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8 金策

 俺と妹の二人は再び町に出てきていた。


 リンネに訊いた所、あの宿の宿泊料金はお風呂代わりのお湯つき二人部屋で2000アストル、夕食は一人500アストルらしい。

 アストルはこの国の通貨単位らしいが、2000アストルがどのくらいの価値なのかさっぱりわからない。たしか昨日街壁で求められた通行料は、一人銀貨一枚だった。

 わからない事だらけだな……。


 今日も俺の袖を掴んで離さない妹と歩きながら、街を観察する。

 道は舗装なんてされている訳もなく、当然土。今は昨日の雨で若干湿っているが、乾いたら埃がすごそうだ。

 建物はほとんどが木と泥を焼いたレンガでできていて、街路樹の類もないので視界はほぼ茶色一色だった。文明度どのくらいなんだろう?


 商店から露天まで店が色々あるので、物価調査がてらのぞいてみるが、大きな黒パンが一個100アストル、肉の串焼きが300アストル、リンゴが150アストルとかだった。

 元の世界の物価に近いような気もするが、布や金属などは非常に高く、粗末な服が一着2万アストル、釘が一本100アストル、包丁サイズのナイフが8000アストルとかだ。


 元の世界でも産業革命が起きて大量生産が始まるまでは、布や金属は貴重で高価な物だったそうだけど、そういう事だろうか?


 他になにかよくわからないものも売っていて、本当なら片っ端から鑑定してみたい所だったが、まだ体が少しだるいし、また気を失ったら困るので乱発は避ける。鍛えたら使用回数増えたりするのだろうか? これも調べないといけないな……。


 やる事は山積みだが、とりあえずは今夜の宿代2000アストルを稼がなくてはいけない。できれば昨日の分も含めて4000アストル。

 そして、食事代や身の回り物を買い揃えるお金もほしい。俺の部屋着はともかく妹の制服姿はかなり目立ってしまっているし、俺的には切実に靴がほしい。足の裏痛い。


 とはいえ、今の俺達は体一つが全財産だ。商売をする元手すらない。

 元手ゼロからお金を稼ぐ方法を色々考えてみるが、肉体労働かひったくりくらいしか思い浮かばなかった。本当はもう一つ、人類最古の職業と呼ばれるものが浮かんだが、それは絶対却下だ。妹は俺が護る。


 だがひったくりは問題外として、肉体労働の方も微妙そうだ。自慢じゃないが一年間引きこもりをやっていた俺の体力なんて子犬並だし、すれ違うこっちの世界の人はがっしりした体格の人が多い。とても混じって働けそうにはない。


 読み書きができる事を売り込もうかとも思ったが、街を歩く限りそもそもそんな能力は必要とされていなさそうだ。帳簿をつけていそうな店なんてどこにもない。

 と言うか、そもそも紙が馬鹿高い。ザラザラの質が悪いのが一枚500アストルとかだった。

 やはりなにか商売をするしかなく、どうしても元手が必要なようだ……。


「なぁ香織。なにか売れそうな物持ってないか?」

「え、ちょっと待ってね……」


 あわただしく制服のポケットを探る妹。ちなみに俺は着ている服以外なにも持っていない。ホント使えないな俺……。


「あ、これなんてどうかな?」


 少し鬱入っていたところに妹が差し出してきたのは、オレンジ色をしたプラスチックの板だった。

 手に取ってみると、下半分が開いて小さな鏡に、上半分は外れて折り畳みのクシになっている身だしなみセットだった。さすが女の子。


 前の世界では100円ショップで売っていたような安物だが、この世界での価値はどうだろう? 一見きれいだし、映りのいい鏡とかは結構貴重な気もする。

 物を鑑定しても値段が出ないのは昨日確認済みなので、さっぱり判断がつかない。


「香織。悪いけどこれ売っちゃっていいかな? いつか必ず埋め合わせするからさ」


 とはいえ、今はこれにかけるしかない。

 妹に許可を貰って道具屋を目指す。どうせならなるべく高く売りたいので、表通りの一番大きな店だ。

 大きなと言っても知れてるけどね……。


「これを買い取ってほしいのだが」


 なるべく偉そうな態度で、さも『どこかの貴族のお忍びですよ』という体を出して言う。裸足の貴族なんている訳ないだろうけどね。


 店主は一瞬俺たちをいぶかしそうに見たが、鏡を一目見るとすぐに顔つきを変え、熱心に品定めをはじめた。



「……五万アストルなら買い取ろう」


 しばらくして、店主はぶっきらぼうにそう言った。


 五万……宿代の25日分だ!

 だがすぐに飛びつきたくなるのをぐっとこらえ、全力で平静を装う。こういうのは大抵、最初は安く言われる物なのだ。


「おいおい冗談だろう? そんな値段じゃとても手放せないね」


「チッ、じゃあ10万でどうだ」


 なんかいきなり倍になった。どんだけ買い叩くつもりだったんだ?


「こっちも忙しい身なんだ。まともに査定する気がないなら他所へ持って行くぞ」


「……わかった、なら35万だ」


「まだまだだな」


 あえてこちらからは値を言わず、強気で拒否を重ねて値段を上げさせていく。


「87万5000。もうこれ以上は勘弁してくれ……」


 結局最初の値段の17倍以上になった。どんだけだよこの世界。

 それでも値段を提示する時には死にそうな顔をしていた店主が、俺達が店を出る時には『また珍しい物があったら持って来いよ、高く買うぜ!』と満面の笑みを浮かべていたのを見ると、十分な利幅を取れる宛があるのだろう。


 ともあれ、俺が手にしている皮袋には一万アストル銀貨が87枚と、100アストル銅貨が50枚入っていて、ズシリと重い。

 とりあえず、当面の生活費は確保できたようだ。




現時点での大陸統一進捗度 0%

資産 所持金 87万5000アストル(+87万5000)

配下 なし

やっと文末のデータ動きました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無一文で放り出されて町にすら入れない、 宿屋にも泊まれないって妙にリアリティがあるなw チートは鑑定と危機回避だけか? [気になる点] 普通なら転移、転生後に神?から少しのお金と戦闘力を貰…
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