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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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33 これからの事

 妹が作ってくれた夕食を美味しく味わい、ライナさんが沸かしてくれたお風呂に入って、幸せな気分でベッドに横たわる。


 今は妹がお風呂に入っているので、部屋の中は俺一人だ。しばらく考え事をし、財布から金貨を一枚取り出して、ロウソクの灯りにかざしてみる。


 キラキラと輝く小さな金貨。これ一枚がエルフ一人と、首輪代を除けば実質二人と同じ価値なのだ。

 財布には今金貨が28枚入っているので、相場の値段で28人。倍値で買っても14人を助ける事ができる。だがそれでは、根本的な解決にならないのだ。

 金貨をしまい。暗い天井を見ながら考える。


 この世界はいびつだ。少なくとも俺の価値観からすれば。

 だけどもし、俺が最初からこの世界に生まれていたら。もし転移してきたのが俺一人で、最初から強い能力を持っていて大金を手にし、リンネに助けられる事もなかったらどうだっただろう?

 今頃『エルフの奴隷ハーレムだひゃっはー!』とかやっていたんじゃないだろうか?


 ……ありえないと言い切れないのが悲しい所だが、幸いと言うべきかそうはならなかった。そして今の俺には護るべき妹と、恩人であるリンネとの間に果たすべき約束がある。

 元引きこもりの俺が言うのもなんだが、目標のある、充実した人生なんじゃないだろうか?


 俺は起き上がり、貴重品である紙に当面の課題を書き出していく。


・継続的な収入の確保

・もっと多くの仲間を獲得

・エルフ達の首輪を外す為に、奴隷商か金工職人を仲間に引き込む

・権力者に目をつけられないよう、なるべく目立たない


 思いつくままに書いていくが、やはり核になるのは仲間の獲得だろう。技術を持ったエルフに産品を作ってもらえば資金を確保できるし、勢力も大きくなる。

 エルフは金属を扱わないと言っていたので、首輪絡みでは人間の仲間も必要だ。目立たないためには、ダミー会社ならぬダミー商会みたいな物があると良いかもしれない。俺達だけが目立たなければ良い訳だから。


 こうして書き出してみると、やるべき具体策が明確になってくるな。

 まずはダミー商会かな、どうやって作ればいいんだろう? 誰か相談できそうな人は……。

 この世界での数少ない知り合いを思い浮かべてみる。


 エリスさん……はちょっと違うよな。ライナさん……でもないな、リンネ達エルフは知らないだろうし……あ。

 脳裏に一人の顔が浮かぶ。ちょうどお風呂から上がってきた妹を連れて、俺はライナさんの部屋に向かうのだった……。



 ノックして入れてもらったライナさんの部屋は、二段ベッドと妹さんの机と椅子いす。あとは少しの荷物があるだけで、半分はガランとしていた。女の子の二人暮らしなのに、華やかさとかは全くない。カラフルな物といえばライナさんの鎧くらいだ。

 ていうかライナさん、部屋でもその真っ赤な鎧着てるんですね。さすがに寝る前には脱ぐと思うけど……。


「洋一殿、なにかご用ですか?」


「うん、ちょっと相談したい事があって」


 そう言いながら部屋の奥に目をやると、ランプの灯りで勉強していたらしいエイナさんが、首をこちらに向けていた。

 油を自由に使っていいと言ったので、最近は夜遅くまで勉強をしているらしい。すでに首席らしいのに、一体どこを目指しているんだろうか?


 ライナさんはそんな妹を見るのが嬉しくてたまらないらしく、昼間は屋敷の雑務を一手に引き受けて働き、夜になったら机に向かっている妹さんの後姿を眺めるのが最高の楽しみだそうだ。先日テンション高く話してくれた。ちょっと引くくらいに。


 そんなライナさんの貴重な時間を邪魔してしまうのは申し訳ないが、大事な話なので我慢して欲しい。

 俺達の部屋から椅子いすを運び込み、四人でプチ会議を開催する。


「実は商会を作りたいと思ってるんだけど、よかったら助言をもらえないかな?」


 主にエイナさんの方を見ながら言うと、エイナさんは切れ長の目をすっと細める。ライナさんに似て凛とした美人さんなので、妙な威圧感がある。怖い系図書委員長か?


「それは合法的な商会ですか?」


 おおう、さすが秀才。的確に痛い所を突いてくる。


「やましい事のない商会にできたらいいなって思ってるよ」


「……そうですか。王都内に商会を構えたいという事であれば、商業ギルドに登録して年100万アストルと、国内通行手形一つにつき50万アストルを支払う事。通りに面した店舗の間口1メートルにつき、主要な通りなら年20万アストル、裏通りなら10万アストルを税金として国に納める事が必要になります。もし店舗を購入するのなら、物件にかかる税金としてさらにその半額ですね」


 さすがに詳しい。そして経費多いな。


「店舗を購入するなら、場所と広さ次第ですが500万アストルから、借りるなら買値の10分の1を一年で払うくらいが相場です。人を雇うなら、基本的な読み書き計算ができる初等部卒の従業員で年150万アストルから、将来の幹部候補として中等部卒業者を雇うなら300万アストルからになるでしょうね」


 なるほど。裏通りの小さめの店に従業員二人で店代別450万アストル前後、従業員一人と店長候補一人にするなら600万アストル前後か。うん、可能な範囲だ。


「奴隷を使うなら、エルフは低級な店だとあなどられるのでお勧めしません。もっとも、エルフを商品として扱うなら別ですが」


 エイナさんが探るような目で見てくる。ああなるほど、ライナさんから今日の行動を聞いたのだとしたら、俺がエルフの人身売買をしようとしているように思えるだろう。やましい事はしないつもりなのに。あくまで俺の価値基準でだけど……。


「商品は別に考えてますよ。最初は多分、布とか服になると思います」


 レナさんのスキルが布加工だったからね。


「なるほど、香織様が作られる服は素晴らしい品ですからね。あれなら十分商売になるでしょう。高級品を売るなら、小さくても表通りに店を構える事をお勧めします」


 おお、そういえばそっちの線もあったな。められた妹が恥ずかしそうに顔を赤くしている。


「エイナさん、学業の邪魔にならない範囲でいいから、商会設立を手伝ってもらえませんかね? お礼は差し上げますから」


「構いませんよ、洋一様にはお世話になっておりますし。……オーナーには香織様になって頂きましょうか?」


「それはダメ」


「なるほど……やましい事はしないつもりだが、大切な妹君いもうとぎみを矢面に立たせたくない程度には危ない橋を渡るおつもりですか。ふふっ、やましいかどうかの基準なんて人それぞれですものね」


 ……なんか見事に誘導尋問に引っかかってしまった気がする。そしてなんで楽しそうなんだろう? そういえばこの子、『謀略』とかいう妙なスキル持ってたな。


「そういう事であれば、店長として推薦したい者がおります。私と同じ王立学校の中等部生で、王都の中堅商会の娘。頭もいいですし、誠実で商人としての才覚もあります。来月学校を卒業した後は自分で行商人を始めるつもりのようですが、いかがでしょうか?」


「あ~うん。エイナさんの推薦なら間違いないとは思うけど……」


 ただ、この商会は場合によっては危険な事になるかもしれない。エイナさんの同級生という事は15歳、しかも女の子を巻き込むのは気が引ける……。


「まぁ、いきなり決めろと言うのも無理な話ですよね。よろしければ明日連れて来ますから、会ってやっていただけませんか?」


「う、うん。じゃあそうしてくれる?」


 そしてなにか理由をつけて断ろう。店長は荒事もできそうなおじさんとかがいい。


「了解しました。他になにかありますか?」


「特には……あ、そうだライナさん」


「――え? あ、は、はい!?」


 ライナさん完全にボケっとしてたな。専門外の話だったからね……。


「この家の管理なんですけど、どうしましょう? いつまでもライナさんにお任せする訳にもいきませんし、やっぱり使用人雇った方がいいですかね?」


「あ、そ、そうですね……今の状況が続くようなら、このまま私が管理をさせていただく事も可能です。洋一様には色々とお世話になっておりますし。ですが護衛で何日も家を空けるような事があり、その時ロバを連れて行かないとか、新しく馬車の購入などをお考えであれば、人を雇った方がいいかもしれません」


 なるほど……基本街の外に遠出をする時はリンネに護衛を頼むつもりだし、他の街に行く予定もないけど……馬車、いるかな? あ、妹が不安そうにしている。人見知りだから使用人とか嫌なのかな?


「今の所そういう状況は予定してないです。商会ができれば必要に応じて人手を回してもらったりできるかもしれませんし、馬車は買う事になったらその時考えるという事で。当分はライナさんにお願いしてもいいですかね?」


「はい! 承知しました」


 なんだか張り切ってるな。性格的に、高い報酬を貰っている以上は役に立ちたいんだろう。真面目だなぁ。


「じゃあこれ預けとくから、消耗品の購入とか管理に使ってね。足りなくなったら言って」


 そう言って金貨一枚を渡すと、ライナさんは『お任せください、こう見えてもやりくりは得意なのです!』と胸を張った。張るほどな……じゃなくて、つい先日まで妹さんの学費を苦労して工面していたので、そういうの得意なのだろう。元貴族なのに……。


 一応妹にもなにかないか訊いてみたが、『特にないよ。全部お兄ちゃんにお任せで……あ、まきの在庫だけ多めにしておいてくれると嬉しいかも』との事だった。

 まきの件はライナさんにお願いをしたが、俺への強依存ぜんぜん治ってないな。


 ともあれプチ会議はそれで終了となり、俺と妹は椅子を持って部屋へと戻る。


 二つ並んだベッドに入り、なぜか真ん中よりこちら側に寄ってくる妹に向けて手を伸ばす。

 妹はその手を掴み、胸に抱くようにして嬉しそうに眠るのだが、俺としては緊張して安眠しにくい。

 だが、この手を伸ばしていないと体がくっつく所まで寄ってくるので、一定の距離を保つためには必要な措置でもある。


 結局俺は今日も鑑定を6回目まで発動し、気を失うように眠りにつくのだった……。




大陸暦418年12月10日

現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化)

資産 所持金 2776万1200アストル(-100万)

配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人)

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