304 魔人誕生
出産を終えたライナさんに微妙な違和感を覚え。俺はとっさに鑑定を発動してみる。
ライナ・タカクラ 人間 27歳 スキル:槍術Lv4 体術Lv4 乗馬Lv3 礼儀作法Lv2 状態:疲労 喜び 地位:高倉洋一第一夫人 B級冒険者
……苗字が変わっている事に改めて結婚したのだなという実感を覚えて、ちょっと照れくさい気持ちになる。そして第一夫人とか人聞きが悪いなと思うが、名目上エイナさんとも結婚したから仕方ないのだろう。
それはともかく、問題なのは種族の所だ。たしか前に鑑定した時には『半魔人』でスキルももっと高かった気がするが、これは俺の血がライナさんに入る前と同じステータスだ。
という事はもしかして……。
俺は視線を移し、今は妹の腕に抱かれている赤ちゃんに鑑定を発動してみる。
-・タカクラ 魔人 0歳 スキル:なし 特殊スキル:魔力解放(魔力を使って一時的に身体能力を向上させる) 魔王の血脈(身体能力が著しく上昇する) 状態:睡眠 地位:高倉洋一とライナの子供
と出た。
うん、名前早く付けてあげないとね……。
というのは置いておいて。どうやらこの子は完全な魔人らしい。しかも、半魔人だった頃のライナさんが持っていた『魔王の血脈』を受け継いでいる。
……これはつまり、この子がライナさんの体から魔族の因子を全部吸い取って産まれてきたという事なのだろう。
そのおかげで、ライナさんは人間に戻る事ができたのだ。
良かったのか悪かったのかはよくわからないが。戦闘能力が落ちてしまった代わりに妹と相性が悪かったのは解消されただろうから、一長一短という所。むしろ俺にとってはメリットのほうが大きいと思う。
そして、ライナさんの体の中にあった魔王の血の影響を全て吸収して産まれてきた赤ちゃんは、純粋な魔人となった。
あとはこの子と妹の相性がどうかという問題だが、少なくとも今の所は妹の腕に抱かれてスヤスヤ眠っているので、妹が勇者の力を暴走させたりしない限りは大丈夫だろう。
これからはこの村で平和に暮らせるはずだから。そうそう妹が暴走する事もないだろうしね。
そんな事を考えていると、ようやく呼吸が整ってきたライナさんが言葉を発する。
「洋一様、この子の名前なのですが……」
ああそうだ。そういえば、ライナさんが付けたい名前があると言っていた気がする。
「なにか希望があるんだっけ?」
「はい。洋一様さえよろしければ、『ヨミ』と名付けたいと思います」
普段はあまり自分の意見を言わないライナさんが、珍しく積極的だ。
ヨミか……漢字にすると『黄泉』とか『夜見』とかだろうか? ある意味魔族っぽいかもしれないな。
ちょっと女の子っぽい気がしないでもないが、男の名前でも別に違和感があるほどではない。
「うん、いいんじゃないかな。なにか意味があったりするの?」
俺の問いに、ライナさんは嬉しそうに表情を緩ませる。
「はい。洋一様と、私の母ミエラから一字ずついただきました。洋一様のように優しく聡明で、母のように気高く育ってくれるといいなと思っております」
……俺が聡明かどうかはこの際置いておくとして。ライナさんが尊敬して止まない母親と並ぶというのは、なんかすごく緊張するな。
「そっか。俺もそんな子に育ってくれたらいいなと思うよ。二人で頑張っていい子に育てようね」
「はい……」
俺の言葉に、ライナさんは幸せそうに笑ってくれる。
まぁ、女性陣が争うように抱いてくれているのを見るに。いい意味で二人でとはならないだろうけどね。
エルフさん達は元々、子供は村全体で育てる習慣があるようだし。妹にとっては俺の子供、エイナさんにとってはお姉ちゃんの子供となれば、積極的に構ってくるだろう。
ニナにとっても弟なので、離れて住むとはいえ気にしてくれるだろうし。クトルも同じ魔族ゆえなのか、すごく興味深々な様子である。
みんな優秀でいい人達なので、このメンバーに囲まれていれば、ヨミはきっといい子に育ってくれるだろう。
俺はこの子が幸せに生きられますようにと願いながら、今はリンネの腕の中でスヤスヤと眠る赤ちゃんを愛おしく見るのだった……。
……ライナさんが無事に出産を終えた翌日。妹がいつになく深刻な表情で俺に相談を持ちかけてきたのは、夕食後。まだ病室にいるライナさんのお見舞いから部屋に戻ってきた時の事だった。
「お兄ちゃん。これを素材にして魔獣を生成してみて欲しいんだけど、お願いできないかな……」
そう言って差し出されたのは、なんか見覚えがある『お兄ちゃんになんでも言う事聞いてもらえる券』と、ビンに入った赤い液体だった。
――俺の目を釘付けにしたのは、当然赤い液体の方である。
「これってもしかして……」
「うん。ルクレアさんに頼んで、わたしの血を抜いてもらったの。わたしの体じゃお兄ちゃんとの子供は望めないけど、ヨミちゃんを見てたらやっぱりわたしも血の繋がった子供が欲しくなって……」
目を伏せ。どこか脅えたように言う香織。
妹の勇者の力は魔族を滅するものであるらしく。小袋に入れて首から下げていた俺の髪の毛が、わずか数ヶ月でボロボロの粉末になってしまったくらいだ。
そんな運命を背負ってしまった身では、魔王である俺との子供を望めないのは間違いないだろう。
……だったら俺以外と結婚して子供を儲ければいい気もするが。妹はそんな選択肢、最初から眼中にないようである。
素材にしても髪の毛とかでも良かったはずなのに、わざわざ薬師さんに頼んで血を抜いてもらったのは、『血の繋がった』の部分にこだわりがあるからだろう。
どちらにしても本当の意味で血の繋がった子供にはならないが、髪の毛よりは血の方がなんとなく、血が繋がってるような気がするもんね。
魔獣生成は魔王のレベルが上がってしまうのであまりやりたくはないが、妹の気持ちはよくわかるし、ここまでされて断るなんてできる訳もない。
「――わかった。やってみるよ」
そう返事をし。安堵の笑みを浮かべる妹から血の入ったビンを受け取り、魔獣生成を発動してみる。
生成できる魔獣は素材によって違うはずだが、勇者の血とかなにが生成できるのだろうか? エラーになったりしないよな?
そんな不安も浮かんできたが、しばらくして生成可能な魔獣リストから、三つの項目が光を放った。
・ブラッディスライム(上位種可)
・バンパイア(上位種可)
・ウンディーネ(上位種可)
……とりあえず一つずつ検討してみよう。
ブラッディスライムは、読んで字のごとく血のスライムだろう。
なんか怖そうだし、そもそもスライムにあまりいい思い出がない。『子供が欲しい』という妹の希望にも合わない気がする。
バンパイアは、いわゆる吸血鬼だ。多分人型だろうし、知能も高そう。上位種可とあるが、魔力の消費が多くなるらしい。
ウンディーネは……たしか水の精霊みたいなのだったと思う。あんまり魔獣ってイメージがしないし血とも関係ない気がするが、液体繋がりだろうか? そういえば香織、使える魔法が光属性と火属性と水属性なんだよな。そこから水と、ひょっとしたら光もちょっと影響したりしたのだろうか?
……ともあれ、とりあえずブラッディスライムは却下である。あとは妹に選んでもらおう。
「香織。バンパイアとウンディーネとあるけどどっちがいい?」
「ウンディーネ?」
おおう、そっち系の知識ないか。
「バンパイアはいわゆる吸血鬼で、ウンディーネは水の妖精みたいなものだと思う」
「そうなんだ、じゃあウンディーネで!」
お、わりと即答だ。
……まぁ、吸血鬼って人によってはイメージ悪いもんね。
俺は了解の返事をし。せっかく俺と妹の子供ポジションになるのだから、上位種を目指してみる事にする。
魔力を込めるとわりとごっそり持っていかれた感じがしたが、それでもまだ足りないらしい。
シェラの時みたいに何日もかけて充填する方法もあるが、素材が血なので鮮度が心配だ。
それに、俺と妹の子供を作るのだから、もっとふさわしい方法がある。
「香織。魔力を分けてくれないか?」
俺の言葉に一瞬首をかしげた妹だったが、すぐに言葉の意味を理解したのだろう。頬を赤らめながら『うん!』と返事をして、顔を寄せてくる……。
魔力供給の方法は、口移しだ。
キスで子供ができるとか、なんか純真な小学生みたいだが。今回は本当にできてしまう。
妹から貰った分の魔力も血に注いでみると、血が強い光を放ち。空っぽになったビンが地面に転がった。
……あ、そういえばここ水ないけど。陸に上がった魚みたいにピチピチ跳ねる事になったりしないよね?
もうちょっと早く気付けばよかったなと思うが、もう手遅れだ。
強い光はやがてゆっくりと収束し。ウンディーネ上位種を形作っていく……。
大陸暦428年2月11日
現時点での大陸統一進捗度 100%(人間の統一国家パークレン王国。エルフの独立国三つに絶大な影響力)
解放されたエルフの総数 218万2828人 全体のおよそ44%
資産 所持金 166億204万
配下
リンネ(エルフの弓士・山エルフの王)
レナ(エルフの織物職人)
セレス(エルフの木工職人)
リステラ(リステラ商会副商会長・国王相談役)
ルクレア(エルフの薬師)
クトル(フェアリー)
シェラ(エンシェントドラゴン)
スミクト(森エルフの王)
カナンガ(沼エルフの王)
― 家族 ―
妹
香織(勇者)
妻
ライナ(B級冒険者)
エイナ(パークレン王国前国王)
娘
ニナ(パークレン王国国王)
息子
ヨミ(ライナとの子供・魔人)




