(番外編) 歳をとらない王配(後)
※二話分割の後編です。
年が変わって大陸暦434年。俺は王立学校高等部へと入学し、学校へ通う生活がはじまった。
魔人だとバレる事もなく。身分証も国が発行した正規の物なので全く疑われる事もなく、普通の学生生活を送っている。
心配していた勉強については、結論から言うと……かなり簡単だった。
入学してすぐの試験で、二位以下を大きく引き離して首席をとった時。俺は自分がどんなに恵まれた環境で育ったのかを、改めて実感したのである。
香織叔母さんの美味しい食事はもちろんだが。エイナ叔母さんは大陸史上最高の賢者と讃えられ、この学校では生きた伝説になっている人だった。
そのエイナ叔母さんと、エイナ叔母さんをして先生と仰ぐルクレア先生。
俺は大陸最高の叡智と言うべき二人から、付きっきりで勉強を教えてもらっていたのである。
まさにこの世界でこれ以上を望み得ない、最高の教育環境だったのだ。
エイナ叔母さんは当然その事を知っていたはずだが。それでも俺をここに送り出してくれたのは、単に知識だけではなく色々な経験を積ませて見識を広めさせようとしてくれたのだろう。
俺はその好意に応えるべく。たくさんの人と付き合って友達も作り、様々な経験を重ねた。
人族の善い部分も悪い部分も色々と見る事ができ。机の上ではできない勉強をたくさんして、それは俺を大きく成長させてくれたと思う。
……友達を家に呼ぶのはだけはニナ姉さんの手前、全力で自粛したけどね。
――そして、入学から一年が過ぎた頃。
国王の忙しい仕事の合間を縫っては御飯を作りに来てくれているニナ姉さんが、いつになく真剣な表情で言葉を発した。
「ねえヨミちゃん。この国の王配になる気はない?」
あまりに唐突な言葉に。俺は危うく、お肉を刺していたフォークを取り落としそうになった。
「…………え、王配って。あの王配ですか? 女王の夫の?」
「うん、その王配だよ」
「姉さん、国王を引退するのですか?」
「今の所その予定はないかな、跡継ぎもいないしね」
「……あの、それだと俺と姉さんが結婚するって話になっちゃうんですけど?」
「そうなるね。……ヨミは、私の事が嫌いかな?」
いつの間にか呼び捨てになっていた姉さんが、そう言いながら少し上目使いにこちらを見る。
――ちょっとドキリとしてしまった。
「い、いえ。嫌いどころか、むしろたくさんお世話になった事を感謝しております。ですが……」
「ですが?」
「いや、その……俺まだ6歳なんですけど?」
「でも体は大人だよね。産まれて1年で人間の12歳相当、そのあと5年で17歳相当でしょ? 普通に結婚してもおかしくない歳だよ」
……若干計算に違和感を覚えたが、俺の頭は激しい動揺のあまりそれを指摘する事もできず。ただ現状を把握しようと必死だった。
俺はライナ母さんから武術と礼儀作法を学び。エイナ叔母さんからは各種知識と権謀術数を。リンネ様からは弓術を、ルクレア先生からは医術と薬学を学んだ。洋一父さんと香織叔母さんからも、いろんな雑学を教えてもらった。
この世界で最高の先生達からだ。
――だが、よく考えたら誰からも恋愛について教わった記憶がない。
俺は初めて直面する事態にどうしてよいかわからず。それでもなんとか、言葉を発そうとする。
「その……に、ニナ姉さんは人族の国の王ではないですか。女王の結婚相手が、俺みたいなどこの誰かも知れない男では問題があるのではありませんか?」
「そんな事ないよ、その手の話をするなら私なんて元奴隷だし。ヨミはこの一年、王立学校の高等部でずっと首席だったでしょ。初代国王のエイナ様以来の偉業だって、かなり噂になっているし、今のうちに関係を持っておこうって動いている有力者や商家がいっぱいあるんだよ」
「え……でも俺の所には全然……」
「私とリステラ様で止めてるからね。むしろそのせいで、『女王がお召しになるつもりだ』って噂も流れているくらいだから、それが本当になるだけだよ」
「で、ですが。俺に王配なんて勤まるとはとても……」
「ヨミなら十分こなせるよ。この一年見てきたけど、経験が浅い以外は能力的には申し分ない。経験が足りない部分は私が全面的に手助けするし、リステラ様にも協力をお願いしてある。いざとなればエイナ様の支援だって得る事ができるし、本当に最後の手段としては洋一お父さんも後ろに控えてくれているんだから、なにを怖がる事もないと思うよ」
……姉さんは普通に言っているが、よく考えてみればこれはとんでもない事である。
優秀さを讃えられる現国王と。いまだに絶大な影響力を持っていて、恐れられてもいる先代国王。それに加えて、大陸最大の商会の最高実力者。
誰か一人の支援を得るだけでも大抵の事ができてしまいそうなのに、その三人が揃って。この国の三大権力者全員が支えてくれるというのである。
……なんかもう、これならバッタやイナゴでも王配が勤まりそうな気がするよね。
洋一父さんの支援というのはいまいちピンとこないが、いざとなったらシェラ姉さんがエンシェントドラゴンの姿で王都に乗り込んできたりするのだろうか?
……それはもう、間違いなく問答無用で世界最強だし。三大権力者が揃っても歯牙にもかけられないほどの影響力だろうけどね。
うん、こっち方面から断るのは無理そうだ。
……というかそもそも、これは断らないといけないのだろうか?
正直、姉さんが俺を伴侶にと求める理由は。俺が洋一父さんの血を引いた息子だからというのもあるに違いない。
だがそれはそれとして、俺はニナ姉さんの事をどう思っているのだろうか?
……記憶を辿ってみれば、幼い頃から村にやってくるたびに俺をかわいがってくれた、優しいお姉さんだった。
美人で頭もよく。勉強を見てもらった事もあるし、洋一父さんにもエイナ叔母さんにも信頼されていて、ライナ母さんや香織叔母さん。エルフのみんなとも仲がいい、笑顔がとても魅力的な人だった。
俺にはすごく輝いて見えて、憧れのような感情もあったと思う。
そして俺が王都に来てからは。忙しい国王の仕事の合間を見ては、俺のために食事を作りに通ってくれた優しい人でもある。
……俺が考え込んでいる間に。姉さんはちょっと視線を落として、心なしか悲しそうな声で言葉を発する。
「……やっぱり、こんなおばさんと結婚するのは嫌かな? 私は今年でもう25歳だもんね……それとも、顔に傷のある相手は嫌?」
「――い、いやいや。そんな事は断じてありませんよ!」
俺は大慌てで、声を大にして否定する。
25歳はたしかに一般的な結婚年齢を過ぎているが、姉さんの外見はまだまだ若く、そうそう並ぶ者などいないほどの美人である。
もともと童顔なせいもあって、実年齢よりもはるかに若く見えるのだ。
姉さんはそれを気にしていて。左目に着けている眼帯を厳つい物にしたりと結構苦労したそうだが、今は香織叔母さんのお手製だという、落ち着いた造りのものを着けている。
眼帯の下を見せてもらった事もあるが。ルクレア先生が手術をしたという火傷の痕はほぼ完璧に治っていて、傷と言うほどのものは残っていない。
ただ、左目だけは白く濁ってしまっていて。今も見えないのだそうだ。
だがそのくらいの事は、姉さんの魅力を少しも減じるものではない。
……黙って考え込む俺に。姉さんは畳み掛けるように言葉を発する。
「王配と言ってもなにも難しい事はないよ。たまに式典とかに出てもらう以外は、王城内を見て回るなり、お忍びで街に行くなり自由にしていていいし。望むなら学校に通い続けてもいい。私は国王の仕事があるから毎日は無理だけど、三日に一度は夕御飯を作ってあげるよ」
「夕御飯……」
――ニナ姉さんが作る夕御飯。その言葉は俺にとって、とてつもなく魅力的な響きだった。
香織叔母さんによって、知らないうちにとんでもない美食家に育て上げられていたらしい俺にとって。王都での生活における姉さんの料理は、まさに天与の助けだった。
正直、姉さんの御飯と香織叔母さんが定期的に送ってくれる瓶詰めの食料。リンネ様が一緒に送ってくれるドライフルーツがなかったら、俺は体調を崩していたと思う。
……大森林の村にいた頃には、自分がこんなに弱いなんて思ってもいなかった。
ライナ母さんの鍛錬で森の中を三日間。水と干し肉だけで走り回った事もあったので、苛酷な環境への耐性もあるのだと、勝手に思い込んでいたのだ。
だが、今にして思えばあの干し肉は香織叔母さんのお手製で。適度な硬さで噛めば噛むほど味が出てきて、かすかな甘みとピリッと香辛料が効いていて、美味しくていくらでも食べられた。
宴席にお酒のお供として提供されていたくらいである。
一方王都に来てから知った本当の干し肉というのは。ぶつけるとカンカン音がするくらいの硬さで、そのままではとても歯が立たない代物だった。
口の中で少しずつふやかして膨大な時間をかけて食べるか。事前に半日かけて水で戻しておいて、それを煮込んでようやく食べられる硬さになるような代物で。味もキツい塩味しかついておらず、お世辞にも美味しいものではなかったのだ。
――つくづく、自分が恵まれた環境にいた世間知らずだったのだと思い知らされる。
そんな俺なんかのために。姉さんは忙しい中で時間を作って、食事を作りに通ってくれたのだ。
なんかもう。それを考えるだけで、十分過ぎるほど好きになってしまいそうである。
……本当に飢え死に寸前まで追いつめられれば、味がどうこうなんて言っていられなくなったのだろう。
だが悲しいかな、俺にはそこまでの覚悟がなかった。
姉さんの好意に甘え、お世話になり続けたのである……。
思い返してみれば、俺は人の心を掴む方法や味方に引き込む方法について、エイナ叔母さんに色々と教わった。
あの時には一番ピンとこなかった『胃袋を掴む』という方法だったが、俺は今まさに、その方法に絡め獲られようとしているのだ。
……だが、不思議と悪い気はしなかった。
むしろ心地いいような。幸せな感情が沸きあがってくるような気さえしたのである。
――その感情を自覚した時、俺の答えは固まった。
「わかりました、結婚をお受けしたいと思います。……でも、本当に俺でいいんですか?」
「もちろん、ヨミだからいいんだよ! ありがとう! ――そうと決まれば、明日には内々にみんなに紹介するから、お昼頃に迎えに来るね。洋一お父さん達には私から連絡するけど、一応ヨミからも知らせておくといいよ。それじゃあ、また明日ね!」
姉さんは嬉しそうに声を踊らせ、慌しくもゴキゲンで王城へと戻っていく。
一人残された俺は、ぼんやりと今起きた出来事について考えてみた。
……料理を全て食べつくしてしまい、お皿だけが並んだテーブル。
明日の分だと言って、多めに作ってくれたスープが入った鍋。
俺と姉さんとを結び付けてくれたのは間違いなくこの料理で。その意味では、本当に縁を繋いでくれたのは香織叔母さんという事になるのかもしれない。
俺はその巡り合わせに不思議なものを感じつつ。食器を片付けて、大森林の村にいるみんなへと手紙を書くのだった……。
それから後はニナ姉さん……いや、ニナの主導で。トントン拍子に事が運んだ。
リステラ様やファロス様をはじめとした国の重鎮達に紹介され。各種根回しの後、一般にも公表された。
女王と学生の結婚というのは国中で大きな話題になったようで。かつては親同士によって決められ、政争の道具であった王の結婚が自由恋愛によって行われたという事は、一般国民達にも大きな衝撃として伝わったらしい。
元奴隷の国王、貴族制度の廃止、エルフの奴隷制度廃止と並んで。新しい時代を象徴する出来事として語られ、おおむね好意的に受け止められているようだ。
……王都での盛大な結婚式が開かれた後。先王の招きを受けたという名目で、俺達は大森林へ。村のみんなにも報告に行った。
洋一父さんとライナ母さん、リンネ様やルクレア先生達エルフのみんなは手紙を読んで驚いたようだったけど。それでも手を繋いで挨拶をした俺達を見ると、笑顔で祝福してくれた。
香織叔母さんはどこかでこうなる事を予想していたようで。ニナに『これでお兄ちゃんと二重に親子になったね』と言い、ニナはその言葉にとても嬉しそうに『はい!』と答えていた。
ちなみにエイナ叔母さんは俺を王都に送り出した時からこうなる事を予見していたようで。ニナと視線で会話して『おめでとう』と言っていた……。
王都での堅苦しい式典と違って。森でのお祝いは和気藹々(わきあいあい)とした楽しい雰囲気で進む。
エイナ叔母さんなんかは、先代国王として王都での式典に出向いてくれた時には終始鋭い視線を周囲に向けていて。空気がピリピリして息苦しいくらいだった。
それが今は、産まれたての子猫を見るような柔らかい笑顔を浮かべていて。ライナ母さんにお祝いを言ったり、お酒を注いだりしている。
俺としてはこちらの方が馴染みのある光景だが。王都の人達が見たら、睫毛が擦り切れるまで目を擦るだろうね。
ちなみに俺も。久しぶりに香織叔母さんの料理がお腹いっぱい食べられて、とても幸せだ。
そして、ライナ母さんに『国王陛下の夫となるのですから、しっかりと任を務めるのですよ』と激励されたり。
洋一父さんに『娘と息子が結婚するのはなんか変な感じだけど、とにかく幸せにな。なんかあったら遠慮なく相談しに来るんだぞ』と肩を叩かれたりしつつ。またみんなに見送られて、王都に戻ってきた。
……それからは学校に通うかたわらニナの仕事を補佐したり。二人で国内各地を視察に行ったり、お忍びで街へ出てみたりと。それまで以上に色々な経験を積む事ができ、視野も一層広がったと思う。
ちなみに国王をやっている時のニナは、家にいる時の優しい感じとは違って凛とした空気を身にまとい。視線も鋭く威厳に満ちていて、どこか近寄りがたい雰囲気さえ醸し出していた。
まるで別人のようで、正直とてもかっこいい。新しい一面を見られて、改めて惚れ直してしまった。
ニナは俺と結婚してから料理の腕が更に上がったようで。さすがに香織叔母さんには及ばないものの、大陸で三本の指に入る腕前にはなったと思う。
基本誰かに振舞う事はなく。たまにリステラ様が同席する程度なので、俺のためだけに腕を磨いてくれているのだと思うと。なんだか照れくさくもあり、嬉しくもあった。
――そして、結婚したからには当然王家の跡継ぎを作る必要もある訳で……。
……なんと言うか。ニナを初めて抱きしめた時の感想は『小さくて柔らかいな』だった。
普段国王として凛々しく振舞っているのを見ていたので、もっと大きくて堂々とした印象だったのだが。俺の腕の中にすっぽり入ってしまったニナの体は思っていたよりもずっと小さく、力を入れたら壊れてしまいそうなくらい細くて華奢で、柔らかくて暖かかった……。
……そんな訳で、俺達夫婦の仲は極めて良好に推移し。洋一父さんに相談するような事も起こらず、結婚から5年の間に男の子二人と女の子一人を授かる事もできた。
……だがそんな幸せな生活も、いつまでも続ける事はできない事情がある。俺は魔人なので、成人してからは人族に比べて圧倒的に成長が遅いのだ。
ニナと結婚した時に、王立学校高等部二年生で、17歳だと公称した。
それから5年が経って、俺は22歳になっていなければいけないのだが。外見上全く変化がないのである。
それも人族換算で12歳相当のままで。17歳の時ですらちょっと若く見えると言われたくらいだったのに、22歳はさすがに苦しくなりつつある。
ニナとリステラ様が手を尽くして、歳をとって見える化粧などを施してくれたりもしたが、それにも限界があった。
……なので、結婚して5年となった大陸暦440年。俺は病に倒れてそのまま急逝した事になり、こっそりと大森林の村に帰ってきた。
寂しくはあったが、リステラ様が直々にこっそり手紙を運んでくれたし。ニナは『先王に会うため』という理由をつけては、年に何度も会いに来てくれた。
子供達がある程度成長してからは、『先王に教育していただく』という名目で代わる代わる子供達が森に預けられたので、俺も成長を見守る事ができた。
心配していた子供達の成長だったが。洋一父さんによると『半魔人』という状態だそうで、普通の人族よりちょっと成長が速かったり、若い時間が長かったり、身体能力が高かったり、魔力があったりしたが。ギリギリ違和感のない範囲に収まったようで、一安心である。
……そうして20年が過ぎた、大陸暦460年。
ニナは24歳になった長男に王位を譲り、『エイナ先王陛下の元へ行く』という名目で、大森林の村へとやってきた。
それからはまた夫婦揃って暮らす事ができるようになり。子供達もたまに遊びに来てくれたりして、穏やかで幸せな時間をゆっくりと重ねる事ができた。
洋一父さん達も一緒で、本当に幸せな日々だったと思う。
……そんな夢のような時間が40年近く過ぎた、大陸暦497年。
ニナは人族としての寿命を迎え、最後の一瞬。傍らにいて手を握っていた俺に、ニコリと微笑みながら言葉を発した。
「ヨミ……今までありがとうございました。この先、洋一お父さんと香織お母さんの事。子供や孫達の事。そしてついでに、余力があれば王国の事もよろしくお願いします。……私はあなたと伴侶になれて、最高に幸せでしたよ……」
ニナはそう言って、穏やかに息を引き取ったのだった……。
……思い返してみれば、結婚から60年余り。一度も喧嘩らしい喧嘩をする事もなく、ニナの笑顔以外を思い出すのが難しいくらいだった。
その日はライナ母さんが亡くなった時以来。一日中泣いて過ごし、俺は自分がどれだけニナの事を愛していたのかを、改めて思い知る事になったのだった……。
……ニナの死は、翌年の香織叔母さんの死と、それに続く洋一父さんの最後へと続く、激動の時代の幕開けでもあった。
俺はニナの残した願いをできるだけ守ろうとしたが、どれだけの事ができたのかは正直自信がない。
香織叔母さんは天寿だったから仕方がないとしても、洋一父さんについてはもっとできる事があったのではないかと、ずいぶんと自分を責めもした。
一時は本気で、俺もニナと父さん達の後を追おうかと考えたくらいである。
自らも寿命を迎えつつあったエイナ叔母さんが、最後の言葉として強く諭してくれなかったら。
妹の一香が傍について支えてくれていなかったら、本当にそうしていたかもしれないと思う……。
……そして俺は今。ニナとの最後の約束を守るために、陰からこっそり子孫達と王国の行く末を見守っている。
曾孫の一人が聖女として勇者の仲間となり。洋一父さんを討った事は内心とても複雑だが、エイナ叔母さんの秘かな介入もあって、二人は結婚して地方で静かに暮らす事になった。
王家は今も俺とニナの子孫達が。洋一父さんやライナ母さんの血も引く子供達が、延々と継いでくれている。
俺は表に姿を現す事はなく。裏からこっそりと手を回して、王国の安寧と平穏を維持するべく働く日々だ。
……いつか俺も寿命を迎えた時。死者の世界でニナとの再会が叶ったとしたら、また昔のように並んで座って、その時までの出来事を沢山話して聞かせようと思う。
その時にニナがまた笑顔を浮かべてくれるように。俺は命のある限り、ニナとの約束を果たし続けるのだ。
――いつの日かまた。柔らかいニナの笑顔が見られる時を夢に見ながら……。




