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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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58 奴隷の首輪外しとニナの術後

 ニナの手術の翌日、薬師さんについて回っているエイナさんの行動は個人の自主性に任せる事にして、俺は首輪外しに着手する。


 と言っても、俺がやると三人に一人くらいの割合で失敗してしまいそうなので、ハンマーとノミの扱いに慣れたセレスさんに方法を教えてやってもらう。


 実演するのに一つ残っていた予備の首輪を壊してしまったが、さすがハンマーを振るう専門家だけあって、やり方を覚えた後はかなりのハイペースで作業をこなしてくれた。


 リンネやレナさん、薬師さんの首輪も外す事ができて、これで本当に奴隷の立場から解放する事ができた。命を助けてもらったリンネに、妹を助けてもらった薬師さんに、半分くらいは恩返しができたかなと、感慨ひとしおだ。


 ためしにリンネを鑑定してみたら、


 リングネース エルフ 117歳 スキル:弓術Lv6 採取Lv5 状態:幸福 地位:高倉洋一配下


 と出た。地位が奴隷じゃなくなっている。

 そして俺の配下なんだな。ふつうに考えればそうなんだろうけど、あまり実感が湧かない。『仲間』の方がしっくりくる。



 そしてそのリンネはなぜか、薬師さんに対して『ほら、洋一様は約束をたがえなかったでしょう』と自慢気だった。

 薬師さんは出会った時の事を思い出しているのか、苦笑にがわらいだ。


 リンネ達の首には首輪の痕が痛々しく残っているが、薬師さんによると時間が経てば消えるそうだ。

 奴隷にされた心の傷はそうそう消えないだろうけど、せめて体の傷だけでも早く消えるといいなと思う。


 セレスさんの首輪は自分では壊せないので、俺が一時間くらいかけて慎重に壊したが、失敗しなくてよかった。

 セレスさんは一時間に20人くらいのペースでやっているが、4000人をこなすには200時間かかる計算になる。


 時間はまぁかければいいのだが、一つ問題があって、鉱山前で開いている市場でエルフさん達に食料の受け取りと商品の販売を頼んでいるのだが、いくらライナさんのおかげで良好な関係を築けているとはいえ、さすがに首輪をしていないエルフはまずい。

 通報されたら犯罪行為で国の手入れが入る案件だ。


 人を雇う事も考えたが、エルフに対して偏見がなく、首輪を外したエルフを見ても通報しない人材なんて、そうそう見つかる気がしない。

 ……可能性があるとしたら、ニナくらいだろうか。


 いい子に育てようと決心しつつ、当面は一部のエルフさんの首輪を残すしかないかなと、悲しい結論に達するのだった……。




 エルフさん達の首輪が順調に外れていく中、ニナの手術から三日が経ち、ついに包帯を取る日がやってきた。


 椅子いすに座ったニナの顔に巻かれた包帯を、薬師さんがスルスルといていく。


「おお!」


 包帯が解け、ビニール状の樹皮ががされたニナの顔は、以前とはまるで違っていた。


 少し皮膚の色に違いがあるが、以前のようなケロイドではなく、きれいな肌をしている。

 くちびるや耳も、違和感のない完璧な整形がほどこされていた。


 唯一左目だけは白く濁ったままだが、まぶたはしっかりと再生されていて、目をつむっていればふつうの少女となにも変わらない。いや、むしろふつうの少女よりかなりかわいい。


 自分の顔が見えないニナが周りの反応を不思議そうに見回し、エイナさんが表情を驚きに染めて固まっている中、薬師さんは所々の皮膚を軽く引っぱったりして状態を確認する。


「……うむ、ちゃんと皮膚がついているようだな。目だけはどうにもならんが、レナにでも眼帯を作ってもらうといい。次はこちらだな」


 そう言って指の包帯も解いていく。出てきたのは、全体がつるんとしていて妙な感じだが、きれいな皮膚がついた五本独立した指だった。


「少し動かしてみろ。痛みや違和感がない範囲でいい」


 薬師さんの言葉に、自分の指を見て驚きの表情を浮かべていたニナが、恐る恐るといった感じで指を動かす。

 指はほんの少し、だが確実に曲がった。


「よし、今の所はそんなものだろう。動かす事ができれば問題ない。これから皮膚が破れない範囲で、少しずつ動かす練習をしていく事だ。皮膚は柔軟性が高いから、そのうち関節部特有のたるみが出てきて、自由に曲がるようになるだろう。爪も再生するはずだ。指紋はさすがに無理だし、感覚は完全には戻らんだろうがな」


 そう説明しながら、呆然とするエイナさんとニナを気にする事なく、次は足の付け根とひざに巻かれた包帯を解いていく。

 こちらもしっかりと、きれいな皮膚がついていた。


 薬師さんはそれを触って確かめると、『うむ、こちらも動かす練習をすれば自由に動くようになるだろう。だが最初は無理をするなよ』


 そう診断を下し、皮膚を採ったあとの傷口も診る。


「若いだけあってこちらの回復も順調だな。これなら三ヶ月もすればまた皮膚が採れるだろう。残りの手術はその時だな。あとは数年置いて、成長次第で二度の修正だ。痛みはあるか?」


「……あ……ま、まだ少しありますが、ずいぶん楽になりました」


「そうか、順調に回復しているようで結構。これからもしばらくはなるべく日の光を浴びない事。無理な力を加えるのはいかんが、少しずつ動かす練習をする事だ。皮膚を採ったあとの傷には、朝晩この薬を塗っておけ」


 そう言って渡される薬をガン見するエイナさんの視線が怖い。

 素直に訊けば製法から効果まで教えてくれそうな気がするのだが、どうもエイナさんにはまだ『薬の製法は師弟間であってもたやすく教えるものではない』という感覚が染み付いているようで、調合を見学させてもらって、見て学び取る機会を願い出るくらいが精一杯なようだ。


「ニナちゃん、これ」


 妹が、昨日から作っていた眼帯をニナに渡す。子供向けにウサギの刺繍ししゅうが入った、かわいらしい物だ。


 遠慮がちに受け取ったニナが眼帯を結ぶと、俺が鏡を持ってきてニナの顔を映してやる。


「あ…………」


 俺はその時、初めてニナの感情が強く表に出るのを見た。

 驚きに染まったニナの表情が、みるみる泣き顔に変わっていく。


「ああ……わ、わたしの顔……化物みたいって言われていたのに……」


 自分の顔に右手を当て、震える指先で皮膚をなぞる。


「…………ご主人様、医術師様、ありがとうございます……」


 ニナは搾り出すようにそれだけ言うと、ガチ泣きモードに移行してしまった。妹とライナさんも貰い泣きするように涙ぐんでいるし、薬師さんはなにやら照れくさそうに横を向いている。俺もちょっと泣きそうだ。


 エイナさんだけは純粋に医術師の目でニナを隅々まで観察していたが、やがて呆然としたような声で言葉を発する。


「……まさかこれほどまでの回復が望めるとは……。ルクレア先生、この術式は薬傷にも有効でしょうか?」


「薬傷というと酸などか? 基本的には有効だが、どれだけ戻るかは焼けている深さ次第だな」


「――でしたら、ぜひ診ていただきたい患者がいるのです。私の学友の姉なのですが……」


 エイナさんは深刻そうな表情で話をはじめる。なにやらややこしそうな事になる予感……。




大陸暦419年7月8日

現時点での大陸統一進捗度 0.1%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフの労働者3974人)

資産 所持金 3804万

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長) ルクレア(エルフの薬師) ニナ(解放奴隷)

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