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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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63 リンネの村の仲間探し

 ネグロステ伯爵家の別荘をって三日目の夜。俺達は王都の郊外へと戻ってきた。

 ライナさんにはエイナさんを王都の拠点まで送ってもらい、俺達は馬車で夜を明かす事にする。


 首輪を外したエルフである薬師さんは人前に出られないし、薬師さんだけ馬車に残すのも申し訳ないからね。いつか首輪をしていないエルフがふつうに街を歩ける日が来るといいなぁ……。


 そんな夢を描きながら、俺は荷物から一枚の紙を取り出して読み返す。

 それは以前、商会のリステラさんに頼んで調べてもらった報告書。そこには几帳面な文字で


『お尋ねの件ですが、20年前のエルフ奴隷売買の記録は奴隷市場にも残っていないようです。個別の案件については、テロス商会は8年前に倒産し、使われていた奴隷の行き先は不明です。スラン農場は現在も運営されており、資産価値はおよそ4億アストル。エルフの奴隷約100人を使っており、主な栽培品はブドウとオリーブです』


 と記されている。

 これはリンネの村から一緒に売られたエルフ達と、その中で売られた先が分かっている人の調査結果だ。忙しかったのと、お金がなかったので放置状態になっていた。

 現状所在が判明しているのは一人だけ。リンネと薬師さんの証言によると、全部で31人いたはずなのに……。


 とはいえ、今は分かっている所から手をつけるしかない。

 幸い鉱山の経営も軌道に乗ってきて、資金にも余裕ができた。やるなら今だろう。



 翌朝、リステラさんにスラン農場の調査と買収交渉をお願いし、俺達はライナさんと合流していったん鉱山に帰る。


 相手の顔を知っているリンネか薬師さんを連れて行ってピンポイントで当人だけを買い取る方法もあるが、首輪をしていないエルフの移動はリスクを伴うし、二人共鉱山で大切な仕事がある。


 薬師さんは患者の治療と薬の調合。リンネは食料や素材の採取と、牧場出身のエルフさん達の教育だ。

 将来森へ帰る時の事を考えると、採取ができる人材はたくさん必要だからね。

 秋になったらフランの花をいっぱい集めて欲しいし。


 なので、今回は農場全体の買収を目指す事にする。

 元々俺がリンネにした約束は、全てのエルフの解放だ。あくまで妹の安全が最優先だし、現状では果てしなく遠い夢だけど、手の届く所からコツコツ積み上げていくのは悪くない。

 リンネや薬師さん達の信頼を繋ぎとめる意味でもね。



 ……そんな訳でいったん鉱山に帰って薬師さんを降ろし、リンネと薬師さんに元村人宛の手紙を書いてもらう。

 いきなり知らない人間が現れて『俺はリンネの知り合いだ、一緒に来て欲しい』なんて言ったら、怪しさ120%だからね。小学生でもついていかないレベル。


 奴隷という立場を利用して無理やり連れて来る事はできるけど、危険が伴う。

 今の所エルフは温和な人が多いイメージだけど、初めて会った時の薬師さんみたいに、人間を憎んでいる場合だってある。


 何日も同じ馬車で旅をするんだから、『コイツを殺して首輪のネジを奪って逃げる』なんて考えられたら命に関わる。

 縛って拘束しておく手段もあるが、できるだけ同意の上で、穏便に連れて来られたらそれが一番だからね。



 書いてもらった手紙を持って王都へ向かう道中も、ニナには俺と妹が勉強を教え、ライナさんが馬車の扱いを教えている。ニナはとても飲み込みが早いので、鉱山前の市場を任せられる日も近いかもしれない。……親馬鹿かな?


 ニナは一応俺が保護者だが、最近妹が『わたしとお兄ちゃんの子供みたいだね』とか妙な事を言い出したので、なんとなくそんな錯覚に捕らわれてしまう時がある。初めて言われた時は、思いっきりリンゴジュース吹いたけどね……。




 再び王都へ着いた日の翌日、連絡すると早速リステラさん本人が訪ねて来てくれた。カレサ布に十日熱の薬の取り扱いと、今や王都でも中堅規模。知名度で言えばかなり高い商会の会長なのに、フットワーク軽いなこの人。


 リステラさんはお土産にと、ワインとオリーブ油を持ってきてくれた。くだんのスラン農場で作られた物らしく、ご参考にどうぞという事らしい。


 この国には未成年の飲酒を禁じる法律はないが、やはり抵抗があったのでワインを飲むのは遠慮して、オリーブ油と共に妹に調理してもらう。


 それにしても、この世界の食べ物は元の世界によく似ている。

 もちろん見た事がない食材や名前が違っている物もあるし、中世っぽいのに新大陸原産のジャガイモや唐辛子があったりもする。不思議な気がするが、エルフとかいる世界なんだから気にしてもしょうがないのだろう。


 ちなみにこの辺りでは貴重だが、南部ではお米も栽培しているらしい。一度食べた時は、懐かしさに思わず涙が出た。

 妹が作ってくれる料理はなんでも美味しいが、やはり食べ慣れたものは一味違う。

 いつか南部にも拠点を構えて、毎日お米が食べられるようになりたいものだ……って今はそんな事を考えている場合じゃなかった。


 妹が料理をしてくれている間に、リステラさんの報告を聞く。それによるとスラン農場は王国の南西、かなり遠い場所にあり、王都に拠点を持っていないのだそうだ。


 定期的に隊商と一緒に農場の馬車がワインやオリーブ油、干しブドウなどを運んできて、代わりに王都で商品を買って帰るらしい。買収交渉をするならその時に農場の人間を捕まえるか、こちらから出向くしかないとの事だった。

 人経由の交渉だと時間かかりそうだから、やはり現地に乗り込んで直交渉かな?


 ちなみに農場の所有者は王国南西部の中心都市、トレッドにいるらしい。家督を継げなかった貴族の三男が多少の土地を与えられてやっているタイプの、半領半農の農場との事だ。

 リステラさんが、


「このタイプの農場買収は面倒が多いですよ。経営も順調なようですから、資産価値4億アストルに対して7億から8億の費用を見ておく必要があるでしょう。本当にやるのですか?」


 と脅してくる。

 いや、脅しじゃなくて適切なアドバイスなんだろうけどさ。


「一応、本当にやりたいなと思っています。リステラさんにはまたご迷惑をおかけする事になるかもしれませんが……」


「その点についてはご心配なく。私はあくまで、洋一様に雇われた店長の身ですからね」


 リステラさんはそう言って、イタズラっぽく笑う。が、すぐに商人の目に戻って言葉を続けた。


「では農場を買収する件は良いとして、その後の経営はどうなさるおつもりですか?」


「そうですね……現地で状況を見て、それから決めようと思っています」


 一見無策っぽいが、わりと本気だ。最悪の場合、100人規模ならまとめて鉱山に連れて来る事も考えている。


「なるほど。農場がエルフを過度に酷使していないなら現状維持で改善を加える程度。酷使しているなら経営を刷新すると、そういう事ですね」


「…………」


「そんな驚いた顔をなさらなくても、洋一様とはもう浅からぬ仲なのですし。それにエイナからも色々聞いていますから」


 ……事情を深く理解してくれるのはありがたいが、浅からぬ仲とか、誤解を招くような表現はやめて欲しい。

 ただでさえリステラさんはイケメン美人で、さっきイタズラっぽく笑った時は少し心臓がドキッとしたんだから。


 ……って、なんか妹が突然部屋をのぞきに来た。もうすぐごはんできるのかな?


「……方針としては、おおむねそんな所です」


 なんとかそう返事を返すと、リステラさんはぐいと身を乗り出してくる。ちょ、顔近い!


「でしたら提案があるのですが、農場の経営をリステラ商会にお任せいただけませんか? もちろん所有者は洋一様ですし、運営方針にも従います。我々には商品の扱いについて裁量さいりょうをいただけると大変ありがたいのですが!」


「それは……こちらとしてはありがたい話ですが、そちらの人材は大丈夫なんですか? まだ商会を立ち上げて一年も経ってないですし、薬店にも人を出してもらっているのに」


「その点はご心配には及びません。将来の拡大を見越して、人材の育成には最優先で力を入れていますから。もちろん洋一様のお眼鏡にかなうよう、エルフに対して問題なく接する事ができる者を選抜しています」


 ……さすがエイナさんが一目置いてるだけあって、この人とんでもなく優秀だよな。相手の望む所を実に正確に察してくれる。これは商人にとって最高の才能じゃないだろうか? 駆け引き最強だ。


 それにしても、エルフと問題なく接することができる人材か。大変興味深い話だ……。




大陸暦419年8月16日

現時点での大陸統一進捗度 0.3%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフの労働者3974人)

資産 所持金 10億2489万(-10万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(解放奴隷)

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