25 再び王都へ
リンネの村に10日間滞在した間、俺は樋の修理と家三軒を一応住めるように修繕した。
妹は服や下着を何着も完成させ、リンネはフランの花を大量に集めてくれた。というかこれ、袋に丸二つ分あるんだけど?
水濡れ厳禁のフランの花は、雨に備えて動物の毛皮で作った覆いをかける。ビニール袋がないの地味に不便だな。
妹が作った服と下着は、俺達が使う以外にリンネにも何枚か進呈し、残りはフランの花と一緒にロバの背に積む。最近ますます寒くなってきたので、重ね着ができるのは本当にありがたい。
来た時と同じく、妹の危険察知とリンネの弓に護られて王都への道を戻っていく。
二人のおかげでさしたる危険もなく、八日目にはライナさんと別れた森に到着した。あれから27日になるけど、ライナさんは来てくれているだろうか?
森の入り口付近を見て回ると、果たせるかな見覚えのある大きな籠に、いっぱいのキヨウの実が盛られているのを発見した。ライナさんの姿は見えなかったが、多分近くで別の物を探しているのだろう。
「リンネ、なんか置き去りにするようで申し訳ないけど、三日後にまたここで合流って可能かな? その間は自由にしててくれていいから」
「問題ありませんよ、森の中ならどこでも家みたいなものですし。せっかくなので、残っているフランの花があったら集めておきますね」
「うん。でも人間には気をつけてね」
あの街にはもうリンネを連れて行きたくないし、そもそも鎖は置いてきた。
なので一旦リンネと別れ、キヨウの実山盛りの籠の横でライナさんを待つ。それにしても凄いなこれ、50個はあるんじゃないか?
ためしに持ってみようとしたら、なんとか持ち上げてヨロヨロ歩く事ができた。一個1キロで50キロだとしたら、重力換算で25キロ相当。筋トレの効果は多少挙がっているようだ。
妹が生えていた草で草笛を作ってくれたので、ライナさんに知らせるべく軽く吹いてみる。果たせるかな、五分もしないうちに息を切らせたライナさんが駆けて来てくれた。
「ああ、やはり洋一殿でしたか! お帰りなさいませ!」
ライナさんが、どこかホッとした表情で迎えてくれた。心配してくれていたようで嬉しくなる。手に持ってるのは……ツマ茸かな?
無事ライナさんと合流し、俺達は街へと向かう。
ライナさんはキヨウの実を満載した、自分の体が隠れてしまうほどの籠を担いで歩いている。かなり重そうだ。
……たしかキヨウの実の買取は一個10アストルだったから、50個あったら500アストル。ロバの背に山と積まれているフランの花一つの六分の一程の価値しかない事になる。でも、少しでも妹さんの学費の足しにと集めたのだろう事を思うと、とても置いていこうとは言えなかった。
「ライナさん、約束通り来てくれてたんですね。だいぶ待ちました?」
「いえ、二日前からです。ご用命の拠点については、街壁の中にご希望に合う物件を探しておきました。お預かりしたフランの花は2376個で665万2800アストルになり、そこからお許しのあった10万アストルを頂戴しました。物件の契約金が100万アストル、家賃が月40万アストルで一年分前払いしましたので、480万アストル。差し引き75万2800アストル残りましたので、お返しします」
ライナさんは仕事きっちりな上、律儀に差額を返してくれる。相変わらず誠実で好感が持てる。
それにしても家賃が月40万か。壁の中は土地が高いと聞いているが、ひょっとして結構いい部屋を借りられたんじゃないだろうか?
ライナさんから受け取った鍵は、大きめのスプーンくらいあるごついものだった。
「それで、これからどうなさいますか? できれば物件を見に行く前にギルドに寄っていただけるとありがたいのですが……」
「うん。俺達もギルドに用事あるからそれでいいよ。ライナさん荷物重そうだけど大丈夫? 少し持とうか?」
「いえ、お気遣いなく。昨日もその前も同じ量を運びましたから。あ、そうだ。契約90日分の休日ですが、残り全ていただきましたので、後は全日働く事が可能です」
おお、やる気十分で大いにありがたい。他にも色々と雑談をしている間に、冒険者ギルドに到着した。
お昼過ぎのヒマな時間帯なのだろう。エリスさんはカウンターで居眠りをしている。初めて見た時と同じだな。
転寝中の所申し訳ないけど起きてもらい、まずはライナさんのキヨウの実とツマ茸一本を買い取ってもらう。
次は俺達の番だが、顔を見た瞬間別室に案内された。VIP待遇だ。
「これを買い取って欲しいのです」
「はい。拝見します……ね?」
テーブルに二つ乗せた袋を覗いたエリスさんが、目を見開いて固まった。
「え……こ、これ……え、ええ? ひょっとしてこれ全部……?」
しばらくし眺めていると再起動したが、すごい勢いで動揺している。もうちょっと眺めていると、我に返ったように走って応援の人を呼びに行った。
「ええと……フランの花が合計1万7851個……でよろしかっちゃでしょうか?」
あ、噛んだ。まだ動揺してるのかな?
それにしても、リンネそんなに集めてくれたんだ。ぶっちゃけこっちは数えてないけど……誤魔化そうとはしてないよね?
「なるほど、さすが数えるのが正確ですね」
「それはもう、それが仕事ですから」
……動揺が見られないので誤魔化そうとはしていないようだ。
「それで、いくらになりますか?」
「はい。買取額の方が……4998万2800アストルになのですけど……」
おお、まさかの満額買取。桁が違う。って、ですけど?
エリスさんは額に浮いた汗をぬぐいながら、搾り出すように話を続ける。この部屋結構寒いと思うんだけどな。
「あの、実はですね。現時点で支払い可能な当ギルドの資金が、3000万アストルしかないのです……」
おおう、まさかの払い出し金不足か。
変な話ではなかったので安心して緊張を解き、返事を返す。
「構いませんよ、残りは後日受け取りに来ます」
「あ、ありがとうございます。そうしていただけると助かります……」
エリスさんは明らかにホッとしたように言って、一枚の紙を出してきた。この世界で紙に触れるの初めてかもしれない。
見ると、それはこれと引き換えに1998万2800アストルを支払うという手形だった。さすがにこの額になると、高価な紙を使って書類が作られるらしい。
紙を仕舞い込み、帰る前に一つ確認をする。
「これからの時期って常設の買取品変わりますよね? 良ければサンプルを見せていただけませんか?」
「は、はい。すぐにお持ちします!」
慌てて駆け出していったエリスさんが持ってきたのは、木箱に入った一本の枯れ草だった。
「雪月草です。買取は2000アストル。冬は採取品目が少なくなるので、常設で出るのはこれと、年中出ているトギリ草とキヨウの実だけです」
この辺りは大陸でもやや北寄りで、あと半月もすると雪が積もるそうだ。そうなると、植物系は大半がお休み。動物の角や毛皮などの依頼ならあるらしいが、食べる訳でもないのに動物を乱獲するのは抵抗があるので、見送る事にする。資金はかなり確保できたしね。
支払い遅延の代償に雪月草のサンプルはタダでくれると言うので、ありがたく頂戴しておく。これ、リンネが知ってる草かな?
ちなみに薬の材料に使うそうで、需要は高いがあまり大量だと値崩れするかもしれないとの事だった。
思いの他の大金と必要な情報も手に入ったので、呆然としていたライナさんをつついて再起動させ、ギルドを後にして街壁内に確保してくれたという拠点へ向かう。
この世界に来た日に、文字通りの門前払いをくらった門。あれをついにくぐる時がきたのだ……。
大陸暦418年12月5日
現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化)
資産 所持金 3130万2000アストル(+3075万2800)
配下 リンネ:エルフの弓士 ライナ:冒険者(三ヶ月の専属護衛契約 2月6日まで)




