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5 妹と二人で過ごす一夜……

 灯りのない部屋は幸いと言うべきかかなり暗く、ガラスの入っていない木窓を閉めるとお互いの姿はよく見えないくらいだった。


 微妙に距離をとりつつ、下着姿になって体を拭き、泥を落としていく。ほのかに温かいお湯は雨に濡れた体にじわりと沁み、この世界に来て初めての癒しを与えてくれた。


 体を拭き終えると、残ったお湯を使って服を洗濯する。

 すでにお湯は濁っているが、泥が思い切りこびりついた服よりはマシだろう。多分これで、服装もそこそこ一般人っぽく戻るはずだ。


 妹の制服とジャージ、俺の部屋着の順で洗い、床に並べて干しておく。部屋は元物置とは思えないほどきれいに掃除されていて、埃などは全くなかった。


 と、ここで問題が発生する。寒いので毛布に包まろうとした所、二枚あると思っていた毛布が大きな一枚だったのだ。


「……毛布は香織が使え。俺は平気だから」


 そう言って妹に譲るが、雨風を防げるとはいえ晩秋相当の夜は結構寒い。濡れた服を脱いで体は乾きつつあるとはいえ、パンツ一枚だと鳥肌が立つほどだった。


「お兄ちゃん……」


 引く袖がなくなったからか、妹が俺の指先に直接触れてくる。


「わたしなら平気だから……二人で入ろう」

「いやいや、俺はホントに大丈夫だから」

「うそ。もう指先が冷たいよ……」

「それはさっき洗濯した時にもう水が冷たくなっていたからで……」

「お兄ちゃん、お願い……もしお兄ちゃんが熱を出して倒れちゃったりしたら、わたしどうしたらいいのかわからないよ……」


 指を握る妹の手にギュッと力が入り、俺はハッとさせられた。

 そうだ、この世界で妹を護るのだと誓ったばかりじゃないか。体調を崩したりしたらそれもできない。むしろ逆に迷惑をかける事になってしまう。


「……わかった、じゃあ二人で入ろう」

「うん」


 なぜか嬉しそうにする妹と、二人並んで毛布に包まる。お互い下着姿なので、緊張感が半端ではない。


「お兄ちゃん、寒いよ……」


 そう言って、妹が体を寄せてくる。柔らかい二の腕が脇腹に触れ、思わず『ヒャッ!』と声を上げてしまいそうになる。いかんぞこれは……。


『く~』


 その緊張感をやわらげてくれたのは、俺のお腹から聞こえた間抜けな音だった。

 いつもは部屋から出ないので一日二食で十分だったが、今日はたくさん歩いた上に夕食を食べ損なっている。


 妹は一瞬の間のあと楽しそうに笑うと、エルフの少女が持ってきてくれたトレイを引き寄せた。


「わたしは晩御飯食べたから、全部お兄ちゃんが食べてもいいよ」


 そう言って俺の前に置かれたのは、コッペパンのような外見の黒パンが一つと、お皿に入ったスープ。

 試しにひとくち口にしてみると、パンは固くボソボソで、スープは薄い塩味がついただけの豆スープだった。お世辞にもおいしくはないが、それでも空腹のお腹にはありがたかった。


「おまえも少しは食べておけよ」

「う~ん、じゃあお兄ちゃんが食べさせてくれたら食べる」

「…………」


 さっきまでの脅えた様子が嘘のように、いたずらっぽい笑顔を浮かべる妹。

 スプーンですくった豆を差し出してやると、嬉しそうにパクリと口に含んだ。

 まだ小さい頃、よくこうして食べさせてやった事が懐かしく思い出される。


 結局食事はほとんど俺が食べてしまったが、量的には全然足りなかった。

 それでも多少は落ち着いたようで、お腹は抗議の声を上げるのをやめ、気分も落ち着いてきた。


 人心地ついていると、突然妹がごそごそ動いて、あろう事か俺のヒザの間に入り込んでくる。


「ちょ、香織!?」

「えへへ、やっぱりくっついた方があったかいね」


 そう言って無邪気に笑い、背中をくっつけてくる。え、なにこれ。人間として試されてるの?


 妹を後ろから抱え込むような体勢になり、互いの肌が触れ合う面積が増して、体温がもろに伝わってくる。妹の背中はゆで卵のように柔らかく、スベスベで暖かい。


 確かにこの方が暖かいが、この体勢は非常によろしくない。今にも俺のアレがコレして、妹の腰の辺りをつついてしまいそうになる。


 兄としてそれだけは避けねばと必死に神経を集中し、雑念を払って気を落ち着けようとす……。


「か、香織。あのな……」

「すう……」


 あろう事か、妹はこの一瞬の間にお休みモードに突入していた。

 疲れていただろうから、気が緩んだら寝てしまうのはわからなくはない。だがこの状況で気が緩むってどうなんだ? 俺の事信用し過ぎだろ。


 とは言うものの、穏やかな寝顔を見るとさすがに起こす気にはなれず、兄としての尊厳を保つ為に、必死に精神統一を図る。

 ……が、妹の髪の香りがふわりと漂ってきて、一気に理性がかき乱される。


 いかんいかんいかん……集中集中集中……

 頭の中でそう唱えるが、妹が『んん……』という声と共に体を動かし、体を横に向けたせいで、柔らかい胸の膨らみが俺の手に当たってしまう。身長は伸びてなかったけどこっちは成長してたんだな……

 って、ダメだダメだダメだ、いかんていかんていかんて……。


『ピコン』


 ん?


 突然頭の中に音が響いた気がして、我に返った。

 俺の目の前に、半透明の板状のものが浮かんでいる……?




現時点での大陸統一進捗度 0%

資産 所持金 ゼロ

配下 なし

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