶ所・住民2301人)

資産 所持金 32億7583万

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(パークレン鉱山運営長)

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