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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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(番外編) 歳をとらない王配(前)

※ヨミ視点での話になります。

 大陸暦433年12月。俺は人族の国の王であるニナ女王の誘いを受けて、王都の学校へと学びに行く事になった。


 その時はまだ実年齢で5歳と10ヶ月だったが、魔人はエルフと同じく幼少期の成長が早かったので、体は人族の12歳相当。一応大人の仲間入りをする所まで育っていた。


 そして、5年と少しの間。エイナ叔母おばさんとルクレア先生をはじめ、色々な人に勉強を教えてもらっていた。


 なので、13歳から入るという中等部ならそれなりに通用すると思っていたのだが。エイナ叔母さんとニナ女王で決めた行き先は、16歳からの高等部であるらしい。


 ……外見に関しては普通の人族と変わらないし、背は高い方なので16歳でも一応通用するとは思うが。勉強の方は正直不安だった。


 王立学校の高等部といえば国中から特に優れた若者が集められ、世界最高の教育を受ける場所だと聞いていたからだ。


 卒業生でもあるエイナ叔母さんは大丈夫だと言っていたが、国が大きくなったので学生の数も飛躍的に増え。エイナ叔母さんの頃の10倍を越えているらしい。

 その分レベルも高くなっているに違いない訳で、本当に大丈夫なのだろうか……?




 ……そんな訳で、俺は期待と不安とを胸に。大森林に雪が積もる12月の半ば、リステラ様の隊商に加えてもらって、産まれて初めて村を出る事になった。


 出立前にはみんなが小さな宴席を開いてくれ。励ましの言葉を貰うと同時に、餞別せんべつも色々といただいた。


 ライナ母さんからは護身用の短剣。香織叔母さんからは手縫いの服。リンネ様からはドライフルーツ。ルクレア先生からは薬。……まではいいとして。洋一父さんは皮袋にいっぱいの金貨をくれようとしたのだが、ライナ母さんに『ヨミは知識を学び、心身を鍛えに行くのです。あまり甘やかすのは良くありません』と言われて却下となり。お守り代わりに一枚だけ貰っていく事になった。


 まぁ、遊びに行く訳ではないのだし。学費や生活費はニナ女王が面倒を見てくれるとの事なので、これはライナ母さんが正しいだろう。気持ちは嬉しかったけどね。


 ……そしてもう一つ。エイナ叔母さんからは、一通の手紙を貰った。


『読んでみなさい』と言われて開いてみると。光沢があって分厚い最高級の紙に、『この手紙を持つ者はパークレン王国前国王、エイナ・パークレンの保護下にあります。粗相そそうがないよう丁寧に対応し、間違っても害が及ぶ事などないように細心の注意を払う事。また、なにかを要求された場合は可能な限り実現し、かかった経費は王家を通じて私に請求するように』……と書いてあった。


 文章の最後にはエイナ叔母さんの署名と、専用の印。そして王家の印が並んで押されている。

 字が読めない人にでも只事ただごとではない雰囲気を感じ取らさせるであろう、国で最高レベルの書面である。


 ……俺は正直、持つ手が震えた。


 この手紙は、皮袋いっぱいの金貨などよりもよほど価値があるものだ。これ一枚あれば、大陸中どこへ行っても好きなように振舞ふるまう事ができてしまう。


 とっさに『いただけません』と言って返そうとしたが。エイナ叔母さんが俺をはかるような目で見ているのに気が付いて、すんでの所でその言葉を飲み込んだ。


 ……これはつまり、俺は試されているのだろう。


 この手紙を使うか使わないか。もし使うなら、どんな状況でどう使うのか。


 これを使って威張り散らすようなマネは論外として。見せびらかして自慢するような愚か者かどうか。大切な手紙を盗まれたりするようなマヌケではないか。これがある事で油断をして、甘い判断をする事がないかなど。考えてみればこれ一つで実に色々な事が量れてしまう。


 ……相変わらず怖い人だと思うと同時に、俺は文面に違和感も感じていた。


 俺は仕事の手伝いをする事もあるので知っているが、エイナ叔母さんが書く手紙は完膚かんぷなきまでに事務的で、極めて簡潔に用件だけを記したものなのだ。

 この手紙だと、『間違っても害が及ぶ事などないように細心の注意を払う事』の一文は必要ない。前の『粗相がないよう丁寧に対応し』だけで十分だ。


 ……それなのにあえてこの一文を入れてくれたのは、エイナ叔母さんの優しさなのだろう。


 エイナ叔母さんは自分に子供がいないからか。あるいは姉であるライナ母さんをすごくしたっているからなのか、おいである俺をすごくかわいがってくれている。

 だから思わず、一文多く筆が走ってしまったのだろう。


 ……なんとなく、理由は後者な気がするけどね。


 ともかく俺は、(意図は理解しました)と目で返事をして。手紙を大切にしまいこんだのだった……。




 そして今。俺はリステラ様の隊商と共に王都の門をくぐり、リステラ様直々に。一軒の家へと案内されていた。


「ここが以前洋一様達が住んでおられた家だ。私が頼まれたのはキミをここまで案内する所までだが、これからもなにか困った事があれば遠慮なく私を訪ねてくるといい。……まぁ、そんな事にはならないだろうけどね」


 リステラ様はなにか意味深な言葉を残して。『では、頑張りたまえよ』と、思わず見惚れてしまうような笑顔を残して帰っていった。


 かわいいとか美人だとかではなく。男の俺がカッコイイと思ってしまうような、そんな笑顔である。もし俺が女だったら、一瞬で惚れてしまっていただろう……。



 ……しばらくして我に返った俺は、気を取り直して昔洋一父さん達が住んでいたという家に足を踏み入れ。まずは入り口に荷物を置いて、中を一通り見て回った。


 家は何年も無人だったわりにはきれいに手入れがされていて、まきやロウソクの備蓄まである。

 台所の水瓶みずがめにはんだ水が満たされていて、新鮮な食材まで置いてあった。


 ……俺が来るというので、誰かが準備をしてくれたのだろうか? だが、なぜ到着が今日だとわかったのだろう?


 不信に思いながら家の中を一周し終えた頃。不意に玄関の扉が叩かれ、来客を告げる。


 ……リステラ様が戻ってきたのか、あるいは別の来訪者か。

 念のためライナ母さんに貰った短剣を後ろに構え、そっと扉を開ける……。


「――ヨミちゃん、久しぶりだね!」


「……国王……陛下?」


 驚いた事に。扉の向こうで嬉しそうな笑顔を浮かべて立っていたのは、人族の国の王。洋一父さんと香織叔母さんに娘として育てられ、先代国王であるエイナ叔母さんの養子でもある、ニナ・パークレン国王陛下だった。


「そんな硬い呼び方しなくていいよ。二人の時は今まで通り『ニナ姉さん』でいいから」


 砕けた感じでそう言葉を発し。国王陛下は戸惑とまどう俺をよそに、慣れた様子で家の中へと入ってくる。


 庭を見ると二台の馬車が停まっていて、護衛なのだろう騎士風の人達が家の周りを固めていた。


 ……中には入ってこないのかなと思ってしばらく見ていたが、そう命じられているのか入ってくる様子はなかったので。扉を閉めて姉さんの後を追う。


「荷物これだけ? 荷解にほどき手伝うよ」


「いやそんな、国王陛下にそんな事をしていただく訳には……」


「誰も見てないから大丈夫だよ。それより二階に三部屋あるけど、どの部屋使う? ちなみに奥から順に、昔洋一お父さんと香織お母さんが使っていた部屋。真ん中がライナ様とエイナ様が使っていた部屋。階段寄りがお客さんが来た時に泊まってもらう部屋だったんだよ」


 ニナ姉さんはさすが昔住んでいただけあって、よく知っている。……のはいいのだが、なんか一瞬。空気がピリッと張り詰めたような気がした。


「…………えーと、じゃあ一番手前の部屋にします。来客の予定はありませんし、階段に近いほうが便利ですから」


「――そう? でもそのうち友達とかできるだろうし、来客もあるかもしれないから、真ん中の部屋にしておいたら? お母さん達が使っていた部屋なんだしさ」


「あー、そうですね。ではそうさせていただきます」


「うん、それがいいよ。じゃあ荷物運ぶの手伝うね」


 姉さんはそう言うと。やたらゴキゲンな様子で、荷物の箱を抱えて階段を上がっていく。


 ……多分だけど、俺は今。わりと重大な判断を迫られて、見事正解を引き当てたのだと思う。


 思い返してみると、前回ニナ姉さんが大森林の村へ来た時。俺の王都への留学を勧めてくれた時に、『生活の面倒は全部私がみますから』と言ってくれていたのだが。洋一父さんが『そうだ、王都へ行くんなら昔俺達が使っていた家があるから。あそこに住むといいよ』と言ったのだ。


 ――あの時。姉さんは一瞬、表情を強張こわばらせたような気がする。

 気のせいかなと思っていたが、今ならあれは間違いではなかったと断言できる。


 おそらく奥の部屋は、ニナ姉さんにとって特別な場所なのだろう。この家が全く空き家らしくなかったのも、間違いなく姉さんが定期的に来ていたからだ。


 ……多分、姉さんが言っていた『生活の面倒は全部私がみますから』には、俺のための住居を用意する事も含まれていたのだろう。

 だが洋一父さんの一言で、俺はここに住む事になった。


 姉さんはきっと、内心穏やかではなかったのだろう。

 だからリステラ様に手を回し。俺の到着予定を正確に把握して、ピッタリ時を合わせてここにやって来たのだ。


 ……みんなから聞いた昔話によると、この家は姉さんが父さん達と出会った日。最初の夜を共に過ごした場所であるらしい。


 傷を負った奴隷だったという姉さんが家族として受け入れられ、初めて一緒に眠った場所。

 そりゃ思い入れが強いのも理解できる。


 俺が使う部屋としては初手から真ん中でもよかったとは思うが、念のため一番手前と言ってしまうほどに。姉さんがまとっている空気は恐ろしかった。

 もし奥の部屋を使うとか言ったら、俺どうなっていたんだろうね……。


 というかニナ姉さんに限った話ではないが、俺の周りの人達はみんな洋一父さんを好き過ぎないだろうか?


 香織叔母さんを筆頭に、ライナ母さんにエイナ叔母さん。リンネ様やルクレア先生。リステラ様に、クトル姉さんやシェラ姉さんまで。


 みんな洋一父さんをしたっているし、エイナ叔母さんにいたっては恐れているようでさえある。


 今も人族の国に絶大な影響力を持ち。はかりごとをやらせたら右に出る者がいない、あのエイナ叔母さんがだ。


 俺が知っている父さんは毎日釣りに行っているか香織叔母さんの料理を手伝っているかで、正直あまりパッとしない印象なのだが。俺が産まれる前にはこの大陸の統一と、エルフの国三国の建国を成し遂げた立役者なのだと聞いている。


 俺はまだ会った事がないが、森エルフの国の王であるスミクト様や、沼エルフの王であるカナンガ様にも大変慕われているそうだ。


 ……人は見かけによらないとは、まさに父さんのためにあるような言葉なのだろう。


 俺は改めて父親の底知れなさを感じつつ。ニナ姉さんの後を追って、真ん中の部屋へと荷物を運び込むのだった……。



 荷解にほどきが終わって一息ついた頃。不意にニナ姉さんが言葉を発した。


「そうだヨミちゃん、夕御飯まだでしょ? 私がなにか作ってあげるよ」


「え? ……いやいや、国王陛下にそんな事をしていただく訳には」


「だから『お姉ちゃん』でいいってば。……ヨミちゃん、夏に会った時よりちょっとせたよね? 私も一応香織お母さんに料理を習った身だから、一香ちゃんほどではないけど、そこそこ料理できるんだよ」


「う……」


 ……どうやら姉さんには、こちらの事情がすっかり筒抜けらしい。

 リステラ様の隊商に加わって大森林を離れた日の夜。俺は初めての試練に直面した。


 人族の街の宿に泊まり、出された夕食を食べた時の事。一口料理を口にして固まってしまった俺に、リステラ様が苦笑くしょうしながら言葉を発した。


「まぁ、産まれた時からずっと香織様の料理を食べ続けていたら、その反応になるだろうな。だが、あれは香織様の料理が特別なのであって、他所よそではこれが普通なのだぞ」


 ……その言葉を、俺は深い絶望と共に聞いたのをよく覚えている。


 これが普通だと言われたその食事は、パサパサで硬い上に臭みがある肉と、ボソボソで口当たりが悪く、砂でも混じっているのかたまに『ジャリッ』というパン。何日も継ぎ足して作っている気配がする、煮込まれすぎてクタクタになった野菜入りの濁ったスープで、味付けはほぼ全て塩味のみ。スープにだけは、多少の香辛料が入っているような気もしないではないだけの代物だった。


 ――がんばって食べようとしたが、正直ほとんどのどを通らず。料理は同行している人達に食べてもらって、俺は一人。リンネ様から餞別せんべつにもらったドライフルーツをかじった。


 リステラ様が『香織様の料理は、あれは本当に特別なものなのだ。国王や世界一の金持ちであっても、あれほどのものは食べられない。おまえはまず食事に慣れるのが最初の課題だろうな』と言うのを聞いて、俺は本気で村に帰りたくなった。


 国王と親しく、世界一の金持ちでもあるリステラ様がそう言うのだから。その言葉に間違いはない事がはっきりと分かったからだ。


 そしてそれは、なんでもできるような気がしたエイナ叔母さんの手紙をもってしても。どうにもならない案件なのである。


 ……結局その後の道中でも食事には馴染めず。リンネ様から貰ったドライフルーツの他は、パンを小さくちぎってミルクに浮かべ。そのまま噛まずに流し込むといった食事しかできなかったので、痩せたのは間違いないだろう。


 この数日の間に、俺が最も尊敬する人は洋一父さんでもライナ母さんでもエイナ叔母さんでもルクレア先生でもなく。香織叔母さんが不動の一位になったくらいだ。


 その香織叔母さん直伝の料理と聞いて。俺にはもう、それに抗う術など全くないのであった……。



「じゃあ料理ができるまでの間、学校と街を見て回ってくるといいよ。外にいる兵士に案内を頼んであるから、出ればわかるよ」


 ……どうやらここまで、全てニナ姉さんの筋書き通りらしい。

 さすがはエイナ叔母さんの後継者だ。



 ――姉さんの手料理が完成するまでの間、俺は護衛の人の案内で街を見て回った。


 来年から通う学校、市場、商業街……この街は大陸の統一後。政治の首都として大きく発展し、洋一父さん達が暮らしていた時代とはどんどん変わっているらしい。

 馬車の中で、リステラ様が話してくれたのを思い出す。


 俺は護衛の人の『コイツは一体何者なのだ』という視線を身に浴びながら、一通り必要な場所を案内された。


 ……そりゃまぁ、女王陛下と二人きりだった若い男なんて。変な目で見るなと言う方が無理な話だろう。


 多分姉さん、俺が来る前からちょくちょく一人であの家に通っていたのだろうし。その理由は告げていないようなので、余計にだ。


 それでもなにも訊いてこない辺りはさすがプロの護衛だが、本当にいいのだろうか?


 聡明な姉さんなら、これが変な噂の元になりそうな事くらいは当然承知の上だと思うのだが。よほど護衛達を信用しているのか、あるいは……。



 そんな事を考えながら周辺の把握はあくを終え。家に戻ってくると、台所から漂ってくるえも言われぬいい香りが。懐かしい香りが、家中を満たしていた。


 それに釣られてふらふらと歩いていくと、テーブルに並んだ食事とニナ姉さんが迎えてくれる。


「おかえり、どうだった……って、訊くより先に食べよっか」


「はい、いただきます!」


 俺はよほど余裕がなさそうに見えたらしい。


 実際居ても立ってもいられなかったので、叫ぶようにそう言って、むさぼるように料理に食らいつく。



「……どう、美味しい?」


「はい……美味しいです……。香織叔母さんの料理を思い出します……」


「ふふ、そっか。いっぱいあるからたくさん食べてね」


「はい……」


 一心不乱に食事をかき込む俺を、姉さんは嬉しそうに。微笑ほほえみを浮かべて見つめていた……。



 ニナ姉さんの料理は香織叔母さんの料理の気配を強く感じさせてくれるもので。さすがに本人の物にこそ及ばないが、道中で食べた物とは比べ物にならないくらいの味だった。


 気が付いた時には俺のほほを涙が伝っていて、泣きながら食べていたくらいである。


 そんな俺を優しい目をしてながめていた姉さんは、食事が終わるタイミングを見計らって言葉を発する。


「年が明けたら王立学校の高等部に入学する事になるけど、そこではヨミ・イエルーク16歳として過ごしてもらう事になるから、そのつもりでいてね」


「はい」


 年明けまであと10日あまり。

 勉強には少し不安があるが、わざわざ呼び寄せてくれたニナ姉さんの期待に応えるためにも、頑張らないといけない。


『ヨミ・イエルーク』と書かれた身分証を受け取りながら。俺は来たるべき学生生活に期待と不安を高めつつ、覚悟を決めるのだった……。





長くなってしまったので二話に分けます。

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