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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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60 ネグロステ伯爵家

 ライナさんと一緒に王都に戻ったエイナさんの手紙を持って、ライナさんが帰ってきたのは10日ほど経ってからの事だった。


 手紙によると、『段取りは全て整えました。術式はネグロステ伯爵領にある伯爵家の別荘で行う予定。期日は8月の1日でどうでしょうか?』という事だった。話まとめるの速いな。


 今日が7月の20日で、伯爵家の別荘は王都から馬車で三日との事なので、ここから王都への二日を入れても十分余裕がある。

 薬師さんに訊いてみると、病室にいる重症のエルフ達もずいぶん減って今は200人ちょっと、それも命が危ないレベルの患者はいないとの事で、その日程でよいと了解をもらえた。


 ニナの回復も順調で、左手で物を掴むくらいの簡単な動作はできるようになったし、ふつうに歩く事もできている。

 今は俺と妹で文字と計算を教えている。なかなか飲み込みが良く、今度の旅にも連れて行って道中も勉強を続けてもらう予定だ。

 嫌がるどころか、むしろ積極的に学びたがるのは才能の片鱗を感じる。


 以前は常に脅えた様子だったのも、顔の火傷痕が治ってからは歳相応の元気な子供になったし、エルフの皆とも仲良くやってくれている。貴重な人材だ。


 そんな訳で、今回は俺と妹、薬師さんとライナさんとニナ、王都で合流のエイナさんの6人で旅をする事になる。


 行先が王都の北西という事で、森の拠点の様子を見がてらリンネ達にも来て欲しかったのだが、今は鉱山の仕事で大忙しなので断念した。

 将来的には森の拠点と王都を繋ぐルートとして、伯爵領が使えると大変ありがたい。


 そんな事を考えながら馬車に揺られ、王都郊外でエイナさんと合流する。

 リステラ商会の人にも会って物資や来月分のローンと税金のお金を預け、郊外で一泊する。

 薬師さんは首輪を外してしまったので人前に出る事ができず、ずっと馬車の中で寝泊りしてもらわなければいけないのは、本当に申し訳ない。


 合流したエイナさんから情報を聞きながら、俺達はさらにネグロステ伯爵領を目指す。

 患者のユミルさんはもう別荘に向かっているそうだ。


 身元を明かせない怪しげな医術師による治療という話に、最初は両親はじめ周りの人達がこぞって反対したそうだが、エイナさんの学友である妹さんの強いすすめと、あの十日熱の薬の共同研究者だというエイナさんの紹介である事。

 そして最後には本人の『どうせこのままの姿では、死んだのも同然でしょう?』という重たい言葉によって、みんなうなだれて同意してくれたのだそうだ。


 現地にはユミルさん本人の他、護衛が20人と身の回りの世話をするメイドが10人。付き添いの伯爵家長女さんと、エイナさんの学友の四女さん。別荘の管理人、専属の薬師、料理人が2人という、こちらの要望に配慮した最低限の人数で待ってくれているらしい。

 最低限ねぇ……。


 まぁ、経緯を考えれば護衛が多いのは仕方がない。ちなみに王都を出る時には公爵家に雇われたとおぼしき監視がいたそうだが、領地に逃げ帰るのだと判断してか、伯爵領に入る手前で監視が外れたらしい。

 そりゃ相手の本拠にまで入り込むのは危険すぎるよね。


 王都から伯爵領までは馬車で一日ほどとの事だったが、手前にある小さな男爵領の森の中で、不意に妹が俺の袖を引いた。


 これは久しぶりの危険の合図だ。ライナさんに言って馬車を止めてもらい、急いで手前の街まで引き返す。


 公爵家の妨害かと、情報が漏れている可能性も含めて警戒したが、翌日街に伝わってきた情報では、以前から出没する盗賊団に行商人が襲われたらしい。

 妹以外の全員から『なんでおまえ知ってるの?』みたいな疑惑の目を向けられたが、『なんとなく虫が知らせた』と強引に誤魔化した。


 移動については他の人達とお金を出し合って護衛を雇い、大きな集団を構成する事で無事に森を通過した。領内の治安に力を入れていない場所では、盗賊団の出現とかわりとよくある事らしい。相変わらず物騒な世界だ。


 予定より一日遅れてしまったが、伯爵領の治安は安定しているようで、あとの行程は予定通りに進む事ができた。

 ちなみにネグロステ伯爵領は人口およそ8万人。王国全体だと350万人ほど。エルフの奴隷は人口に含まないのだそうだ。


 伯爵領の主要産業は、麦の栽培と放牧と革製品。名産品はチーズと麦酒ビール、伯爵家は名君として人気が高く、年間の税収は80億アストルほど。と、エイナさんが解説してくれる。

 て言うか伯爵家の収入なんてよく知ってるね。


 しかし、年収80億とはいえ領地の運営やその他にかかる費用もあるだろうから、自由に使えるお金となるとずいぶん減るだろう。果たして娘の治療費に数十億アストルも出してくれるのだろうか?


 まぁ、そこはエイナさんを信用するしかない。最悪1億アストルでももらえれば、ずいぶん助かるのだ。

 そんなこんなで俺達が伯爵家の別荘に着いたのは、7月の29日の事だった……。



「……これ、別荘?」


 いま俺の前にそびえ立っているのは、小高い丘の上に築かれた、立派な城壁に囲まれたお城である。

 王都の王城よりは小さいけど、別荘かお城かでいうと完全にお城だ。


 この大きさで護衛が20人にメイドが10人は、なるほど最低限なのかもしれない。

 俺なんかとはそもそも基準になる感覚が違うようだ。


 出迎えてくれた別荘の管理人だという初老の上品な男性に、エイナさんを通じて部屋数を訊いてみたら53室あるそうだ。宮殿やないかい。思わず住んだ事もない関西弁が出たわ。


 とりあえず別荘という名の宮殿に足を踏み入れるにあたり、俺と妹とライナさん、ニナも仮面で顔を隠して、謎の凄腕医術師一味を装う。


 この世界での仮面は舞踏会でもOKなくらいだが、室内でフードをすっぽり被っているのはとても失礼に当たるそうなので、髪色でバレてしまう薬師さんは大きな木箱に入ってもらい、大切な荷物として慎重に部屋に運んでもらう。暑い季節なのにホント申し訳ない。


 一人ずつ個室を用意してあると言われたが、みんなでいた方が安心できるし、妹はそもそも俺と離れたがらない。ニナ一人で個室とか逆にかわいそうなので、二部屋続きの大きな部屋を占有させてもらい、奥を薬師さんの隠れ家兼手術室に設定する。


 内装はよくわからないけどすごく豪華で、絨毯じゅうたんなんかふっかふかで踏むのが怖いくらいだ。

 全く落ち着かないけど一応一息ついた所で、伯爵家の長女さんが挨拶に来た……。


 この世界の常識で言えば、当然俺達から挨拶に行くべき所である。

 なのに向こうから来た。護衛が二人とメイドが一人、管理人さんもいる。


「はじめまして。ネグロステ伯爵家長女、ユミネ・ネグロステでございます。以後お見知り置きを」


 ふわりとした優しい雰囲気のきれいなお姉さんが、優雅で礼儀正しく頭を下げる。これは貴族同士、それも敬意を払うべき相手にする礼だ。うわぁ、怖い。


 思わずひざまずいて本名を名乗りそうになったが、少しでも身元を隠すために俺達は声を発しない事にしているので、代表してエイナさんが俺達を紹介してくれる。もちろん偽名だ。


 思いっきり怪しい俺達を長女さんはどう見たのか。表情は柔らかい笑顔を浮かべたまま変わらないが、さぞかし胡散臭く思っているんだろうな。後ろの護衛の人とか目に殺気がこもってるもん。妹が警告してこないから、今すぐ襲われる事はないんだろうけど。


 とりあえず、何人かに鑑定を発動してみる。まずは長女さんだ。


 ユミネ・アロスター 人間 22歳 スキル:礼儀作法Lv4 政治学Lv3 謀略Lv3 カリスマLv3 状態:警戒 地位:アロスター伯爵家第一婦人


 怖っ! 警戒しているのに全然表情に出ていない。そしてスキルを見ても完全に貴族家の超有能若奥様じゃないか! 他所の家にお嫁に行ってるのに実家の苗字名乗ってこんな所に来てていいの? いや、こんな所じゃなくて超立派な宮殿だけどさ……。


 盛大に動揺してしまう。言葉を発しない設定にしていて良かった。エイナさんよく平気でしゃべってるな。


 冷や汗を悟られないようにしながら、他の人も鑑定してみる。


 まずは護衛の顔怖い方の人。


 パウル 人間 41歳 スキル:剣術Lv4 体術Lv3 槍術Lv3 礼儀作法Lv1 状態:警戒 地位:ネグロステ伯爵家領軍副隊長


 ……栗色の髪をポニーテールにまとめた美人のメイドさんは?


 カミラ 人間 25歳 スキル:礼儀作法Lv3 暗殺Lv3 密偵Lv3 拷問Lv3 体術Lv2 状態:警戒 地位:ネグロステ伯爵家副メイド長・ネグロステ伯爵家諜報部隊長


 じょ、上品そうな初老の管理人さんを……


 ドルソン 人間 53歳 スキル:礼儀作法Lv4 政治学Lv3 暗殺Lv3 体術Lv3 謀略Lv2 拷問Lv2 乗馬Lv2 経営Lv2 会計Lv2 状態:警戒 地位:ネグロステ伯爵家執事長


 あばばばば……なにこれ、超人大集合ですやん。


 て言うか、ちょっと礼儀作法をわきまえた戦闘のプロに、礼儀作法をわきまえたデンジャラスメイド忍者さんに、礼儀作法スペシャリストな武闘派超有能家令さんて……。

 しかもみんな肩書きが……別荘の管理人さんにいたっては実は執事長だし、まだ鑑定四回しか使ってないけど気を失いそう……。


 この分だと鑑定しなかったもう一人の護衛も相当な手練てだれだろう。どんだけ力入れて来てるんだよ。

 偽りの部分もとりあえず悪意を感じるものではないが、これってなんかあったら絶対生きて帰れないやつだよね?

 ひざがガクガクして、倒れないだけで精一杯だ。


 もうエイナさんがなにを話しているのかも聞こえないが、部屋の扉が開いて、新しく女の子が二人と護衛の人が四人入ってきた。

 女の子の一人は俺達と同じように仮面で顔を隠しているが、首の部分に皮膚がただれた痕が見える。この子がユミルさんか。一緒に入ってきたのはエイナさんの知り合いの四女さんらしい。


「はじめまして。私がこのたびお世話になる、ユミル・ネグロステです。どなたが先生か存じ上げませんが、どうかよろしくお願いいたします」


 きれいな声にすごく丁寧な態度。品の良さが体中からあふれ出ている。

 だが気のせいか、生気や感情が全く感じられない。人形のようにさえ感じられる。

 ちなみに先生はここにいません、奥の部屋です。申し訳ない……。


「私は伯爵家四女のユミナ・ネグロステです。姉の事をどうかよろしくお願いいたします」


 エイナさんの学友はユミナさん。三人とも名前が似ていて紛らわしいな。ライナ・エイナ姉妹もそうだけど、この世界には子供に似た名前をつける風習でもあるのだろうか?


 残った五回目の鑑定で、患者であるユミルさんを鑑定してみる。


 ユミル・ネグロステ 人間 17歳 スキル:礼儀作法Lv3 生物学Lv3 植物学Lv2 政治学Lv2 カリスマLv2 状態:絶望 地位:ネグロステ伯爵家三女


 おお、物騒なスキルがなにもない! ぜひそのままのキミでいて欲しい。


 ……しかし、状態に薬傷は反映されないようだ。ニナの時は火傷後遺症とあったが、身体機能に影響がない限りは表示されないのかな?


 そして感情の部分……そりゃそうだよね。心中を隠して平静を装っている結果が、人形のように映るのだろう。心はもう死んでしまっている、半分ゾンビのようなものなのかもしれない……。


 簡単な挨拶が終わった所で、エイナさんが平然と言葉を発する。


「では、術式前の診察をいたしますので、ユミル様以外は退出していただけますか?」


 ちょ、おま。このバイオレスコマンダーな方々相手によくそんな口叩けるな、空気読めよ……ってそうか、そう決めてたんだったな。


 エイナさんの言葉に、護衛の人達は元々険しかった表情をさらに険しくしながらも、渋々といった感じで部屋を出て行ってくれた。……が、一人だけユミルさんの後ろに立って動かない人がいる。


「……あの、せめて私だけでも残していただく訳にはまいりませんでしょうか?」


 悲しそうな声でそう言葉を発したのは、礼儀作法をわきまえたデンジャラスメイド忍者さん。

 見た目は美人でおしとやかな有能メイドさん風なのに、中身は暗殺密偵拷問なんでもござれの諜報部隊長様だ。

 そうだね、いざとなったら貴女一人でも俺達皆殺しにできそうだもんね。


 だがデンジャラスメイドさんの願いは、他ならぬユミルさん本人の口から否定される。


「カミラ、今回の件は先方の要求を全て呑むと確認したでしょう」


「――しかし、もしユミル様の身に万一の事があっては……」


「私の身にこれ以上なにが起きたらどうだと言うのですか。貴女の忠誠心は嬉しく思いますが、今は下がりなさい」


「…………はい。申し訳ございませんでした」


 デンジャラスメイドさんは深々と頭を下げ、一瞬俺に鋭い視線を投げかけた後、部屋を辞していった。


『お嬢様にもしもの事があったら、楽に死ねると思うなよ』みたいな、おしっこ漏らしそうな殺気が伝わってきた。

 でもあれはきっと、ユミルさんにこんな怪我を負わせてしまった事に果てしなく責任を感じているがゆえだろう。血を吐くような強い悔恨の感情が伝わってきた。

 そしてユミルさんがすごく慕われていて、大切にされている事も。


 だが、デンジャラスメイドさんの視線も怖かったが、本当に怖かったのは扉が閉められる直前。長女さんが俺に向けていた笑顔の視線だった。

 ……あれホント、貴族のお嬢様がするような目じゃないぞ。背筋にゾワッと震えが走ったもん。俺、ホントに漏らしてないよね?

 そして、なぜみんなピンポイントで俺をにらむんだ? 仮面組で一番ボスっぽく立っているのライナさんだろ。


 て言うか、空気ピリピリし過ぎじゃない? そりゃ俺達うさんくさいし、詐欺を疑う気持ちもわかるけどさ……うん、しょうがないよね。



 冷や汗で脱水症状になりかけている俺をよそに、エイナさんはしばらく待った後果敢にも部屋の扉を開け、廊下を確認する。あなたマジ命知らずね、勇気と無謀は違うのよ?


 心の中でそんな突っ込みを入れるが、エイナさんはどこ吹く風で扉を閉め。ユミルさんに向き直る。


「ではユミル様。仮面を外していただけますか?」




大陸暦419年7月29日

現時点での大陸統一進捗度 0.1%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフの労働者3974人)

資産 所持金 3799万(-5万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(解放奴隷)

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