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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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40 エルフの薬師

 精錬所で働くエルフ達を集めたという場所。

 そこにいたのは、数百人の灰色をした人型の塊だった。鉱石の粉塵ふんじんと精錬に使う火の灰だろう。みんな薄汚れて石像のようだった。

 山エルフの特徴である金色の髪も、老人のように灰色に染まってしまっている。全員ひどくやつれ、全身が灰色の中で目だけが白く浮き出て見えて、恐る恐るといった感じでこちらを見ている。正直ゾッとする光景だった。


 なんとか識別しようとしてみるが、これでは歳なんてわからない。知り合いがいても気づかないんじゃないかと思う。


 不安になってリンネの様子をうかがってみると、辛そうな表情をしながらも必死に目を動かしていた。そして、10分ほどして首を横に振る。どうやらリンネには見分けがつくらしい。


 目的の人はいないようなので、所長に告げて次の人達を見せてもらう。精錬所の人達は用が済むと、棒で追い立てられて作業に戻っていった。一日分の売り上げを渡したけど、休みになる訳ではないらしい。


 次は採掘現場で働く人達らしく、ぞろぞろ集まってくるのを100人くらいずつの集団にまとめられている。


 こちらも似たり寄ったりで、みんな鉱石の粉塵で灰色だ。お風呂どころか水浴びもさせてもらっていないのだろう。痩せていて、ゴホゴホと咳き込んでいる人も多い。鉱山によくある肺の病だろう。


 どれも同じに見える石像のようなエルフ達の群れを、リンネは順に目で追っていく。所長に何人くらいいるのか訊いてみたら、全部で4000人ほどだそうだ。多いな……。


 やせ衰えて生気がなく、苦しそうに咳をする人も多い灰色の人の群れを見続けるのは精神的にかなりくるものがあったが、同族である分俺より辛いだろうリンネは、無言で黙々と作業に当たってくれた。


 そんな時間が一時間あまりも続くが、まだ目的の人は見つからない。

 やはりもう死んでしまったのか。そんな絶望感が強くなりはじめた時、不意にリンネが『あっ!』と声を上げた。


「あの人です!」


 リンネが指差す先の人物を、即座に鑑定してみる。


 ルクレアリア エルフ 221歳 スキル:薬学Lv8 医術Lv6 状態:病(強) 空腹(強) 疲労(強) 地位:奴隷


 おお…………いた……本当にいたよ……。


 思わず涙があふれてくる。ライナさんに連れに行ってもらう間に、所長に200万アストルを払って薬師さんを買い上げた。


 薬師さんは他の奴隷同様粉塵に汚れていて、やつれきった顔を見ても人間の19歳相当かなんて全然わからなかった。これでわかったリンネは凄いと思う。


 薬師さんの長い耳の左側、先端付近には穴が開けられてタグが通されていた。『鉱 163』と書かれたそれは、鉱山の163作業班所属を示すそうだ。10人一組で一つの作業班を構成し、班ごとに作業量が決められているのだという。

 鉱山の人が外して回収したタグは、新しい別のエルフにつけられるのだそうだ。


 ともあれタグが外され、鉱山の人が走って取ってきてくれた首輪のネジを渡されると、薬師さんの所有権は正式に俺へと移る。薬師さんはリンネの姿を見て驚きに目を見開き、リンネも涙ぐんでいたが、感動の再会は少し待ってもらって、今は急いで馬車へと戻る。


 薬師さんはかなり体が衰えていたので、ライナさんが抱えて馬車へと走ってくれ、そのまま手綱を取ってもらって王都へと向かう。


 馬車が走り出した所でようやく一息つき、濡らした布でせめて顔だけでも拭いてもらうと、現れたのはリンネが言っていた通り、鋭い目をしたお姉さんだった。


「ルクレアさん……よかった、生きていてくれて……」


 リンネが薬師さんに抱きついて泣いている。薬師さんの方もまだ戸惑いを残しつつ、涙を流してリンネと抱き合っていた……。



「あの……」


 しばらく待ってから俺が話をしようとすると、薬師さんは鋭い目をこちらに向けてくる。それは元々の目つきなどではなく、強い嫌悪感……いや、憎悪の光が宿ったものだった。


 一瞬気圧けおされそうになるが、妹の命がかかっているのだからひるんでなどいられない。王都へ向けて疾走する馬車の中で、俺は話を切り出した。


「……実は今、俺の妹が十日熱……貴女達の名前で言うと三日熱にかかって苦しんでいます。もう五日目で、このままでは命が危ないのです。どうか妹のために薬を作ってください、必要な物があればなんでも用意しますから!」


 頭を下げて頼み込む……が、薬師さんの返答は冷たいものだった。


「断る。どうして私が、人族などのために薬を作らねばならんのだ」


「ルクレアさん!」


「リンネは黙っていろ。どうやってこの人族に手懐てなずけられたかは知らんが、私はもうこれ以上人族に媚びへつらって生きるのはごめんだ」


 さっきまであんなに親しげだったリンネにさえ、冷たく吐き捨てるような言葉。


「そんな。たしかにルクレアさんは昔から人族があまり好きではなかったですけど、苦しんでいる病人を見殺しにするような人じゃ……」


「それは以前の私だろう。あんな場所に……あんな場所に19年も入れられて、この世界にあんな場所がある事を知ってしまって……どうして以前と同じでいられるものか!」


 薬師さんは叫ぶように言った後、ゴホゴホと激しく咳き込んだ。これはどうやら、鉱山で相当酷い目にあったらしい。人間に対する不信と憎しみが満ち溢れている。


 リンネも薬師さんの変わりようにショックを受けているようだが、それでもなんとか説得して、薬を作ってもらわなければいけない。場合によっては、非情な手段を使ってでもだ……。


 胸の中でそう覚悟を決めるが、リンネの知り合いでもあるのでなるべくなら穏便に話をつけたい。幸い時間は、王都到着まで丸一日近くある。

 まずは話を聞いてみる所からだよな……。




大陸暦419年2月25日

現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化・村人3人)

資産 所持金 6262万8400アストル(-200万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長)




※ 次話はエルフが虐待される鬱話になりそうです。苦手な方は読み飛ばしてください。酷い環境と扱いで心がすさんでしまった薬師さんが、リンネの説得で薬を作るのに同意してくれる話だと理解していただければ、物語の進行上問題ありません。

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