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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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62 強力な後ろ盾

 手術から三日、俺の体重は五キロは減ったと思う。

 いよいよ伯爵家の皆さんの前で、ユミルさんの包帯を取る日がやってきた。


 薬師さんからは『上手くいったから大丈夫だ』と保証を貰っているが、もしもの事があったら命がないと考えると、もう生きた心地が全くしない。

 なんとか妹だけでも逃がしたいと思うが、その方法も思いつかなかった。


 今だけは、部屋でせっせと十日熱の薬作りに励んでいる薬師さんがうらやましく思える。忙しく仕事してるんだけど、この場にいなくて済むのだから……。


 包帯をくのは別荘の広間で、全員集合の元行われる事になり、椅子に座ったユミルさんの顔に巻かれた包帯を、エイナさんがゆっくりと解いていく。さすがのエイナさんも緊張しているだろうと思ったが、表情からは全く読み取れない。

 いつものポーカーフェイス……でもないなこれ、薬師さんの仕事を完全に信頼している表情だ。


 祈るような気持ちで見守る中、包帯が解かれ、ビニール状の樹皮ががされて、ユミルさんの顔があらわになる……。


「――ユミル!」


 真っ先に叫んだのは、伯爵家長女のユミネさんだった。


「ああ、本当に…………本当に元通りに……よかった、神様……」


 長女さんはユミルさんに抱きつき、きれいになった顔をさすって涙をポロポロとこぼす。

 四女さんも『お姉様ぁ!』と叫んで抱きつき、他の伯爵家の皆さんも目頭を押さえて、人によっては思いっきり泣いていた。


 メイドのカミラさんがガチ泣きなのはまだわかるが、執事長のドルソンさんや護衛のパウルさんもガチ泣きである。いい年をした大人の男なのだが、それだけユミルさんが愛されているという事なのだろう。

 俺もさっきまでの緊張を忘れ、思わず貰い泣きをしてしまいそうになる。


「申し訳ありませんが、まだ皮膚の定着が完全ではありませんので、あまり強く触れるのはご遠慮ください」


 場の空気を全く読まず、事務的に発せられたエイナさんの声に、長女さんが慌てて妹の顔から手を離し、一歩後ろに跳び退すさる。

 この人にこんなはしたない真似をさせる事ができるなんて、よくよくの事なのだろう。


 姉がどいてくれたおかげで、ユミルさんはようやく自分の顔をしっかりと見る事ができるようになった。

 メイドのカミラさんが持つ鏡に顔を映し、信じられないといった表情を浮かべ、指で触れて本当に自分の顔なのか確認しようとする。


 その手にも包帯が巻かれているが、あの下の傷もかなりえているはずだ。一ヶ月近く前に手術をしたニナの傷は、もうほとんど目立たなくなっている。この世界は薬が優秀な分、元の世界よりも傷痕などは残りにくいし、回復も早いようだ。


 ユミルさんは恐る恐るといった様子で自分の顔に触れ、本当に自分の顔であると確認すると涙を流し、やがて部屋に集まっている全員に優しく微笑ほほえみかけた。


「みんな、ありがとう……。そして医術師の先生、ありがとうございました……」


 その笑顔は誇張こちょうではなく、女神のように美しかった。伯爵家の人達も、侯爵家の長男さんも、この笑顔のとりこになったのだろう。そう確信させるのに十分なほど、その微笑みは魅力的だった。


 そしてそれは、愛する人達の前に再び笑顔で立つというユミルさんの願いが、半分叶った瞬間でもあった。もう半分も、遠い事ではないだろう。


 その時、長女さんが感極まったように床にひざを着き、頭を下げる。あろう事か俺に向かってだ。


「医術師殿、本当に……本当にありがとうございました! この御恩はネグロステ伯爵家の名誉にかけて、必ず、いかようにも報いさせていただきます!」


 伯爵家の長女が。別の伯爵家の第一婦人でもある超やり手の貴族の若奥様が、掛け値なしで頭を下げている……なんだろうこれ、俺をプレッシャーで殺しにきてるのかな?


 さすがに止めるべきでしょうと辺りを見回した時、四女さんから執事長さん、護衛の人やメイドさん達まで、全員が長女さんにならってひざまずき、一斉に頭を下げた。

 あ、ダメだこれ。緊張で吐きそう……。


 そもそも、本来賞賛されるべき薬師さんはこの場にいないのだ。なのに俺だけが感謝されるなんて、居心地が悪すぎる。


 俺は声を発しない設定になっているので、エイナさんに合図して頭を上げさせてもらい。あらかじめ決めていた通り、『あと二日様子を見て、その後はそちらの薬師さんなり医術師さんに任せる。薬と処置の仕方と注意事項をエイナさんによく聞いておくように。謝礼についてもエイナさんと話をするように』と伝えてもらい、逃げるように部屋へと戻った。


 部屋に戻って薬師さんに会うと、薬の調合をしながらさも当然のように『上々だっただろう?』と訊いてくる。はい、とっても上々だったでございます……。




 その後二日間別荘に滞在し、一度ユミルさんに目隠しをしてもらって薬師さんの診察を受けてもらい、問題ないとの判定が出たので、薬を伯爵家の薬師さんに預けて俺達は鉱山へと戻る事になった。


 ユミルさんは17歳で、もう成長期は終わっているので修正の手術も多分必要ないという事だった。

 もし必要になったら、エイナさん経由で連絡してもらう事にする。


 俺達が出立する間際、長女さんが『正式なお礼は追っていたしますが、とりあえず当座のお礼に……』と、重たい皮袋を渡してくれたので馬車に積み込み、薬師さんはまた箱に入ってもらって馬車に積み込んで、別荘を後にする。


 俺達が城門を出てしばらく進んだころ、入れ替わるように100人くらいの集団が城に雪崩れ込んで行くのが見えた。すわ公爵家の襲撃かと戦慄したが、エイナさんいわく伯爵家の皆さんらしい。


『最小限の人数で』というこちらの要望に配慮して、みんな近くで待機していたのだそうだ。両親はもちろん、姿を見なかった次女さんや、長男さんから三男さんまで。果ては使用人や領軍の人達まで含んだ集団だそうで、侯爵家の紋章がついた馬車も見えたそうだから、ユミルさんに告白した侯爵家の長男さんもいるのだろう。


 ホント愛されてるなユミルさん……と言うかこの伯爵家の面々、よく誰も公爵家にカチコミかけなかったよな。

 もしユミルさんが自殺していたら、わりと本気で公爵家と全面戦争になっていたんじゃないだろうか?

 そう考えると空恐ろしくもある。



 ……ともあれ、これで任務は完了だ。

 馬車の中で長女さんから貰った皮袋を開いてみると、100万アストル金貨がザラザラこぼれてきた。

 数えてみたらなんと1000枚、10億アストルだ。当座のお礼と言っていたが、これだけで当面鉱山のローンの支払いも安泰だ。もう少し待って秋になればフランの花の収穫もできるようになるし、なんとか無事に年を越せる見込みが立った。


 ゴキゲンで金貨を皮袋に戻そうとすると、袋の底に手紙が入っているのが目に留まる。

 なんだろうと思って開いてみると、そこには


『ネグロステ伯爵家一同、この度のご恩は決して忘れません。もし我々の力が必要な時があれば、いつ何時なんどきでもお呼びくださいませ。たとえ相手が人間でなくとも、我々は恩をお返しいたします』


 と書かれてあり、当主を筆頭に、誓約の署名が延々と書き連ねられていた。他家にお嫁に行っている長女さんまで、『ユミネ・ネグロステ』の名で署名している。


 俺は思わず、エイナさんと顔を見合わせた。

 薬師さんの存在はバレていると思っていたが、まさかエルフだという事までバレていたのか? でもどうして??


 エイナさんはしばらくの間、頭を抱えて考え込んでいたが、やがて『あっ!』と叫んで顔を上げる。


「そうです、しまった……。おそらく入浴用にいただいたお湯か布に、エルフの金色の毛髪が付着していたのでしょう。私とした事が、ぬかりました……」


 悔しそうに言うエイナさん。いや、21世紀日本の現場検証じゃあるまいに、ふつうは髪の毛なんて気にしないよ。



 エイナさんは申し訳なさそうにうなだれているが、これは結果としては良かったんじゃないだろうか? 謎の医術師がエルフだと知れた上で、それでも恩を返すと言ってくれているのだ。

 これ以上ない、最高の後ろ盾ができたという事ではないか。


 怪我の功名ですよとエイナさんを励まし、別荘にいる間ずっと薬の調合をやっていたので、馬車に乗ってからはずっと眠っている薬師さんを眺めながら、俺は最高の結果を得られた事に心の中で喝采かっさいを叫んだ。


 ネグロステ伯爵家は敵に回すと恐ろしいが、味方になってくれるならとても頼りになりそうだ。有能な人が多かったからね。




大陸暦419年8月6日

現時点での大陸統一進捗度 0.3%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフの労働者3974人)(ネグロステ伯爵家の後ろ盾)

資産 所持金 10億2499万(+10億)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(解放奴隷)

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