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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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88/323

88 誕生日

 大勢のエルフさんが到着し、治療に服に、食事に住む所に聞き取り調査に精神的ケアにとあわただしい中、俺には外す事のできないイベント当日がやってきていた。


 それは3月24日。今日は妹の誕生日なのである。


 去年はすっかり忘れていて、俺だけが祝ってもらって気まずい思いをしたが、今年は絶対に忘れないようにと気を張っていたのだ。


 とはいえ、一段落はついたものの今の鉱山はあわただしい。

 薬師さんは大量の入院患者の対応と薬作りにかかりきりだし、リンネも牧場出身エルフさんの指導のかたわら、各種素材を忙しく集めて回っている。


 どうもみんなを集めてパーティーを開く雰囲気ではなかったし、増えた住民に対応するべく住居を作り。食糧を買うお金を確保するべく木製品を作りと忙しく働いているセレスさんに、妹への誕生日プレゼントを作ってくださいとも言い出しにくかった。


 なのでパーティーは中止にし、王都への出発を待ってもらっていたライナさんには、お詫びを言って連絡輸送任務に戻ってもらう事にする。


 少し凹んでいる俺を気遣ってか、ライナさんが『立派なパーティーもいいですが、兄妹二人でゆっくり過ごす誕生日も、香織殿は喜ばれると思いますよ』と言ってくれたので、そっち方面でいく事にしたのだった。


 プレゼントも、本命としてはこの世界に来たばかりの頃、無一文でその日の宿や食事にも困って、やむにやまれず売ってしまった妹の身だしなみセットをと考えていた。

 鏡とクシがセットになったあれを、なんとか買い戻せないかとリステラさんに相談していたのだが、結局行方は掴めなかった。


 どこかの貴族家に買われたのだろうから、先日の内乱で取り潰されていたりしたら古道具として出回っているかもしれないし、使っている人の情報が手に入ったら、高くてもいいから買い取って欲しいとお願いしたのだが、見つからなかったそうだ。


 セレスさんに似た物を作ってもらうのも断念し、プレゼントは結局、俺が作ったハンバーグになった。


 ハンバーグは子供の頃の妹が好きだったもので、今も好きかどうかは分からないが、調理場にあるもので作れそうだったし、他になにも思いつかなかったので。


 夕食の片付けを終え、妹が病室の手伝いに行っている間に、道具と食材を拝借して調理にチャレンジする。


 最近は料理のプロになりつつある妹相手にハンバーグを出すというのが、実はとんでもなく高いハードルだと気付いたのは調理を始めてしばらく経ってからだったが、もう後には引けない。


 なんの肉か分からないけど、とりあえず包丁で叩いてミンチにし、タマネギのみじん切りと、なんか香草っぽいものを刻んで混ぜる。

 原材料不明の食材を使っているが、まさか調理場に有毒な物は置いていないだろう。

 そもそも、タマネギみたいに見えるこれだって、本当に元の世界のタマネギと同じ物かは分からないのだから。


 中学校の調理実習で作った工程を思い出しながら、パンかごの底からパン粉を集め、卵、塩、なんかそれっぽい調味料も混ぜて手でこね、形を作って空気を抜き、油を引いた鉄板をかまどの火にかけ、そこに乗せる。


 一回ひっくり返して弱火でじっくり焼いている間、ジャガイモを茹でて塩を振った添え物を用意し、チーズを刻んでハンバーグにかける。

 ハンバーグを焼いたあとの鉄板でレアの目玉焼きを作り、そっと上に乗せれば完成だ。


 生を警戒するあまり長めに焼いたらちょっと焦げてしまったが、それなりに形にはなったと思う。

 というか完成してから気付いたが、寝る前にハンバーグってどうよ?


 なんかもうグダグダになってきたが、開き直って二人分のハンバーグをお盆に乗せ、妹のいる部屋へと向かう。


「香織、誕生日おめでとう!」


 ヤケクソで部屋に突入すると、縫い物をしていたらしい妹は驚いて顔を上げ、俺の持っているハンバーグを見ると、突然涙をポロポロとこぼし始めた。


「え? あ、あれ? 香織? ハンバーグ嫌いだった?」


 お盆をテーブルに置き、動揺しながら妹に近付くと、妹が抱きついてくる。


「うれしい。お兄ちゃん、わたしの好きな食べ物覚えててくれたんだね!」


「……お、おう。あんまり上手くできなかったけどな」


「お兄ちゃんが作ってくれたものなら、なんでも美味しいよ!」


 料理人にあるまじき発言をして、妹は俺が作ったハンバーグに興味津々だ。

 一応確認をしたが、使った食材は全部食べ物だったし、卵も生で食べて大丈夫な鮮度の物だった。

 果実ジュースで乾杯をして、俺も自作のハンバーグを口に運ぶ。


 う~ん……微妙!


 食べられないほど不味くはないが、肉汁が抜けていてパサパサだし、ソースがチーズだけというのも味気ない。

 目玉焼きを崩して黄身と絡めれば、なんとかそれなりに食べられるかなという代物だった。

 正直、香織が作ってくれる料理の方が100倍美味しい。


 これは失敗だったな思っていると、向かいに座った妹は嬉しそうにハンバーグをほおばっていて、すごい勢いであっという間にたいらげてしまった。

 そして、俺の手元のハンバーグに視線を向ける。


「お兄ちゃん、もう食べないの?」


「え? ああ、香織食べるか?」


「うん! 食べさせて!」


「は?」


 一瞬聞き間違いかと思ったが、妹は目を閉じ、鳥のひなのように口を開けている。


「…………」


 ハンバーグを一切れ切って口に入れてやると、妹はおいしそうに咀嚼そしゃくし、飲み込んだかと思うと『おかわり』と言ってまた口を開けた。

 ……うちの妹、こんな大食いだったっけ?


 結局妹はハンバーグ一個半を平らげてしまい、幸せそうに俺の隣にやってきて、もたれかかってくる。


「ねえお兄ちゃん、覚えてる? わたしの6歳の誕生日にも、こうやってお兄ちゃんが自分の分のハンバーグを食べさせてくれたよね。わたし、あれからハンバーグが大好物になったんだ……」


 6歳……9年前か? そんな事あったかな?


 俺は思い出せなかったが、妹は懐かしそうに、嬉しそうに意識を過去へと飛ばしている。

 バレないうちに話を変えよう。


「ホントは、この世界に飛ばされてすぐに売っちゃった鏡とクシのセットを買い戻してプレゼントにしようと思ったんだけどな。見つからなくて、ごめんな」


「え、どうして? あんな物よりおにいちゃんが作ってくれたハンバーグの方が、比べられないくらい嬉しいよ」


「いや。でも、貴重な前の世界からの持ち物だったじゃないか」


「それはそうだけど……前の世界のものはお兄ちゃんさえいてくれればそれで十分だよ。それに、クシも鏡もお兄ちゃんが新しいの買ってくれたじゃない」


「でもあれ、お気に入りだったんじゃないのか?」


「デザインと機能性は気に入ってたけど、お兄ちゃんが買ってくれた物があるなら、そっちの方がいいに決まってるじゃない。そうだお兄ちゃん、誕生日だからわがまま言っていい? このクシでわたしの髪をいてくれると嬉しいな」


 そう言って、小物入れから昔買ってやったクシを取り出し、ベッドに座って俺を呼ぶ。

 誕生日のわがままだと言われてしまうと、どうにも断り辛い。


 俺は妹と並んでベッドに座り、きれいな黒髪にクシを通していく。

 妹の髪はサラサラで、ほんのりいい香りがした。満足なシャンプーや石鹸せっけんもないのに、この甘い香りはどこからくるのだろうか……。


 結局、途中からなぜかヒザの上に乗ってきた妹の髪を、妹が納得するまで小一時間き続ける事になったが、まぁ、妹が喜んでくれたのならそれでいいか……。




大陸暦420年3月24日

現時点での大陸統一進捗度 1.2%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフ5255人)(パークレン子爵領・住民0人)

資産 所持金 35億2450万

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(鉱山前市場商店主)

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