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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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77 内戦の勝敗を決める鍵

 地図の上では明らかに第三王子派が有利な状況で、あえてどちらが勝つと思うかと発した俺の問いに、エイナさんは面白そうにペンを手にする。


「現状どちらが有利かという問いなら、兵力の動員と集中できる数から8:2で第三王子派と答えた所ですが、どちらが勝つかであれば、六割の確率で第二王子派とお答えいたしましょう」


 リステラさんが『え?』みたいな表情でエイナさんを見る。俺は妹が淹れてくれたお茶を飲みながら、話の先を見守る事にする。


「そんな圧倒的な劣勢をどうやって跳ね返すって言うの? 四倍の兵力差だって言ったじゃない」


「こうするのですよ」


 エイナさんは緑のインクが入ったペンを取り、南西部の広大な白色を緑に塗ってしまう。


「こうなれば兵力差は8:5です。しかも第三王子派の盟主であるバルナ公爵は、地勢的に北と西の両方に軍をかなくてはいけなくなる」


「……それはそうかもだけど、たとえ増えた3に対抗する兵力を西に向けても、第二王子派にも援軍が来ないなら5:2じゃない。まだ第二王子派が不利よ」


「その通り、そこでこうします」


 エイナさんは地図の黒い網線で塗られている場所に、青いインクで網線を入れはじめる。

 地図上の青と緑の面積が増し、赤を上回っていく……。


「こうなれば、南部で3ずつの兵力がにらみ合って、王都周辺では5:7で第二王子派が有利になります」


「……王軍を動かすって言うの!? でも今の正式な王太子は第三王子なのよ」


「さすがに全軍は無理でしょうがね。今の軍務大臣は現王の弟君ですが、正妻をファロス公爵家からもらっており、バルナ公爵家の勢力拡大をあまりよく思っていない、潜在的第二王子派です。ファロス公爵家が中立では動かないでしょうが、逆にファロス公さえ動けば、おのずと歩調を合わせてくるでしょう」


「……ひょっとして六割ってのは、ファロス公爵家を第二王子派に引き込める確率なの?」


「その通りです。ファロス公爵家は、先代までは同じ南部の貴族同士バルナ公爵家と懇意でしたが、当代の当主に変わってからは疎遠になっています。理由の一つは現バルナ公の大きな野心。もう一つは現ファロス公が変わり者であるからです」


「変わり者?」


「ええ。当代ファロス公であるアメリア・ファロス様は四年前に当主を継いで以降、一度も王都に姿を見せた事がありません。当主就任の挨拶さえ、病と偽って代理人で済ませました。姿を見た事がある者は、王都にはほとんどいないでしょう」


 今はっきりと『偽って』って言ったよな。

 なんか気になる展開になってきたので、俺も話に加わろう。


「エイナさん。なんでその人は嘘までついて領地に引きこもってるんですか?」


 別に元引きこもりとして興味が湧いた訳じゃないからな。


「王立学校にいるファロス公領出身者の話によれば、大層な自由人だそうです。頭がよく、領主としては大変有能ですが、それだけに自分より頭の悪い相手と話すのが耐えられない性分であるようです。逆に自分が興味を持った相手なら、身分や専門分野を問わず重用するとも。王立学校の高等部に在籍している者でさえ眼鏡に適わなかったと言うのですから、相当でしょうね」


 なるほど。そんな人が王都に来て挨拶回りとか社交とか、そりゃ嫌がるだろうな。


「でもそんな人だと、バルナ公爵家と結ばないのはいいとしても、味方に引き込むのも大変じゃないですか? 公爵家ともなれば中立も許されるでしょうし」


「おっしゃる通りです。ですから、交渉に立つ使者の能力が問われますね。エイナ・パークレンというらしいですが」


 使者の名前までって、エイナさんさすがに詳しすぎないか? しかもどこかで聞いた名前だな、エイナ・パークレン…………エイナ・パークレン!?


「……エイナさん、パークレンって家名を持っている人、エイナさんとライナさん以外に誰か知ってます?」


「生きている人物の中では存じませんね」


 だよね、この国ではそもそも苗字ある人自体がレアだもんね。


「な、なんでエイナさんが使者に?」


「さて、それは依頼をしてきたネグロステ伯爵家に訊いていただかないとわかりかねます。ですが私としてもファロス公には興味があったので、お引き受けしました」


 ……興味あっただけでそんな大役よく引き受けたな……さっきの話からすると、この戦いの勝敗を決する最重要任務だぞ。


「……交渉を成功させる勝算があるんですか?」


「さっき言った通り、六割といった所です。自分が多少賢い自負はありますが、公爵閣下のお気に召すかどうかは分かりませんからね。そもそも伯爵家の縁者でもない平民が公爵家への使者に立つのですから、普通なら非礼を問われてその場で死罪になってもおかしくない案件です」


 たしかに俺が今まで見た人間の中では、エイナさんが一番賢いけどさ……。ちなみにエルフも含めると薬師さんが一番賢いと思う。


 さすがにいきなり殺されるとはエイナさんも思っていないだろうが、それにしてもあやうすぎる。伯爵家もよくエイナさんを派遣する決断したな……たしかに変わり者の興味を引きそうではあるけどさ……。



 場が微妙な沈黙に包まれてしばらく、思いっきり戸惑った声でリステラさんが口を開く。


「……あ、えっと、なに? ひょっとして私、ネグロステ伯爵家についたほうがいいの?」


「それは洋一様次第ですね。私を第二王子派に、リスティを第三王子派につかせて、どちらが勝っても勢力を残せるようにする手もありますし」


 そんな事を言いながら、エイナさんがこちらをじっと見てくる。リステラさんも、そしてなぜか香織も。三人の視線が俺に集中する……。


「え、ええと……リステラさん、勧誘への返事はどのくらい引き延ばせますかね?」


「遅くとも数日中には返事をしなくてはいけないかと」


 おおう、それじゃあファロス公爵家の引き込みに成功するかどうかを確認してからじゃ遅いか。公爵の住まいは以前に行った事のあるトレッドらしいが、急いでも片道15日らしいからなぁ……。

 となると、選択肢はもうほぼ一択だろう。


「……わかりました。じゃあ、俺達はみんな揃ってネグロステ伯爵家につきましょう。リステラさん、それでいいですか?」


「ええ、構いませんよ。エイナが一緒なら頼もしいですし、命を預けるにも足ります。むしろ破滅するなら共にがいいです」


 さすが友情に厚いリステラさん、思い切った事を言う。あ、エイナさんがちょっと照れくさそうに赤くなってる。ライナさん相手以外でこんなエイナさんを見られるのはとても貴重だ。


「負けてしまった時の備えとしては、鉱山を残しておきましょう。あそこは一応王領ですし、付近の貴族は第三王子派みたいですから、多少の献金をして味方アピールをしておけばいいでしょう。リステラさん、買収代金の清算が終わったら、鉱山とは縁が切れたと宣言しておいてください」


「なるほど、了解しました」


 一度方針が決まれば、リステラさんの表情は晴々として意欲に満ちている。エイナさんと共闘で、しかも勝った時に実入りが大きい小勢力の側だというのもあるんだろうけどね。

 リステラさんはしばらく考え込んだ後、やおらに口を開く。


「第三王子派に敵対姿勢を取るとなると、警備を増やさなければいけませんね。カレサ布の販売も当分は中断するとして……洋一様、申し訳ありませんが薬店の売り上げから二割ほどをこちらに回していただく事は可能でしょうか?」


「うん、それは問題ないよ」


「ありがとうございます。エイナ、今回の騒動はどのくらい長引きそう?」


「そう長くはないでしょうね。現国王が亡くなった時が勝敗を決する時ですから、長くて数ヶ月。決着までにどれだけかかるかは分かりませんが、長引けば隣国の介入を招くのは双方分かっているでしょうから、短期決戦をはかるはずです。おそらく半年以内には全て片付くと思いますよ。それ以上長引くようなら、どちらが勝つかよりもこの国が滅ぶ心配をするべきでしょうね」


 それは一番困るな。どっちが勝ってもなんとかなるよう保険をかけるが、他国に征服されたら全部台無しだ。


「エイナさん、その想定より早く。たとえば王が殺されるとか、第二王子が謀殺ぼうさつされるとかで開戦が早まる可能性は?」


「全くないとは申しませんが、薄いでしょうね。第三王子派はそんな無茶をせずとも、このまま自然に事が運べば勝利が転がり込んでくると思っているでしょうから、危険を冒す理由がありません」


「なるほど、安心しました。ファロス公爵を説得に行く時間はあるという事ですね。いつ出発するんですか?」


「まだ未定です。公爵になにか献上品をと思っているのですが、良い品が思い浮かばないのですよ。洋一様はなにかご存知ありませんか?」


 献上品かぁ……。頭が良くて、知的好奇心がやたら強い人が喜びそうな物。なにかあるだろうか……?


 前の世界にあったもので、この世界でも再現できそうな物を考えてみる…………。


「あ、そうだ! 熱気球なんてどうでしょうか? 見た目の印象も強くて、気を引く効果も高いかと」


「熱気球……とはなんでしょうか?」


 リステラさんはもちろん、エイナさんも不思議そうな顔をする。前の世界ではフランス革命の頃にはあったはずだけど、中世風なこの世界には存在しないようだ。


「こう、軽い袋の下で火をいて熱を送るとですね、フワリと浮き上がるのです。大きい物なら人間が乗って空を飛べますよ」


 ……あれ? リステラさんとエイナさんがすっごい胡散臭うさんくさそうな目でこっちを見ている。いや、ホントだよ?



大陸暦419年11月22日

現時点での大陸統一進捗度 0.11%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフ3977人)(リステラ農場所有・エルフ100人)

資産 所持金 42億2218万

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(B級冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(鉱山前市場商店主)

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