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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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94 リンネの妹、レングネース

 およそ二ヶ月ぶりに鉱山に帰ると、出発前のあわただしさはだいぶ落ち着いていた。


 病室のエルフさんたちは半数が回復し、大森林への移住も三組が出発し、順調に進んでいるとの事だった。


 経営も順調なようで、ニナが黒字を出したと報告をしてくれる。

 いつの間にか、すごく几帳面な帳簿をつけられるようになっていた。


 全体的に明るく、活気に満ちた鉱山の中で、俺は胸に重たい物を抱えたまま、薬師さん達に帰還の報告をする。

 レンネさんの姿を一目見るなり、薬師さんは激しく激昂げっこうした。


「誰がやった! 殺してやる!」


 そう叫んで飛び出していこうとする薬師さんをヒルセさんが取り押さえ、まずは診察と治療に当たってもらう。


 医術師にあるまじき反応な気もするが、人間としてはすごく自然な反応だと思う。

 むしろリンネが優しすぎるのだ。


 薬師さんに持たせてもらった薬がよく効いたので生傷の類は残っていないが、沢山の傷痕が、レンネさんの体にも心にも刻み込まれている。


 体の傷痕は手術で消せるそうだが、心の傷痕はそうはいかない。そして失われた右腕も、もう二度と元には戻らないのだ。

 ある意味においては加害者を殺しに行こうとした薬師さんの行動は、心の傷を癒す一助になるという意味で、正しいのかもしれないとさえ思えてくる。


 鉱山へ帰ってくる途中、レンネさんは姉であるリンネとは言葉を交わしていたが、人間である俺や妹、ライナさんは近付くだけでおびえていた。

 リンネは謝っていたが、無理もないと思うので馬車の一角を布で仕切り、そこでなるべく二人一緒にいるようにしてもらった。


 鉱山へ帰ってきてからも、薬師さんやヒルセさんなど、同じ村出身の仲間には心を開いている様子だが、初対面の相手には同じエルフであっても脅えた様子を見せる。


 ヒルセさん経由で聞いた所によると、あの地下室ではエルフ同士をおどして傷つけ合わせるような、そんなむごい事も行われていたらしい。

 なんかもう、本当に人間が嫌いになりそうだ。俺も人間だけどさ……。



 しばらくして届いたエイナさんからの手紙によると、ネグロステ伯爵家、レインク公爵家、ファロス大公家の協力を得る事ができれば、あの男爵家を取り潰す事は可能になりそうだとの事。


 ただし代償として、向こう四年間に受け取る事になっている三家からの合計160億アストルの資金を放棄するか、ネグロステ伯爵家については『貸し』を使う。ファロス大公家については新しい未知の品を大公に与えるかの、いずれかが必要になるだろうとの事だった。


 俺は一瞬も迷わず、『資金の放棄を』と書いて返信を送る。

 ファロス大公家からの80億アストルについては、一割をエイナさんが受け取る事になっているので、その分8億アストルを同梱してだ。

 こういう事はきっちりしておかないといけない。


 160億アストルはとんでもない大金だが、あの地獄の地下室がついえるのなら。今いる犠牲者と将来の犠牲者が救われ、リンネとレンネさんの心に少しでも安らぎとなるのなら、全く惜しくはない。

 感情に流されているのではなく、冷静に考えて、本当に心からそう思えた。




 ……鉱山に帰ってきておよそ四ヶ月。

 リンネがかいがいしく看病し続けたおかげか、レンネさんは体力的には平常状態まで、精神的には他のエルフさん達ともある程度交流ができるまでに回復していた。


 先日は20年以上ぶりに姉妹二人で森へ入ったとの事で、二人で採ってきたのだというトウの実を、リンネがわざわざ届けてくれた。

『またこんな日がくるなんて、夢のようです』と言うリンネは本当に嬉しそうで、これでリンネから受けた大恩たいおんをかなり返せたかなと、俺もひそかに達成感に浸ったりしたのだが、もちろん全てのエルフを解放するという約束は忘れてはいない。



 エイナさんから来た連絡によると、あの男爵家は王都の高級官吏に賄賂わいろを贈った罪で取り潰しとなり、ファロス大公家の軍が屋敷を取り囲んだ所、男爵は屋敷に火を放って自殺したのだそうだ。


 その事には全く同情しないし心も動かないが、救出できたらうちで引き取ると言ってあった地下室のエルフさん達は、男爵の道連れにされて一人も助からなかったらしい。

 最後の最後までひどい男だ。


 その事を、エルフさん達の事は伏せて、ヒルセさん経由でレンネさんに伝えてもらったら、その日の夜。リンネに付き添われたレンネさんが俺の部屋を訪ねてきた。


 最近は妹やライナさん、ニナ相手にはあまりおびえなくなったレンネさんだが、やはり人族の男である俺は怖いらしく、見ただけで身がすくむようなので、なるべく顔を合わせないようにしていた。


 そのレンネさんが、リンネの影に隠れながらではあるが俺の部屋にやってきて、なんかやたら距離をとってではあるが、俺に話があるのだと言う。

 俺の方もなるべく怖がらせないようにと、最大限穏やかな口調での対応を心がける。


「あの……私の事を……リンネお姉ちゃんやみんなの事も助けてくれたそうで、ありがとうございます」


 レンネさんはそう言って、深々と頭を下げる。半分リンネのかげでだけどね。


 こうして見ると、背格好や外見は本当にリンネとよく似ている。

 レンネさんの方がちょっとだけ目が細くて、顔つきがが凛々しい感じかな?

 もっとも、見分けようと思えば右腕の有無で一目瞭然なんだけどね……。

 長袖の服が、片袖だけ途中からゆらゆらと揺れているのがなんとも痛々しい。


 レンネさんは精一杯の勇気を振り絞っているのだろう。遠くからおずおずとではあるが、俺に話しかけてくる。


「それで……お訊きしたい事が……」


 なんとなく内容はわかるが、これもリハビリの一環だ。左手でリンネの服のすそをギュッと握りながら懸命に話すレンネさんの言葉を、ゆっくりと待つ。


「みんなは……あそこに私と一緒に捕らわれていたみんなは、どうなりましたか……?」


 うん、やっぱりその話だよね。気にならない訳ないもんね。


 話しても良いものかどうか。リンネには事実を話してあるので視線で訊いてみると、ゆっくりとうなずいた。ならばと俺も覚悟を決めて、ありのままを話す。


「……屋敷を取り囲まれたあの男が火を放って、全員を道連れにした。焼け跡を捜索したけど、生存者は一人も見つからなかったらしい」


「――――っ!」


 レンネさんの顔が青ざめ、少しふらついた。


 元々下がっていた長い耳が、シュンと垂れてしまう。

 エルフさんの耳は感情を反映する傾向にあるようだけど、レンネさんは特にそれが激しく、わかりやすい。

 リンネと同じだ。やっぱり姉妹なんだな。


 でも、ホントに大丈夫だったのだろうか? まだ刺激が強すぎるんじゃ……。


 そう心配をしてしまうが、レンネさんは踏み止まって体を支え、気丈にも顔を上げた。


「そう……ですか……。あの人族は、死んだのですか?」


「うん。死体もちゃんと確認されたそうだよ、間違いないって」


 男が死んだ事は伝えられているはずだが、自分で確認をしたかったのだろう。レンネさんはしばらくの間目を瞑り、リンネのすそを掴んでいる手をギュッと握り締めた。


 その時レンネさんの脳裏になにがよぎっていたのか。

 男が死んだ事への喜びか、一緒に捕らわれていた子達が死んでしまった悲しみか、自分の手で復讐を果たせなかった事への悔恨かいこんか……。


 俺にはわからなかったが、レンネさんはしばらくして一言『かたきを討ってくださって、ありがとうございました……』と言って頭を下げた。


「うん……でも、結果的に捕らわれていた子達は俺が殺したみたいな形になっちゃった。ごめんね」


「――いえ、どの道あのままでも、いつかはなぶり殺しにされていたのです。あそこでは、泣きながら『お願いですから一思いに殺してください……』と懇願した人もいましたが、その願いが叶えられる事はありませんでした。ですから、誰も洋一様を恨んでなどいないはずです。みんなを代表してお礼を言わせてください。ありがとうございました」


「……うん」


 レンネさんの言葉の最後は、本当に何人もの感情が乗っているかのように力強かった。


 全てのトラウマが癒えた訳ではもちろんないだろうが、一つ壁を乗り越える一助にはなったのだろうか?

 だとしたら、160億アストルをかけた甲斐かいがあったというものだ。


 退室していく二人を見ながら、俺はこの姉妹のこれからが平穏に過ぎ、幸せである事を祈らずにはいられなかった。


 もう一生分。それ以上に苦しい思いをしたもんね……。




大陸暦420年10月4日

現時点での大陸統一進捗度 1.2%(パークレン鉱山所有・エルフ4963人)(パークレン子爵領・エルフの村3ヶ所・住民293人)

資産 所持金 20億6923万(-8億1034万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(鉱山前市場商店主)

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