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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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46 薬店

 発表された内容についてエイナさんに訊いてみた所、ドリス・ベンボルグというのは代々王家の専属薬師を勤めてきた家の人で、伯爵様。薬師としての腕は大した事ないが頭も大してよくなくて、でも伯爵家当主なのでお金には困っていないし権力もある。それでいて名誉欲と承認欲求は人一倍強いという、最高の人材だそうだ。

 最高の人材ねぇ……。


 そこで薬の効果を実証して見せた上で、『私の家は没落貴族なので、家名再興のために資金と後ろ盾が欲しいのです。名誉は全て差し上げますから、薬の販売益と支援をいただけないでしょうか?』と話を持ちかけた所、豚のように飛びついてきたのだそうだ。

 豚のようにて……。


 エイナさんの人物評は一々トゲがあるが、一学生が五日間で伯爵家当主に渡りをつけてこんな契約を取ってきたのは凄い事だ。ホント有能だな。


 ちなみに愛弟子なんて真っ赤な嘘で、薬の実証試験にも来なかったので、会ったのは昨日が初めてだそうだ。世の中ってやつは……。



 大人の事情はともかく、ベンボルグ伯爵の全面的な支援のもと、数日後には王都のメインストリートに薬を売るには大きすぎる薬店が開かれ、さらにベンボルグ伯爵の寛大なる慈悲の心によって、王都郊外に貧しい十日熱患者を治療する施設も作られるそうだ。

 へ~。


 俺も薬店の開店式典を見に行ったが、ベンボルグ伯爵はホントに豚みたいで、でっぷり太った中年貴族だった。鑑定してみたらまさかの『薬学Lv2』である。エイナさんより下じゃないか、大丈夫なのか王家の人?


 まぁ、王家の専属薬師ともなれば優秀な部下がいっぱいいるのだろう。

 エイナさんが話を持っていき、実際の治療に立ち会ったのもそんな部下の一人だったそうだし、薬店にも部下の人が配置されていた。


 一応店内も見てみたが、正面に伯爵の巨大な肖像画が掲げてある。一瞬豚肉屋のマスコットキャラかと思ってしまったが、元は高級宝石店だったという内装は立派で、リステラ商会から経理担当として派遣されてきていたセシルさんが、カッチカチに緊張して店員になる薬師さん達と話をしていた。


 薬の生産は当面エイナさんが、後々には伯爵の部下で優秀な人に教えてやってもらう予定だそうだが、元が強力な毒草であるので、薬学Lv3でも上位寄りクラス、しかも器用で集中力の高い人でないと務まらず、あまり候補は多くないのだそうだ。

 一歩間違えれば毒薬だからね。



 不治の病とされている十日熱の特効薬という話に、最初はほとんどの人が疑いの目を向けていたようだが、実際に販売がはじまって効果があるとわかると、たちまちすさまじい評判となって国中から。果ては他国からも、患者の親族や薬師が大挙して殺到する事になった。


 ベンボルグ伯爵は王国の医学史に、ひょっとしたら正史に残るかもしれない大発見をしたという事で、連日パーティーや式典に引っ張りだこ。王立医学研究所の庭には銅像が作られる事になり、一度貴族家に十日熱の患者が発生した時には自ら得意満面で治療に赴き、その家の主治医に薬を手渡したそうだ。

 一応は薬師であって十日熱の恐ろしさをよく知っている伯爵は、薬があるとわかっていても、決して自分では患者に近寄ろうとしないらしい。


 それでも公には、不治とされていた恐ろしい死病を克服した偉大な薬学者。それでいて貧しい人達にも手を差し伸べる聖人のような人物として、盛大に持てはやされているらしい。


 毎日ブヒブヒ鼻息荒くすこぶる滑稽……じゃなくてご機嫌だとは、エイナさんからの情報だ。

 もっとも、伯爵の実力を知る研究所の薬学者などの間では、共同研究者として発表されたエイナさんに接触が集中したそうだが、元々調合の知識は一門以外には秘されるものであるし、上手い事はぐらかしつつ、伯爵の権威を利用して全部追い払っているそうだ。エイナさんそういうの得意そうだもんな。


 薬の生産はエイナさんだけでは追いつかないので、うちの家で薬師さんが量産に当たっている。

 香織に頼んで作ってもらった白衣がとてもよく似合っていて、本人にも『袖が白いので、薬の色を見る時にスッと背景にできて便利だ』と好評だった。

 それを見たエイナさんにも欲しいと言われたそうで、妹は最近白衣作りにいそしんでいる。


 薬は一気に仕上げなくてはいけないらしく、交代要員がいない薬師さんは三日間つきっきりで薬を作り、一日休んでまた三日間というハードスケジュールだ。

 忙しすぎて、先日俺の能力をそのうち試すとか言っていたのは完全に忘れているらしい。


 病み上がりどころかまだ病が癒えてもいないのに大丈夫かと心配になるが、本人の意志は固くて、止めても聞かなかった。

 なんか変な青緑色をした栄養剤みたいなのを作って飲んでいたけど、ホントに大丈夫なんだろうな……。


 ちなみに調合の腕前は、エイナさんをして『同じ薬師として、嫉妬しっとを通り越して見惚れてしまいます』と言わせるくらいすごいものらしい。

『こんな方に鉱山で石運びをさせていたとは……』と大層お怒りだったので、これは正式に俺達の仲間に引き込める日も近いかもしれない。

 一応今の所、ライナさんとの約束で『妹は自由にさせ干渉しない』という事になっている。甘えて色々お願いしちゃってるけどね……。




 そんなこんなで一ヶ月あまりが過ぎ、その間リンネには馬車に隠れて王都を出て、森の拠点へ連絡に行ってもらう。

 鉱山を買収したら当分そこにかかりっきりになるだろうから、レナさんとセレスさんを呼びに行ってもらうのだ。

 せっかく森の拠点が充実しかけている所に申し訳ないけどね……。


 一方で薬店の開店から一ヶ月、リステラさんから上がってきた初月の売り上げは、なんと3600万アストルだった。

 店の運営費は伯爵の全額出資なので、これは全て俺達の利益。リステラ商会の取り分は100万アストルでいいとの事だったので、月3500万アストルの収入だ。


 薬なので売り上げは病気の発生に左右されるが、地方の診療所などにストックしておく用や、他国向けに輸出される需要も大量にあるので、当面この水準は維持できるだろうとの事。実に頼もしい。


 ちなみに薬の保管期限は、薬師さんいわく『日の光に当てない前提で、私が作ったものなら十年、エイナのは三年』だそうだ。伯爵の部下が作った物も見てもらったら、『一年持てばいいほうだな』と言っていた。


 どこでそんな差がつくのかわからないが、エイナさんも認める所であるようなので、それに準じてラベルを貼って値段をつけ、ストックや輸出には薬師さんのを優先的に回しているらしい。当然値段もお高めだ。


 さらに、エイナさんは次の薬の研究費だと言って、伯爵から月500万アストルの研究費援助までせしめてきたらしい。

 そして、そのうち400万アストルを『お仲間のために使ってください』と薬師さんに渡す事にしたそうだ。薬師さんが泣いて感謝をしていた。


 それにしても、薬店の運営費全額に月500万の援助。加えて、エイナさんは十日熱の薬の作り方を教える薬師を着実に自分の味方に取り込んでいるらしい。大丈夫なのかベンボルグ伯爵家?

 当主は脳味噌ノーミソお花畑状態でわが世の春を謳歌おうか中らしいが、気がついたらエイナさんに骨までしゃぶりつくされて乗っ取られていても知らんぞ……わりと本気でありそうなのが怖い。


 ともあれ、薬店からの収入が月に3500万、エイナさんから400万、商会から800万で、合計4700万アストルだ。5000万にはちょっと届かないが、貯金を含めれば十分ローンを払う事ができる。



 早速リステラさんにお願いして、鉱山の買収契約を締結してもらう事にした。


 契約の保障には、今をときめく十日熱の薬販売に携わっているリステラ商会がつく。それはつまりベンボルグ伯爵家の後ろ盾もあるという事なので、話は非常にスムーズに進み、5月の1日から鉱山の所有権を正式に譲ってもらえる事になった。


 こちらは怖気おじけづくライナさんに形式上だけだからと頼んでオーナーを引き受けてもらい、パークレン商会を新たに作って、鉱山を所有する事にする。



 さて、ついに薬師さんとの約束を果たす時がやってきた……。




大陸暦419年4月25日

現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化・現在無人)

資産 所持金 1億3199万8400アストル(+5480万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長)

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