68 農場の運営方法
翌日。俺達にセシルさん達一行も加えて、会議が開かれる。議題はもちろん、農場の経営についてだ。
最初にセシルさんが発言し、今後の計画について語ってくれる。
・とりあえず各種の生産は現状維持とし、人員の都合で王都への行商は中止。出荷先をトレッドだけに絞る。
・農場の産品を売り、代わりに食料や必要物資を買い付け、エルフの生活改善を図りつつ、生産の改良を行う。
・トレッドとの往復の護衛は冒険者を雇い、農場にもワイバーンの襲撃に備え、B級冒険者四人以上を確保して常駐を目指す。それが確保できる前にワイバーンの襲撃があった場合は、牛か馬一頭を生贄に差し出してとりあえず急場をしのぐ。
・費用は冒険者を雇う費用が嵩むので、当面は相当の赤字になる見込み。
・トレッドとの交易をセシルさんのお供のうち男の人が担当し、農場の生産管理を女の人が。セシルさんはその両方を統括しつつ、トレッドでの販売と買付け、冒険者の採用などを行う。
という計画らしい。
う~ん……。エルフさん達の待遇改善にも配慮してくれた、ありがたい計画だとは思うけど……。
「あの、セシルさん。俺としては、もうちょっとエルフの自主性に任せた運用がいいかなと思うんだけど?」
「と、申されますと?」
「具体的には、セシルさん達には首輪の管理と製品の輸送を主に担当してもらって、農場の運営は警備も含めてエルフ達に任せましょう。人員も足りないようですし、その方が楽かと」
俺の発言に、セシルさんは怪訝な表情を浮かべる。
「それでは今までと変わらないのでは? 多少の畑と家畜はありますが、あれでは100人からのエルフを養うには全く足りません。エルフの待遇を改善したいのではなかったのですか?」
おお、そこに気を使ってくれるとは実にありがたい。
「はい。ですが、待遇改善も含めてエルフに任せてしまって大丈夫だと思います。幸いこの付近には森が広がっていて、エルフは元々森で生活をしていた民です。食料の採取は彼女達に任せてしまって大丈夫かと。森で採れない塩とかは、街から運んでもらう必要があるでしょうけど」
俺の提案に、セシルさんは不安そうにお供の二人と相談をしているが、俺的には大丈夫な確信がある。
昨日今日と、ヒルセさん以外の森出身とおぼしきエルフさん達も鑑定した所、他の九人も全員高レベルのスキル持ちだったのだ。
その中で採取のスキル持ちが五人。レベルが6・6・5・5・4で、同じくらいのレベルの弓術も併せ持っていた。
他にも布加工レベル4の人、木材加工レベル6の人、革加工レベル5の人、石加工レベル6の人と逸材揃いだった。何十年も前から使われている人が多く、入れ替わりも少なかったおかげだろう。
セレスさんが熱望していた石加工ができる人と、鉱山にはいない革加工ができる人は一緒に鉱山に来てもらうとして、それでも十分回ると思う。
なにしろ、あのリンネで採取レベルが5なのだ。このメンバーなら、100人を十分養えると思う。
と言うか俺の見た所、ここでは今までも周囲の森で採取が行われていたと思う。
広大な果樹園を人間八人で完全に見回るなんて不可能だし、ブドウとオリーブの搾りかすだけを与えられていたにしては、エルフさん達の健康状態は良好だった。絶対、こっそり森に入って食べ物を集めていたはずだ。
なので、今回はそれを公認にするだけである。
だがそんな事情を知らないセシルさんは、すごく不安そうだ。
「運営については洋一様の方針に従うようにと商会長からも言われていますが……本当によろしいのですか? 飢えたエルフ達が捨て身の反乱を起こしたりする可能性もありますが?」
飢えたエルフが反乱……。あの地獄のような鉱山でも起きなかったのに、ここで起きたりするだろうか? いや、そもそも飢えるような事にはならないはずだ。
「一応エルフの人達とも話をしてみますが、多分大丈夫ですよ。セシルさん達が興味あるのは、製品の販売の方でしょう? だったらお互いに有益な方式かと」
「本当にそうできるなら大変ありがたいですが……。せめて警備はつけた方が良いのでは? ワイバーンに襲われたらどうするのです?」
「そこはエルフ達に牛を育てさせて、それを囮にしてやり過ごしましょう。俺から話をしておきます。オオカミくらいなら、大勢でかかれば棒でも追い払えるのではないかと」
本当は棒じゃなくて弓だけどね……このギャグ、この世界でも通じるのかな?
それはともかく、エルフを武装させるとは大っぴらに言いにくいので、苦しい言い訳だが無理にでも納得してもらう。
「洋一様がそれで良いとおっしゃるのなら、そのように致しますが……」
セシルさんはまだ心配そうだが、一応納得してくれたようだ。
お供の二人は『エルフと話?』みたいな表情をしている。まだまだ壁は厚そうだな……。
セシルさん達との会議が終わった後、俺はヒルセさんの元を訪ねた。ヒルセさんの特技は木材加工なので、今日はエルフさん達の宿舎の修繕をお願いしている。
作業を一時中断してもらい、農場の運営と警備をこれからはエルフさん達に任せたい事。ヒルセさんと他二人をリンネ達のいる拠点に連れて行きたい事。街から調達して欲しい物資の調査を、他のエルフさん達に。特に森出身のエルフさん達に話して欲しいとお願いする。
当惑しつつも了承してくれたヒルセさんは果樹園の方へと走っていき、その日の夕食後には会合が持たれる事になった。
エルフさん達との会合。ヒルセさんから話を通してもらっているとはいえ、相手は人間に故郷を破壊され、奴隷にされた人達である。しかも多分、こっそり弓とか作って持っているはずだ。そして五人は弓の達人……。
こっちは俺と妹とライナさんだけなので、争いになったら絶対に勝てない。多分大丈夫だと思うけど、妹の警告には最優先で注意を払っておこう。
ちょっとビクビクしながら、空いている倉庫の一つに向かう。一応セシルさん達に聞かれないようにしないといけない。セシルさんは大丈夫かもしれないけど、お供の二人は不安がある。
俺達が倉庫に入ると、エルフさん達10人の20個の目が、一斉にこちらに注がれる。牧場出身のエルフにはない、意思を持った強い目だ。
緊張しつつ腰を下ろし、一つ深呼吸をして話を切り出す。
灯りが薄暗いのは幸いだ。明るい所だったらプレッシャーに耐えられなかったかもしれない……。
大陸暦419年9月20日
現時点での大陸統一進捗度 0.11%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフ3974人)(リステラ農場所有・エルフ103人)
資産 所持金 3億57万
配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(解放奴隷)




