47 鉱山買収
来月の鉱山買収を前に、俺と妹、薬師さん、ライナさん姉妹とリステラさんが揃って会議を開く。リステラさんも最近はエルフの二人と仲良くやってくれているようだ。
議題は当然鉱山の経営についてだ。契約が内定した事で鉱山の資料が色々もらえたので、それを元にして実際の運営計画を立てる。
まずはデータのチェック。資料によると現在の収支の内訳は
収入
一日に40トンの鉱石から200グラムの金を産出。金は国に1グラム4万アストルで売却すると決まっているので、800万アストル。
支出
一日当たり約4000匹のエルフに100アストルの経費で40万アストル、一日一匹のペースでエルフを補充する費用が55万アストル(首輪はリサイクル)、人間の従業員50人の日給が全部で20万、精錬に使う薬品と薪代が鉱石キロ当たり150アストルで一日600万、税金に当たる国に納める採掘権利料が月1500万なので一日50万、国から採掘許可を貰っているはずなのになぜか地元の貴族に納めているお金が月300万で一日10万、消耗品購入や施設の維持管理費、その他雑費に一日5万で、総計780万アストル。
差し引き20万アストルの黒字だった。ちなみに365日稼動で休みはないらしい。
こうして数字を並べてみると、商会の利益が年に7300万なのに国が1億8250万、地元貴族が3650万な訳で、なんか悲しいものを感じる。権力万歳か。
ちなみに経営が変わるに当たっては国の担当部署と地元の貴族家に挨拶に行った方がいいらしく、手土産に100万アストルくらいずつかけた方が良いそうだ。
それはリステラさんが付き添ってくれるそうなので、ライナさんに任せる。どちらも王都内なのですぐ終わるだろうとの事だった。
そして、この数字をみんなの意見を取り入れた改善計画に従って変更すると、
収入
病人は休ませ労働量も軽減するので、半減として800万→400万
支出
エルフ一人当たりの経費を一日300アストルにするので、40万→120万
エルフの新規購入は停止するので、55万→0
人間の監視役などは全員解雇の予定なので、 20万→0
精錬経費は鉱石の産出が半分になるので 600万→300万
国や地元貴族に払うお金はそのままがいいそうなので 60万→60万
他の経費もそのままで 5万→5万
計算してみたら一日85万の赤字と出た。
一ヶ月で2550万、一年で3億1025万という途方もない金額だ。
せっかくローン支払いの目途が立ったのに、これは……。
場がお通夜みたいになってしまったので、ここは俺が空気を和ませる軽い冗談でもと思って『そうだ、エルフさん達の食事を半分にすれば一日25万の赤字で済みますね!』と言ってみたら、薬師さんに『殺すぞ』というような目でにらまれた。
わりとガチの殺気だったらしく、妹が俺の袖を引いたくらいだ。久しぶりだな、この警告。
地獄を見た人にブラックジョーク、ダメ絶対。
そしてさらに悪い事に、鉱石の産出量は変わっていないのに、金の産出量が10年前の220グラムから5年前210グラム、去年200グラムと減っているらしいのだ。
どうも鉱脈が細りつつあるようで、このペースだと現所有の商会もあと数年で赤字転落だった訳だ。そりゃ買収に乗り気ですわ。
実際問題としては、これに加えてエルフさん達に口を覆う布を支給したり、薬の材料を買う費用もかかる。宿舎の改修も、衣服の改善もしなくてはいけない。ちょっと意識が遠くなるな……。
「心配いらん、私が稼いでみせる!」
力強くそう言って立ち上がった薬師さんも、どこか不安気だった……。
そして大陸暦419年の5月1日の朝。ラドガン鉱山に設けられた仮設の会場で、正式に買収契約の調印が行われた。
月5000万アストルの8年払いだ。
調印に参加したのは、表向きオーナーとなるライナさんと、保証人たるリステラさん……は今日がドレスのオークション日なので代役にセシルさん。そして俺と妹。エルフであるリンネと薬師さん、合流したレナさんとセレスさんは馬車の中に隠れている。
本当はエイナさんも来る予定だったのだが、ベンボルグ伯爵に王国最高勲章の授与が決まったそうで、その式典とパーティーに出席しなければいけないらしい。
一応共同研究者として名を連ねているので、エイナさんにも王国四等勲章という、最高から一等二等三等四等と四つ下の勲章が贈られるらしい。
全部で十等まであるらしいのでかなり上の方で、貴族でない者がもらえる勲章としては実質最高位だそうだ。
ちなみに本人は、
「どうせ殊勝に、『師の指導と偉大な英知の賜物です。私など下働きでお手伝いをしただけで……』とか言っているだけの無意味な時間です。ルクレア先生の隣で鍋でも洗っていた方が100万倍有意義です」
と文句タラタラだった。って言うかいつの間にか先生呼びになっている。
ちなみにエイナさんは、ベンボルグ伯爵から伯爵の三男との結婚を勧められたそうで、『私にはパークレン家を再興するという夢がありますから』と断ったのだそうだが、そしたら伯爵が命知らずにも『おおそうだったな。ではたしか姉がいるそうだから、その者と……』と言い出したので、たまたま近くにいたセシルさんが『腰を抜かして漏らすかと思いました……』と涙目で回想するような殺気を出して、それはもう丁重にお断りしたのだそうだ。
なにそれ怖い。
……話を戻して、調印式の方は無事に進んでいく。ローンの初月分も手渡して、ラドガン鉱山は正式に俺達の所有となり、パークレン鉱山と改名された。
今まで鉱山で働いていた人達は、ラドガン商会所有の別の鉱山に転属させるとかで全員引き上げていったが、実にありがたい話だ。残っていたら薬師さんが殺してしまいかねない。
秘密にしておきたい鉱山の運営ノウハウでもあるのか、あるいは『それは困る』とでも言わせて雇用継続金でも取ろうとしたのか不明だが、とりあえず助かる。解雇すると言ったら揉めたかもしれないし。
そしていよいよ、俺達は経営者として鉱山に足を踏み入れるのだった……。
大陸暦419年5月1日
現時点での大陸統一進捗度 0.1%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)(パークレン鉱山所有・エルフの労働者約4000人)
資産 所持金 7990万5400アストル(-5209万3000)
配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長)




