表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/323

38 深まる絶望

 リンネが来るのは25日の予定だったが、一日早く24日から森で待機する事にし、それまでに準備を整える。


 冒険者ギルドへ行き、エリスさんに頼んで乗馬ができる冒険者とベテランの冒険者を手配してもらう。もし薬の製法がわかった時、必要な材料の買付けや採取に行ってもらうためだ。同時に馬車も一台手配して、ギルドに待機させてもらう。


 家には地下室がなかったので、ライナさんが徹夜で倉庫の周りに土を積み上げ、咳の音が漏れないよう、かまくらのような地下室もどきを作ってくれた。

 泥だらけになったライナさんの姿を見ると、ありがたくて涙が出てくる。


 エイナさんは感染の危険があるのに時々香織を診察してくれ、『気休めですが……』と言って痛み止めや熱冷ましなどを調合してくれる。もし香織が回復したら、この姉妹にはどんなにお礼をしても足りないと思う。


 万一の可能性を考えて、王都の有名な医術師や薬師を回ってそれとなく十日熱の話を訊いてみたが、どこでもエイナさんの話以上の事は聞けなかった。

 何人かを鑑定してみたが、ほとんどが医術や薬学のLvは2か3で、改めて薬学3と医術2、他のスキルも併せ持っているエイナさんが凄いのだと実感する。


 一人だけ薬学Lv4の老婆がいたが、その人に訊いても十日熱を治す薬など存在しない。隣国での話はうわさに過ぎず、患者や家族からお金をだまし取る手段に使われるだけの害悪だと斬り捨てられた。


 絶望が深くなる中、香織の病状は日に日に悪化していく。

 のどれて食事ができず、わずかな水と薬を飲むだけの体はみるみるせ衰えていき、高熱にうなされ、激しく咳き込み、体中の痛みにうめく姿はとても見ていられなかった。

 それでも可能な限りそばにいて、頭を冷やすタオルを交換し、体をさすってやり、汗に濡れた服を着替えさせる。


 意識があるのかどうかもわからないが、それでも手を握ってやると少しだけ表情が穏やかになるので、なるべく多くの時間、香織の手を握って過ごすようにした。

 エイナさんからは感染防止にと、厚手の服、皮の手袋、口を覆う布を勧められたが、それは断って直接素手で妹の手を握る。

 もし感染しても、治療法が見つかったら俺も回復できるだろうし、見つからなかったら、妹と同じ運命をたどる事になっても悔いはない。


 この地下室もどきは感染拡大の防止もかねているので、俺の他はエイナさんがたまに出入りする以外、入室はもちろん近づく事も禁止されている。

 特にライナさんはエイナさんから厳しく言われているらしく、たまに水汲みなどの用事で外に出ると、家の窓から心配そうにこちらを見ているライナさんの姿をよく見かけた。


 着替えさせた服や交換したシーツも外へ出す事なく、倉庫内に仮設された暖炉で焼いてしまう。

 布は高価なのでもったいないが、そんな事を言ってる場合ではない。新しい服やシーツはライナさんが買ってきて、家の一室に絶えず常備してくれていた。


 そんな状態で四日が過ぎ、24日の昼、感染拡大防止のためにとエイナさんから言われてお風呂に入り、服を着替えた俺は、ライナさんと一緒に森へ向かう。

 リンネが来る予定は明日だが、もしかしたら一日くらい早く来ているかもしれない可能性に賭けての出発だ。


 俺がいない間はエイナさんが一日五回、香織に水と薬を飲ませてくれる事になっている。命がけの仕事を引き受けてくれて、本当にありがたい。


 代わりに……なのかどうかはわからないが、出発前に『もし俺が道中で高熱を発して倒れたら、ライナさんは俺を街に運ぼうとはせず、その場に寝かせたまますぐにエイナさんを呼びに行く』と言う条件を何度も確認させられた。


 姉を絶対に感染させまいとするエイナさんの意思が伝わってくるが、実はこれはライナさん向けの約束であり、実際は治療法が見つかる見込みがなく俺が倒れたら、香織をなるべく早く楽にさせてやり、俺も苦しいのは嫌なので毒をあおる事になっている。


 エイナさんから貰ったポケットの中の小瓶を確認し、俺は森へと出発するのだった……。



 いつもは森の入り口でライナさんと別れるが、今日は一緒に進んで、泊まりになってもいいようにテントを張る。

 テントの前で焚き火を囲み、俺は今までの事をライナさんに打ち明けた。


 さすがに異世界から来た話は信じてもらえないだろうから、今まで言っていた仲間とはエルフである事。エルフ達を奴隷の身分から解放し、独立した勢力を作りたいと思っている事。そしてそれは俺の保身のためでもある事などを話していく。

 そしてもし俺が死んだら、資産は全てライナさんに譲るから、その半分でなるべく多くのエルフを買って、仲間リンネに引き渡してやって欲しい。カレサ布の供給と商会をどうするかも話し合って決めて欲しいとお願いした。


 ライナさんはじっと黙って聞いてくれていたが、俺が話し終わると少し不満そうな表情を見せた。


「そんな話なら、もっと早くにしてくだされば良かったのに。エルフと聞いたら私が邪魔をするとお疑いだったのですか?」


「いや、そうじゃないけど……この世界の人達って基本、エルフの事嫌いじゃない。だからライナさんも抵抗あるかなって……」


「嫌い……とは違うのではないでしょうか? 他の動物と同じく、下に見ているというだけで」


 ああそうか、憎んでいるとかではないもんね。俺も前の世界で豚小屋から連れてきた豚と同じ部屋で寝ろといわれたら抵抗あっただろうけど、それは豚が嫌いだからじゃないもんね。


「すみません、言葉を間違えたようです。この世界の人達は人間とエルフを同列に扱う事に抵抗があるようでしたので」


「それは……そうですね。正直私も、人間とエルフを全く同じに見られるかと問われたら自信がありません。もし一年前にこの話を聞かされていたら、おかしな事を言う人だと思ったでしょう。ですが洋一様と一緒に見に行ったあの牧場……あそこで行われていた事は、私にとっても強く疑問を感じるものでした」


 ライナさんの表情には少し迷い……いや、戸惑いが見える。でもそれは……。


「人間とエルフは違う生き物なんですから、全く同じに見る必要なんてないんですよ。ただお互いに見下したりしいたげたりせず、ふつうに共存できればそれでいいんです。口で言うほど簡単な事じゃないですけどね……」


 前の世界では同じ人間同士でも人種差別や民族差別があったし、俺だって豚なら家畜でよくてなんでエルフはダメなんだと問われたら、明確な返事はできないのだから。


 ライナさんは、わかったようなわからないような複雑な表情をしていたが、少なくともあの牧場で行われていた事に疑問を感じたのなら、感覚としては俺達に近いのだと思う。

 いや、ライナさんは相手が牛や豚でも人間との境界が低いタイプかな? でもそれはそれで、この場合は多分問題ない。

 俺がいなくなったとしても、リンネ達とそれなりに上手くやって、俺が返しきれなかった分の恩を代わりに返してくれるだろう……。



 話をしていて辺りが薄暗くなりかけた頃、不意に近くでガサガサと、わざとらしく草が揺れる音がした。

 ライナさんが槍を手に警戒するが、茂みの向こうで見覚えのある弓が左右に振られているのを見て、警戒を解いてもらうと同時に声を出す。


「リンネ、この人は大丈夫だから。出てきていいよ」


 そう言うと、リンネが今度は草を揺らす音一つ立てずにこちらへやってくる。ライナさんとは初対面でもないので、簡単な紹介だけして早速本題に入った。



 リンネは十日熱という病名に聞き覚えがないとの事だったので、妹の症状とエイナさんから聞いた病気の事を説明する……途中でリンネが『ああ!』と声を上げた。


「それは多分、三日熱の事ですよね? 私も子供の頃にやりました、放置すると大変な事になるんですよね」


 何気ないように言われたその一言に、俺は一瞬頭の中が真っ白になり、気がついたらリンネに飛びついて両肩を掴んでいた。


「リンネ、それホント! あの病気治るの!?」


「え……あ、は、はい。同じ病気だったらですけど……」


 そうだ、人間とエルフは種族が違うのだから、かかる病気も違う可能性がある。


「私が知っている三日熱は、初期症状は洋一様が言っていたのと同じです。でも薬を飲むと三日で治るので、三日熱というのだと教わりました」


 薬! 俄然がぜん希望がわいてくる情報だった。人間とエルフで違う可能性は否定できないが、今はそれにすがるしかない。ひょっとしたら、100年前の薬というのも、エルフが調合したものだったのかもしれない。


「リンネ、薬は? その薬はどうやったら手に入る!?」


「それは……薬師くすしの方に調合してもらうのですけど……」


 言いにくそうに発せられたリンネの言葉。その意味する所を理解して、急速に血の気が引いていく。


 薬師……俺達が知っているエルフの中に、薬学のスキルを持ったエルフはいないのだ。

 一瞬灯った希望の光が、みるみる小さくなっていくのが感じられた……。




大陸暦419年2月24日

現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化・村人3人)

資産 所持金 7374万8400アストル(-163万5000)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人) リステラ(雇われ店長)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ