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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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44 魔族の伝承

『おまえは魔族か?』


 薬師さんの問いに、俺は呆然として間抜け面を晒していたと思う。

 だが薬師さんの表情は少しも動かず、眼鏡越しの鋭い目でじっと俺を見つめてくる。


「……多分人間のはずですけど……なんでいきなりそんな話を?」


「さっきおまえが倒れた状況。あれは魔力欠乏ではないのか?」


 薬師さんの言葉に、俺はガバッとベッドから起き上がった。


「あれは魔力欠乏なんですか!? そもそも魔力ってなんなんですか?」


 俺の答えがあまりにも想定と違ったのだろう。薬師さんは一瞬戸惑った様子だったが、俺がとぼけている訳ではないとわかると順に説明をしてくれた。


「魔力とは、世界中のあらゆる物質に含まれている不可視のエネルギーだ。病気の時に薬を飲んだり、ケガに傷薬をかけたりすると治りが早くなるだろう? あれは薬に含まれる魔力と体内にある魔力が反応して自己治癒能力を高めてくれたり、病の原因となる物質に干渉する事によって起こる現象だ。


 そして、逆に悪い反応を起こして体に害を与えるのが毒薬だ。魔力は物質ごとに特有で、たとえばそこにある水と浸してある布でも違うし、エルフ族と人族でも違う。エルフ族や人族の中でも、個体によってほんのわずかに違う。体を構成する物質や割合が全て同じではないからだ。だから薬師が薬を調合する時は、可能であればなるべく相手をよく観察してから……と、今はその話ではないな」


 薬師さんは一つ咳払いをして話を戻す。


「魔力を特殊な触媒を介して放出し、さまざまな効果を得る術を魔術というが、触媒が極めて限られる上に制御が難しいので、ほとんど用いられる事はない。

 だがその魔術を触媒なしで行使できる存在がいるという伝承があり、それが魔族と呼ばれている。


 魔力の量は状態や、生物なら体調などでも多少変化するが、大きく失った場合に意識をなくして倒れてしまうのが、魔力欠乏といわれる症状だ」


「……薬師さんは魔族を見た事があるんですか?」


「いや、私が見た事があるのは触媒を使って魔術を行使した事による魔力欠乏の症例だけだ。魔族の存在など伝説にしか登場しない架空の話だと思っていた。

 だが、先ほど倒れたおまえの体を調べさせてもらったが、どこにも触媒の痕跡が無かったのだ。答えろ、おまえは魔族なのか?」


 体、どこまで調べられたんだろう……そういえば着ていた服がパジャマに変わってる……って、それはともかく今の話からすると、鑑定の能力が魔術に当たるのだろうか?


「……俺が魔族なのかは、正直よくわかりません。信じてもらえるかどうかわかりませんが、俺と香織はこの世界ではない、別の世界から来ました。元の世界にも魔術に類するような物はありませんでしたが、この世界に飛ばされた時から、俺は特別な力が使えるようになりました。相手の顔を見て精神を集中すると、その人の健康状態が大体わかるんです。さっきはその力でみんなに三日熱がうつっていないかを調べていたので、それで魔力欠乏を起こしたんだと思います」


 もしかしたらなにか手がかりを知っているかと思い、別の世界から来た事は事実を。鑑定の能力については大きく下位互換にして説明する。


「――健康状態がわかると言ったか!? それはどのレベルでだ?」


 さすが薬師さん、食いつく所そこからか。


「ええと、病名とかがわかる訳ではないです。その人が健康か病気か、病気なら重いか軽いかといった程度ですね。ちなみに薬師さんは出会った時が『病(強)』で、さっきが『病(中)』でした」


「ケガ人についてはどうだ? その力は一度に何回まで使える?」


「ケガ人はまだ見た事がないのでわかりません。使える回数は一日五回までで、六回目を使うとさっきみたいに倒れちゃいます」


 言ってから気付いたが、これってさっきのが自爆だったって言っちゃってるよな? そっと妹の様子をうかがってみるが、相変わらず心配そうに俺を見ているだけだ。話に入ってくる様子もない。

 危険察知の能力の事は言わないつもりなのか、それともはっきりと気付いていないのか……。


 薬師さんは俺の能力についてあれこれ考えているらしく、全然話の続きをする感じではないので、こっちから話を振ってみる事にする。


「あの、薬師さんは異世界から来た人とかいう話は聞いた事ありますか?」


「ないな」


 おおう、三文字で終わった。考え事に夢中かな?


「じゃあ戻り方は?」


「来た者の話を知らないのに、戻り方など知っているはずがなかろう」


 ですよねー。


「じゃあ、魔力欠乏になった時の対処法ってありますかね?」


「魔力は基本的に、本来その物質が持っている量に見合うように勝手に増減するので、二・三日も寝れば元に戻るはずだ」


 なるほど。量が決まってるって事は、これ以上鑑定の使用回数が増える事はないのかな? 血液量みたいに、体重を増やせば魔力の量も増えたりするのだろうか? あんまり試す気にはなれないけど……。


 結局薬師さんは『今の段階でおまえの能力が魔術なのかどうかは断定できんが、可能性は高いと思う。それとは別に今度能力を試させてほしい』という結論に達したようだった。


 薬師さんは最後に『その能力の事は秘密にしておけ。触媒なしで魔術を行使できるかもしれない存在がいるとわかったら、たちまち捕まって実験材料だ。能力持ちを増やすために、片っ端から子を作らされるような事になるかもしれんぞ。人族のオスはそういうのが好きだそうだから、望むと言うなら止めはせんがな』と言って、部屋を出ていった。


 ……いくつか新しい事がわかったけど、それ以上に恐ろしい話を聞いた気がする。

 片っ端から子を作らされる……俺はまあともかくとして、香織がそんな事になるのは絶対にダメだ。


 断固秘密にしようと心に誓って、妹にもそう告げた所、なんだか妙に嬉しそうに『うん、お兄ちゃんの秘密は絶対に守るよ。この前の、二人だけの秘密もね』と言われた。


 この前のとは、妹が十日熱から回復した時に、思わず抱きついて泣いてしまった事だろう。それと同列なのかと考えると、ちょっと微妙な気持ちになる。


 結局元の世界へ帰る方法の手がかりとかはなにもなかったし、魔力についてはこれからゆっくり調べていこうと決めて、その日はそのまま寝る事にした。

 妹がなにやら、いつも以上に近づいてくるのを感じながら……。




大陸暦419年3月7日

現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化・村人3人)

資産 所持金 7719万8400アストル

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長)

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