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7 大恩

 ん……ううん……


「あ、お兄ちゃん起きた? おはよう」


 ……目の前に制服姿の妹がいる。あれ、まだ夢かな??


 妹が窓を開けると、明るい陽射しが射し込んできた。

 窓といっても木の板をつっかい棒で跳ね上げるだけで、ガラスなどは入っていないので冷たい風も一緒に吹き込んでくる。


 って俺、パンツ一枚じゃないか!


 昨夜の事を思い出し、毛布の上から慌ててパンツの部分を確認する。

 幸いにも、息子さんは大人しくしてくれているようだった。


 兄としての体裁を保てた事にほっとしつつ立ち上がると、ふらりとして転びそうになる。

 妹が慌てて支えてくれたが、あまり密着されると息子さんがアレで体裁が砕け散ってしまうので勘弁して欲しい。


「お兄ちゃん大丈夫? 具合悪いの?」


 妹が心配そうに訊いてくる。

 体を確認してみると、なんだか妙な気だるさがあるが、体調の方は問題ない。鑑定の力を使いすぎたせいだろうか?


「うん、大丈夫。香織の方こそ平気か。なんかだるかったりしない?」

「わたしは平気だよ。お兄ちゃんのおかげでよく眠れたし」


 なにが俺のおかげなのかよくわからないが、ともあれ本当に元気そうだ。

 妹も危険察知の能力を何度か使ったはずだが、常時発動型能力と任意発動型で消耗度合いが違ったりするのだろうか?


 まだまだわからない事だらけだが、とりあえず今は服を着るのが先決だ。


 外が雨だったのと床に置いて干したせいで、服は下側が生乾きで湿っていたが、泥汚れはほとんど落ちていた。今日は晴れみたいだし、着ていればそのうち乾くだろう。


「お兄ちゃん、これからどうするの……?」


 妹が不安そうに訊いてくる。

 昨夜考えていたことを告げ、情報収集のために街に行くと言うと、妹は一瞬不安そうな表情を浮かべたが、すぐに俺の袖をギュッと掴んでくる。


「わたしも行く」


 本当は妹を危険な目にあわせたくないが、ここに一人で残していくのが安全とも限らないし、そもそも宿代を払っていないので無理な話だ。

 それに、危険察知の能力を持つ妹が一緒に来てくれるのはとてもありがたかったので、了解の返事をして二人で部屋を出る。


「あ、ご出立ですか?」


 タイミングよく、バケツと雑巾を持ったエルフの少女と出くわした。


「はい。昨夜はありがとうございました、本当に助かりました」

「いえそんな、私なんかに頭を下げないでください」


 妹と二人深々と頭を下げると、少女は慌てたように手を振り、逃げるように部屋に入ると、掃除をはじめた。

 恩人に対して少し申し訳ない気がしたが、俺は少女に鑑定を発動してみる。


 リングネース エルフ 116歳 スキル:弓術Lv6 採取Lv5 状態:体調不良(弱)・空腹(中) 地位:奴隷


 おおう、さすがエルフ。116歳て……と驚くより先に、衝撃の情報がいっぱいだ。


 まず俺達の時と項目が違う。特殊スキルはないし、代わりに地位の項目がある。そしてそこに『奴隷』の文字……。


 よく見てみると、少女の首には金属製の首輪がはまっている。昨日は薄暗かったので気付かなかったが、痩せていて服も粗末だし、寒いのに裸足の足は赤く腫れている。指先も酷く荒れていた。


 そして奴隷という境遇に加え、体調不良(弱)と空腹(中)。なのに昨夜、お金のない俺達には一人分の食事と、元倉庫にしてはきれいに掃除された部屋。そして備え付けのように置かれた一枚の毛布が提供された。

 それってつまり……。


 持ってきたバケツと雑巾で床を拭いている少女に、俺はおそるおそる訊いてみる。


「あの、この部屋ってもしかして貴女の……」


 外見から同い年くらいだと思っていたのに、まさかの超絶年上と判明したので思わず敬語だ。そして名前は知っているけど、聞いた訳ではないので出さないほうが良いだろう。

 俺の言葉にエルフの少女は掃除の手を止め、慌てたように立ち上がる。よく考えたら少女もおかしいか? でも見た目は明らかに高校生くらいなんだよな……。


「……申し訳ありません、お嫌でしたよね」


 エルフの少女はよくわからない事を言うと悲しそうにうつむき、長い耳がシュンと垂れる。どうやらこの部屋が彼女の部屋だというのは当たりらしいが、様子が少しおかしい気がする。


「そんな、嫌だなんてとんでもない。それよりごめんなさい、俺達のせいで風邪をひかせてしまったみたいで……」


 少女の鼻は少し赤くなっている。おそらく昨夜は毛布もなしで、空腹を抱えて震えて眠ったのだろう。痩せている所をみると、普段から満足に食べさせてもらっていないのだろうに……。

 おかげで助かったのは事実だが、これはとんでもない大恩たいおんができてしまった。恐縮している少女に、俺は心の奥底からの言葉をかける。


「昨日は本当にありがとうございました。この恩は必ずお返しします。俺は洋一、こっちは妹の香織です。覚えておいて下さい」


 俺の言葉に少女は顔を上げて一瞬固まった後、嬉しそうに笑ってくれた。


「はい、私はリンネです。あの、ごらんの通りエルフ族ですので、そのように丁寧な言葉を使っていただかなくても……」


 その言葉に、さっき感じた違和感がまた強くなる。

 鑑定で見た地位に奴隷とあったが、ひょっとしてエルフ族全体が差別されていたりするのだろうか?


 さすがにそれをストレートに訊くのはためらわれたので、気まずい雰囲気から逃げるように話を変える。


「あの、この宿って正規の料金だと一泊いくらなのかな……?」




現時点での大陸統一進捗度 0%

資産 所持金 ゼロ

配下 なし

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[良い点] なんという人格者 リンネに恩返しするシーンが見たい
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