313 (後日譚)新しい時代
……ここに一冊の本がある。
これは勇者が魔王を倒すまでの冒険記を、仲間の一人だった聖女が書き記したもの。
勇者が仲間と共に多くの困難を乗り越え。大陸中を巡った旅の果てに魔王を倒し、国王の娘である聖女と結婚するまでが描かれた人気作だ。
後世に伝わるものは冒険活劇や英雄譚として再編集されていて。勇者とその仲間達の活躍が強調された内容になっているが、原本であるこの本には少し違う事も書かれている。
その違いの一つは、勇者一行が王国の初代国王を訪ねる場面。
後世に伝わる本では、勇者はここで魔王の住処を教えられ。魔王に対抗する秘策を授けられた事になっているが、原本には初代国王が勇者に対し、『貴方は別の世界から来たのでしょう?』と看破し、驚く勇者から一晩かけて別世界の話を詳細に聞き取った事。
そして最後に『貴方は魔王を倒せるでしょうが、もし途中で全身が白銀の鱗に覆われたドラゴンと出会う事があったら、それは例え勇者であっても人間には決して抗し得ない相手なので、なにを置いても逃げるように。そのドラゴンを怒らせたら世界が滅びかねないので、絶対に怒らせないように』と、助言を貰った事が記されている。
そしてもう一つの大きな違いは、物語の終盤。
勇者達は苦難の果てに魔王がいる島へと辿り着き、多くの魔獣を倒しつつ魔王城へと迫っていく。
そして城の広間で魔王との決戦が行われ、激闘の末ついに討伐を果たして帰還する時。
城内に隠されていた財宝と共に、討伐の証明にと魔王の死体も持ち帰ろうとした時の事。
そこに突然空から白銀の鱗に覆われた巨大なドラゴンが舞い降りてきて、恐ろしい声でこう言った。
『金貨はくれてやるが、魔王の体は置いていけ。もしその身を、例え服の一片であっても晒し物にするような事があったら、人族の国だろうがエルフ族の国だろうが、ことごとく焼き払ってやる。魔王の体を置いて速やかにこの島を去り、もう二度と近寄らんと約束するなら、代わりに人族の国にもエルフ族の国にも一切手出しをせんと約束してやろう』
……そのあまりの迫力と威圧感に。そして体から放たれる圧倒的な魔力の強さを前に、さしもの勇者も気圧されて戦意を喪失し。魔王の体を置いて島を離れた。
今でもその島には、壊れた城を守り続けるようにして一匹の巨大なドラゴンが棲みついているので、決して近寄ってはならないという忠告で本は締めくくられている……。
……勇者と魔王の戦いから数十年後。
パークレン王国の安定した統治の下、人々は平和で豊かな暮らしを送っている。
人間とエルフの共存も進み。人間の街でもエルフの姿が普通に見られるようになったし、エルフの村を訪れる人間も増えた。
勇者が魔王と戦った3月の24日は、人間の国では魔王討伐の記念日として祝日であり。毎年お祭りが開催されるが、それにエルフが参加する事はない。
エルフの国では三国共に。その日は英雄が死んだ日として、喪に服す日だとされているからである。
魔王とエルフの英雄とは当然別の存在だと認識されているが、この日の過ごし方の違いは人間とエルフの違いの一つだとされ。子供がお互いの文化を尊重する大切さを学ぶ時に、よく引き合いに出される事例となっている。
そしてその日の前後には、夜空を見上げると稀に白く輝く動く星を見る事ができ。大陸に平和と繁栄をもたらす吉兆として、一目見ようと多くの人々が空を見上げるのが恒例行事となっていた。
その星はエルフの国三国の中心と、遥か北方を結ぶ線上でよく見つける事ができ。その日を祝日とする人間も、喪に服す日とするエルフも。夜だけは肩を並べて、共に天を見上げるのである。
それはまさに。かつて一人の魔王が願った、人間とエルフが平和に共存する世界を象徴するかのような光景なのであった…………。
これで本作、『妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~』は完結となります。
ここまで読んで下さった方。ブックマークや評価、感想やダイレクトメッセージなどで応援して頂き、時には厳しいご指摘やご意見を下さった皆様。誤字報告を頂戴し、作品の完成度向上に貢献してくださった皆様。本当にありがとうございました。心より感謝とお礼の言葉を申し述べます……。
この後は主要な登場人物紹介と。リクエストをいただいた番外編を書く事になると思いますので、よろしければそちらにも目を通してやっていただけますと幸いです。
次作についてはこれから検討する予定ですが、それまでの間に以前に書いた作品をなろう向けに微修正して投稿したいと思っております。
あまりなろうには合わないかもしれませんが、もしご興味を持っていただけるようであれば、一読してみていただけると大変ありがたいです。
ドラゴンの守護者
https://ncode.syosetu.com/n7700gh/
前話の誤字報告をくださった方、ありがとうございます。こっそり修正しておきました。




