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妹と異世界転移 ~引きこもりだった俺が妹を護るために大陸を統一するまで~  作者: おとしんくるす


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27 ライナさん家の家庭の事情

 王都内での拠点が決まり、配達を頼んだ荷物がそろったので、確認のために各部屋を回っていると、一つ問題が発覚した。

 三つ頼んだベッドが、なぜか二つの部屋に二つ・一つで配置されているのである。


 ベッドの搬入に立ち会ったのは妹なので、これは香織の指示という事になる。

 俺は四部屋あるのだから、三人で一部屋ずつ。もう一つは予備でいいと思っていたのだが、妹は違ったらしい。


 更にベッドは部屋の両端にではなく、二つくっつけてダブルベッドのようにして置かれている。なに考えてるんだ香織のやつ。


 この部屋に寝るのが香織とライナさんで、俺が一人部屋だというのならまだわかる。だが部屋にはすでに、俺と香織の荷物が運び込まれている。ライナさんの荷物は隣の部屋にあった。

 ホントなに考えてるんだあいつ?


 早速問い詰めてみた所、なにがおかしいのかという戸惑った表情で『え?』と言われてしまった。こっちが『え?』だよ!


 さらに問い詰めようとした所、ライナさんが『お風呂が沸きましたよ』と呼びにきてくれ、妹が顔を輝かせて『先に入ってきてもいい!』と訊くもので、思わずうんと言ってしまった。


 嬉しそうにお風呂に駆けて行く妹を見送ると、呼びに来てくれたライナさんがなにか深刻そうな表情をしてこちらを見ているのに気づく。次の瞬間、ライナさんは床にヒザをついた。


「洋一殿、お願いがあります!」


 え、え? なにごと?


 リンネもやっていたが、この世界には土下座に近い文化があるらしい。気の強いライナさんがそんな事をするなんて、よほどの事なのだろう。


「お、お願いってなんでしょうか?」


「はい。私を……買って欲しいのです」


「…………は?」



 言葉の意味を理解するまでの間、俺は床にひれ伏して頭を下げるライナさんを呆然と見つめていた。


 頭によぎるのは専属護衛契約を交わした日。エリスさんにいやらしい事を要求していると誤解された時、汚い物でも見るかのようなさげすんだ視線を向けていたライナさん。

 契約に際して、いやらしい事をされそうになったら正当防衛を認めて欲しいと言っていたライナさん。


 そのライナさんが自分を買って欲しい? 違和感しかないお願いだが、冗談で言っている感じではないし、冗談でもこんな事を言う人ではない事を知っている。


「えっと……とりあえずイスに座って、事情を聞かせてもらえますか?」


「はい……」


 買ったばかりの食堂のイスに座り、ライナさんはうつむきがちに、しかしはっきりした口調で身の上話をしてくれた。


 この一年、ライナさんはC級冒険者として、220万アストルを稼いだ。C級としては多い方らしい。

 一方で、妹さんの学費に100万アストル、ギルドカードの維持に20万アストル、妹さんと二人で住んでいる部屋の家賃に18万アストル、生活費二人分で24万アストル、冒険者としての武器防具の手入れや消耗品の購入・必要経費などに40万アストル。合計202万アストルを消費したらしい。ギリギリだな。


 そして、妹さんはライナさんより二歳年下の15歳。今年で王立学校の中等部を卒業し、来年一月からは高等部に進学予定だそうだ。あ、一月が新学期なんだね。


 ちなみにライナさんに説明してもらった所によると、王立学校は、初等部が10歳から12歳までの三年間、王国内の多くの町にあり、読み書きや計算などを教わるのだそうだ。多少裕福な家の子が通うレベル。


 中等部は王国内の主要都市五ヶ所にしかなく、13歳から15歳まで、初等部の成績が優秀だった子が比較的高度な知識を学ぶ場所。卒業すれば地方の役人や貴族家、大きな商会の幹部クラスとして、一生生活が安泰なレベル。


 そして高等部は王都に一校だけしかなく、中等部で特に成績が優秀だった者だけが入学を許され、16歳から18歳まで、この国で最高の教育を受ける。卒業したら中央政府の官吏や学者として、準貴族に当たる地位が与えられるそうだ。


 妹さんは王都の中等部で主席であり、成績面ではなんの問題もないとの事。ん、自慢話かなこれ?


 だが問題があり、それは高等部の学費が年500万アストルかかる事。さらに二年生からは希望の専科を選んで専門的な勉強をするので、選ぶ科目によってはさらに学費が高くなってしまうのだそうだ。

 そして妹さんの希望は、その中でも高い方の医学科。生活費なども込みで、三年間でざっと2200万アストルが必要らしい。


 一方ライナさん達の貯金は、現時点で650万アストル。一年目の学費を払ったらほぼスッカラカンだ。

 妹さんもアルバイトのような事をしているそうだが、その稼ぎは年10万アストルくらいで、これ以上増える見込みはないどころか、高等部に進学すれば勉学優先で働く時間はなくなるかもしれない。


 元貴族家だった家から持ち出せた財産もすでに全て売り払い、頼る相手もいない。自分の使っている鎧は母の形見で高級品だが、高いといっても売値で200万程度。

 貴族や金持ちに学費を援助してもらう奨学金のような制度もあるが、代償としてその支援者の手駒のような扱いになってしまい、卒業後の進路やその後の人生を大きく狭めてしまう。

 女子学生の場合は体を要求される事もあるらしい。


 ああなるほど、そりゃエリスさんに体を要求した(と誤解された)俺をゴミのような目で見るわ。


 妹をそんな目に遭わせるくらいならいっそ自分がとも思ったが、学業で将来有望な妹とは違い、自分はただのC級冒険者。この歳でC級になったのは異例とはいえ、C級冒険者自体は掃いて捨てるほどいるし、将来性も未知数。そして冒険者は命を落とす事も多い危険な職業。

 とても学費の不足分を前金でもらえるような契約は結んでもらえないのだそうだ。


 どうしたらいいのか途方にくれていた所で、ギルドで俺が大金を手にするのを見た。それで、自分を高く評価して破格の値段で専属護衛契約を結んでくれたこの人ならと思い、こうしてお願いしているのだそうだ。


 なるほど、それでギルドを出た時から様子がおかしかったのか。色々納得できたが、そんなにお金に困っているのに報酬の二重取りを断ったり、家を借りた経費のおつりをちゃんと返してくれたのか……。


 俺の中でライナさんの評価がうなぎ登りだ。この人は清廉せいれん誠実で信用できる。ぜひ協力者になって欲しい。

 ただ、清廉誠実な人だからといって寛容とは限らないのが問題だ。ライナさんはあまりエルフに偏見を持っていないのは確認済だが、程度問題はある。ちょっと試してみよう。


「ライナさん、もし俺が学費の不足分。ええと……鎧を売らない前提で1600万アストルくらいかな? それで誰かを殺してきて欲しいと言ったら、引き受けてくれますか?」


「暗殺ですか……申し訳ありませんが、自分の幸せのために他人を犠牲にする事はできません。襲ってきた敵なら躊躇しませんが、ただの人殺しはお引き受けいたしかねます」


 わりと強い調子で断られた。さすがだ、この世界100万アストルくらいで人殺す人がいくらでもいそうなのに。


「では、動物ならどうです? 裏の厩舎にロバがいますが、あれを殺して見せたら1600万アストルであなたを雇うと言ったら?」


「それは、殺して食べるというお話でしょうか?」


「いえ、ただ殺すだけです。死体はそうですね、川にでも捨ててしまいましょう」


 俺の答えに、ライナさんは苦しそうに表情を歪ませ、深く考え込む。


「…………洋一殿。申し訳ありませんが、お断りいたします」


 搾り出すように出てきたのは、拒絶の言葉だった。


「どうしてですか?」


「……私の母はもうこの世におりませんが、どんな命にも等しく敬意を払うようにと教えてくれました。狩りで獲った鳥も、川で釣った魚も、敬意を払って余さず糧にし、感謝を捧げるようにと教えられました。私は妹一人護ってやれない駄目な姉ですが、それでもあの人の娘として、親に顔向けできない事はしたくありません。母の教えを踏みにじるくらいなら、終身奴隷としてこの身を売りたいと思います。冒険者としては無理でも、終身奴隷なら数千万の値はつくでしょうから」


 ああ、この人本当に善い人だわ……逆に心配になるくらい。よくこの世界で生きてこられたな。


「わかりました。試すようなマネをして申し訳ありません。1600万アストルでライナさんを雇いましょう」


 そう言って、100万アストル金貨16枚をテーブルに並べる。本当は遂次払いとかにするべきかもしれないが、ライナさんに限って持ち逃げとかはしないだろう。もしそうなったら、俺の人を見る目がなかったというだけだ。


 考えてみれば、ライナさんを普通に雇っても年200万アストルくらいかかる訳だから、8年分前払いだと思えばそう損な話でもないと思う。

 護衛は危険な仕事だから、途中で死んだり怪我をしたりして仕事を続けられなくなるリスクはあるが、それもまぁその時だ。


「洋一殿……ありがとうございます……」


 金貨を胸に抱き、ライナさんは涙をぽろぽろ流して頭を下げる。凛々しい美人さんの泣き顔は、なんかこうぐっと来るものがあるな……。


「あ、そうだ。妹も賛成したらだけど、部屋余ってるし、ライナさんの妹さんも良かったらここに住みません? ここなら学校も近いみたいですし、ライナさんもなるべく妹さんと一緒の方がいいでしょう? 家賃も浮きますし」


「それは……あの、買って頂いたのはあくまで私だけですよね?」


「それはそうですよ。妹さんもだったら、話に出てきた貴族やお金持ちの手駒になるのと変わらないじゃないですか」


「失礼いたしました。はい、でしたらぜひお願いいたします」


「うん、これからよろしくね」


 妹さんは15歳だと言っていたから、13歳の香織と歳が近い。同世代の友達ができたら、妹の俺依存も少しはマシになるかもしれない。


「お兄ちゃん、お風呂上がったよ!」


 ちょうどその時、湯上りでご機嫌の妹が食堂に入ってきた。


「お、いいタイミングだ香織。いきなりで悪いけど、ライナさんの妹さんもここに一緒に住んでいいかな? 近くの学校に通ってるらしいんだけど」


「お兄ちゃんがいいなら、わたしは問題ないよ」


 相変わらず兄依存度の高い答えだが、ライナさんの妹さんと仲良くなって変わるといいな。でもそうなったらちょっと寂しいかも……。

 そんな事を考えながら、俺はまだ見ぬライナさんの妹に思いをせるのだった……。



大陸暦418年12月5日

現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化)

資産 所持金 1520万3400アストル(-1600万)

配下 リンネ:エルフの弓士 ライナ:冒険者

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